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未来から来た男

74 名前:Classical名無しさん 投稿日:04/06/06 18:48 ID:eyKQ0nIE
西の都の隅の隅の更に隅っこにある古ぼけた老人ホームの一室。
一人の老人が輝く7つの玉を前に座り込んでいた。
「ついに・・・ついに7つ集まったんだ・・・長かった・・・」
老人の名はヤムチャ(84歳)。
光り輝くその玉とは対照的に、彼の目にはもはや輝きは無かった。

ここで今までのヤムチャの人生について少し振り返ってみよう。
地球存亡を賭けた長きに亘る戦いの後、ヤムチャも他の仲間達と同様に
新しい生活を始めていた。
ヒモ生活だ。
悟空、悟飯、ピッコロ、ベジータ・・・世界を救ったヒーロー・・・彼等
の名前を出せば落とせない女はいなかった。
いい加減ヒモ生活に限界を感じ始めた33の春、ヤムチャは西の都の小さな
酒場の用心棒になっていた。(と言うと聞こえは良いが、実際は酔っ払いの世話だ)
プーアルが愛想つかして出て行ったしまった36の夏、ヤムチャは西の都の
更に西にある砂漠で盗賊をして暮らしていた。
観光客や商人から小銭を巻き上げる日々・・・。どん底だった。

40を迎えた秋、ヤムチャは遂に気付いたのだった。
「そうだ!ドラゴンボールがあるじゃないか!神龍に大金持ちにして貰えば
いいんだ!」と。



75 名前:未来から来た男 投稿日:04/06/06 18:49 ID:eyKQ0nIE
悟空のバカが雑誌の取材で「ん?オラ、ドラゴンボールで神龍に仲間達を生き返らせて
貰ったんだ。ドラゴンボールは願いを何でも叶えてくれる玉なんだ。」
と軽々しく口にして以来、世界中にドラゴンボールハンター達が溢れた。
彼等との騙し騙されの醜い争いの後・・・ようやく全てのドラゴンボールを集めた時
彼は84歳の老人になっていた。

話は戻って老人ホームの一室。
「・・・長すぎた・・・長すぎたんだ・・・。
大金持ちにしてもらう?こんな老人が大金持ちになってどうするんだ?
関節炎で体の節々が痛み、1日24時間小刻みな震えが止まらないこんな老人が・・・。
電動車椅子でも買えって言うのか?豪邸に住んでメイドにシモの世話までして
貰えって言うのか?冗談じゃないよ・・・。」
ヤムチャは気付いていた。自分の『気』が日に日に弱くなっている事に。
そして それが何を意味するか という事に。
「昔に・・・昔に戻りたい・・・。あの頃に戻りたい・・・。」
長い沈黙の後、ヤムチャは歓喜の声をあげた。
「そうだ!!!!!神龍にあの頃に戻して貰えばいいんだ!!!!」



81 名前:未来から来た男 投稿日:04/06/07 03:32 ID:eyKQ0nIE
問題は、戻してもらうべき『あの頃』をいつに設定するか?という事だった。
「わしが一番輝いていた時代・・・いつ頃だったか・・・」
ヤムチャは数十年に亘る己の記憶の糸を辿っていた。
「・・・無い気がする・・・。輝いていた瞬間・・・。」
「まてまてまて!そんなわけない!思い出すんだ!」

その時、彼の脳裏にあの光景が浮かんだ。
『第23回天下一武道会』だ。

『足元がお留守になってますよ。』忘れもしないあの一言・・・あの敗戦・・・。
「あれが全ての原因だ・・・。サイバイマンの自爆で命を失った事も、人造人間・
セル・ブウに半殺しにされた事も・・・あれが全ての発端じゃないか!
思い出してみれば、わし最強の技・・・そう・・・操・・・名前は忘れてしまった
が、あの最強の技を初めて使ったのもあの一戦だった・・・。
やはりあの一戦が、わしの人生のターニングポイントだったのかもしれん。」

ヤムチャは膝をガタピシいわせながら立ち上がり、叫んだ。
「よし・・・あの瞬間に戻してもらおう!
いや、第23回天下一武道会の一年前に戻してもらおう!
そして修行をする!相手がどんな攻撃をしてくるかはもうわかってるんだ!」



82 名前:未来から来た男 投稿日:04/06/07 03:34 ID:eyKQ0nIE
数日後、ヤムチャは西の砂漠の果てにいた。
この老体に砂漠の気候は辛かったが、万全を期す為だ。
人の目につく場所だと、どんな邪魔が入るかわからない。
名前は忘れたが、あの小さいブタ少年の様に他の人間が勝手に願いを
言ってしまうかもしれない。

ヤムチャは震えていた。
年齢からくるそれでは無く、興奮と期待・・・様々な甘酸っぱい想いが心の中を
渦巻き、震えていた。
「い・・・いでよ!神龍!そ、そして、そしてわしの願いを叶えてくれ!」

急にあたりの空気が澱み、雷雲が立ち込める・・・。
「さあ、願いを言え・・・どんな願いでも一つだけ叶えてやろう。」
「あ、あの頃に戻してくれ!」
「あの頃だと?」
「第23回天下一武道会のちょうど一年前に戻してくれ!わしだけを!」
「お前をその時代に飛ばせばいいのだな?」
「バ、バッカモーン!こんなジーサンで戻ってもしょうがないだろうが!
俺の今の記憶だけを戻してくれ!あの頃の俺に、今のわしの記憶を植え付けるんだ!
そんな事もわからんのか!」
「・・・容易い願いだ・・・叶えてやろう・・・」
「おお・・・」
ヤムチャを虹色の空間が包み込む・・・。
次の瞬間、目の前には懐かしい風景が広がっていた。



85 名前:未来から来た男 投稿日:04/06/07 17:14 ID:eyKQ0nIE
いつからだったろう・・・皆との戦闘力に差がつき始めたのは・・・。
昔の俺は強かった。あの悟空と引き分けた事もある。
過去の栄光と人は笑うかもしれない。それでも構わない。
俺はあの時、確かに強かったんだ。
それなのに、いつの間にか皆から一人引き離されていた。
『何故?どうして俺はこんなに弱い?』
繰り返し繰り返し自問自答する日々・・・。
『俺だって修行をした。そりゃ、悟空と同じ位とまではいかなくても
クリリンや他の仲間達と違わないほどの修行はしてきたじゃないか。』

いつからだったろう・・・生温い諦めに似た感情・・・。
『俺はあいつ等とは違うから・・・。』
『俺は普通の人間、あいつ等は宇宙人だし・・・。』
『修行なんてしても無駄かもしれない。持って生まれた才能・血が
違うんだから・・・。』
そう、俺は単に逃げていただけなんだ。
才能?戦闘民族の血筋?持って生まれた能力?そんなもの関係ない!
それならば、何も持たない俺は奴等以上に努力すればいいじゃないか!

「どうして俺はいつもこうなんだ・・・。どうして全て終わってから
じゃないと大切なモノに気付けないんだ・・・。」
「もし・・・もし人生をやり直せたら・・・。そしたら俺はきっと・・・。」
目の前に広がる懐かしい風景を前に、ヤムチャはようやく長きに渡る暗い
トンネルから抜け出そうとしていた。