ヤムチャ様と赤いリボン
第一話 「ヤムチャ様と真紅なヤツ」
第二十三回天下一武道会決勝戦……
悟空とマジュニア、世界の命運をかけた決戦は、様々な波乱を生みつつも悟空の勝利に終わった。
ここに天下一武道会は終結し、戦士たちはそれぞれの道を歩みだした。
悟空は神となることを拒絶し、試合中に結婚したチチと共に遥か空の彼方へ。
クリリンは、亀仙人と共にカメハウスへ。
天津飯とチャオズは二人で修行の旅へ。
そしてヤムチャも、ブルマとプーアルを残し、たった一人で修行のために旅立った。
ただ無心に、己を鍛えることだけを目的に……
「はぁ……こんなことなら、プーアルについて来て貰えばよかったなー」
ボヤキながら、一人荒野を歩くヤムチャ。
長い間風呂にも入っていないのだろう、手入れがまったくされていないぼさぼさの髪。
緋色の道着を纏い、背には大きなリュックを背負っている。
服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体と、その肉体に似合わぬ端正な顔立ち、強い意志が秘められた眼差し。
頬には、端正な顔にこれまた似合わない十字傷。
道着の胸の部分には、世界最高の武道家「武天老師」に手ほどきを受けた証である亀のマークがプリントされている。
「一人だと寂しいんだよなー。いや、オレが旅をしてるのは修行のためってのはわかってるんだが……」
亀のマークを右手でいじりながら、つぶやく。
旅をはじめてからこちら、ヤムチャの独り言の回数が日に日に増えている。
見渡す限りの荒野にただ一人でいるという状況を考えれば、それも仕方の無いことではあろうが。
死の荒野と呼ばれているこの荒地は、昔ヤムチャが盗賊だったころに縄張りとしていた場所でもある。
「"荒野のハイエナ"か……そういや、俺も昔はそんな風に呼ばれてたんだよな……」
ヤムチャは今でこそ武道家としてまっとうな道を歩んでいるものの、過去には盗賊をしていたこともあった。
当時ヤムチャに襲われたものは、彼のことを心底恐れた。
荒野に住み着き、そこを通る旅人を見境無く襲う『荒野のハイエナ』と。
だが、『見境無く』襲うといっても、ヤムチャは女性を襲うことだけはしなかった。
そのため、仲間内からは硬派な男として尊敬を集めていたりもした。
もっとも、ヤムチャに言わせればそれも「女性が苦手」という理由からではあったのだが。
「しかし腹が減ったな……もう丸二日は何も食ってないからなぁ……」
その言葉に合わせるかのように、ヤムチャの腹が「ぐ〜」と音を立てる。
リュックを手に持ち逆さにして振ってみるも、中身が空では何も出てくるはずが無い。
それでも何十秒間か揺すってから、ヤムチャは諦めたようにリュックを背負いなおした。
「参ったなぁ……この辺りに町は無いし……
アジトに行けばカップラーメンがあるんだけどなー
ああ、でも十年以上も前のだから、食えるわけねぇか」
顔を上げ、周囲を見渡すが、そこにはただ荒野が広がっているだけである。
……ふと、何かを見つけた気がして、ヤムチャは顔を下げた。
地面を見る、と、そこにはひとすじの線が西から東へと続いている。
ヤムチャは、その場に膝を突き、体勢を低くしながらその線を見つめた。
手で触ると、うっすらとしか無いその線はあっさりと消えてしまった。
「これは……車の通った跡みたいだが……?」
訝しげに声を上げ、ヤムチャが立ち上がる。
目を凝らすと、うっすらと伸びたその線の向こうに、なにか建物の様なものが見えた気がした。
「んー、とりあえず、行ってみるか。どうせ食料も無くなっちまったんだし」
言って、建物があったように見えた方向へと歩く。
歩きながら、ヤムチャは腰に下げていた水筒へと手を伸ばした。
そのままふたを開け、中に入っていた水をのどの奥へと流し込む。
「ぷ……っはーー! い、生き返ったぁ……」
とりあえず空になった水筒を投げ捨て、口についた水滴を拭う。
その頃には、すでにその建物が……建物のある村が目に入っていた。
結局、ヤムチャはその村にたどり着いた。
……とは言っても、村の入り口を離れた場所から眺めているだけだが。
「この村……盗賊の集団住居か何かなのか?」
言いながら、村の入り口……と言うより、村の入り口を守るように立っている二人の男を見る。
片方は背が高く、少し痩せている様にも見える。もう一人は標準の体型をしている。
二人は、揃いの制服のようなものを着込んでいた。
手には自動小銃を持ち、腰にはトランシーバーと小型の拳銃を差している。
見たところ、軍人といった風のその男たちは、何か警戒しているようでもあった。
だからこそヤムチャは出て行くことを躊躇ったのではあったが。
「だが、このまま戻っても飢えちまうことに変わりはしないしな……」
よし、と、ヤムチャは一呼吸つき、ゆっくりと村の入り口に向かって歩いていった。
と、突然村の中から一人の青年が飛び出して来た。
それを見て、慌てて自動小銃を構える男たち。顔色を変えて、青年に静止の言葉を投げる。
「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」
だが、青年は止まらない。村を飛び出したそのままの方向に――つまりはヤムチャのいる方へと――全力で走ってくる。
青年に止まる気が無いのを察したか、男たちの指が自動小銃の引き金にかかった。
パララララ……という軽い音がして、自動小銃から大量の弾丸が撃ち出される。
「ちっ! なんだか知らんが、仕方ないッ!」
叫ぶと、ヤムチャは弾丸よりも速く男達と青年の間に割り込んだ。
そのまま、超高速で近づいてくる弾を一発残らず弾き飛ばす。
その様子を見て、男達は驚いたのだろう。
自動小銃を撃つのを止め、放心したかのようにこちらを見つめている。
見ると、あれほど全力で走っていた青年も、男達と同じような様子で――走るのも忘れて――こちらをじっと見つめている。
ハァ……と、ため息をついて、ヤムチャは男達を見る。
自動小銃を手にした男達の帽子には、赤いリボンにR・R――レッドリボンのマーク――が記されていた。
(やれやれ……また、厄介ごとに巻き込まれちまいそうだな)
心の中で毒づきながら、ヤムチャは左足で軽く地面を蹴った。そのまま跳躍し、男達との間合いを一気につめる。
跳びながら軽く右手を握り、標準体型の男の腹に拳を埋め込んだ。
一撃で、男はあっさりと倒れる。だが、男が倒れるよりも更に速く、ヤムチャは右足を使い横に飛んでいた。
そのままもう一人の男に肉薄する。やっと正気に戻った男が自動小銃の照準をヤムチャに合わせようとするが、間に合うはずも無い。
跳んだ勢いを利用し、打ち出した足で自動小銃を弾いたヤムチャは、そのまま肩口から男に突っ込み、完全に密着した状態から肘を打ち出す。
ヤムチャの打ち込んだ肘はあっさりと男のみぞおちに入り、男はもんどりうって倒れた。
「ふぅ……ま、こんなもんかな?」
言いつつ、青年の方へと振り返る。
青年は、どうやら完全に放心状態らしい。ぼーっとしたまま、ヤムチャを見つめていた。
(……ま、いきなりこんなもんを見たら驚くわな)
いくら手加減をしているとはいえ、人間の限界を超えたかのような超人的な動きを見せたのだ。
一般人なら、これを見て驚かないはずは無い。
この青年もそうなのだろう。そう、ヤムチャは思っていた。
(っても、このままってわけにもいかないしな……)
考えつつ、青年の方へと歩み寄る。
その間も、青年は放心したままだった。
見ると、その青年は意外と精悍な顔つきをしている。
金色の髪に青い目、白っぽい肌をしたその青年は、見たところ20歳前後のように見えた。
「あ……あの……」
と、いつの間にか我に返っていたのだろう。青年が話しかけてきた。
「あ、危ないところを助けていただいてありがとうございます……それでその、あなたは……?」
伏し目がちに、青年がこちらを見ながら言う。
(そういう目は、女の子にやってもらいたいもんなんだがな……)
思いつつ、ヤムチャは青年から目を離した。
少し視線を変えて、村の方を見つめる。あれだけの音を出して戦闘をしたのに、村は少しも騒がしくはなっていなかった。
再び青年の方へ向く。青年はやはり先ほどと同じような様子で、こちらを見つめている
「あー、とりあえず自己紹介しとこう。オレの名はヤムチャ。荒野のハイエナ、ヤムチャだ。
まぁこんな所で立ち話もなんだから、村の中に行こうぜ」
言って、振り返りながら村の方へと歩く。と、突然青年に肩を掴まれた。
ヤムチャは、訝しげに振り向く。……考えてみれば、青年は村から飛び出してきたのだから、村に入りたがらないのも当然なのだが。
「ヤムチャさん、村の中に入っちゃ駄目です」
青年は、強い口調で言ってくる。先ほどまでの狼狽した姿が嘘のように、堂々としているように見えた。
「そうか? んじゃ、そこらの岩陰で話を聞こうか」
とりあえず妥協して、ヤムチャはちょうど村からは見えない辺りの岩陰へと足を進めた。
岩陰に着き、周りを見渡す。座れそうなところを見つけて、ヤムチャはとりあえず一息ついた。
青年もしっかりとついてきていたのだろう。ヤムチャと向かい合うようにして立っている。
「さて、とりあえず自己紹介でもしてもらおうか。お前、名前は?」
言いながらも、よいこらしょと声に出して、その場に座り込む。
この体制だと、青年を見上げる格好になるので少し話しづらいのだが、そんなことは気にしない。
「僕の名前はジョニー。あの村には研究員として派遣されてました」
だが青年の方も見下げた状態では話しづらかったらしい。座れそうな岩を見つけると、ゆっくりと座り込んだ。
座りながら話すときは、面と向かって座るよりも隣同士に座ったほうが話が弾むらしい。
そんなどうでもいい雑学を思い出しながら、ヤムチャはジョニーに聞いた。
「研究員? なんの研究をしてたんだ?」
聞きながらも、何か食べるものは無いかと尋ねる。
ありませんと首を横に振ってから、ジョニーは話を続けた。
「実は僕自身もそんなに詳しく知っている訳ではないんですが……
なんでも願いを叶えてくれる球と言うのがあるらしくて、僕はそれを調べるために派遣されたんです。
あの村にあるはずなんですが、僕が探していると突然レッドリボンの連中がやって来て……」
「願いを叶える……球?」
ヤムチャには、その球とやらに心当たりがあった。
……というか、実際に願いが叶えられるのを見たことすらあった。
「……それで、レッドリボンの奴らは一体何を?」
ヤムチャが、聞く。もっとも、ヤムチャ自身レッドリボンの目的が何なのか、おぼろげながらわかってはいたのであったが。
「どうやら奴らも、その球を狙っているようなんです・
もっとも、レッドリボンの連中はその球のことを『ドラゴンボール』と呼んでいましたが」
やはり、ドラゴンボール。すべての冒険の始まりとも言える、あの球。
(まさか、修行の旅を始めた途端にドラゴンボールに関わるとは……オレは、よっぽどアレに好かれてるらしいな)
内心で毒づきながら、ヤムチャはゆっくりと立ち上がった。
そのまま村の方を向いて、背中越しにジョニーに言う。
「だとしたら、放っておく訳にはいかないな。
レッドリボン軍なんかに、願いを叶えさせるわけにはいかない」
(だが、レッドリボン軍は悟空の手で壊滅したはずだ。今更何で出てきやがったんだ?)
釈然としないものを抱えながらも、ヤムチャは村へと歩く。
「待ってください! あの村にいるのはレッドリボンだけではありません!」
その、歩き出した背中に、ジョニーの声が突き刺さった。
歩くのを止め、ヤムチャは振り返った。
「レッドリボン軍だけじゃない? それは、どういうことだ?」
訝しげに聞く。レッドリボン以外の誰が、ドラゴンボールを探しているというのだろうか?
「沢山の罪も無い人々が、レッドリボンに脅されて強制的に働かされているんです!
どうか、彼らを助けてあげて下さい!」
まるでその言葉を待っていたとでも言うかのように、ジョニーの返答は早かった。
「……なるほど、そういうことか」
言いつつ、納得するヤムチャ。そういうことならわかりやすい。
「オーケー、オレは別に善人ってわけじゃないが、まぁついでに助け出してやるよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
振り向き、今度こそ村へと向かって歩き出す。後ろで、ジョニーが何か礼を言っていたような気もしたが、
別に自分は礼をされるようなことをしているわけではない
(ま、これも修行だ。それに、軟弱な旅にも飽き飽きしていたところだったしな)
こうして、ヤムチャの新たな戦いが始まったのだった。
第二話 「ヤムチャ様快進撃、操気弾ってやっぱ使えるよなぁ……」
大勢の人々が、何やら建設物を建てるために働かされていた。
「おらおら! せっせと働きやがれ!」
叱咤の声を上げながら、兵士たちがその手にした銃で資材を運ぶ男の背を突く。
突かれた男は、恐怖に顔を引きつらせながらも足を速めた。
「へっ、やりゃあ出来るじゃねぇかよ」
兵士が、満足したような顔で辺りを見回す。
と、建物の影、隅っこの方で座り込んでいる老人が視界に入った。
「おらそこぉ! 何てめぇだけサボってやがる!」
言いながら、老人へと近づいていく。
兵士が自分に対して言っているのに気付いたのか、老人がバッと顔を上げた。
その顔には、疲労と恐怖がミックスジュースな何とも言いがたい表情が浮かんでいた。
「うう、ど、どうか許してくだされ……」
「うるせぇ!」
力ない声で嘆願する老人に、兵士は容赦の無い蹴りをいれた。
その蹴りで老人は後ろに倒れこむ。老人は、どう見ても完全に気絶していた。
「おらおらぁ! てめぇ一人だけサボっていいなんて思ってるんじゃねぇだろうなぁ!」
気絶した老人を、兵士はしかし容赦なく蹴り続けた。老人の顔から生気が消えうせようとも、それを気にすることも無く。
何十発か蹴りこんだところで、兵士も飽きたのだろう。詰まらなさそうに、その場を去っていった。
兵士がいなくなっても、老人に近づく者はいなかった。いや、近づけなかった。
老人の介抱に行けば、職務放棄として自分も老人と同じような目に合うだろうということがわかっていたからだ。
一様に精気の消え失せた顔で、人々は働き続けていた。
ヤムチャは、人々が建てようとしている物とは別の建物の屋上からその様子を見下ろしていた。
「レッドリボンめ……なんて非道いことをしやがるんだ……」
呟きながら、自然と手は握りこぶしを作っていた。レッドリボンの非道に怒りを覚えながらも、冷静に考える。
(今飛び出して奴ら全員を叩きのめすことは……まぁ出来るだろうが、それだと働かされている人達に危害が及ぶ可能性が出てくるな……)
手すりから身を乗り出して下を覗き込む。どうやら、兵士たちは人々を囲むように配置されているようだった。
「なら、気付かれないようにひとりずつ倒していくしかないか……」
言って、右手に気を集中させる。集中された気は、彼の腕から丸い球体となって浮かび上がった。
「操気弾……行けッ!」
小さく叫んで、操気弾を投げ出す。投げられた操気弾は、そのまま真下にいる兵士へと直進した。
兵士はその弾に気付くことも無く、脳天に強烈な一撃を食らって昏倒する。
操気弾は、兵士にぶち当たった勢いのまま地面の中に消えた。
それを確認してから、ヤムチャは頭の中にこの村の地図を思い浮かべる。
その地図に、兵士たちの配置を大雑把にだが書き込んだ。
(次は……右斜めにいるヤツだ!)
目を閉じたまま、意識だけを集中させ、腕をくいっと動かす。
その動きと連動するように、彼の脳内地図に書かれた操気弾も移動をしていた。
兵士と操気弾が重なったところで、ぐっと腕を上げる。
彼の脳内地図で、兵士と操気弾が衝突した。兵士は、音も立てずにゆっくりと倒れこんだ。
ヤムチャが、ゆっくりと目を開ける。視界には、脳内で行われたこととまったく同じ出来事が起こっていた。
操気弾が空中で静止しているのを確認し、もういちど大雑把に兵士たちの配置を確認しなおしたヤムチャは、またも目を瞑った。
さっきと同じように脳内で地図を描く。そして、その地図の操気弾を操作し、他の兵士と重ね、衝突させる。
……それを繰り返して、ヤムチャは確実に兵士を倒していった。
そのころ、ヤムチャが立っているちょうど真下の部屋で、二人の男が話していた。
「ふむ……進行具合はなかなかのようだな、イエロー大佐?」
窓から下を覗いていた男が、振り返りながら言う。
赤い髪をなびかせたその男は、鍛えられた肉体をぴったりとしたスーツの中に納めていた。
そのスーツの胸の部分には、例に漏れずレッドリボンのマークが描かれている。
「それはそうだ、様々な村や町から働き手をかき集めてきたんだからな……」
応える男――イエロー大佐と呼ばれていた――は、咥えたタバコをふかしながら、ソファーにもたれかかった。
トラにも見えるその男は、軍服に身を包み、室内だというのにレッドリボンのマークが入った帽子をかぶっている。
「それで、お前が今日来たのは何のためだ? まさかレッドリボンのシルバー大佐が同僚と雑談しに来たということもあるまい?」
からかうような口調で言いながら、テーブルに置いてあったグラスへと手を伸ばす。
グラスの中に入っていたワインを一息に飲み込み、イエローは鋭い目をシルバーへと向けた。
「タバコを吸いながらワインを飲むとは、風流というものを理解せん男だな」
その視線を軽く受け流しながら、こちらも胸のポケットからタバコを取り出す。
「オレはただ、貴様が真面目に仕事をしているか見に来ただけだ」
タバコを口に咥えるも火が無いことに気付いたシルバーは、ちっと舌打ちをした。
それを察したイエローが懐からライターを取り出し、シルバーに向かって軽く放り投げる。
「フン、それは総帥の命令か?」
放物線を描きながら飛来するライターを受け取ったシルバーは、タバコに火を付けながら応える。
「ああ……いや、どうだろうな。総帥直々に命令を受けたわけではないからな……」
言いながら、またも窓に向かって歩く。窓から外を眺めながら、シルバーは静かにため息を付いた。
イエローは、グラスにワインを注ごうとするも、そのころには既にワインは無くなっている。
それを見て取ったイエローは、タバコを吐き捨てソファーから身を起こした。
「総帥は変わってしまわれた……第一、こんな荒野の真ん中に基地を作って何の意味があるというんだ?」
吐き捨てるように、シルバーが言う。何故かはわからないが、その口調には確実に怒りが含まれていた。
「知らんよ、本部の言うことに口を出す気は無いし、そんなことに興味は無い」
応えて、イエローはドアのノブに手をかけた。そして振り返り、シルバーに尋ねる。
「ワインが切れたから取りに行くが……お前の分もいるか?」
「いらんよ」
シルバーの返答は、思ったとおりあっさりとしたものだった。
外にいた兵士の、最後の一人に操気弾を命中させたヤムチャは、ゆっくりと目を開いた。
さすがに兵士たちが倒れたことに気付いたのか、下の様子が慌しくなっている。中にはこの隙に逃げ出す者もいた。
その騒ぎを聞きつけ、ヤムチャがいる建物の入り口から何人もの兵士が飛び出してくる。
「もうこいつをかくす必要もないだろ……そりゃッ!」
ヤムチャの叫びと共に、操気弾は兵士たちのもと――建物の入り口――へと、急速に接近した。
それに気付いた兵士たちが手にした銃を乱射するも、操気弾には効果が無い。
ぶつかった弾丸を弾き飛ばしながら、兵士たちの群れへと突っ込んでいく。
そして、ちょうど兵士たちの真ん中に来たとき、操気弾はその動きを止めた。
「今だ……ッ! バッ!」
ヤムチャが、それまで開いていた拳をグッと握った。
その瞬間、静止していた操気弾が弾け跳んだ。その衝撃で、兵士たちは様々な方向へと吹き飛ばされる。
吹き飛んだ兵士たちは一様に同じような格好で気絶した。
それを見て、働かされていた人々は我先にと逃げ出す。先ほどまで倒れていたはずの老人も、いつの間にか元気に走っていた。
すこしして、人々の姿が荒野の彼方に掻き消えるのを確認すると、ヤムチャは建物の屋上から飛び降りた。
「操気弾……やっぱり使えるよなぁ。何で神様には通用しなかったんだろ?」
着地して、体勢を整える。辺りを見回し、あらかた片付いたのを見ると、ヤムチャはふぅ、と息をついた。
「相手が強すぎたのかな? なにせ、神様だしなぁ……」
ボヤキながら、とりあえず警戒を解く。建物の中に捕まった人がいたらどうしようとかは考えないことにした。
「しかし、これはどういうことだ? どう見ても、ドラゴンボールを探しているようには見えないが……」
じっくりと、建設中の建物を見つめる。それは、どちらかと言うと基地のようにも見えた。
少なくとも、一般的な住居施設などではないことは確かだった。外見的な構造が明らかに違っている。
「ほう、我が機械化部隊が全滅とは……貴様、何者だ?」
突然かけられた声に振り向く。と、さっきまでは兵士が倒れているだけだった建物の入り口に人影が見えた。
「……まだ起きている奴がいたのか。ま、どうでもいいけどな」
軽く言いながら、ヤムチャはいつでも跳びかかれるように構えた。
左足を前に出し、右肩を引き、半身の体勢を作る。
その構えは亀千流の大げさなものではなく、本当にただ半身を引いただけの構えであった。
「オレは荒野のハイエナ、ヤムチャだ。お前に恨みは無いが、オレの縄張りで勝手な真似をされるとムカつくんでね……」
不適な笑みを浮かべながら言い放つ。その顔には、恐ろしいまでの自信が溢れていた。
「貴様が、あのヤムチャか……荒野のハイエナ、大悪党のヤムチャ、だったか?」
「ほう、オレを知っているのか?」
ヤムチャは、にやりと口の端を更に歪めながら、人影――というよりも、トラ影――を睨み据える。
「なら、手加減する必要は無いな。オレが女以外は容赦なしだってのも知ってるだろ?」
言うが早いか、ヤムチャは右足で地面を蹴った。その勢いを利用し、相手との距離を一気に縮める。
そのまま右手を突き出し、相手の急所を殴りつける。
……だが、確実に当てたと思ったその拳は、むなしく空を切っていた。
「レッドリボンのイエロー大佐をなめるなよ!」
聞こえてきた声に振り向く、と、そこには腕から銃の生えたトラ男――イエロー――が立っていた。
それを見据えた瞬間、ヤムチャが反応するよりも速く、イエローの腕から光の線がほとばしる。
「くッ!?」
ヤムチャは頭だけを横に倒し、紙一重の所でその光線を避けた。
光線はそのまま直進し、後方へと消えていった。そのまま、何か岩にでもぶつかったのだろう。大爆発が起きる。
(これは……見たことがあるぞ! 確かこれは……)
「ほう、今のを避けるとは……貴様も、只者ではないということか」
言いながら、イエローはその腕を顔の前に上げた。腕へと顔を近づけると、煙を出している銃口にふぅ、と息を吹きかける。
よく見れば、腕の先から生えていると思ったのはただ腕を取り外してくっつけただけのもののようだった。
(そうだ、これは……スーパーどどん波と同じなんだ!)