ヤムチャのお話 〜戦争と平和〜
乾いた大地に血の華が咲いた。悟空の一瞬のスキをついたフリーザの手刀が
悟空の右腕を肩から斬り落としたのだ。東の都から遠く離れた荒野で繰り広げ
られている地球戦士軍対フリーザ軍の最終決戦は、フリーザ軍有利へと大きく
戦局が傾いた。
体勢を立て直したい悟空であるが、空へ逃げればエネルギー弾の波状攻撃の
餌食になる。悟空は逆にフリーザの懐に飛び込んで間合いを詰め、残った左腕
をみぞおちに叩き込んだ。思わぬ逆襲に狼狽するフリーザに背を向けて、悟空
は必死の形相で叫んだ。
「ヤムチャ! 仙豆をくれ!」
「それはなりません」
ヤムチャは首を横に振った。闘いの振動でお茶のはねた指先を座布団で丁寧
に拭いて、感情のない口調で説明した。
「仙豆との交換は、20ポイントからとなっております」
「オラのポイントは何点だ!」
「えーと。少々お待ちを」
ヤムチャは懐から手帳を取り出して悟空のページを開いた。悟空の似顔絵に
が書いてあって、おでこの真ん中に鼻クソがなすりつけてある。
「先ほどまでは19ポイントでしたが、右腕ザックリでマイナス4ポイント。差
し引き15ポイントとなります」
「そうか! あと5点か!」
出血で青白くなった悟空の顔に、わずかに赤味が差した。傷口をタバコであ
ぶって止血をして、再びフリーザに向かっていった。斬られた右腕を拾い上げ
て、フリーザ目がけて力一杯投げつけた。
「でやー!」
「その攻撃、有効!」
ヤムチャは札のついた棒切れを天に掲げた。札には2と書かれていた。2ポイ
ントだ。
「ギニューキーック!」
孫悟たちから少し離れた場所では、ギニューとピッコロが闘っていた。ギニ
ューの蹴りがピッコロにクリーンヒットした。
「ギニューさん、5ポイント獲得! 合計40ポイントに到達しました!」
ヤムチャはカセットデッキの再生ボタンを押した。荘重なファンファーレが
鳴り終わると、プーアルが大きな箱をもってギニューの下へ飛んでいった。
「40ポイントの景品は、一流ブランドメーカーのトートバッグでーす!」
プーアルは箱を開けて、トートバッグをギニューにプレゼントした。カエル
の柄がかわいらしい、真っ赤なトートバッグだった。
「はい、よくお似合いでーす! 拍手ー!」
プーアルは嬉しそうに手を叩いた。ヤムチャも立ち上がって、惜しみない拍
手をギニューに送った。ピッコロとの戦闘はいまだ継続中であるが、片手をト
ートバッグでふさがれている為にギニューはとても闘いにくそうである。ヤム
チャは座布団に座りなおした。
「死ねー!」
ベジータがギャリック砲をぶっぱなした。間一髪かわしたキュイの頬をかす
めて、ヤムチャに向かって一直線に飛んでくる。ヤムチャはあわてず騒がず、
両手をあげてポンポンと手の平を合わせた。
「プーアル! プーアール!」
プーアルが戻ってきて、座布団の端から伸びたヒモを引っ張った。座布団の
下にはキャスターが取り付けてあって、ヤムチャは座布団ごとゴロゴロと横に
転がっていった。ギャリック砲はヤムチャの元いた場所に着弾して、地面に大
きなクレーターを作った。草も石ころも蒸発したが、ヤムチャはよけたので無
事だった。
「すごい威力! ベジータさん、11ポイント!」
ヤムチャはベジータのページに11と書き込んだ。ベジータのこれまでのポイ
ントは、チビ、ハゲ、無職、彼女ドロボーだったので、これが初の数字でのポ
イントとなる。
「おりゃー!」
ドドリアがザーボンに目潰しを食らわした。仲間同士の骨肉の争いだ。
「なんか事情があるっぽくていーねー! ドドリアさん、150ポイント!」
「やめてー!」
天津飯がウンコを差した棒を持った少女に追いかけられている。
「天津飯さん、目が3つで3ポイント!」
闘いは膠着状態に入った。それでもヤムチャは決して正座を崩さない。頑張
れヤムチャ! 地球の未来は、君のポイント付与にかかっている!