(ヤムチャはこれから活躍する予定です…多分。
感想・批評は大歓迎。勉強になります。
ただしつまんなかったらすぐ言って下さい。即打ち切ります。)
ナメック星のドラゴンボールにより生き返ったヤムチャがまず
知らされたのは、べジータがブルマの家に住んでいるという事実だった。
ええっ、とヤムチャは思った。
べジータと一つ屋根の下で暮らすことになるのか。
べジータ(とハゲマッチョ)が最初に地球にやってきた時の
事を思い出したヤムチャは憂鬱になった。
「な、なあブルマ…本気でべジータも住わせるのか?」
「別にいいじゃない。今までだって彼、ここに住んでたのよ。
おとなしくしてるし、大丈夫よ」
「いやしかし…」「なんか文句あんの」「ないです。 … け、 ど …」
自分も居候の身なのでガツンと言えないヤムチャ。
ハッキリしないヤムチャにブルマは何か勘違いをしたようだった。
「あ、やっだーヤムチャったら!変なこと考えてるわね?
浮気なんてするわけないでしょ!」
ばちーん、とヤムチャの背中を叩く。
「い、いてて…」
―――ま、まあ悟空のヤツが帰って来るまでだろうし…
悟空と戦ったら満足して宇宙に帰るだろ。
それまでの辛抱さ…―――
ヤムチャは無理やり自分を納得させた。
それにしても、ブルマも照れ隠しとはいえ、強く叩きすぎだと
ヒリヒリする背中を押さえながらヤムチャは思った。
―――ブルマの言う通り、浮気の心配は絶対ないしな。
どうみたってこんな生え際が危ないチビなんかに
この俺を差し置いて惚れるわけないし。―――
チラリ、とべジータを盗み見て吹き出した。
見れば見るほど滑稽な男だ。
視線に気付いたべジータがヤムチャを睨み付ける。
ヤムチャはとっさに襲いかかった尿意を押さえ込んだ。
気のせいか、背中の痛みが増した気がした。
ぶるぶる、と首を振る。
―――お、俺は界王様の元で修行したんだ!
狼牙風風拳と操気弾は健在だし
界王拳(7.25倍までマスターした)だってある!
それに奴にはもうサイバイマンという切り札もない!
べジータなんか恐いもんか!!―――
ようやく気が楽になったヤムチャはにっこり微笑んだ。
何も不安になることはないんだから背中に湿布でもはっとこう、
とヤムチャは家にかけこんだ。(続く?)
ヤムチャとブルマとべジータ(+α)が一つ屋根の下で暮らし始めてから一か月が過ぎた。
人一倍勝ち気なブルマと宇宙一プライドの高いべジータの相性は最悪だった。
―――こんなの食えるか文句あるなら食べなくていいわサイヤ人は肉を好むんだあたしダイエット中なの我が儘な女め―――
四六時中、何かにつけて衝突するブルマとべジータ。
そんな二人を諌めるのは、当然ヤムチャの役目だった。
おかげでヤムチャの口癖はすっかり「まあ、まあ」になってしまった。
盗賊時代の自分とはあまりにかけ離れていてちょっぴり切なくなるヤムチャだったが。
実のところ、ヤムチャはべジータがキレるのを恐れていた。
今でこそ、この野蛮なサイヤ人はおとなしくしているが
いつタガが外れて地球を滅ぼそうとするか分からない。
正直言ってブルマの奴に対する態度はヤムチャをヒヤヒヤさせた。
だからといって尻にしかれているヤムチャがブルマに注意する、 という事はありえなかったが。
まあとにかく、衝突する二人を仲裁する事でヤムチャは 地球を滅亡の危機から守っていたのであった。
―――さっすがオレ!地球の影のヒーロー!なーんちゃってな。
「…い。おい!聞いてるのかキサマ!」
「…はっ!?」
己の妄想に浸っていたヤムチャはべジータの声で我に返った。
「な、何だべジータ」
べジータがヤムチャに話しかけてきたのは初めてである。ちょっと緊張して声が震えてしまうヤムチャ。
「あのナメック星人はどこにいる」
「ピ、ピッコロか?なんでまた―――」「キサマには関係ない」
そう答えたべジータから凄まじい闘気が放たれている。ヤムチャは尿道が危うく緩みかけたのを引き締めた。
―――こ、こいつ…ピッコロとやる気だ…!
やはりべジータは欲求不満だったのだ。ヤムチャは内心パニック状態だった。
ピッコロだってなしくずしで今は味方って事になってるけど元・大魔王だ。
べジータの質の悪さは言わずもがな。
―――そんな二人が悟空のいない今対面したら最悪じゃないか〜!
悟空。そのキーワードにとっさにある考えがヤムチャに浮かんだ。
「そ、そうだ!そんな事よりさ、べジータ。ブリーフ博士が
悟空の為に作った重力室があるんだぜ!それ試してみたらどうだ!」
「カカロットだと?」
―――やった!興味示してるぞ!
ヤムチャは内心でガッツポーズをとった。
「そうだぜ!悟空のやつ、100倍の重力室で修行したんだ!
悟空が使った宇宙船以外にもプロトタイプがあるって博士から聞いたんだ。
それ使って修行するってのはどうだ?」
「…気に入らんな」
「へ?」
何だ、何が気に入らないんだ。
ヤムチャは冷や汗をかいていた。オレは地球の(影の)救世主なのだ。
ここでオレがべジータを食い止めなければ誰が食い止めるのだ!
「カカロットと同じ条件で修行しろというのか…?気に入らん。
ヤツを超えるならせめて300ば…」「ちょ、ちょっと待て!!」
ヤムチャは慌ててタンマを入れた。べジータに悟空を超えられたら困るのだ。
―――こんな奴が宇宙最強になったら地球どころか宇宙はお終いだ!
もはや、ヤムチャは地球の救世主ではなく、宇宙の救世主になるべく、
頭をフル回転させていた。そして咄嗟に口から出てきた台詞は
「べジータ!100倍の重力室でオレと修行しようぜ!」であった…。
特技:墓穴掘りのヤムチャの命運は? 続く!!(のか?)
>>556より続き
「べジータ!100倍の重力室でオレと修行しようぜ!」
そう言ったヤムチャをべジータは凝視した。コイツ正気か、と。
べジータとヤムチャの戦闘力の差はあきらかである。自殺願望があるとしか思えない。
一方ヤムチャも自分で自分の言ったことが信じられなかった。
宇宙を救う為とはいえ(4話参照)、なんて事を口走っちまったんだオレは。
膀胱にたまった尿が一気に吹き出しそうになるのを必死でこらえるのが
精一杯で、「なーんちゃってね。テヘ♪」と冗談にすますヒマすらなかった。
「ーーーよし、いいだろう。いくぞ」
「…な、なーんちゃっ… え え っ !?」
マジすか、と聞きたかったがすでにべジータはブリーフ博士の研究室へと向かっている。
ヤムチャは絶望につつまれた。死ぬのだ。彼はこれから死ぬのだ。
これから刑を執行される死刑人のような気分でとぼとぼとべジータの
後をついていくヤムチャの姿はとても宇宙の救世主には見えなかった。
「これか…」
100倍重力室は、プロトタイプとはいえ二人で修行するには十分の広さであった。
「悟空くんの為に作ったからの、ちょっとはそっとじゃ壊れんよう頑丈に
作ってあるぞい。思う存分修行しなさい」
ヤムチャは、オレの方が先に壊れそうです、と喉まででかかったが黙っておいた。
べジータが重力室に入る。
「む…」
さすがのべジータでも、いきなり重力が100倍にもなるとキツイようだ。動きが鈍くなっている。
それを見たヤムチャは希望の光が見えた気がした。
―――そ、そうか!ヤツは地球の少ない重力に慣れちまってるから
この重力室はけっこう辛いんだな!
オレはちょっと前まで界王星で修行してたからそんな事ない筈だ!
もしかしなくても死ななくてすむかもしれない。そう考えたヤムチャは元気になった。
むしろ浮かれてしまった。半ばスキップしながらべジータの後に続いて重力室に入る。
―――いやーまいったなー。もしかして今のオレってべジータより強いかも?なんーてね…
「うおっ!?」
浮かれ気分で重力室に足を一歩踏み入れたヤムチャはいきなりこけた。
いや、こけたというよりも体が重力の法則に従ったという方が正しい。
「だ、大丈夫かね、ヤムチャくん!?」
外で様子を見ていたブリーフ博士が慌てて装置を解除して駆け寄る。
「は、はあ…」
べジータに至ってはもうヤムチャをハナクソでもあるかのように侮蔑しきった目で見ている。
「立てるかね!?」ブリーフ博士がヤムチャを助け起こそうとする。
「いや…あの…折れたと思います…」
「骨か!どこだね?」
「いやその…全部…………」
そのままヤムチャは気絶した。
医者に運ばれたヤムチャは全身骨折との診断を受けた。
次こそ戦闘シーンだ! 続く!!(のか?)
>>660より続き
全身骨折で入院したヤムチャは次の日すでに退院していた。
恥を忍んでブルマに事情を説明し、カリン塔まで仙豆を取りにいってもらったのだ。
それもこれも、べジータが宇宙を滅ぼすのを食い止められるのは自分だけだと
いう使命に燃えていたからである(くどいようだが4話参照)。
「すまんな、ブルマ…武道家ともあろう者がこんな情けない姿を
晒しちまってよ…失望しただろ、このオレに」
「そんな事言わないでよ。あたしがヤムチャの事キライになるわけないじゃない」
「ブルマ…」
ヤムチャは感動した。
ブルマはヤムチャの情けない姿を見るのは慣れっこだとは言わなかった。
さて、ヤムチャにただ一つ、他の戦士達より秀でているものがあるとすれば、
それは器の小ささゆえのセコさであった。とはいえ、バカにしてはいけない。
セコさもこの過酷な世の中で生き延びてゆくのに必要なものといえる。
ヤムチャが全身骨折という重傷を負って学んだのは、100倍重力室という
厳しい環境下で、しかもべジータと修行しながら生き延びるためにはちょっとした
小細工を弄せねばならない、という事であった。
そこで、ヤムチャは退院してすぐブリーフ博士に内緒のお願いをした。
ブリーフ博士は首をかしげながらも承諾してくれた。
―――ふっふっふ…見てろよべジータ!今度こそ相手になってやるぜ!
ヤムチャはほくそ笑みながら意気揚々とべジータを修行の誘いに行った。
(おいおいまだ引っ張る気か?という訳で続く!!)
(>>701より続き:ヤムチャらしからぬ根性を発揮して、
入院した次の日に退院したヤムチャ。
宇宙を滅ぼさんとするべジータを食い止める為、
ヤムチャはべジータを修行に誘う!!)
「べジータ待たせたな!さあ修行しようぜ!!」
ノックもなしに爽やかな笑顔でべジータの部屋へずかずかと入ってくるヤムチャ。
べジータは顔にこそ出さないが内心げっそりしていた。
―――コイツはバカか?学習能力というものがないのか?
単純思考のサイヤ人であるべジータにそう思われるヤムチャは少し可哀想だ。
しかし無断で部屋に上がり込んできたヤムチャに怒りを覚えないとは
べジータは結構いいやつなのかもしれなかった。
最も、ヤムチャのおめでたさに呆れ過ぎて怒りが萎えた、という説もあったが。
一方、ヤムチャは自分の弄した小細工に慢心して、他のことなど考えちゃあいなかった。
とにかく、ブリーフ博士に頼んだコレさえあればオレはべジータに殺されない。
それだけしか今のヤムチャの脳みそにはなかった。
普段のヤムチャならノックもせずにべジータの部屋に押し入るなんぞ天地がひっくり返ってもしない。
振り返ってみれば、ヤムチャのうぬぼれがいつも命取りになっていた。
本人がそれに気付かないところがまたヤムチャのヤムチャたる所以なのだが。
―――へっ、見てろよべジータ!今日こそ汚名挽回してみせるぜ!
それをいうなら汚名返上名誉挽回だろと突っ込んでくれる者はいなかった。
さて、そうこうするうちにヤムチャとべジータの二人は再び100倍重力室の前に立っていた。
べジータは当初ヤムチャの誘いを断るつもりだったのだが、
―――これほどのバカは死んでも治らんが、マシな世の中になることは確かだ。
…とまあ結構やる気マンマンだった。
「さあ、早くやろうぜ」
「…それはいいが、キサマ何だそのふざけた格好は」
ヤムチャは純白の全身タイツを着ていた。
自慢のロングヘアまで布の中にみっしり入っている。
ヤムチャは年中全身タイツのお前に言われたくない、と思ったが黙っていた。
「…気にするな、ただのおしゃれだ。さあ行こうぜ!」
上手くべジータの質問をかわし、さっさと重力室に入る。
「な、なんだと…?」
べジータは己の目を疑った。
目の前では、ヤムチャが軽やかなステップで重力室の中を駆け回っている。
つい昨日、この重力に耐えきれず全身骨折してしまったヤムチャが、だ。
ちなみに、べジータ自身はまだ100倍の重力には慣れていない。
「フン…面白い」
ニヤリ、とべジータが口元を歪める。
単純で戦闘好きの生粋のサイヤ人である彼は「なんで」とか「どうして」
とか余計な事は考えなかった。
ただ単に、久々に手ごたえのある相手と闘えるのがうれしくて、
ずっしりと重みを増した体をヤムチャに向けた。
(ヤムチャの軽やかステップの秘密は!?←バレバレ、以下次号!!)
(>>772より続き:小細工を弄したヤムチャがついにべジータとの修行に挑む!)
身軽なヤムチャが先に踏み出す。
100倍の重力をものともせず、一気に間合いをつめ、拳を打ち出した。
ヤムチャの前日とはまるで別人のような姿に瞠目したべジータは
それでも最低限の動きでそれをなんとか避ける。
まだこの重力に慣れてないべジータには動きづらいのだ。
どういうことだ、とべジータは思った。
張り合いのある相手と闘うのはサイヤ人として喜ばしいことではあるが、
その相手があのヤムチャである。前日、この部屋の重力に耐えきれず
全身骨折したヤムチャである。それがなぜたった一日でこんなに動ける
ようになるというのだ。べジータのプライドはかなり傷付いた。
べジータの様子を見てほくそえむヤムチャ。
―――ふっ、べジータのヤツ焦ってるぞ。今日のオレは今までのオレとは違う!
かっこいい台詞に聞こえるが、今日のヤムチャが今までのヤムチャと違うのは、
賢明な読者にはもうお解りだと思うが――その身に付けた全身タイツだった。
これこそがヤムチャが内緒でブリーフ博士に開発してもらった
重力無効化スーツだったのである。効果はネーミングそのままだ。
(ちなみに当初は目立たぬよう肌色に着色してもらう筈だったのだが
一日という短い開発期間では白い全身タイツという形にしかならなかった)
これのおかげでヤムチャは100倍重力室でも普通と変わらぬ動きができるのだった。
まともな戦士だったら武道家としての誇りがこのようなスーツを
着用して修行に挑むのを許さないだろう。
しかし、幸いにもヤムチャにそのような誇りは微塵もなかった。
ヤムチャの素早い打ち込みは続く。べジータは動きの鈍った自分が攻撃に回る隙を見い出せず、防御の態勢をとったままだ。
胸ぐらに掴みかかってきた腕に気を取られたべジータにヤムチャの鋭い蹴りが振りおろされる。
「そらそら、足元がお留守だぜ!!」
ヤムチャは自分が一度言ってみたかったセリフを嬉しそうに叫んだ。
ヤムチャの蹴りが決まるかと思われたとき、重力室の窓にひょっこりと馴染み深い顔が映った。
「やっほー二人とも!はかどってる?」
ブルマ!ヤムチャはちょっと焦った。べジータをけちょんけちょんにやっつける
姿は恋人に見てほしいのはやまやまだったが、この全身タイツ姿を見られるのはさすがに抵抗があった。
―――でもなあー、やっぱ最近あまりカッコイイとこ見せてないからなあ。
いや、別にブルマがオレに愛想をつかすのを心配してるわけじゃないけどさ。
だってブルマがオレと別れるなんて絶対にありえないし。けどさあ…
ヤムチャのその一瞬の迷いを見のがすべジータではなかった。
「お留守なのはキサマのほうだ!!」
その一言とともに利き足でヤムチャの腰を薙ぐ。
「ぐわっ!」
間髪を入れず、バランスを崩したヤムチャに手刀をくり出す。
それだけは何とか奇跡的に紙一重でかわすヤムチャ。
しかしべジータの手刀の勢いは凄まじく、それによって発せられた風圧でヤムチャの全身スーツの
髪をもっさり覆っているフードが破れた。ヤムチャの自慢のロングヘアが裂け目からこぼれ出る。
「ぎゃっ!」
同時にヤムチャが後方に倒れる。そのまま動かない。
「てめぇどうした!まさかダウンした訳ではないだろうな!さっきのオレの蹴りが本気だと思ってるのか!?」
べジータが挑発する。
「ヤムチャー!ちょっと大丈夫ー!?」
ブルマはヤムチャを案じながらも彼の格好にもうこの人とは別れようかな、
と今までも何度か脳裏によぎった考えを本気で検討しようかと思っていた。
「ふっ…何騒いでるんだ…あんな蹴りが効くわけないだろう…」
ヤムチャはそう言ったが、しかし一向に起き上がらない。
別に彼は見栄をはっているわけではなかった。いや、白状すれば蹴られた腰はちょっと、
いやかなり痛かったがそれで起き上がれないほどではない。彼が立たない理由は別にあった。
―――髪の毛が重くて立てない……。
フードが破れ、100倍の重力の支配下にさらされた彼の長い髪の毛はとてつもなく重かった。
(ヤムチャさんは絶体絶命!彼は立てない!作者は書けない(ギャグが)!それでも続く!!)
(前スレ885より続き:重力無効化スーツを着て修行に挑むヤムチャだったがフードが破れてしまい…!?)
ヤムチャはかつてない危機に陥っていた。
彼の超サラサラロングヘアが破れた重力無効化スーツからこぼれ出てしまい
その重みで立てなくなってしまったのだ。
―――立て、立つんだオレ!!!!
そう己に喝を入れて立ち上がろうとふんばったが、無駄な力を消費しただけだった。へっ燃え尽きたぜ、とヤムチャは思った。
でもヤムちゃんはたちあがるのよ。それがせかいのせんたくなのよ。たちなさい!
パニックのあまり何故か幼女の声まで聞こえる。幻聴か。
オレはロリコンじゃないんだがな、とヤムチャはおもった。
とにかく、いつまでも寝転がってるわけにはいかない。
ブルマも見てるし。いや、別にブルマに愛想を尽かされるとか心配してる訳ではなかったが。
とりあえず、立たなきゃならなかった。そして立つためにはたった一つの方法しか残されていなかった。
ピクリとも動かないヤムチャにべジータが鼻で笑う。
「ふん…買い被り過ぎたか。所詮は雑魚だったようだな」
べジータは密かにヤムチャに危機感を覚えた先ほどの己を恥じた。
「ヤムチャ…」
やっぱ無茶だったわよ。そう冷静に考えるブルマ。
そのときだった。ヤムチャの右腕が動いた。
―――くそっ…この手だけは使いたくなかったのによ…
そう思いつつ手のひらに気を集め、自分の頭部めがけて放った。
ヤムチャの突飛な行動にあっけにとられるべジータとブルマ。
何かが焦げるイヤな匂いがして、やがてゆっくりとヤムチャが立ち上がった。
わなわなと震えるヤムチャの髪の毛はすっきり短くなっていた。気で焼き切ったのだ。
―――ちくしょう…これだけはしたくなかったのに…!
大事に大事に伸ばしてきた大切な髪。女の子に大好評でナンパ成功率80%を超えたのもこの髪の毛のおかげなのに。
マリーもローズもエミリーも哀しむだろうな…そう思うとヤムチャにかつてない怒りが宿った。
それは凄まじい闘気になり、自慢の髪の毛を失うきっかけとなったべジータに向けられた。
―――くそったれ!自分がハゲかけてるからって無理やり人の髪を切らせやがって!!
もう許さねぇ…オレの大事な髪の毛の恨みと、お前に昔殺された恨み、今日ここではらしてやるぜ!!
正確に言えばヤムチャを殺したのはべジータではなくサイバイマンなのだがヤムチャの記憶はとっくに改ざんされていた。
一方、べジータは突然人が変わったようなヤムチャの闘気に驚いていた。
―――なんだこいつ…こんな激しい気を隠し持ってやがったのか?
ここ一か月、べジータの視界のすみっこに映っていたヤムチャはいつも
頼りなくヘラヘラしているブルマの犬だった。今、目の前にいて
自分に殺気にも近い闘気を向けている人間とはまるで別人だ。
戦闘に関しては素人のブルマもヤムチャの異変に気付いていた。
「どうしたのヤムチャ…あんな真剣なヤムチャ、ヤムチャじゃないみたい…」
「お遊びはおしまいだ!覚悟しろべジータ!!とうっ!狼牙風風拳!!」
ナンパ成功率が落ちたらてめぇのせいだ!!!!そう心の中で絶叫しながら
ヤムチャはべジータに襲い掛かったのであった。(続く!)
(>>75より続き:べジータのせいで自慢の長髪を失ってしまったヤムチャ。
ナンパ成功率が落ちる!ヤムチャがキレる!べジータはボコられる!?)
「狼牙風風拳!ほあちゃー!!」
ファルセットで絶叫し、べジータに突進するヤムチャ。
あちょっ!わちゃっ!ほあああー!
派手な動きとかけ声で拳と蹴撃の嵐を見舞う。
それを紙一重でかわすべジータ。
二人が動く度にビュッと風を切る音が聞こえる。凄まじい勢いだ。
べジータの喉元を襲う突きをべジータはバックステップで避ける。
反撃しようと体勢を整えるべジータの後ろに回り込み、両手を組んで振りおろす。
右によけたべジータに向けてヤムチャの左足が弧を描くが、虚空を薙いだ。
まだ一発も当たってないにも関わらずヤムチャの勢いは失われるどころか増してゆく。
彼の猛攻は止まらない。ナンパ成功率低下の恨みは海より深かった。
ヤムチャがこれほどまでに相手を倒したいと思ったのはこれが初めてかもしれなかった。
「なかなかやるじゃねえか…だが避けてばかりじゃオレは倒せんぞ」
ヤムチャが挑発する。調子に乗って余計な事を言うのが彼の悪いところだ。
もちろん、単純なサイヤ人のべジータはプライドを刺激された。
なんでこのオレがサイバイマンの自爆で死んだヤツにコケにされねばならんのだ。
べジータは奥歯がギリ、と軋むほど強く噛みしめた。
出すつもりのなかった本気が沸々と沸き上がってくる。
べジータが床を蹴る。一瞬で間合いをつめ、左腕を伸ばしヤムチャの胸ぐらをつかむ。
ヤムチャが反応できる前に強烈なパンチを数発叩き込む。
苦しげによろめくヤムチャに間髪を入れず回し蹴りをお見舞いした。
耐えきれずヤムチャが倒れる。
「ヤムチャー!!」
ブルマが叫ぶ。こりゃ負けだ。てゆうか死んだんじゃ?ちょっとだけブルマは心配になった。
「ふん…雑魚が偉そうな口を…」
べジータは鼻で笑って床に崩れ落ちたヤムチャに背を向ける。その時だった。
「雑魚だと思って甘く見ると酷い目に遭うぜ?」
ガッシリと大きな手がべジータの肩を掴む。驚いたべジータが振り向く暇も与えず
ヤムチャの右腕が伸び、次の瞬間にはべジータがふっ飛んでいた。
咄嗟に受け身をとり、起き上がると目の前にはヤムチャが立っていた。
あれだけの攻撃を喰らったにも関わらず、あまり気が消耗していない。
ヤムチャの攻撃はあまりダメージはなかったが、予想してなかっただけにべジータは驚愕し、目を見開いた。
「ヘッ…一発、当てたぜ…」
ヤムチャが不敵に笑う。べジータは戦慄した。
このオレが?サイヤ人の王子であるこのオレが?べジータは自問した。
「……次は、2発当ててやる。」
「そして次は3発」
「お次は4発連続だ」
「そんでもって5発」
「次は当然6発な」
「そして6…あれ?6はもう言ったっけ?そう?じゃあ7発」
「その次は8」「やかましい!!!!」
べジータの裏拳もとい怒りの鉄拳が炸裂した。
しつこいわ、ボケ!ヤムチャはそんなべジータの心のツッコミを聞いた気がした。
ヘッ見事なツッコミだぜ、べジータ…親指を立てながらヤムチャは散った。(続く)
(>>270より続き)
べジータの怒りの鉄拳を喰らい気絶してしまったヤムチャはベッドに運ばれ、そのまま眠りこけていた。
「ホント、バカね…」
ヤムチャの寝顔を見つめながら、ブルマがベッドの端に腰掛ける。
―――あたしってホント、何でこんな奴と付き合ってんだろ。
今まで何度もよぎった考えがまた沸き上がる。
女にはだらしないし、そのせいでケンカばっかだし。
修行なんだとか言ってあたしをほっぽっておいて
どれだけ強くなったかと思ったら足元がお留守だし。
―――あーあ。ナメック星でも思ったけど、はずしたかなぁ…
その時だった。
「う、うーん…オレの髪の毛が…」
深い思考に浸っていたブルマはヤムチャの寝言で我に返った。
武道家ともあろうものが、修行の一環とはいえ、負けたばかりであるというのに呑気なものだった。
そんなヤムチャにブルマはクスリと笑う。
―――まあ、しょうがないわよね。コイツにはあたしがついてないと駄目なんだから。
自分でも貧乏くじだと思うが、結局こういう放っておけない男の面倒をみるのが性に合っているのだ。
ヤムチャのすっかり短くなってしまった髪の毛を軽く手で梳く。
気で焼き切ったため、自慢の髪だったのに毛先がすっかり痛んでしまった。
「後であたしがちゃんと切ってあげるからね」
ブルマは屈んで眠っているヤムチャの耳もとに囁いた。
そしてヤムチャが起きた時のために何か料理を用意しておこうときびすを返す。
「サンキュー…」
背後から聞こえたヤムチャの声に驚いてブルマは振り向く。
起きたのかと思いきや、またもやただの寝言だった。
ヤムチャったら…そう微笑みながら今度こそ部屋を出ようとしたその時。
「愛してるぜ、ローラ……うーんむにゃむにゃ…」
部屋の温度が氷点下に凍り付いた。
後日。何故か機嫌の悪いブルマに髪を切られたヤムチャはナメック星での悟飯と
同じ髪型にされてしまい、それが元でまたブルマとケンカしたという。
そして、重力室でヤムチャに苦汁を舐めさせられプライドが大層傷つけられたべジータだが、
彼はそのまま悟空が帰って来る日まで毎日(無理やり)ヤムチャと修行したが、
所詮相手はヤムチャだったため約一年を全く無駄な修行に費やすことになる。
そのため、フリーザ親子が来襲した際にまったく手が出せず、
得体の知れない青二才に出番を奪われる羽目になるのであった。
ただ、なんだかんだいってヤムチャと親しくなり、バーベキューまで
一緒にする仲になったべジータが教えてもらった大人の知識は近い将来
とても役に立つ事になるかもしれなくもなかった。
(ヤムチャさんシリーズ第一部・完)