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Saiyan Killer



エピローグ


「こ…こいつ…ガキだと思って手加減してやってりゃ…いい気になり
 やがって!!」
「へぇ、だったら本気でかかってきなよ。ま、無駄だと思うけど…」
すでに数人が地面に倒れ伏している。残った異形の男たちの顔にも微かに
焦りが浮かぶ。その彼らがぐるりと取り囲んだ中心にいるのは、まだ10にも
満たない、見るからに生意気そうな黒髪の少年だった。

「おぉおおおおおっ!!!」
ドゥンッ!! ドゥゥンンッ!!
次々とエネルギーを開放し、一気に男たちが少年に迫る。それらを軽々と
捌きながら一人、また一人を倒していく。しかし。
倒したと思った一人が、口から血泡をこぼしながら凄まじい形相で少年を
後ろから羽交い絞めにする。予想外の出来事にあわてる少年だったが、
身動きひとつ取れない。
「くっ…くそっ!! は…離せよっ!!」
そう毒づくのが精一杯の抵抗だった。残った男たちがぞろぞろと近づいて
くると、さすがに少年の顔に恐怖の色が浮かび上がる。

「へっへっへっ…調子に乗りやがって……。でもこれでおしまいだな!
 ボウズ……!!」
にやにやと哂いながら少年の顔面にごっ、ごっと拳を叩きつける。何度目
かのそれで唇が切れ、鮮血が溢れ出す。悔しそうに男を睨みつける少年
だったが、ふと見たその背後に表情が変る。
それに気づいた男たちも訝しげに振り向く。そこには一人の女性が立って
いた。


男たちの種族ではないが、その彼らからしても充分に美しいと感じられる
女性だった。小柄だが均整の取れた引き締まった身体。そして腰まで伸ば
したプラチナブロンドが風にたなびくように揺れていた。

「お……おかあさんっ……」
「…こんな雑魚を相手に後れを取るとは…情けないぞ、シルフ…」
シルフ、それが少年の名前のようであった。そう呼ばれた少年は羽交い絞め
されたまま顔を伏せ、しょんぼりとしていた。
「なんだっ!! てめぇはっ!! 邪魔するならてめぇも……」
そう言い掛けた男たちだったが、まったく自分たちを恐れる様子もなく、さく
さくと女性が近づくにつれ、その言葉が止まる。
「…!? ……ま…まさか…、お前……あ…あのマーリ……」

「ほう…こんな辺境の星の盗賊にまで知られているとは光栄だ。だが少し
 気がつくのが遅かったな……」
ズァヴォゥッッッ!!!
男の言葉は、最後まで発せられる事は叶わなかった。

「…あ…あんな連中…僕一人でもやっつけられたんだからね!」
唇の手当てを受けながら、そうシルフがぼやく。助けられた事を面白く
思ってはいないようだったが、母親も息子を助ける事が出来たのを
素直に喜んではいない風だった。
「まったく…あの程度の連中に足元をすくわれるなど…おまえは油断が
 多すぎるんだ! そんな所がヤムチャ譲りなのかもしれないが…」
はぁぁ、とためいきをつく。だがそんな母の、ヤムチャという単語に息子が
ぴくん、と反応する。
「そうなの!? おとうさんも僕みたいだったの? ねぇ! また
 おとうさんのお話してよ、おかあさん!!」

目を輝かせながら父の話をせがむ我が子に苦笑しつつも、いつものように
ヤムチャとの思い出を語る。共に過ごした時間はさほど長いものでは無か
ったが、彼女の人生において最も密度の濃い、充実した日々だった。
もう一体何度同じ事を話したのかも判らないが、飽きる事なく少年は満足
そうに、いつもいつもそれに聞き入っていた。

「ねぇ、おかあさん…それでいつになったらお父さんは…僕たちのところに
 きてくれるの?」
少年の素朴な疑問に、わずかに表情が曇る。だがその時。
ズゥゥゥンンンッッッ!!!!
「貴様らかァァァっっ!! オレたちを狩ってるって奴らはァァァ!!!」
身の丈は10メートルを軽く超える巨躯がそびえ立っていた。足元には先ほど
あわてて逃げ出した男たちがいた。
「なんだァァァッ!! 女とガキの二人じゃねェかァァァッッ!! こんな
 奴らに尻尾巻いて逃げてきたってのかァァ! てめぇらはァァァッ!!」
「い…いぇッ! お頭…、あ…あいつは…あの有名な『銀光のマーリン』で……ッ!?」
その言葉を言い終える前に、部下は巨大な岩の塊のような拳を真上から叩き
つけられ、ぺしゃんこになった。

「ふん…ようやくボスのお出ましか…下がってろ、シルフ……!」
カチカチとスカウターを操作し、相手の戦闘力を測る。今の彼女にとって
それは大した意味など持たない行為ではあったが、染み付いた習慣はなか
なか抜けるものではない。一瞬だけ険しい表情を見せるが、すぐにそれは
消えていつも通りの余裕の笑みが浮かぶ。

「…シルフ…、ヤムチャに…父さんに会いたいか…?」
こんな時に何を言い出すのかと、びっくりした表情のシルフだったが、答え
は決まっている。会いたい、はっきりとそう叫ぶ。
「なら…強くなるんだ。こいつよりも、わたしよりも! その日がいつ
 来てもいいように…あの人の子供である事に恥じないようにな……!」


ヴォウッッッ!!!
「次のスケジュールが迫ってるんでな…悪いが一瞬で終わらせてもらう…。
 海!! 皇!!! 拳ーーーッッ!!!!!」


〜Saiyan Killer〜 完



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