〜サイヤ人ヤムチャ〜
サイヤ人ヤムチャ
その1
サイヤ人が地球に襲来する。その事実が滲ませる重苦しい空気がカメハウスに集まった者達に重くのしかかっていた。
けれど、皆の瞳には絶望という言葉は無い。何故ならば、その空気を打ち払ってくれる唯一の存在。孫悟空がこれから甦るのだから。
「シェンロン!」
集められたドラゴンボールが眩い光で視界を奪う。暗雲が立ち込めて、空気が張り詰める。そうして現れる、神の龍。
「願いを言え・・・」
シェンロンの言葉に、ブルマや亀仙人にチチ、ウーロンにプーアル。そして集まった戦士達が無言で頷き、悟空を甦らそうとする。だが、
「俺をサイヤ人にしてくれ!」
その願いは、一人の男によって変更されたのだった。
その男の名は、ヤムチャ。
「あ、あんた!何て事してくれんのよ!」
ブルマが怒りとも、落胆ともつかない表情でヤムチャに詰め寄る。しかし、ヤムチャはそんな事は予想済みといった表情でブルマの感情を受け止める。
「サイヤ人は強い。とんでもなく・・・な。なら、こっちもサイヤ人になれば・・・互角だ。そうだろう?」
「だ、だからってあんた!あんたがサイヤ人になったって勝てっこないでしょう!」
「そんな事は無い!俺は・・・俺は、あれから血の滲む修行をした。死線をくぐったのだって1度や2度じゃない。今の俺がサイヤ人になれば・・・勝てる!」
「そ、そんな・・・」
ブルマにはヤムチャの言葉はただの虚栄にしか見えなかったし、天津飯やクリリンといった戦士達にもヤムチャがサイヤ人になった所で・・・。という諦めが浮かぶ。
しかし、ヤムチャは自分の行動に何ら後悔を覚えていない。悟空を甦らせなかったのは・・・勝手に願いを叶えたのは謝らなければいけないかもしれない。
でも、自分がサイヤ人になれば・・・敵のサイヤ人に勝てる!
「よかろう、願いを叶えよう・・・」
それまで何かを考えるように沈黙していたシェンロンがそう言って、ヤムチャの願いを叶える。
その2
その瞬間。ヤムチャは全身が焼けるような痛みを感じて、その場に倒れ込む。
ヤムチャの体の遺伝子配列が、ゲノムコードが物凄い勢いで書き換えられていく。体がまったく違うものに変質していく過程の痛みが、ヤムチャを苛む。
あまりの痛みにのたうち苦しむヤムチャ。そんなヤムチャを尻目に、シェンロンが消えて、ドラゴンボールが世界中に散らばる。
それまでの暗雲が嘘のように晴れていき、空には晴天が戻る。
南国にあるカメハウスの頭上に燦然と輝く太陽。その下には、一人の超戦士が誕生したのだった。
「くっ・・・終わった・・・のか」
シェンロンの消失と共に、ヤムチャの体を苛んでいた痛みが消える。それは、ヤムチャがサイヤ人として覚醒した証拠。
ヤムチャがゆっくりと体を起して、立ち上がる。
そして、自分の体の中に起きた劇的な変化に自分でも驚く。
「な、何だ!力が溢れて来る・・・」
人間という種族での経験、努力、それらがサイヤ人の体にフィードバックする。それはさながら、精神というパイロットが地球人というスポーツカーを運転していたのが、パイロットをそのままにF1カーに乗り換えたようなもの。
凄まじい力に、ヤムチャは興奮を隠せない。それほどまでに膨大な気をヤムチャは手に入れたのだ。
「や、ヤムチャさん・・・それ!」
「ん・・・どうしたんだクリリン?」
己の拳を見て、その力の具合を確かめるようにしていたヤムチャが、クリリンに促されてお尻を見る。そこには、サイヤ人特有の尻尾があった。
「ああ・・・そういえばサイヤ人にはこれがあったっけ・・・」
「ほ、本当にサイヤ人になったんだな・・・それにしても、何と言う力だ・・・」
天津飯が驚きにすべての目を見開き、まばたきもできずに呟く。
いや、驚いていたのは天津飯だけではない。クリリンも、チャオズも、そしてピッコロさえも、ヤムチャの底知れぬ気の量に驚愕していた。
「だろ?これならサイヤ人にだって勝てるさ」
「そ、そうかもしれんな・・・」
と、ピッコロが言ったその時。地球に二つの強大な気が落下する。サイヤ人が、襲来したのだ・・・。
その3
「ついに来たか・・・。みんな行こう!戦いの場に!」
ヤムチャがそう言ってサイヤ人の落下した場所に向けて飛び立ち、それに続くように戦士達も飛んで行く。
カメハウスに残された全員が無言でその姿を見送る中、亀仙人がぽつりと言う。
「あやつなら・・・勝てるやもしれん・・・」
「ヤムチャが?」
「ああ。あやつ自身は気がついておらんのかもしれんが・・・ヤムチャの中には底知れぬ何かがあるようにワシは感じた。そう、悟空と同種の・・・それでいて悟空よりも強大かもしれない力を・・・」
「そ、孫君よりも強大な?」
かつて、無天老師と呼ばれた男は沈黙する。その答えは、これから証明されるであろうから・・・。
そんな事を亀仙人が思っているとも知らないヤムチャだった。
ヤムチャは、飛びながら自分の体に感覚が馴染んでいくのを感じていた。そうするほどに、他の戦士達との距離が開いていく。
「な、何と言う早さだ・・・ついて行くのがやっとだと!」
あのピッコロですら額に汗を浮かべて、苦い表情をしているのだった。戦士としてまだ未熟な悟飯は、あっという間に取り残されてしまう。
「ヤムチャさん、少しスピードを落としてください!それもと一人で突っ込む気ですか!」
クリリンの静止で、ようやくヤムチャは落ち着きを取り戻して、皆のペースに合わせるのだった。
「・・・・・・・」
(力を出す事に気分が高揚して仲間の事を忘れた?サイヤ人に・・・なったせいなのか?)
らしくない行動に、ヤムチャは一人自問するのだった。
それは、変質していく自分への恐怖を、かすかに孕んでいた・・・。
その4
飛びながらの事。
「ところでヤムチャさん、その尻尾切った方が良くありませんか?」
クリリンがヤムチャの尻尾を見ながら言う。
「え?あ、そっか・・・この尻尾を握られると力が出なくなるんだよな」
「今のうちに切っておいた方がいいですよ」
「じゃあ、切るか」
ヤムチャがそう言って自分の尻尾を掴もうとする。が、それを鋭い声でピッコロが止める。
「バカが!掴んでどうする」
「え、でも、そうしないと切れないじゃ・・・」
「お前の力が抜けたら、誰がお前の尻尾を切るというのだ!俺が切ってやる。悟飯のを切った事があるしな」
「あ・・・すまん」
そんな、少し間の抜けている所はやっぱりヤムチャなんだな。と、クリリンは思うのだった。
ピッコロの手刀が一閃して、ヤムチャの尻尾が落とされる。それはそのまま落下して、見えなくなる。
ヤムチャ達は知るよちもなかったが、その落ちた尻尾をドクターゲロが回収して、後にサイヤ人の遺伝子をセルの製造に利用するのだった。
その5
サイヤ人の気を見つけるのは、実に簡単だった。それほどまでに二人の力は強大で、禍々しいものだったのだから。
その気の方角に向かって飛ぶ戦士達。サイヤ人達も、そんな戦士達の気をスカウターで発見して、そちらに向かう。両者は、人気の無い乾いた岩の荒野で遭遇するのだった。
荒涼とした大地んい降り立って、サイヤ人二人と戦士六人が対峙する。緊迫した、張りつめた空気があたりを支配する。
「ほう・・・ゴミが揃ってお出迎えとはな・・・」
スカウターで、さっそく戦士達をチェックするベジータ。空を飛ぶために力を少しだけ解放しているせいか、一般的な地球人よりは高いものの、ベジータ達からすればゴミ同然の戦闘力をスカウターが表示している。ベジータが、その数値を見て戦士達を嘲笑う。
そして、その嘲りを含んだ視線が順番に戦士達を測定していき・・・。天津飯、チャオズ、クリリンと続いて、ピッコロで止まった時。
「貴様、ナメック星人か・・・?」
「なにい・・・」
一瞬、驚きというよりも理解不能といった表情をしたベジータ。しかし、すぐにベジータはそれを不敵な笑みで消し去る。
「なるほど・・・そういう事か・・・。ナメック星人には不思議な力があると言うが・・・そういう事か・・・」
一方その頃、神様の神殿では。
「わ、ワシは異星人だったのか・・・どうりで・・・」
と、自分の過去についての疑念に対しての答えを見出す。ピッコロは、ナメック星という惑星から来た異星人だったのだ。
その6
「で・・・おとなしくドラゴンボールを俺達によこすか?それとも・・・死ぬか?」
ベジータが静かに、戦闘力を解放してその圧力で戦士達を威圧する。
ヤムチャ以外の戦士達は、あまりの圧力に蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしてしまう。悟飯などは、あまりの力の差に震えが止まらない。
「だ、誰が貴様らなんぞに!」
圧力から逃れるために、あえて声を荒げるピッコロ。
「そうか、じゃあお前らを殺してから別に奴にでも聞くか!」
ナッパが両の拳を打ち鳴らし、一歩前に出る。反射的に、一歩後ずさるクリリンや天津飯。
「おいナッパ、そのナメック星人は殺すなよ。色々と聞きたい事があるからな」
「わかってますって、ベジータさん」
ギロリと、ピッコロではない戦士達。天津飯やクリリン、チャオズ、悟飯、そしてヤムチャを睨むナッパ。
ナッパの瞳は戦闘民族サイヤ人の血がそうするのか、戦いへの歓喜と、獲物を求める獰猛な野生に満ちている。そんな瞳が、最初の獲物を見つめて・・。
「お前だ、お前を最初に殺してやる!」
攻撃に入ろうとする。が、しかし。
「まあ、待てナッパ。せっかくだから少し遊んでやろうぜ。・・・サイバイマンがあったはずだ」
「へへ、そうですね。少しくらいは遊んでやってもいいですね・・・」
ナッパがサイバイマンの種が入っているビンを戦士達に見せびらかすようにする。
「へへ・・・こいつがこれからお前達と遊んでくれるぜ」
ビンから種を取り出して、地面に植えようとするナッパ。そこに、一陣の風が吹く。
次の瞬間には、サイバイマンの入っているビンがナッパの手から消えていた。
その7
「遊びなんていらない。お前達は・・・俺が倒す!」
サイバイマンのビンを手にして、ヤムチャが戦士達とサイヤ人の間に立っている。
そして、サイヤ人に対しての意思表示とも言うように、ビンを握りつぶす。サイバイマンの種が、粉々に砕けて、風に流れて消える。
「な・・・こいつ・・・・」
ナッパは唖然としながら、指で摘んでいたために残っていた最後のサイバイマンを反射的に地面に植える。
「少しはできるようだな・・・」
ヤムチャを見て、ベジータが笑う。スカウターでは観測できないほどの一瞬。その一瞬だけ高まったヤムチャの戦闘力に興味がそそられたようだ。
そうするうちに生まれるサイバイマン。
「おい、そいつと戦うんだ。全力でな」
ベジータの命令に、サイバイマンが不気味な声を上げつつヤムチャに襲い掛かる。
けれど、サイバイマンはヤムチャに触れる事すらできない。ヤムチャの腕が振るわれると、その風圧で吹っ飛ぶサイバイマン。岩に叩きつけられて、動かなくなる。
「こんなザコとのお遊びなんていらないと言ったはずだ。」
ヤムチャがナッパとベジータを睨む。
「そいつはどうかな?お前、少し油断をしすぎてるんじゃあないのか?」
ベジータがサイバイマンに視線を向ける。ヤムチャが何かに気がついて、はっとしたようにそちらを向くと、それまでピクリとも動かなかったサイバイマンがヤムチャに駆け寄って来たのだった。
ヤムチャはサイバイマンに対応しようとするけれど、一瞬サイバイマンの方が早い。サイバイマンはヤムチャの背中に張り付き、そして。自爆するのだった・・・。
爆発の閃光がしてから、爆音が轟き爆風が吹き荒れて、爆煙に包まれるヤムチャ。
「や、ヤムチャさーん!」
クリリンの悲痛な叫びがあたりに響く。
その8
サイバイマンの自爆に巻き込まれたヤムチャ。あたりには爆煙が立ち込めていて、両者の安否が視認できない。
爆発によって生まれた熱、そこからさらに生まれる上昇気流。強い風によって爆煙が晴れると・・・。
そこには、それまで押さえていた気を身に纏うヤムチャの姿があった。
「よ、良かった・・・無事だったんだ!ヤムチャさん!」
気を感じればすぐに解るものだったけれど、同様していた戦士達はそれをすっかり忘れていたのだ。だから、ヤムチャの無事を視覚で確認して、その表情を喜色に染める。
戦士達が安堵する中、ベジータがスカウターを外す。
「ど、どうしたんですかい?ベジータさん」
「こいつはもう役にたたん。地球人達は戦闘力をコントロールできるみたいだからな。こんな数値に頼っていると、足元をすくわれるだけだ」
「そ、そうですねい」
ベジータはサイバイマンの自爆の瞬間にスカウターが記録した戦闘力に内心、舌打ちをする。
戦闘力を、気を高めて自爆からその身を守ったヤムチャ。スカウターはそんなヤムチャを戦闘力9000と判定したのだった。
「戦闘力9000・・・ナッパと互角、もしくはそれ以上だと・・・」
ナッパもそれに気付いていて、それまでの余裕はどこかに消えている。
「さあ、次はお前達の番だ」
ヤムチャが軽く埃を払うと、仰向けにした掌をクイクイ、と動かして挑発する。
「へっ!そんなに死にたいんなら殺してやるよ!久しぶりに全力で戦えるみたいだしな!」
ナッパが構えを取って、戦闘力を放出する。ナッパのフルパワーに大地が悲鳴を上げるように砕けて、震える。
ヤムチャがそんなナッパに向き合い、構えを取る。二人の戦いが、始まろうとしていた。
「行くぞっ!狼牙風風拳!」
ヤムチャが、いきなり必殺技を使う。連続で繰り出される拳が、風を唸らせながらナッパの体に繰り出される。
それを小手で弾き、時にいなすナッパ。圧倒的な手数の前に、防戦一方だ。しかし、
「へへ、足元がお留守だぜ!」
ナッパが凶悪な笑みを浮かべて、ヤムチャの足元に頭ほどもあるような太い足を振るう。ヤムチャの足を払うナッパの鋭いローキック。
ローキックがヤムチャの足に吸い込まれて、何かの折れたような酷く鈍い音があたりに響く。
その9
「あ・・・あが・・・」
苦痛のうめきを、ナッパが上げる。ナッパの足はありえない方向に曲がっていた。
「な、何で・・・」
使い物にならなくなった片足。舞空術で体を支えながら、ナッパは疑問をヤムチャにぶつける。
「お前は、本当に俺の足が留守だと思ったのか?」
ヤムチャはそんなナッパを冷ややかな表情で見つめ返す。よく見てみると、ヤムチャの足には膨大な量の気が凝縮されて纏われている。気のレガースをつけているような状態。
そこを攻撃するというのは、同じように気を纏った攻撃でない場合は鉄板に指を突き立てるようなもの。ナッパの足は気の壁に叩きつけられて。いや、叩きつけたせいで折れたのだ。
「お前よりも前に、足元が留守だと教えられた事がある。それからずっと、自分の弱点を克服するために俺は修行をしたんだ」
「じゃ、じゃあ・・・足元のあの隙は・・・」
「そう、攻撃を誘うための罠さ。お前はそれにまんまと騙されたというワケだ」
ナッパの頭部の血管がボコリと浮き出る。怒りに体が震えて、一端は減った気が再び高まっていく。
「ぜ、ぜってぇ貴様は殺す!」
「やれるもんならやってみな!」
ナッパが上空に飛び上がり、拳を振り下ろす。ヤムチャに降り注ぐエネルギー弾の嵐。そのどれもが凶悪な破壊力を秘めていて、ヤムチャが避ける度に大地には深いクレーターが穿たれる。
怒りに身を任せて上空から怒涛の攻撃をするナッパ、ヤムチャは気を瞬間的に足元から解放して瞬く間にナッパと同じ高さに飛び上がる。
「バカが!」
飛び上がった事によって体勢の崩れているヤムチャ。そこにナッパの大きく開かれた口からエネルギーが撃ち出される。
けれど、ヤムチャは紙一重でそれを回避するのだった。
「な・・・バカな」
「不用意に飛び上がると体勢が崩れて攻撃を喰らう・・・それも、前に教わった事なだけだ」
冷静に答えるヤムチャ。そのままナッパとの間合いを詰める。
口からのエネルギー弾に戦闘力を集中していたナッパは、しばらくの間は体の防御が低下している。
そこに、ヤムチャの必殺技が叩き込まれる。
「真・狼牙風風拳!」
その10
狼牙風風拳。それは狼の牙の如き鋭い拳を、風のように素早く、風を切りながら連続で相手に叩き込む技。
けれど、それは拳のみに特化しており下段攻撃は手薄という、未完成の技であった。
「真・狼牙風風拳!」
真実の狼牙風風拳が今ここに、繰り出される。
「ぐぎゃっ!ぐふっ!ぺぎゃっ!あぶっ!」
ナッパの体に、狼の上顎の牙の如き拳と、下顎の牙の如き蹴りが、ほぼ同時に繰り出される。
上下からの連続同時攻撃。それはまるで狼の牙が獲物に喰らいつき、獲物を咀嚼する姿であった。それこそが、本来の狼牙風風拳の姿。
ナッパの装備しているプロテクターが、狼の牙によって砕かれ、その下にあるもう一つの鎧。筋肉すらもえぐり、もぎ取る。
いくつもの血管が千切られて、ナッパの体から盛大に滴り地面を赤く染め上げる。
鎧と共に守りが砕かれて、無防備になるナッパの体。そこに、ヤムチャが最後の一撃を叩き込み、前屈みになったナッパの背中に両手を渾身の力を込めて振り下ろす。
「そら!そら!そら!そらあああああっ!これで・・・決まりだ!」
「ぎゃふっ!ぎゃあっ!うぶっ!う、うぎゃあああああっ!」
ナッパの体が地面に、ベジータの目の前に叩きつけられる。
そうしてから、ヤムチャはゆっくりと地面に降りてナッパの様子を油断無く見るのだった。
「す、すげえ・・・」
「な、何と言う技・・・」
「嘘みたい・・・」
「あれほどの男だったとはな・・・」
「信じられない・・・」
クリリン、天津飯、チャオズ、ピッコロ、悟飯。戦士達がもはや自分達とは違う次元の戦いに、驚嘆の呟きを漏らす。
「た、確かにヤムチャさんがサイヤ人になって正解だったかもしれない・・・」
その11
そんなヤムチャの勇姿を見ながら、戦士達は密やかに、そして様々に思うのだった。
例えば、閻魔様の間で戦闘を見ていた悟空は
「うっひゃー!ヤムチャの奴強くなったなー!もしかしてオラよりも強いくなったんじゃないか!?サイヤ人との戦いが終わったら、オラぁヤムチャと戦ってみてぇぞ」
戦闘を直に見ている戦士達。
クリリンは
「ただサイヤ人になっただけじゃあんなに強くはなれないはずだ・・・。ヤムチャさん、本当に血の滲むような修行をしたんだな・・・。あのヘタレだったヤムチャさんとは、もう違うという事なんだ・・・」
天津飯は
「クソ・・・。何故ヤムチャなんだ!俺がサイヤ人いなれば、ヤムチャなんかよりも強いのに・・・。孫には悪いが、今度のドラゴンボールでは俺がサイヤ人に・・・」
チャオズは
「す、すごい・・・」
ピッコロは
「これがサイヤ人同士の戦いか・・・。まるで次元が違う。だが、いつかは悟飯もあれだけの力を持ちえるのかもしれんな・・・」
悟飯は
「凄い・・・。お父さんも、あれくらい強いのかな?」
と、思うのだた。
様々な思惑が交差する中、ヤムチャは倒れているナッパを油断無く睨む。
ナッパというと、うつ伏せになったまましばらくピクピクと痙攣をしていたが、ようやく上半身を起す。けれど、
「ベ、ベジータ・・・助けて・・・くれ、頼む」
「ああ、いいぜ・・・」
ダメージの重さに、自分の力では立ち上がれなくなったのだ。上半身を起すので精一杯のナッパに、ベジータはニヤリと笑うと手を差し伸べる。
ナッパはまるで、溺れる者のようにその手を掴む。手袋越しのベジータの手は、酷く冷たい。