486 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:31 ID:LxGryNvl 1 プーアル 昔々の物語として始まった「ドラゴンボール」は、長い年月を経て現代に帰ってきた。 その中での数々の戦いと戦士たちの勇姿は、知っている者は少ないにせよ、語り継がれて行くはずである。 だがここに一人、数々の戦いの中で一度も勇姿を見せられなかった男が居た。 かの美形の天才ヒーロー、ヤムチャである。 故郷の砂漠で静かに暮らしているヤムチャは、 最近カプセルコーポレーションで開発された文明の利器、インターネットに興じていた。 世界の各地にあるコンピューター同士を電話線でつなぐと言う、まさに革命的なシステムである。 「ふう。なんとかYamoo!(ヤムー!)にたどり着いたようだな。 どれどれ、オレの名前で検索をかけて見るか……」 ヤムチャは右手の人差し指のみを使って「ヤムチャ」と打ち込んだ。 人差し指のみでもそこは地球人トップクラスの格闘家、キーボードを打つ早さは超人レベルである。 「なになに、"天下一武道会板@2ch"? 天下一武道会についての掲示板みたいだな。 今の軟弱な武道会と違って、オレが居たころは激戦の連続だったからな。 オレの名前が残っているのも当然か。どれどれ……」 487 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:32 ID:LxGryNvl 第21,22,23回天下一武道会を語るスレ 1 :◆/sunglass/ :783/04/05 13:00 ID:sikaisha 天下一武道会の歴史の中でも一番レベルが高かった 21,22,23回大会をそれぞれ語るスレッドです。 覚えてる人居るかな? 861 :戦闘力774 :784/04/05 12:34 ID:8shUken/ なあなあ、確かちょうどこの大会ごろだったと思うんだが、 ヤムチャって選手が居なかったっけ? あいつどうよ? 862 :戦闘力774 :784/04/05 12:36 ID:/OoLong/ >861 一年近く続いてきたこのスレで今まで一度も名前が出なかった時点で(ry 863 :戦闘力774 :784/04/05 12:40 ID:/aKKuman そう言えばこのスレちょうど一周年か。 誕生日おめ! 864 :戦闘力774 :784/04/05 12:45 ID:bActeriA >861 そういえばいたなあそんな奴。 なんかジャッキーたんにさわることもできずにやられた記憶がある。 865 :戦闘力774 :784/04/05 12:48 ID:PuerTea/ プッ なんだそのヘタレは ランファンだってもうちょっと頑張れるんじゃねえの? 866 :ジャッキーファン:784/04/05 13:00 ID:maN/wolF まあジャッキーたんが相手じゃしょうがないよ。 スレ一周年おめ! 867 :◆/sunglass/ :784/04/05 13:05 ID:Pro///nE 一周年キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! 488 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:32 ID:LxGryNvl 「ヤムチャさん、お茶入りましたよ。……ヤムチャさん?」 プーアルが肩を叩くまで、ヤムチャはわなわなと震え続けていた。 自分は、この程度の人間だったか? 少なくとも今は、あの世界の頂点にいたピッコロ大魔王やレッドリボン軍を簡単に倒せるだけの実力がある。 世が世なら、世界を取れるだけの実力が。 それなのに世間では、一年もの間一度も名前を触れられず、 やっと触れられても「プッ」という反応しかない。 実力と評価が、あまりにかけ離れている。かけ離れすぎている。 過ちは、正さねばならない。 ヤムチャはゆらりと立ち上がった。 そのまま夢遊病者のような足取りでドアへと向かう。 プーアルにぶつかってお茶がこぼれた。 ヤムチャは、それでやっとプーアルに気付いたかのような調子で振り向き、そして言った。 「見ていろプーアル。オレは頂点を取ってみせる。この世の頂点を、極めてみせる」 そして今度はしっかりとした足取りで歩いていった。二度と振り返りはしなかった。 現在のヤムチャ 戦闘力:10000(界王拳3倍で30000) 489 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:33 ID:LxGryNvl 2 亀仙人 それから一ヶ月ほどたったある日、 カメハウスで18号のタンスを物色していた亀仙人は、家に誰かが入ってくる気配を捉えた。 こんな海の上だが、泥棒だろうか。しかしそれにしては気配がまがまがしいように思える。 亀仙人はもしもの時のために、気を練りながら玄関へ向かった。 「やあやあ、誰かの〜? ピチピチギャルならいつでも歓迎じゃぞ」 ヤムチャがいた。亀仙人を見て小さく会釈する。 「おお、ヤムチャか! 懐かしいの〜。師匠を慕って会いに来たか?」 亀仙人は明るく声を掛けた。しかし気を練ることはやめずにいた。 目の前にいる男が、かつての弟子とは何かが違っているように思えたからだ。 「武天老師様。ここにドラゴンボールって、……ありましたよね?」 「あ、ああいかにも持っておるが、集めているのか? 願い事が余ったらわしにギャルを……」 「最後の二つ、二神球と六神球があるはずだ。どこにあります?」 ヤムチャは亀仙人の言葉が終わらないうちに聞いた。 亀仙人は眉をひそめて、 「どんな願いに使うか教えてくれんと、渡すわけにはいかんな」 と言った。 ヤムチャは笑顔のまま、質問に答えた。 「いやー、ちょっと若さを手に入れようと思いましてね。天下を取れるだけの体力が欲しい。 ……もう一個の願いももう決めているんで、ギャルはあきらめちゃってください」 490 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:34 ID:LxGryNvl 亀仙人は自分の洞察が正しいことを確信した。このヤムチャは、かつてのヤムチャとは違う。 窓の外をうかがった。クリリン一家は揃って買い物に出かけている。 帰ってくるまで20分はかかるだろう。それまで話を伸ばせるだろうか。 「……何故、今になって天下を取ろうとする?」 「オレが当然受けられるだけの名誉を受けていないことに気付いたからです。 今から、これまでの人生の分まで取り返す」 「ヤムチャよ。おぬしはわしがジャッキー・チュンとして天下一武道会に出場していたことに、薄々感づいていたな」 亀仙人は話題を変えた。あと17分ほど、このまま話を持たさなければならない。 「その名前には嫌な思い出しかありませんよ……。で?」 「何故そんなことをしたかというと、わしは自分の弟子達が名誉だとか名声だとか言ったくだらないものに、 ……もう一度言おうかの。 そういう"くだらないもの"にとらわれて精神の鍛錬をおろそかにするのではないかと案じたためじゃった。 最も22回大会で、わしはわしの弟子にはその点での心配は要らないと気付き、大会を早々と降りたのじゃが……。 どうやら見込み違いがあったようじゃ」 「オレのことっスか」 「そうじゃ。残念ながらの」 「どうやらオレのやろうとしていることに反対のようですね。仕方ない……。腕ずくでやらせてもらいますよ」 ヤムチャは気を開放した。しかし彼が攻撃するより先に、亀仙人は最大にまで高めた気をいっきに放出していた。 気功波はヤムチャを捉え、包み込み、完全に拘束した。 「萬國驚天掌じゃ……。もはや動けまい。 苦しいだろうが、このままクリリン達が戻ってくるまで待ってもらおう。 そうしたら、……もう一度修行のやり直しじゃ」 ヤムチャは光線に包まれながらも笑い出した。 その笑いはだはははは、とかあはははは、といった、かつてのヤムチャの笑いとは違っていた。 亀仙人はぞっとした。 「苦しい? 武天老師様、あなたもオレを過小評価しているようですね。 確かにオレは動けない。動けないが、この程度――」 ヤムチャは深く息を吸い込み、「はっ」という声とともに爆風のような勢いで吐き出した。 その風圧は亀仙人を吹き飛ばし、壁にしたたかにたたきつけた。衝撃で窓が割れた。 491 :急襲のヤムチャ :03/03/24 19:35 ID:LxGryNvl 「さわやかな風をプレゼントしてあげました」 萬國驚天掌の呪縛から逃れ、ヤムチャはおどけていった。 「ドラゴンボール、勝手に捜させてもらいますよ」 「ね、捻じ曲がったか。……ヤムチャ」 「武天老師様だって考えたことがあるはず」 ヤムチャはそういうと、少し考えてつけたした。 「……いや、あなたは考える必要がなかったんですね。あなたは頂点にいた。 悟空や悟飯とは比べものにならないほど長い間」 「ああ、だから言おう……。天下など、虚しい」 「オレは虚しさすら味わえていない」 ヤムチャは二つのドラゴンボールを見つけ出し、窓から飛び立った。やがて空が暗くなった。 5分後、はいずるようにしてカメハウスから出た亀仙人は、より強力な気に身を包んだヤムチャに出会った。 「ヤムチャよ」 亀仙人は時間を計算した。あと2,3分で、クリリンたちが帰ってくるはずだ。 空が暗くなったのに気付いて、急いでくれるかもしれない。 「考え直すことは出来んのか?」 「もう後戻りは出来ません」 ヤムチャはそういうと、亀仙人の顔を右手で掴んだ。その手のひらの感触に、亀仙人は奇妙な違和感を覚えた。 しかしその違和感も、続いて感じた急激な脱力感に押し流され、亀仙人はやがて力尽きた。 手を離したヤムチャは、スカイカーのエンジン音に気付いた。 「クリリンたちか。今のオレならクリリンは何とかなるかもしれない。 が、18号はダメだ。ここは引くべきだな……」 傍らの亀仙人に目をやった。 「武天老師様、あなたは証人になってください。オレはもうすぐ天下を取ります。あなたとプーアルがそれを見届ける」 ヤムチャは気配を抑えたまま飛び立った。 現在のヤムチャ 戦闘力:35139(界王拳3倍で105417) 523 :急襲のヤムチャ :03/03/25 15:36 ID:uEltMQEQ 3 パンプット 「……って、言うわけなんスよ。まさかオレもヤムチャさんがそんなことするなんて信じられないけど」 クリリンは説明を終え、カメハウスに集まった面々を見回した。 孫悟空、悟飯、悟天、パン、ベジータ、ブルマ、トランクス、ピッコロ、デンデ、 天津飯、チャオズ、サタン、ブウ、ビーデル、ウーブ、18号、ランチ、プーアル、ウーロン、カメ。 今生きている最強クラスの戦士はほとんどここにいる。そしてほとんどがヤムチャより強い。 それなのにクリリンは、頼もしさとともに違和感を感じた。 ヤムチャがいないからだ。こういう緊急事態にみんなで集まる時は、いつもヤムチャも一緒にいた。 今度はそれは無い。ヤムチャ自身が敵だからだ。 「あの、馬鹿が……」 天津飯がつぶやいた。 「確認せんでも馬鹿だ」 ベジータが言う。 「それで、ミスターサタンとブルマさんには、」 クリリンはベジータを無視して言った。 「警察とかからヤムチャさんについての情報を流してもらって欲しいんです。ただし手は出さないように。 ヤムチャさんを発見したらすぐオレらに伝わるようにして欲しいんスけど」 「ああ、そんなことなら任せてくれ。よかったぁ。私も戦うことになるんじゃないかと心配していたんだ」 サタンが胸をなでおろした。 「私もそれなら簡単にできるわ。でもあんたたち、ちゃんと連絡がつくところにいなさいよ。 特に孫君と天津飯さん」 ブルマが二人をにらみつける。 524 :急襲のヤムチャ :03/03/25 15:36 ID:uEltMQEQ 「ああ。とりあえずオラとウーブは天界で修行することにすらぁ」 「オレとチャオズは、精神と時の部屋を使わせてもらおうか……。使えるか?」 天津飯が聞いた。 「ええ。一度壊れましたが、ポポさんが直してくれました」 デンデが答える。 「あんたら、本当にトレーニングのことしか頭に無いのね……」 「しかし今回は無駄になる……。 ブルマ、ヤムチャの情報が入ったらすぐにこのオレに知らせろ。 一瞬で消してやる……。瞬きするほどの一瞬でな」 ベジータが口を挟んだ。 「しかしヤムチャの奴、無謀な真似をしやがる」 ピッコロが言った。 「ベジータの言うように、あいつの実力ではオレたちには到底かなわん。 殺してくれといってるようなものだ」 「そうとは限らんかもしれんぞ」 聞きなれた声がした。見ると亀仙人がいつものアロハシャツ姿で立っている。 ただ、甲羅を背負っていない分、体調は優れないのかもしれない。 「仙人様、まだ寝ていた方が……」 カメが心配そうに言った。 「話が終わったらすぐに寝よう。今回もわしの力は役に立たないようじゃからな……」 亀仙人はそういうと、ピッコロのほうに向き直った。 「おぬし確か、人造人間と戦って気を吸い取られた経験があったな」 「あ、ああ……」 「そのときの感覚はこうじゃなかったか? "不思議な突起のついた手のひらで顔をつかまれた瞬間、急激に力が抜け、気が遠くなった"」 「ヤムチャさんがゲロに気を吸われた時と同じだ!」 クリリンが声を上げた。 「武天老師様。まさか……、それって」 「わしの勘違いでなければ、ヤムチャの奴に触れられたときにもその感覚があった。 あやつが使った、ドラゴンボールの二つめの願い、それは――」 525 :急襲のヤムチャ :03/03/25 15:37 ID:uEltMQEQ その時、ずっと音楽を流していたテレビの画面が急に切り替わった。 そして緊張した面持ちのアナウンサーが、突然の出番に準備が足りなかったのだろう、 チラチラ原稿を見ながら、一文字ずつ確かめるようにハッキリした発音でニュースを伝え始めた。 「緊急ニュースです。ただいま入った情報によりますと西の都在住のパンプットさんが、 栄養失調によって亡くなっているのが先ほど発見されたとのことです。 警察では事件性ありとして調査を始めています。パンプットさんは格闘家として名高く――」 「なんじゃと!」 「これって、まさか……」 その場の全員がテレビに注目した。 「栄養失調といっても、パンプットさんは前日まで健康であったことが確認されており、 前日までの姿に比べ発見された遺体は明らかにやせ細っていることなどが、 警察に他殺の判定を下させたようです。 現場からのコメントによりますと、まるであのセルに吸収されたかのようだと……、 あ、はい、新しい情報が入りました。警察が他殺と判断したもうひとつの要因として、 現場に「樂」と記された紙が残されていたことが今発表されたとのことです。 これはあのピッコロ大魔王を思わせる――」 「奴だ」 ピッコロが言った。 「殺害方法はセル、現場の紙はオレの父……、オリジナリティに欠けた野郎だぜ」 「でも、これで……」 悟飯が口を開いた。 「ヤムチャさんが吸収能力を持っていることが証明されましたね。ああやって力を上げて行くつもりなんだ。 少しずつ、お父さんやベジータさんに近づいて行くつもりなんですよ。 相手が強ければ強いほど、勝利した時のパワーアップも大きい」 「奴があの人造人間どもの吸収能力を持っているなら、エネルギー波は通じない……、 自分よりある程度強い相手にも勝てるだろう」 ベジータが吐き捨てるように言った。 「てめえらオレの足を引っ張るんじゃないぜ」 「父さんが一番足を引っ張りそうな気がしますけどね。めんどくさいからあたり一体を吹っ飛ばす、とか言って」 トランクスが真面目腐った顔で言い、ベジータに「小遣い抜き」を宣告された。 現在のヤムチャ 戦闘力:35174(界王拳3倍で105522) 562 :急襲のヤムチャ :03/03/26 17:42 ID:G29rvFVf 4 ウパ 「本当に懐かしいですね。昔カリン塔に登られたとき以来でしょうか」 ウパが、突然聖地を訪れたヤムチャに言った。 「本当だ。いやあ、お前も大きくなったな」 ヤムチャが答える。 「ヤムチャさんは変わらないですね。ほとんどあのころのままだ。やっぱり身体を鍛えてるからですかね」 「いや、鍛えてることとは関係ないさ」 ヤムチャが答えて、少し笑った。実際のところ、彼の肉体年齢はウパよりも若い。 「じゃあ、もともと年を取らない体質なんですかね。父上が聞いたら羨ましがりますよ。 もう最近じゃ年のせいで、薪を割るのも息が切れるって嘆いてましたから」 ウパは、少し寂しそうに笑った。 「じゃあ今はウパの方が、ボラさんより強いのか?」 「ええ、まあ。お話の続きは家のほうでしませんか? 父上も――」 「そうか、お前はボラより強いのか……」 ヤムチャの手がウパの顔を掴んだ。ウパが驚き抵抗するが、力は緩まない。 斧で斬りつけると、斧の方が粉々に砕けた。 「天下を取るのも、出来るだけ犠牲は最小限に済ませたいからな。お前の家族には手を出さないで置こう。 ……悪いな、ウパ。」 ウパの抵抗が止んだ。 現在のヤムチャ 戦闘力:35274(界王拳3倍で105822) 563 :急襲のヤムチャ :03/03/26 17:43 ID:G29rvFVf 5 デンデ 「あ、あああ……!」 地上を千里眼で見回していたデンデが、悲痛な声を上げた。 「どうしました、神様」 ポポが心配そうに尋ねる。悟空たち、天界に集まっていた戦士も側に駆け寄ってきた。 「ヤムチャさんが、今聖地カリンに居ます。 ウパが……、代々カリンを守ってきてくれたものですが、ウパが今、襲われています」 「ウパが! おい、デンデ! どこだ? ヤムチャはカリンのどこにいる?」 悟空が驚いて声を声を上げた。 「塔から見て……」 デンデが身を乗り出す。 「北へ1キロほど進んだ地点です。近くに……、小川が流れています。 ああ……。今、ウパの命が尽きました」 デンデががっくりと肩を落とし、その身体をポポが支えた。 代わりにピッコロが宮殿の端に立ち、デンデの示した方角を見据える。 しかし千里眼を使う暇もなく、すぐに振り向いて叫んだ。 「デンデ! そこを離れろ!」 「え?」 小さな気の弾――操気弾が一直線にデンデを目指し飛来してきていた。 564 :急襲のヤムチャ :03/03/26 17:43 ID:G29rvFVf デンデは気付かない。肩を落とし、姿勢を低くしているから死角に入っている。 ポポが素早くデンデを突き飛ばし、操気弾の前に立ちはだかりデンデを庇うように身構えた。 しかし操気弾はポポの前で急激に角度を変えて上昇し、上空からデンデの頭上に降りかかる。 弾かれたように飛び出した悟空がデンデを脇に抱えるのと、操気弾がデンデの身体を直撃するのはほぼ同時だった。 そしてデンデは、自らの身を回復する暇もなく力尽きた。 「しまったぁ!」 ピッコロが叫び、再び下界に視点を移して千里眼を使ってヤムチャを捜した。 同時に天津飯らもヤムチャの気を探ったが、ヤムチャはどちらの捜査にも掛からなかった。 「デンデがやられた……。ドラゴンボールはもう使えない。 ウパやパンプットを生き返らしてやることは、もう出来ねぇ」 悟空が悔しそうに言った。 「ナメック星のドラゴンボールを借りるというのは?」 「そいつはダメなんだ天津飯……。ナメック星の位置がわからねぇ。 瞬間移動で行くしかないんだが、地球からはナメック星人の気を感じられねぇ。 界王星から瞬間移動すれば大丈夫だが、界王星は、……セルにぶっ壊されちまった」 沈黙が降りた。 「神様……」 ポポがつぶやいた。彼は泣いていた。 565 :急襲のヤムチャ :03/03/26 17:44 ID:G29rvFVf どうやら上手く探知をかわしたようだ。ヤムチャは小さく溜息をつき、ニヤリと笑った。 聖地カリンの人間を殺せば、ピッコロかデンデの目にとまることは分かっていた。 その時彼らはヤムチャの現在地に一番近い、宮殿の北の端に立つ。これである程度狙うべき位置が分かる。 細かい微調整は気の探知ですればいい。 「あいつらもすっかり平和ボケしたようだな。気配を消し忘れていたからデンデを狙い撃ちするのも楽勝だったし、 オレがすぐそばを通り過ぎたことにも気付かなかったんだからな」 ヤムチャは天界の宮殿を"見下ろしながら"言った。 そう、上手くデンデを倒してもまだピッコロがいる。彼の千里眼で見つけられてしまっては意味がない。 そこでヤムチャは一か八か、操気弾を撃つと同時に上空へ飛び上がったのだった。 千里眼は神やカリンが下界を見るのに使う技。自分より上に敵が居るのには気付けない。 とはいえ悟空とピッコロが居る宮殿の側を通り過ぎるのはかなりの賭けだったが、上手くやり遂げた。 どうやらツキはこちらにあるらしい。 ヤムチャはもう一度ニヤリと笑うと、気配を消したまま慎重に飛び去っていった。 現在のヤムチャ 戦闘力:35274(界王拳3倍で105822) 588 :急襲のヤムチャ :03/03/26 23:12 ID:G29rvFVf 6 ナム 「ナムさん、どちらへ行かれるのですか?」 顔見知りの村人に声をかけられ、ナムは立ち止まった。 村人は荷物を積んだ大型のスカイカーの運転席から、人のよさそうな顔をのぞかせている。 「水を汲みに行くのですよ」 ナムは静かに答えた。 「ああ、確かにそろそろそんな季節ですな。しかし村長であるナムさん自らが出かけなくても……」 「いやいや、私が頼んでやらせてもらっているのですよ。 時々都会へ行くのは、私の楽しみなのです。村の子らにもお土産を買ってやれますしね」 「ほほう」 村人は感心したように顎を撫でた。 「しかし、道中は山賊などがいて大変でしょう。向こうの町までスカイカーで送りましょうか?」 「いや、それには及びません。私はこれでも、山賊などには負けないつもりですし」 そう言ったナムの視界の端に、黒い影が映った。 影は道端の小さな茂みに入り込み、鋭い殺気を放ちながら、同時に不気味に沈黙している。 ナムの眉間に皺が寄った。 「ははあ。ナムさんはあの天下一武道会に出場されたんでしたな。 しかし山賊は平気だとしても、砂漠を越えるには砂嵐などもあります。やはり向こうの町まででも」 「いや、構いません。それより町に行く用事があるのなら、私に構わずどうぞお先に」 「しかし――」 「早く!」 ナムの口調が強くなったのを訝りながら、村人はスカイカーを走らせて行った。 残されたナムは、緊張した面持ちで茂みを見つめていた。 確かに山賊程度ならどうにでもなる。 しかし自分よりはるかに強い敵を相手に、自分の力はどこまで通用するだろうか。 あの天下一武道会以来、強敵と言える相手とは戦ったことは無い。勘が鈍ってはいないだろうか。 茂みが大きく揺れた。 ナムは弾かれたように空高く飛び上がり、腕をクロスさせて急降下した。 現在のヤムチャ 戦闘力:35344(界王拳3倍で106032) 11 :急襲のヤムチャ(1/5) :03/03/28 23:05 ID:BP7lF/vv 7 天津飯 ヤムチャの動きはまったく警察の網にかからず、 ブルマとサタンのもとに情報が寄せられることはなかった。 パンプットを殺害したのがヤムチャであることを伝えれば警察も本腰を入れて捜査してくれるかもしれないが、 その代わりに逮捕しようとした警官に犠牲者が出る危険がある。 しかたなく悟空たちは、 警察からの連絡も期待しながら自分たちも下界でヤムチャを捜す二重の作戦を取ることにした。 戦力が散らばることは危険でもあったが、 まだヤムチャの力が弱いうちに手を打たなければさらに危険が増す。 このような理由で天津飯は、チャオズとともに砂漠の町を訪れた。 しかしここでも、ヤムチャの情報はまったく得られなかった。よほど用心深く行動しているらしい。 天津飯は町での捜査をチャオズに任せ、自分は砂漠を越えた先にある村に向かった。 砂漠を半分ほど渡ったころ、調子の悪かったカーラジオが突然音を出し始めた。 何かの角度の関係か、ちょうど上手く電波を受信したらしい。 「……やはり現場には「樂」の字が残されていて――」 天津飯は耳をそばだてた。しかしラジオはそれだけ言うと再び雑音混じりになってしまった。 天津飯は急ブレーキをかけ、ゆっくりとさっきの位置まで後退した。 再び電波の入りがよくなり、ラジオは不明瞭な音でニュースを伝えはじめた。 「……ナムさんの死因もやはり栄養失調であり、 直前まで元気だったこともパンプットさんの時と共通しています。 警察では同一犯と見て調査を開始しています」 天津飯の3つの目が見開かれた。間違いなく、ヤムチャが再び牙を剥いたのだ。 12 :急襲のヤムチャ(2/5) :03/03/28 23:05 ID:BP7lF/vv ニュースは淡々と続けられる。 「ナムさんは砂漠の村の村長として、長らく村人の信頼を集めていたとのことです。 なお、ナムさんは若いころにあの天下一武道会への出場経験があり、これはパンプットさんと共通――」 天下一武道会の出場者。 最近でなく若いころとあったのだから、ヤムチャが知っていてもおかしくは無い。 そう言えばピッコロ大魔王の事件の中で聞いた名前のような気もする。 ヤムチャと同時期に天下一武道会に出場し、見知っていたのだろう。 ……だから狙われた。 しかしそれよりも重大なことをアナウンサーは述べている。 "砂漠の村"。 自分が今いるこの砂漠を、越えてすぐの村でヤムチャが事件を起こした。 村のさらに向こうは乾燥した高い山と海しかない。空を飛べるにしても行く意味のない場所だ。 対して村のこちら側には、食料も泊まるところも充分な町がある。 つまりヤムチャは村のこちら側――この砂漠に、いる。 天津飯は3つの目を凝らしてあたりを見回した。前方にはいない。 気付かずに追い越したのかと思って後方も見てみたが、やはり見当たらない。 この砂漠では人間を見落とすことはないはずだ。もうすでにここを離れたのだろうか。 天津飯はそう考え、何気なく空を見上げた。 と、同時に、車のフロントガラスを突き破って外に飛び出した。 一瞬の後、空から落下してきた何かによって、車は粉々に砕け散っていた。 間一髪で攻撃を避けられたのだ。 巻き起こる砂埃から3つの目を守りながら天津飯が見たものは、 かつての仲間、ヤムチャだった。 14 :急襲のヤムチャ(3/5) :03/03/28 23:06 ID:BP7lF/vv 「よう、天津飯」 ヤムチャは普段と変わらない調子で天津飯に声を掛けた。 「よく空からの攻撃に気付いたな。さすがだぜ」 「偶然だ。偶然空を見上げていなければ、やられていた……」 天津飯は着ていた外套を脱ぎ捨て、戦闘態勢をとった。 「腕を上げたな。マトモじゃない方法でだが……」 「ああ。お前を倒してさらに腕を上げるつもりだ」 ヤムチャは悪びれる様子もなく言った。 「残念だがそいつは無理だ。 お前のパワーアップを見こんでも、まだオレの方がはるかに強い。試してみるか?」 「そうしよう」 ヤムチャは素早く天津飯に踊りかかっていった。 「新狼牙風風拳!」 「その技は天下一武道会の時に見切っているぜ!」 ヤムチャの手刀を、天津飯は余裕を持って受け止めた。 ヤムチャは素早く腕を引っ込め、「オウ」という掛け声とともに両手を突き出す。 天津飯は腕を十字に構えこれを受け止めたが、衝撃で僅かに後ろに飛ばされた。 ヤムチャはその隙を逃さず、かめはめ波で追い討ちをかける。 しかし天津飯は後ろに吹っ飛びながらも印を切り、気合でかめはめ波をかき消した。 ふたりは着地して、一旦構えを取り直した。 「すべて防御して見せるのはさすがだが、オレよりはるかに強いとまでは行かなかったようだな。 むしろオレがやや優勢なようだ。お前はかめはめ波を完全に跳ね返すことは出来なかった。 ……そうそう、この吸収装置は意外と不便でな。自分の気は吸収できないんだ」 ヤムチャの言葉に、天津飯は不敵に笑った。 「そう、ほとんど差はなかった。今はな。 "界王拳を使わなかったオレ"と、"界王拳3倍のお前"が互角だった。 オレの方がはるかに強いといった、これが理由だ」 天津飯の身体を赤いオーラが包んだ。 15 :急襲のヤムチャ(4/5) :03/03/28 23:07 ID:BP7lF/vv ヤムチャが防御体勢を取るより早く、天津飯の膝蹴りがみぞおちに決まっていた。 天津飯は反撃の間を与えず、ヤムチャを空中に蹴り飛ばし、素早くそれに追いつくと地面に強烈に叩きつけた。 「見たか。これがオレの実力だ」 天津飯は腕組み出来るだけの余裕を取り戻していた。 「今のは界王拳2倍だが、オレは界王拳を、お前と同じ3倍まで極めている。 界王拳を使わずにいてもお前といい勝負が出来るのに、オレは3倍まで強くなれる。 ……降伏しろ、ヤムチャ」 「まだだな」 ヤムチャがゆっくりと起き上がり、ペッと血ヘドを吐き出した。 「まだ勝てる」 「勝てる? どうやってだ」 「戦闘で重要なのはパワーやスピードだけじゃない。……オレはお前に技で勝てる」 「技だと? 気功砲や四妖拳に、操気弾や狼牙風風拳で勝てるとでもいうのか?」 「そう。オレがいまいち活躍できなかったのは、やっぱり技がしょぼいってのもあるんだよな。 だからオレは対策をとった」 ヤムチャが構えを取った。 「対策?」 天津飯も腕組みを解いて身構える。 「さっきオレは上空からお前を攻撃した。あんな攻撃パターン、お前は初めて見たんじゃないか? あの攻撃には名前がある。……天空X字拳ってんだ」 「天空X字拳? それがお前の新技か?」 「ああ。かつてナムってやつが得意としてた技だ」 「ナム、が?」 天津飯はさらに身体を緊張させた。 「まさか、お前――」 16 :急襲のヤムチャ(5/5) :03/03/28 23:07 ID:BP7lF/vv 「オレが吸収できるのは、戦闘力だけじゃない」 ヤムチャは両手を突き出した。 「萬國驚天掌!」 ヤムチャの手から飛び出した光線は、天津飯の身体を包み込み、完全に封じ込めた。 「か、身体が、……動かん」 「どうだ? お前の動きと技は封じられている。界王拳も使えないだろ。 そして界王拳が使えなきゃ、お前はオレより少し弱いわけだ」 ヤムチャは腕に力を込めた。天津飯の身体に激痛が走る。 「お、お前は……、相手の戦闘力だけじゃなく、わ、技も……」 「ああ、オレは手のひらに触れた相手の力と技を吸収できる。この萬國驚天掌は武天老師様の技だ」 天津飯は痛みに苦しみながらも考えた。 ヤムチャが吸収した相手の技を使えるというのなら、自分が吸収されることは非常にまずい。 あのセルの動きでさえ止められる上に連射も出来る大技、新気功砲を覚えられてしまう。 そして太陽拳は、追われる身であるヤムチャにとって非常に便利な技だ。 渡すわけには、いかない。 天津飯はどうにか逃げようとして、金縛りの中でもがいた。 しかし界王拳が使えない今は、どうやっても萬國驚天掌を抜けられそうに無かった。 力が抜けて行く。 (チャオズ!) 天津飯は最後の力でテレパシーを飛ばした。砂漠を越えて、チャオズに届くように。 (これからお前に、オレが手に入れたヤムチャの全情報を伝える! お前はすぐに逃げて、情報を悟空たちに伝えるんだ。 いいか、すぐにそこから離れろ! 決してこいつと戦うな!) 数分後、最後の情報を伝え終わった瞬間、天津飯の身体から力が抜けた。 ヤムチャは天津飯に近寄り、手のひらを彼の頭に当てた。 現在のヤムチャ 戦闘力:135344(界王拳3倍で406032) 36 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/03/29 18:34 ID:Wx+k4F0R 8 鶴仙人 天津飯がやられてから2週間ほど経ったが、ヤムチャの行方は依然分からないままだった。 正面から戦おうとせず、逃げ回り、隠れてやり過ごそうとする。 ヤムチャはかつての人造人間やセルと同様、悟空たちが最も苦手とするタイプの敵だった。 以前のヘタレイメージと今の用心深さのギャップもまた、悟空たちにとってはやりにくかった。 手がかりがつかめない悟空たちは仕方なく、 パンプット・ナムら格闘家を連続して殺した犯人がヤムチャであることを、警察や一般市民に公開した。 記者会見で「犯人は私が捕まえる!」と豪語したサタンを信頼したのか、 狙われているのが高い戦闘能力を持つ者だけなので安心しているのか、 ピッコロ大魔王やセル・ブウの時のように世界中がパニックになることは無くて済んだ (いい加減皆地球の危機に慣れてきたのかもしれない)。 警察でもヤムチャ逮捕はサタンに任せる方針にした様子で、逮捕しようとして返り討ちに遇うような者はいなかった。 しかしこれで、ヤムチャは望んでいた世間の評価を手に入れた。 もう誰も、彼のことを「プッ」と嘲笑するものはいないだろう。 事態は完全に、ヤムチャのペースで展開していた。 そしてエイジ784年5月25日、鶴仙人が自宅で死亡しているところを、警官に発見された。 死因は栄養失調で、現場には「樂」の紙が残されていた。 このニュースを聞いて、悟空たちはついに痺れを切らした。 バラバラで行動することの危険を顧みず、再び下界に降りて直接ヤムチャを捜すことにしたのだ。 天津飯の事件以来、バラバラでの行動をかなり警戒していたピッコロも、 相次ぐ事件を止めるにはこの方法しかないと決意した。というより、決断せざるを得なかった。 事態はやはり完全に、ヤムチャのペースで展開していた。 現在のヤムチャ 戦闘力:140000(界王拳3倍で420000) 37 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/03/29 18:35 ID:Wx+k4F0R 9 ブラ 「ブラぁ、ちょっと来てー」 研究室からのブルマの声に、ブラは飲んでいたコーヒーを置いて部屋から出た。 「なに?」 「お使いに行ってきて欲しいの。私今手が離せないから」 といってブルマはカプセルを2,3個手渡した。 「トランクスの着替えとみんなの分の戦闘服。ちょっと神様の……、"故"神様の神殿に届けてきて。 カリン塔を目印にしてうーんと上に昇ったところにあるから」 「お父さんの分はないの?」 「あいつはどうせ、孫君たちと一緒になんか居ないわよ。 じきお金なり食べ物なりが不足して帰ってくるだろうから、そのときに渡しましょ」 「ふーん。ま、いいか。行ってくるね」 「頼んだわよ。あとでお小遣いあげるから」 ブラは飛空挺のカプセルを取り出すと、裏庭へ向かった。 西の都の中心部にあるカプセルコーポレーションだが、 裏にはバーベキューが出来るほどの広い庭を持っていて、訪れる人を驚かせる (もっとも、その後屋内で放し飼いされている恐竜や得体の知れない重力室などを見てさらに驚かれるのだが)。 この庭のお陰で都会のど真ん中でありながら、ある程度静かに生活できるのだが、 ――この日は、静か過ぎるような気がした。 鳥の声が聞こえないせいだった。今は春で、鳥の声はむしろ増えてくるはずの季節なのに。 鳥だけではない。昆虫も小動物も、すべての生き物の気配が完全になくなっている。 背筋が冷たくなるのを感じて、ブラは我にかえった。 なんだか分からないがこんなところでモタモタしていられない。 早いところ神様の神殿とやらに行って、お使いを済ませてしまおう。 風が吹いた。ブラはカプセルを投げる。 そのカプセルを、風がさらった。 いや、風ではない。 現在のヤムチャ 戦闘力:140000(界王拳3倍で420000) 38 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/03/29 18:36 ID:Wx+k4F0R 10 チャオズ ユンザビット高地中央部の岩場。 チャオズは全身を緊張させていた。 突然すぐ近くに、地球上ではありえないほど強大な気を感じたからだ。 ヤムチャの気だとすぐに分かった。 そして、ヤムチャが突然気を隠すのを止めた理由も、やはりすぐに分かった。 自分を殺し、吸収するつもりに決まっている。 ヤムチャがゆっくりと、目の前の岩場に現れた。 「よう」 普段と変わらない調子の挨拶だった。 「ユンザビットくんだりで会うなんて奇遇だな。オレを捜しに来たのか?」 「天さんのカタキ! お前なんかやっつけてやる!」 「いきなりご挨拶だな」 ヤムチャは不敵に笑った。 「安心しろよ。すぐに天津飯に会わせてやる」 「会うのはお前だ!」 チャオズは限界まで気を高めた。 「あの世で天さんに謝れ! 僕があの世へ送ってやる!」 「やってみろよ」 チャオズは気を集中させ、両手をヤムチャに向けて掲げた。 激痛を感じさせる超能力。 戦闘力差があっても、まだ本気を出していないヤムチャになら通じるはずだった。 39 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/03/29 18:37 ID:Wx+k4F0R しかしヤムチャは不敵に笑っていた。今までと全く変わらない表情だった。そして微動だにしなかった。 チャオズが目の前のヤムチャが残像である事に気付くのとほぼ同時に、 後ろからヤムチャの手が伸び、チャオズの後頭部を掴んでいた。 「残像拳。最初から超能力の効果範囲には入らないことに決めていた」 後ろのヤムチャが言った。目の前のヤムチャの残像はまだ、微動だにせず笑っている。 「悪いけどいただくぞ。お前の力と、超能力を」 チャオズの体から力が抜けて行く。 そして目の前のヤムチャの残像が消えるのと同時に、チャオズの意識も途絶えた。 「桃白白もすでに吸収した。……鶴仙流の滅亡、か」 ヤムチャは一瞬だけ寂しそうな顔を見せると、すぐに気配を消して飛び立った。 その飛び去る姿を、天界でピッコロの千里眼が捉えた。 すぐさま叫ぶ。 「ユンザビットだ! ヤムチャがそこに居る!」 現在のヤムチャ 戦闘力:150000(界王拳5倍で450000) 89 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/03/31 19:28 ID:d0MkQvdJ 11 ウーブ 天界にいた戦士たち――孫悟空、孫悟天、ピッコロ、 トランクス、ブウ、ウーブ、クリリンの7名は瞬間移動によって、 それから30秒も経たないうちにユンザビットにたどり着いた。 チャオズの遺体はすぐに見つかったが、ヤムチャの姿はすでに消えている。 「いいか。ヤムチャは気配を消しているから素早い飛行は出来ない。 まだこのあたりに隠れているはずだ。 オレたちはまだ奴より強いが、今のあいつは実力以上の戦いが出来る。 油断せずに、見つけたらまず仲間に合図をしろ」 ピッコロが全員に指示を出した。 「それからクリリン。残念ながらお前だけはヤムチャより能力が下だ……。 チャオズの遺体を、天界かカメハウスにでも運んでやってくれ」 「あ、ああそりゃかまわないっスけど、このままじゃ……。 何か包んでやれるもの、ないかな」 「ボクが母から冷凍保存用のカプセルを預かってます。使わないで済めばよかったんですけど……」 トランクスが胸ポケットからカプセルを取り出した。 「サンキュ。 ……このカプセル、オレがピッコロ大魔王の部下にやられたときに入れられてたやつなんだよな。 チャオズがこいつに入るのは、二回目になるわけか……」 クリリンは棺桶の中にチャオズを入れた。 「じゃ、頑張ってくれよな。もうカプセルは無いんだから、死なれちゃ困るぜ」 クリリンが飛び立つのを見送り、戦士たちもそれぞれ散らばった。 90 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/03/31 19:29 ID:d0MkQvdJ 最初の地点から北西側に向かっていた孫悟空は、森を突き抜けて切り立った崖までたどり着いた。 ユンザビット高地の端にまで来たのだ。 少し遅れて、西側に向かっていたピッコロが同じように森を突き抜けてきた。 「見つけたか?」 ピッコロが悟空の元へ飛んできて、聞いた。 「いや、何も見てねぇな」 「台地の中央から放射状に散らばって捜したんだから逃げ道は無いはず。 今ごろ東側へ向かった連中が見つけているか、もしくは……」 ピッコロは視線を下へやった。 「この崖を降りたか、ってことか」 悟空も下を見た。 崖の下には背の低い木々が集まり大森林となっており、崖自身にも洞窟がいくつか入口を開いている。 「そうなると隠れ場所は多そうだし、厄介だな〜。 ……誰かが合図も出来ずにやられちまったなんてことは、ねぇよな?」 悟空が聞く。 「ああ。今のヤムチャがいくら強くなったにしても、オレたちを倒すまでには至っていないはずだ。 このオレや悟天にトランクス……、ブウ、ウーブ、そして孫、貴様……。 全員、最低でも超サイヤ人レベルの力を持っている。 もしヤムチャが何かの方法で上手く倒したにしても、合図の一つぐらいは出せる余裕があるはずだ」 「じゃあ、上手く逃げられちまったってことか。あいつずいぶん用心深くなってんだな〜」 話しているうちに、それぞれの方向へ散らばっていたトランクス、悟天、ブウが集まってきた。 しかしウーブは戻らない。悟空の顔が険しくなった。 91 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/03/31 19:29 ID:d0MkQvdJ 「ウーブが、やられたのかもしれない」 「心配しすぎなんじゃないの、お父さん。 ウーブは確かここと正反対の南西側に向かったから、集まるのが遅れてるだけだよ」 悟天が気楽に言ったが、悟空の表情は変わらなかった。 「ピッコロ……。ウーブの気を、感じるか?」 「え? あっ……」 ピッコロは神経を集中するため少しうつむいたが、すぐに顔を上げた。 「何ッ! ま、まさか……」 「そのまさか、だ……。ウーブの気を感じねえ。オラのミスだ……」 「し、しかし、そんな……。ウーブは少なくとも、あのフリーザぐらいの力はあったはずだ。 ヤムチャの奴がいかに力を上げたにしても、オレたちに全く気付かれずに倒せるはずは……」 「……オラがウーブに教えてやってた修行は、 亀仙人の爺ちゃんがやってたみたいな基礎体力作りのメニューだけだった。 後々それが一番ためになると思ったからなんだが……。実戦の練習はほとんどやらなかった。 あいつは、とんでもねえ力を持ってるだけで、使いこなせてはいなかったんだ。 そんなところがヤムチャにとってみりゃ一番のねらい目だったんだ。 たぶん気を解放することもできないうちに、やられちまったんだろう。 あいつをひとりにするべきじゃなかった……。もうドラゴンボールは使えねえってのに……」 悟空はがっくりと肩を落とした。他の皆も何も言えずにいた。 その沈黙から一番最初に立ち直ったのは、ピッコロだった。 「ウーブを一人にしたのは、確かに貴様のミスかもしれない。 だが、そのウーブが運悪くヤムチャのいる側に向かってしまったのは、あくまで偶然だ」 ピッコロはそう言って一人うなずくと、くるりと身体の向きを変えた。 「そしてヤムチャがウーブを倒してここを抜け出したなら……、奴は南東に向かったってことになる。 追うぞ、孫。気落ちするのはまだ早い」 92 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/03/31 19:32 ID:d0MkQvdJ そこから南東へ、30キロほど離れた海上。 気配を消して低空を飛行するヤムチャの前に、立ち塞がるものがいた。 「貴様の悪運もとうとう尽きたようだな……。クズにしては上出来だが」 立ち塞がるものは言った。 ヤムチャは流れる冷や汗を拭って、相手をにらみつけた。 立ち塞がるものは、ベジータだった。 現在のヤムチャ 戦闘力:5,150,000(界王拳3倍で15,450,000) 143 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/04/01 23:55 ID:B7RK05PN 12 ベジータ(1) 「ひ、久しぶりだな。ベジータ……」 ヤムチャは、自分の声が震えていることを自覚した。 「ああ、貴様が亀仙人のジジイを襲ってから、3週間ぐらい経ったか?」 ベジータは鷹揚にうなずいて見せた。 「今までよく逃げ切ったな。褒めてやろう。誇りに思うがいい……。あの世でな」 ヤムチャはちらっと背後を見た。ベジータは目ざとくそれを見つける。 「カカロットたちが来るのを心配しているのか? 貴様にそんな余裕があるとは思えないが……」 「お前こそ、ずいぶん余裕だな……」 「オレは地球の奴らがどうなろうと知ったことじゃ無いからな。 あいつらのようにアタフタしないで済むわけだ」 「なるほど……」 ヤムチャは微笑した。ベジータが意外そうにヤムチャを見る。 「気でも触れたのか? この状況で笑えるとは……」 「楽しいのさ。お前がアタフタするところを想像するのが」 ヤムチャの震えは――武者震いは、すでに収まっていた。 「オレがアタフタする? 貴様相手にか? わからないわけではないだろう。オレと貴様の戦闘力の差は――」 「お前さっき、地球の奴がどうなろうと知ったことじゃないと言ったな」 ベジータの言葉をさえぎると、ヤムチャはふところから何かを取り出した。 「――家族なら、どうかな?」 144 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/04/01 23:58 ID:B7RK05PN ヤムチャが握り締めていた右手を開くと、数本の髪の毛がひらひらと舞った。 その髪の毛の色は、ベジータ以外のベジータ一家に共通する、薄い紫色だった。 「そ、それはブラの……! 貴様ブラに何をした!」 「一瞬で見分けるとはさすがだな」 ヤムチャは落ち着き払って言った。 「さて、何をしたっけな……」 ヤムチャの言葉が終わるか終わらないかの内に、 ベジータの気が数百倍に膨れ上がり、台風のような圧力とともに金色のオーラが吹き出していた。 「超サイヤ人2、……だな?」 「貴様ァ!」 ベジータは小さく気を溜めると、両腕を使ってマシンガンのようにエネルギー波を連射した。 水しぶきが巻き起こり、流れ弾がユンザビットの山々を爆撃する。 森からは細い煙が数本立ち昇り、崖の洞窟は落盤を起こし、大地は少しずつ削られて行く。 ベジータは構わずエネルギー波を撃ち続けた。 最後に両手で、一際大きなエネルギー波をぶつけると、ベジータはようやく息をついた。 荒く息をつきながら水しぶきが退くのを見守る。 しぶきが小粒になり、空中に小さな虹がかかり、ようやく視界が開けた。 ヤムチャは不敵な笑いを浮かべながら、無傷のまま、右手を前に突き出すようにして低空に浮かんでいた。 右手の掌にはあの人造人間たちについていたのとまったく同じ、不思議な突起が突いている。 「ついに手に入れたぞ! サイヤ人の力を!」 ヤムチャは高らかに叫んだ。 その声には、紛れもなくラスボスの威厳のようなものが込められていた。 そしてヤムチャの身体から大量の気が、爆風のような勢いで吹き出してきた。 145 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/04/01 23:59 ID:B7RK05PN 「し、しまった……! 吸収……!」 ベジータは慌ててヤムチャの気を探った。 「まだだ! まだオレの戦闘力の方が圧倒的にでかい! 勝っている! ――肉弾だ! なぶり殺しにしてやるぞ、ヤムチャ!」 ベジータは再び気を高めると、猛烈な勢いでヤムチャに向かって突進した。 「そう。確かに吸収できたエネルギー量は、お前から見ればたかが知れたものだ……。 オレからすれば、非常に有用なんだがな。とにかく戦えばまだ負ける……。 一旦退かせてもらうぜ! ……太陽拳!」 閃光があたりを包む。逆上していたベジータは反応できず、完全に目がくらんだ。 そして視力を取り戻した時には、ヤムチャの姿も、気配も、完全に消えていた。 「くっそおぉ! 戦闘力をゼロにしたままこうも素早く消えられるはずはない! 海中に潜りやがったな!」 ベジータは上空に飛び上がり、右手に気を集中させた。 「ビッグ・バン・アタック! このあたり一帯ごと一気に吹っ飛ばしてくれる! このオレをコケにした報いだ!」 しかしその手を、横から悟空が強い力で掴んだ。 ベジータの気を目印にして、瞬間移動で飛んできたのだ。 「よせ、ベジータ。また吸収されちまうぞ」 悟空が静かに言った。 「カカロット……」 ベジータの手から力が抜けた。 「ヤムチャが、ブラの髪の毛を持っていた……。 あの野郎、今まで武道家以外殺さなかった癖しやがって、戦えない、ブラを……」 146 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/04/02 00:01 ID:bQSYblYU カプセルコーポレーションの実験室。ブルマはいまだに、細かい機械作業に没頭していた。 「ただいま」 ブルマの肩を、ブラが叩いた。 「あら、早かったのね。お使いお疲れさま。約束どおりお駄賃上げなきゃね」 ブラは髪の毛が気になるらしく、何度も指でとかしていた。ブルマはそれを見て聞いた。 「あら、髪の毛がどうかしたの? ……ん? ちょっと髪形変わったか?」 「庭に出てすぐ、突風が吹いたと思ったら、髪がすっぱり一房切れちゃってて……。 カマイタチって奴かな?」 「カマイタチ、ねぇ……。カマイタチで切れるのは皮膚だけだと思うんけどな」 ブルマは宙を見据えて少し考えていたが、 それより作業を優先しなければならないことを思い出し、思考を中断した。 「まあ、さっきのお小遣い使って美容院にでも行ってきたら? しっかし庭が広すぎるのも考えものよね。こんな都会でカマイタチが起こって、 しかも大事な髪の毛まで切れちゃうなんて。ま、怪我がないだけよかったけどさ」 現在のヤムチャ 戦闘力:55,150,000(界王拳3倍で16,5450,000) 172 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/04/03 09:42 ID:OUCeCC8B 13 ヤジロベー 「孫。今のヤムチャの実力は、どれくらいだと思う?」 天界。ユンザビットから引き揚げて一息ついたあと、ピッコロが悟空に尋ねた。 「どうかな〜。あいつなかなか本性を見せないからよくわからねえが、 17号を吸収した時のセルぐれえの力はあるような気がする。あのブサイクな奴」 「そうか……。おまけにエネルギー弾は吸収されるし、数多くの強力な技を身につけてしまっている。 サイヤ人かこのオレ、あるいはブウぐらいしか、奴を止められる者はいないだろう。 今のあいつは野生の狼のように、慎重で鋭敏だ。これまでで最も厄介な相手かも知れん……」 「オレがまずいことをしたとでも言いたいようだな」 ベジータが言う。彼はすでに平静を取り戻していた。 「ああ、ずいぶんまずいことをしでかしてくれたと思っている。 貴様のパワーは、奴にとっては格別なご馳走だっただろうからな。 おまけに連続エネルギー波も覚えられてしまった可能性が高い」 「まあまあピッコロ。ブラも無事だったみてえだし、もう過ぎたことじゃねえか」 悟空がなだめようとするが、ベジータは無視して言った。 「オレがヤムチャを倒せば問題あるまい。自分の尻ぐらい自分で拭く。 せいぜい貴様は、あいつに余計なエネルギーを与えないように用心するんだな」 「ああ、確かにオレがやられることはありうる。あいつはいくらでも強くなるから、 最悪誰の手にも負えないほどの戦士になってしまうかも知れん。もしもの時は――」 ピッコロはそういうと言葉を切り、ベジータに近づいてから囁いた。 「フュージョンすることも考えておけ」 ベジータは何か言いたそうにピッコロを見たが、さっきの失敗のこともあって、しぶしぶとだがうなずいた。 173 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/04/03 09:43 ID:OUCeCC8B 「さて、それでは再びヤムチャを捜すことにしよう。 今度は昼間に加え、夜の間も捜索するようにしようと思う。 ヤムチャは一匹狼だから、昼も夜も捜索されると対応しきれない。 見つからないまでも、体力が消耗されるはずだ。 そうだな……。孫は夜担当だ。瞬間移動で世界中をカバーしてくれ。 今のうちに家に帰って寝ているように。 それと、クリリン」 クリリンがピッコロを見上げた。 「お前は捜索に参加するな」 「あ、ああ。やっぱりオレも、今の戦いのレベルからみりゃ足手まといだもんな」 「それも理由のひとつだが、それだけではない。 今一番怖いのは、気円斬がヤムチャの手に渡ってしまうことなのだ。 上手く不意をつけば、悟空だろうと倒してしまえる技だからな……。 だからユンザビットでもお前を特別扱いした……。 お前と18号、それとヤムチャに対抗できる奴がもうひとり。三人で天界で留守番していてくれ」 「わ、わかった」 「ベジータ。貴様も気円斬が使えるひとりだが、ここで留守番するか?」 「フン、冗談じゃない」 「だろうな」 戦士たちは、再び天界から飛び立っていった。 174 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/04/03 09:44 ID:OUCeCC8B そのころヤムチャは、ユンザビットの崖のふもとで、静かに身体を休めていた。 じっと手のひらを見る。そして、握り締めてみる。 やはり今までとは、身体の感覚そのものが違う。相当のパワーアップを果たしているようだ。 ヤムチャはゆっくりと立ち上がり、細々と煙を上げている森の一帯のほうを振り返った。 ベジータの連続エネルギー波の影響で、火がついたのだ。放っておけば山火事にもなりかねない。 ヤムチャは気を解放すると、軽く飛び上がり、右腕をいっぱいに使って宙を扇いだ。 一瞬の後、突風が森を遅い、木々を揺らし、葉が飛び散り、そして火は消し飛んだ。 「素振りでこの威力か。……いける」 ヤムチャは着地すると、今の気を見つけられることを警戒して、再び海から逃げるべく振り返った。すると、 ――ヤジロベーと目が合った。 跳躍している。まっすぐこちらへ向かってきている。 右腕を振り上げている。手に何か持っているようだが、見えない。 鞘を見る。刀の柄は収まっていない。つまり右手には刀を持っているらしい。 速い。――避けるのは無理だ。 ヤムチャは左の人差し指に気を集中させると、太刀筋を予想してそこに差し出した。 高い金属音がして、ヤジロベーの刀にひびが入ってへし折れた。うまく刀を受け止められたのだ。 ただし、かつての悟空がトランクス相手にやったようには行かなかったらしい。 人差し指からはじわっと血が滲み出してきた。 175 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/04/03 09:44 ID:OUCeCC8B 「……ヤジロベー。久しぶりだな」 「ご、ごめん! 本気で斬ろうなんて考えてはいなかったんだ! 軽〜いスキンシップのつもりで――」 「いや、どう考えても殺気に満ち溢れていたぞ。なかなかいい不意打ちだった」 ヤムチャが1歩近寄ると、ヤジロベーは慌てて5歩ほど後退した。 2歩近寄ると、今度は10歩離れて行く。 ヤムチャは苦笑した。 「そんなに怖がるなよ」 「わ、悪かった! 見逃してくれ!」 「悪かったって、今、悪者はどう考えてもオレの方だろ。 ……オレはもうこの場を離れなきゃならないから、追いかけてこなければ殺したりはしない」 「ホ、ホントに?」 「ああ。みてただろうけど、お試しのつもりで気を解放してしまったからな。 悟空あたりにかぎつけられると厄介なことになる……。てなわけで、じゃあな」 ヤムチャは軽く手を振ると、ヤジロベーを残して舞空術で飛び立った。 身体がこの突然の超サイヤ人レベルのパワーアップに慣れるまで、少なくとも数日かかりそうだ。 それまで隠れていなければならない。どこかいい場所を探さなければ。 海を越えて、ようやく大陸が見えてきたころ、ヤムチャはふと疑問に思った。 ――ヤジロベーは、どうして自分の居場所がわかったのだろう。 現在のヤムチャ 戦闘力:55,150,000(界王拳3倍で16,5450,000) 211 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/04/04 10:45 ID:NpEIApRM 14 悟天(1) 「お父さんたち、うまくヤムチャさんを見つけられるかなぁ……」 ユンザビットでのヤムチャとの遭遇から3日ほど経ったある日。悟天が退屈そうに伸びをして、言った。 「どうかな。ピッコロも言ってたけど、今のヤムチャさんは用心深いからな。 普通に地球中から一人の人間を探し出すんだって難しいのに」 クリリンが答えた。二人は天界の宮殿で留守番をしている。 背後では18号とマーロンが、ポポから飲み物を貰ってくつろいでいる。 しかし二人は、絶えずヤムチャの気を探り続けていた。 「そうか……。かといって向こうから来るのを持ってたんじゃあ――」 「ああ、下界の格闘家は全滅してしまう。ただでさえウーブがやられちまったってのに、 これ以上殺されちゃあ、将来また地球の危機が起こったときにどうしようもない」 「ユンザビットで倒せておけばなぁ……。ボク、あの時南を捜してたんだ。 ウーブは南西だったから、すぐ近くにいた。ヤムチャさんも、多分近くに……」 悟天は考え込むように自分の膝を見つめていたが、すぐに立ち上がった。 「クリリンさん、ボクちょっとトレーニングしてきます」 「ああ、手伝おうか?」 「それじゃ、あとで一緒に組み手お願いします。その辺で準備運動してくるんで」 クリリンと別れ、悟天は宮殿の中央部に向かった。 212 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/04/04 10:45 ID:NpEIApRM 軽く筋肉をほぐすと、悟天は腕立て伏せを始める。 空気が薄い天界では、単なる腕立てと言えど充分な訓練になる。 それにここ10年ぐらいほとんどトレーニングをしていなかったので、身体がずいぶんなまっていた。 準備運動を一通り終え、少し休憩を入れる。 空を眺める。雲よりもはるかに高い位置にある天界の空は、当然ながら晴れ渡っていた。 立ち上がり、宮殿の建物の方を見ると、クリリンが何か声を上げている。 組み手の誘いかと思ったが、しきりに上を指差している。真剣な表情だ。 上と言っても、天界より高くにものがあるはずもない。悟天は少し首をかしげる。 と、同時に悟った。天界より上空にいる可能性がある者は、誰か。 準備運動に本腰を入れすぎて、気を探るのをやめてしまっていたのは失敗だった。 急いで上を見上げる。と、同時に気を探り始める。 視覚と気配は両方とも、上空から猛スピードで接近してくるヤムチャを捉えた。 両手をクロスして、一直線に落下してくる。 避けようと思ったときには、すでに悟天は吹っ飛ばされていた。 現在のヤムチャ 戦闘力:55,150,000(界王拳3倍で16,5450,000) 213 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/04/04 10:46 ID:NpEIApRM 15 クリリン(1) 「よお、クリリン」 ヤムチャがいつもと変わらない調子で言った。 「ヤ、ヤムチャさん……」 クリリンが震える声で言った。ヤムチャの足元には穴があいている。 たった今悟天が、宮殿を突き破るほどの勢いで真下に吹っ飛ばされたのだ。 「今の技は、天空、X字拳」 「よく覚えてたな。そうだ。オレがナムから奪った技だ」 「命と、一緒に……」 クリリンはチラッと建物の内部を見た。 ポポ、18号、マーロンの三人を連れて逃げ切ることが、果たして出来るだろうか。 視線を元に戻すと、いつのまにかヤムチャが目の前にいた。 動きは全くつかめなかった。 スピードも桁違いに上がっているようだ。逃げるのは、不可能らしい。 「お? 気を高め始めたな。逃げるのは諦めたか。 でもな、戦って勝つのはもっと不可能だぞ」 ヤムチャが明るく言い、気を解放した。クリリンは気の圧力だけで吹っ飛ばされ、宮殿の壁に激突した。 「あまり派手にやるわけにはいかないんでな。悪いがさっさと終わらせてもらう」 ヤムチャは、ゆっくりとこちらに歩いてくる。クリリンは動けなかった。 クリリンだけでなくポポも、 そして気を感じる力の無い18号とマーロンも、金縛りにあったように気圧されていた。 214 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/04/04 10:46 ID:NpEIApRM しかし、動かなければならない。 ピッコロたちが言うように、ヤムチャにとって気円斬を持つクリリンは魅力的な目標なはず。 自分をエサにしてヤムチャを上手く誘導すれば、18号たちは助かるかもしれない。 クリリンは立ち上がった。再び、慎重に気を練り始める。 「戦う気か? クリリン、お前もとうとう判断力が鈍ってきたようだな。無謀すぎる」 ヤムチャは、亀仙流の構えを取った。 「手早く終わらせてもらうぞ」 それからヤムチャが飛び掛るよりも"早く"、クリリンは横っ飛びで空中へ回避していた。 これにはさすがのヤムチャも対応が遅れ、一旦動きを止める。 しかし稼げた時間はほんの数秒。18号も、ポポも、逃げるまでには至っていない。 クリリンは、再び突っ込んでくるヤムチャのほうを振り向いた。 太陽拳。もうこれしか対抗手段は無い。 クリリンは額に手をかざそうとする。 しかしその寸前で、ヤムチャの左手がクリリンの右手を叩き落としていた。 「うわああああっ!」 走る痛みに、クリリンは絶叫した。 「惜しかったな」 掌が、クリリンの顔に迫る。 しかし今度は、ヤムチャの右手が突然叩き落とされた。 「チッ……。もう復活してきやがったか」 いつのまにか悟天が、クリリンとヤムチャの間に入ってきていた。 現在のヤムチャ 戦闘力:55,150,000(界王拳3倍で16,5450,000) 226 :急襲のヤムチャ(1/3) :03/04/05 13:50 ID:+R4xfBi5 16 悟天(2) 「クリリンさん、手は……?」 悟天が聞いた。質問しながらもヤムチャへの警戒は外さない。 「あ、ああ。折れちまってるみたいだけど、たいしたことは無い」 「宮殿に仙豆があるはずです。食べたら、すぐに逃げてください」 クリリンはうなずき、ヤムチャを避けるように遠回りして宮殿へ向かった。途中で一度振り返る。 「死ぬなよ、悟天」 悟天はゆっくりとうなずいた。 クリリンが行ってしまうと、悟天は静かに気を解放し始めた。 髪が金色となって逆立ち、外見と気が悟空そっくりになる。 「超サイヤ人1、か」 「ヤムチャさん、……いや、ヤムチャ」 「何だ?」 「戦うなら、ボクだけにしろ。クリリンさんや18号さんには、手を出すな」 「そんな約束をして、オレに何の得がある?」 ヤムチャは余裕を見せて笑った。 「だが、まあいいだろう。時間も無いしな。 ……ここから一番近くにいる、悟飯がこちらに気付いたようだ。ここに到着するまで、あとせいぜい3分」 227 :急襲のヤムチャ(2/3) :03/04/05 13:51 ID:+R4xfBi5 ヤムチャは亀仙流の構えを取ると、猛スピードで悟天に右の肘打ちを浴びせた。 そして吹っ飛んだ悟天をなおも追いかけるが、 今度は悟天が空中で急ブレーキをかけ、ヤムチャの左手に肘をぶつける。 それでヤムチャの動きが止まり、悟天はなおも攻撃を続けた。 連続攻撃の最後の、渾身の力を込めた右ストレートがヤムチャを貫く。 しかし拳は空を切り、 いつのまにか後ろに回りこんでいたヤムチャの蹴りで、悟天は吹っ飛ばされて宮殿に激突した。 「残像拳……!」 「そうだ。よく知っていたな」 「……お返ししてやる!」 悟天は超高速で動いて姿を消した。 しかしヤムチャは動じずに、素早くあたりを見回すと、突然飛び上がって空中で一回転した。 その回転の頂点で、ヤムチャの右足が悟天の顎を捉える。悟天は再び吹っ飛ばされた。 ヤムチャは悟天を追いかけ、宮殿に降り立った。 「どうやらお前とオレ、パワーはほとんど互角らしい。むしろややお前の方が強いかもしれない。 だが、お前には"技"の要素がまるで足りない。 オレは武天老師様や鶴仙人といった、高いレベルの技術を自分のものにしている。 ……どうやらオレが有利らしいな」 「自分のもの? ……強引に奪い取ったくせに」 悟天は微笑した。できるだけ自信ありげに見えるように注意しながら。 「ヤムチャ。あんたは最初に右手にダメージを受けた。しばらくして、左手。 そしてあんたはこの戦いで、肘と足しか使っていない」 「なるほど。分かるぞお前の考えてることが。 オレはお前の攻撃で手が使えなくなった。 つまり気の吸収も出来なくなったはずだと、そういうことだな?」 悟天は気を集中した。確かに自分の技は少ないが、唯一覚えているこの技には、自信がある。 「か……め……は……め……」 「かめはめ波か。そうだ。お前にはそれしかないはず」 ヤムチャは余裕の表情だ。甘く見ている。多分、これはチャンスだ。 228 :急襲のヤムチャ(3/3) :03/04/05 13:51 ID:+R4xfBi5 「波ーーー!」 特大のかめはめ波がヤムチャへと向かっていった。威力も、大きさも、悟空の超かめはめ波に匹敵する。 効果範囲も大きいから今の間合いでは避けようがない。 しかしヤムチャは余裕の表情で待ちかまえ、急に形相を変えると凄まじい声で叫んだ。 「かあっ!」 それだけでかめはめ波は、かき消されていた。 クリリンはそれが天津飯の身につけていた技術であることを知っていたが、 悟天は知らず、魔法のようにしか思えなかった。 勝てない、と思った。 そして悟天は戦意を失い、その場に膝をついた。 「さて、と……。悟飯が来るまであと1分。お前らを倒す時間は十分あるな。クリリン、18号、ポポさん」 悟天の気を吸い終わったヤムチャは、クリリンの方へゆっくりと向きを変えた。 クリリンたちは、あまりの戦いの凄まじさに逃げることもできずにいた。 18号がクリリンを庇うように前に出て、戦闘態勢をとる。 「しかし……、まあ、約束は約束だ。じゃあな」 ヤムチャは軽く手を振ると、気配を消して天界から飛び降りていった。 クリリンが慌てて宮殿の端から下界を見下ろしたときには、すでにヤムチャの姿は消えていた。 現在のヤムチャ 戦闘力:225,150,000(界王拳3倍で675,450,000) 306 :急襲のヤムチャ(1/5) :03/04/07 18:28 ID:ysQ+cOmr 17 ピッコロ 「来たか。……ヤムチャ」 キングキャッスルの城下町。カプセルショップの前に降り立ったヤムチャに、ピッコロが声を掛けた。 「ピッコロ!? これはまた……、今は会いたくなかったんだがな」 「悟天との戦いで負傷したからか?」 ピッコロは不敵に笑った。 「あ、ああ。腕を2本ともやられちまった」 ヤムチャはお手上げのポーズをしてみせた。 ピッコロは鋭くその様子を観察する。 動きに演技のようなものは感じられない。腕を負傷しているのは間違いないらしい。 「でもピッコロ、どうしてオレの動きが分かったんだ? 気配は完全に消したし、ここまでの行動は誰にも見られてないはずだ。 お前は天界にいなかったから千里眼は使えない。 クリリンやポポさんからの連絡が間に合う時間でもない……」 「貴様と悟天との戦いの気を感じたのが、10分前だ」 ピッコロは説明する。 「オレの判断する限り、貴様と悟天との間に実力差はほとんど無かった。 たとえ勝利したとしても、必ず体力を消耗するなり、傷を負うなりするはずだ……。 傷を負えば、包帯や薬の類が必要になる。町へ買いに行くだろう。 天界から一番近い町はここ、キングキャッスル城下町だ。 そして貴様は一つの町に留まることはできない。……警察にマークされてるからな。 持ち歩きできるカプセル入りの薬品を買って、山にでも身を隠して治療するはずだ。 つまり貴様の現れる場所は、キングキャッスル城下町のカプセルショップとなる」 307 :急襲のヤムチャ(2/5) :03/04/07 18:29 ID:ysQ+cOmr 「見事な推理だ。そうだよな、今のお前は神様と同じだけ、頭が働くんだった」 ヤムチャが拍手するまねをした。実際に拍手できないほど、腕は痛んでいるらしい。 「そんな頭が働くお前が、なんでオレに不意打ちを仕掛けずに、 こうやって世間話をしたり、わざわざ推理を披露してくれてるのか、言ってやろうか……? お前はわざと会話を引き延ばして、救援が来るのを待ってるんだ。 今のオレが、実力がほとんど同じ相手でも何とか倒せちまうってことは悟天戦で証明されたから、 自分ひとりだけで戦うのは危険だと判断したんだろう。 ここから一番近くにいるのは、……やっぱり悟飯か。あいつなら充分オレを倒せる。 ここまで来るのに、……あと5分」 「読まれていたか。貴様もさすがだな。……こんなことを言う日が来るとは思わなかったが」 ピッコロはチッと舌打ちをした。 「そこまで分かっているのでは、もう話を引き伸ばすのは無理だろう。 ……戦おう、ヤムチャ。 両腕がつかえない貴様なら、オレでも何とか倒せるはずだ」 ヤムチャはその言葉を聞いて微笑し、痛みにもたつく手つきで、帯から下げた袋から何かを取り出した。 「こいつは使いたくなかったんだがな……」 驚いたピッコロがヤムチャからそれを――仙豆を取り上げようとした時には、 すでにヤムチャの両腕は力を取り戻していた。 「何年か前にカリン様から貰っておいたんだ。本当に最後の切り札だったんだがな、この仙豆は」 ヤムチャは舞空術で空へ舞い上がると、空中からピッコロを促した。 「場所を変えようぜ。まさかこんな街中で戦闘おっぱじめるわけにも行かないだろ?」 周りを見回すと、すでに空を飛ぶヤムチャを見て野次馬が集まり始めていた。 ヤムチャを指差して、警察が指名手配している殺人犯だと叫んでいるものも何人かいる。 ピッコロは神妙な面持ちでうなずくと、ヤムチャに続いて飛び去った。 308 :急襲のヤムチャ(3/5) :03/04/07 18:29 ID:ysQ+cOmr 「さて……。まわりに人は居なくなったし、ここならいいだろう。 悟飯が来るまで、あと3分」 町外れの荒野まで飛んでくるとヤムチャは言い、地面に降り立った。 ピッコロは無言のままマントとターバンを脱ぎ捨て、気を高め始めた。 その気の大きさを確かめると、ヤムチャは軽く頭をかいて言った。 「いや〜、今日は本当に疲れる一日になりそうだ。 悟天に続いてお前も、オレとほとんど同じ実力なんだもんな。 もっとも今度はオレの方が、ちょっぴりだけ強いみたいだが」 「貴様の本当の実力ではあるまい」 「ん? ああ、確かにそうだな。悟天と戦ってなけりゃ、オレはお前の足元にも及んでない。 ところでピッコロ、お前が今やってるそれ、……界王拳、何倍だ?」 「5倍だ。 ……貴様、3分で決着をつけなければならないのだろう? 無駄口を叩いている余裕があるとは思えんが……」 「5倍、か〜。ちなみに知ってるかもしれないけど、オレはいまんとこ3倍までが限界なんだよな。 つまりお前を吸収するってことは、オレにとって単なるパワー以上の価値があるわけだ」 「貴様、オレにプレッシャーをかけようとしているな?」 ピッコロはヤムチャをにらみつけると、ニヤッと笑った。 「まともに勝つ自信がなくなったか? 吸収して手に入れた、かりそめの力だけで……」 ヤムチャは無言で笑い返すと、すばやく姿勢を低くして大地を蹴った。 「新狼牙風風拳!」 手刀、蹴り、掌打、正拳。猛スピードで繰り出される攻撃をピッコロは確実に受け止めていった。 しかしヤムチャの攻撃は止まらない。3度目の蹴りをピッコロは受け止めきれず、右腕に軽い痺れを感じた。 ピッコロは一旦距離を置いて言った。 「白兵戦、か。貴様がこんな地道な戦いを仕掛けてこようとはな。 忘れちゃいないだろう? お前はあと3分で決着をつけねば、負けが決定するんだぞ」 ヤムチャは意に介した様子もなく、答えた。 「他人の心配をする余裕が、お前にあるのか? ピッコロ」 ピッコロは舌打ちをすると、攻めに転じた。 超高速の連続攻撃も、 ピッコロ自身が狼牙風風拳を受け止めたのと同じように、ヤムチャには軽く受け止められてしまう。 309 :急襲のヤムチャ(4/5) :03/04/07 18:30 ID:ysQ+cOmr そしてピッコロの渾身の一撃をかわした瞬間、ヤムチャの瞳が輝いた。 それを見たピッコロは慌ててヤムチャを蹴り飛ばし、一旦距離を置く。 「そうか……。やけにのんびりした戦い方をしていると思っていたが……。 貴様、必殺技のチャンスを狙っていたのだな? チャオズが言っていた、何とかいう界王拳を無効化できる技を使おうとしているだろう」 初めて、ヤムチャが驚きの表情を見せた。 「萬國驚天掌、だ……。しかし次から次へとよく見破るな。 それが分かったからといって、別に戦いの有利不利は変わらないけどな」 「いや、それが分かった以上、オレはもう貴様の間合いには入らん」 ピッコロはそういうと、地面を蹴ってヤムチャからさらに距離を置いた。 「遠距離戦か? おいおい、オレは気功波の類は吸収できるんだぜ?」 ヤムチャが両手をかざして、掌の突起を見せ付ける。 「分かっている。貴様の吸収が、自分の周り全方向をカバーできるわけではないってこともな……」 ヤムチャの表情が、さっきよりも強い驚愕の色を示した。 そしてピッコロは小さなエネルギー弾を連続で放ち、辺り一面に広げて待機させ、ヤムチャを完全に取り囲んだ。 「貴様には逃げ場が無くなったぞ……。 この無数のエネルギー弾のうち、何発かは吸収されちまうだろうが……、 それより多くの弾が貴様を貫く。 貴様は人造人間ではないから、バリアーは張れない。 防御は不能だ! 死ね、ヤムチャ!」 ピッコロが腕を軽く交差させたのを合図として、あたり一面のエネルギー弾が一気にヤムチャを襲った。 絶え間ない爆発音とともに、濛々と煙が広がっていく。 しばらくして煙が引いたあと、地面にヤムチャが倒れているのをピッコロは見つけた。 気は感じない。しかし気配をコントロールしているだけかもしれない。 ピッコロは慎重にヤムチャに近づいていった。 ナメック星人の鋭敏な聴覚で様子を探る。呼吸音は、聞こえない。 「やれやれ……。やっと片付きやがったか。手強い野郎だったぜ」 ピッコロは小さく溜息をつくと、掌をヤムチャにむけて気を高め始めた。 310 :急襲のヤムチャ(5/5) :03/04/07 18:31 ID:ysQ+cOmr 「まさか復活はしないだろうが……。念のため、気功波で肉体を完全に消滅させる。 葬式もできんが悪く思うなよ、ヤムチャ」 そしてピッコロの手からエネルギー波が放たれようとしたちょうどその瞬間、 背後から飛んできた小さなエネルギー弾がピッコロの胸を貫いた。 致命傷を負い、体から力が抜け、ピッコロは地面に倒れる。 その身体をヤムチャの右手が掴んだ。大量の気が、掌の突起からヤムチャに流れ込んで行く。 「はぁ、はぁ……。ふう……。危なかった……。 ベジータの連続エネルギー波がなかったら……、 そしてそれを回転しながら放つことを思いつかなかったら……、 オレは死んでいたな」 ヤムチャは荒く息をつくと、体を起こしてピッコロを見下ろした。 「そして操気弾を地面に潜らせて、上手く不意打ちできた……。 油断したな。……ピッコロ。 ふぅ。……あんな、派手に煙が上がったんだから、 その陰に隠れて何かされるってのは予想しても良かったんじゃないか? さんざん……、プレッシャーをかけたかいがあって、焦ったようだな……。 ……ふう。呼吸が整ってきた。しかしずいぶん体力を失っちまったな……。 少し休みたいところだが、悟飯も近づいてきているし、だれかに悟空を起こされでもしたらえらいことになる。 早めにここを立ち去った方がよさそうだな」 現在のヤムチャ 戦闘力:355,150,000(界王拳5倍で1,775,750,000) 329 :急襲のヤムチャ :03/04/08 17:19 ID:3W0PRd68 18 キングキャッスル近衛兵 彼は天才だった。 幼いころから町で一番体が大きく、体力に加え強敵に屈しない不屈の精神も合わせ持っていた。 そんな彼が格闘能力を見込まれて、 世界の王を護衛する名誉ある職務に抜擢されるのに、そう時間はかからなかった。 彼は慢心した。自分より強いものなどいるはずがないと油断した。 そして完膚なきまでに敗北した。 大魔王という、次元の違う強さを持った存在によって、彼は一度命を奪われたのだ。 魔王が死んだあと、不思議な力で蘇った彼は、国王に暇を願い出た。 そして世界中を放浪し、体と心を徹底的に鍛えなおした。 再びキングキャッスルに戻ったとき、彼はあの桃白白に肉薄するほどの強さを手にしていた。 今の彼には理解できる。自分の目の前にいる男が、どれだけ人間を超越した力を持っているのかを。 ピッコロ大魔王をもはるかに超えた、人類始まって以来最強の強さを持つ男と、今自分は相対している。 330 :急襲のヤムチャ :03/04/08 17:19 ID:3W0PRd68 「今……、午後8時57分。国王は休んでおられる時間だ」 衛兵は静かに言った。 「貴様は格闘家しか狙っていないと聞くが、一応言っておく。 決して王に手を出すな」 ヤムチャは、静かにうなずいた。 衛兵は大きく息をつくと、全身を大きく震わせ、渾身の力を込めた右ストレートを放った。 ヤムチャはそれを左手で受け止めると、腕をつかんだまま跳躍して後ろに回りこんだ。 衛兵は右腕をねじ上げられた形になり、完璧に身動きが取れなくなった。 後頭部にヤムチャの手のひらが当たる。 衛兵の少ない戦闘力は、一瞬のうちに吸い尽くされ、巨体が鈍い音を立てて床に沈んだ。 しかしヤムチャは立ち尽くし、考え込んでいた。 ――今、自分は何をした? ヤムチャは自問した。すぐに答えは出た。 ――ピッコロ戦で失ったエネルギーを回復するために、この男の戦闘力を吸収した。 今までヤムチャは、天下を取るという目的以外のために、人を殺してはいなかった。 今度は違う。エネルギーは二三日休めば回復する。 それが待ちきれなかったから、早く楽になりたかったから殺したのだ。 ヤムチャは深く溜息をついた。こんなことでは、いつか一般の人間も手にかけてしまうかもしれない。 それは絶対に避けなければならない。 突然サイレンが鳴り響き、ドタドタと足音が聞こえ始めた。 衛兵の巨体が倒れる音は、思ったより遠くまで届いていたらしい。気付かれたのだ。 数人の兵士がやってきて、ヤムチャにライトを浴びせた。 しかしライトの光はヤムチャの体を通り抜けた。 兵士達が残像拳のヤムチャを前に警戒している内に、本物のヤムチャはその場を離れていた。 キングキャッスルの外壁を飛び越えながら、ヤムチャはつぶやいた。 「急がなければならない……。俺の名が単なる殺人鬼へと変わってしまう前に……! 明日! すべてにカタをつける!」 ヤムチャは夜の闇へと消え去った。 363 :急襲のヤムチャ :03/04/09 16:48 ID:6cgO+CDK 19 18号 エイジ784年5月29日、午前9時23分。 クリリンは天界で、ブウが来るのを待っていた。 気円斬を使える二人、クリリンと18号を護衛する役目が、悟飯からブウへと交代されるのだ。 現在――悟空は夜の警戒を終え、自宅で休んでいる。 悟飯は天界の宮殿で18号とともにいる。 トランクスは下界でヤムチャを捜索中。 ベジータとは連絡がつかないが、おそらくヤムチャを捜しているのだろう。 そしてブウはこちらに向かっている。 クリリンは小さく溜息をついた。 もう、これだけだ。戦士はこれだけしか残っていない。 今のヤムチャの戦闘力について、昨夜悟飯は"ベジータ以上"と推測していた。 クリリンも同感だった。 ピッコロとの戦いで感じたヤムチャの気の大きさは、ベジータを少しだが確かに上回っていた。 ベジータ自身もそれに気付いたのだろう。物も言わず天界を飛び出した後、行方が知れない。 あのベジータ以上の戦士。しかもエネルギー波を吸収し、誰よりも多くの技を操る戦士。 それが今のヤムチャだった。 そのヤムチャに、たったこれだけの人数で対抗しなければならない。 クリリンはもう一度溜息をつくと、宮殿の端へ駆け寄った。ブウの気配を捉えたからだ。 18号も建物から出てくる。 ブウはゆっくりと宮殿に降り立った。 364 :急襲のヤムチャ :03/04/09 16:48 ID:6cgO+CDK 「悟飯、いるか?」 「今宮殿の中で休んでるよ。ちょっと呼んでくる」 18号が建物へと向き直った。 「悪いな、18号。今出て来たばっかだってのに」 「オレ腹減ったぞ。ついでにお菓子持ってこい」 「はいはい。代金はサタンにつけとくよ」 18号がそう言って歩き出した瞬間、彼女は吹き飛ばされていた。 何者か――勿論ヤムチャだが、そのヤムチャの蹴りによって、壁に思い切り叩きつけられたのだった。 クリリンは慌てて18号の元へ駆け寄った。衝撃に気付いて悟飯も起きて来る。 「クリリンさん! 18号さんは?」 「……死んでる」 18号の身体にはすでに脈はなかった。 「肺をやられたんだ。 こいつ、基本は人間だったから、臓器を的確に狙われたら永久のエネルギーも意味はない。 ……ちくしょう。18号ーー!」 クリリンは絶叫した。 悟飯はクリリンがヤムチャに飛び掛らないように、素早く一歩前に出ると言った。 「ついに判断を誤ったようだな。ヤムチャさん、……いや、ヤムチャ。 ブウとボク、ここにいる二人は、確実にあなたより強い」 「確かに、……正直に言おう、確かにちょっとヘビーな相手だ。 だが、オレは判断を誤ったとは思わない。お前ら二人と戦い、勝たせてもらうぜ」 現在のヤムチャ 戦闘力:355,150,100(界王拳5倍で1,775,750,500) 387 :急襲のヤムチャ(1/3) :03/04/10 17:19 ID:8hjdbc42 20 Mr.ブウ 「さて、さっそく戦わせてもらおうかな」 ヤムチャが亀仙流の構えを取った。 「悟飯、お前寝てたとこだろ。もっと寝てていいぞ。 こいつオレより弱い。オレだけで充分」 ブウがゆっくりとヤムチャの前に出た。 「ブウ、油断しちゃダメだ。ヤムチャには――」 「エネルギー波は撃っちゃダメ。手のひらで触られるのもダメ。 オレ、馬鹿じゃないから覚えてる」 「ブウ!」 ヤムチャが呼びかけた。 「やっぱりお前は強敵だ。 正攻法で倒すのは無理だろうから、いきなり最高の技で行かせてもらうぜ!」 「最高の技でも無駄だ。オレ、お前より強い」 ブウが細い目を見開いてニヤリと笑った。 「強さには関係ない技なんだ」 ヤムチャはそう言ってブウに笑い返すと、懐からビンを取り出して床に置いた。 ビンには、「大魔王封じ」と書かれていて、「王」の字が上から「人」の字に書き直されている。 「あれは――!」 クリリンが叫んだ。ヤムチャは気を集中させると、 「魔封波だ!」 の掛け声とともに、手のひらから突風のような気を発射した。 388 :急襲のヤムチャ(2/3) :03/04/10 17:19 ID:8hjdbc42 しかし突風は正確に相手に向かわず、ブウの右腕を少しひねっただけで止んでしまった。 ヤムチャは荒い息をつきながら、しかし余裕の表情でそれを見ている。 「なんだ、今のは? 全然痛くなかったぞ」 ブウがキョトンとした顔で言った。 「本当に今のはなんだったんですか、クリリンさん。 あなたは知っているみたいな口ぶりでしたけど……」 悟飯がクリリンに尋ねた。 「魔封波っていって、命と引き換えに相手を封じ込めちまう大技だ。 武天老師様や天津飯はあの技が使えた……。きっとそれで覚えたんだろう」 クリリンが答えた。すでに落ち着きは取り戻している。 「今のが、最高の技なのか?」 ブウがヤムチャに尋ねた。 「ああ。最高の技だけにちょっと難しくてな。失敗しちまった」 ヤムチャが頭を書いてみせる。 「今のは嘘だ。魔封波は当てるだけなら難しくない。 当ててから上手くビンに封印するまでが難しいって聞いてる。 ……ヤムチャさんは、わざと不完全な魔封波を繰り出したんだ。 何故だろう? まともに魔封波を使うと死んでしまうからに決まってる。 じゃあもともと当てる気がなかったってことになるけど、何でわざわざそんなことを……」 クリリンが考え込んでいる間に、ブウが口を開いた。 「難しい? そうは見えなかった。お前が下手なだけだ。 オレはもう覚えた。オレがテホンみせてやる……」 ブウが両手に気を集中し始めた。 「し、しまった! それが狙いか! やめろ、ブウ! 技を止めるんだ!」 389 :急襲のヤムチャ(3/3) :03/04/10 17:20 ID:8hjdbc42 クリリンが叫んだ時には、すでにブウは魔封波を放っていた。 気の突風がヤムチャを襲うが、ヤムチャはニヤっと笑ったままその場を動こうとしない。 「魔封波返し!」 ヤムチャがそう叫び、両腕を前にかざすと、魔封波の突風は向きを反転してブウを捕らえた。 ヤムチャは操気弾の要領で、落ち着いて魔封波を誘導し、大魔人封じのビンに命中させた。 「や、やられた……!」 クリリンがくやしそうな声をあげた。 「な、なんですか、今のは? ブウがあのビンの中に……」 「魔封波返し。ピッコロがワルだったころ、魔封波対策として編み出した技だ。 ヤムチャさんは最初に見せ技として不完全な魔封波を放ち、ブウに技をコピーさせた。 魔人を倒すには魔封波はうってつけだけど、自分で使ったら死んでしまう。 それでブウの能力を上手く利用した……」 ヤムチャはゆっくりと大魔人封じのビンを拾い上げた。 「ブウは技のコピー能力と相手を吸収する能力を持っていた。オレと同じように……。 だが、無知だったから技の性質に気付かずに、あっけなく罠にはまってしまった。 戦いに関する知識や経験の差は、時にパワーよりも重要になるってことだ」 ヤムチャはビンのふたをしめた。 「なるほど……。だが、まだボクがいる。 同じ手は二度は使えないぞ。ヤムチャ……かかって来い」 悟飯がヤムチャの正面に立った。 現在のヤムチャ 戦闘力:355,150,100(界王拳5倍で1,775,750,500) 404 :急襲のヤムチャ(1/4) :03/04/11 16:59 ID:/HBue1Te 21 悟飯 ベジータを圧倒したブウがさらにパワーアップした、 そして超サイヤ人3になれる悟空が「かなわない」と評した、 あの邪悪な時のブウを、軽く叩きのめしてみせる最強の戦士。 それが、孫悟飯だった。 クリリンの観察でも、悟飯とヤムチャの間の戦闘力差はすぐにわかった。 ヤムチャを15億程度とするなら、その3倍以上。 悟飯は50億の戦闘力を有していた。 間違いなく勝てる。負ける要素はほとんどない。 それなのに何故か、クリリンはまだ不安だった。 「悟飯……。早めに勝負をつけた方がいい」 クリリンの言葉に、悟飯はゆっくりとうなずいた。 「わかっていますよ……、クリリンさん」 しかしその時、ヤムチャが動いた。高速で悟飯に飛び掛り、手刀を浴びせようとする。 「新狼牙風風拳!」 手刀は悟飯の首筋に入った。 続く蹴りも、打撃も、両手での掌打も、悟飯はすべて避けようともせず受け止めた。 そしてニヤリと笑って見せた。 「今度はこっちの番だ……」 悟飯はゆっくりと飛び上がった。 そしてすぐに、目にもとまらない速さの回し蹴りが、ヤムチャのみぞおちを直撃した。 ヤムチャは猛烈な勢いで吹っ飛ばされ、 神殿の床を転がると早くも重傷といった表情で起き上がった。 「つ、強い、な……」 「あなたよりもかなり、ね。 でも早めに勝負をつけさせてもらう。遊んで痛い目をみるのは、もうたくさんだ」 悟飯がヤムチャに向かって歩き出した。 ヤムチャはしかし、ニヤリと笑って見せた。 「やはりお前には勝てないか……。 まともに戦っては、な」 405 :急襲のヤムチャ(2/4) :03/04/11 16:59 ID:/HBue1Te 「まとも? 勘違いしているようだな。すべての攻撃はボクには通じない。 つまりどうあがいてもあなたはボクには勝てない……」 「すぐ油断するところは変わっていないな、悟飯。 戦いに勝利する方法は、攻撃だけじゃない……」 ヤムチャは両手に気を集中した。そして指先を合わせると、その手がぼんやりと光を帯び始めた。 「気功砲だ!」 クリリンが言った。 「"新"気功砲だぜ」 ヤムチャが訂正する。 「天津飯さんの最高の技、そしておそらく、あなたの最高の技でもある……。 だが、ボクにはダメージを与えられない」 悟飯が自信たっぷりに言い放った。しかしヤムチャはそれに輪をかけて自信たっぷりに、 「ダメージを与えなくても、勝つことはできるぜ」 といった。そして一瞬気功砲の構えを解くと、手を額にかざした。 「太陽拳!」 閃光に、悟飯とクリリンの目はくらんだ。しかし悟飯は冷静だった。 「隠れても同じことだ! 撃つなら撃ってこい! ヤムチャ!」 一瞬の後、悟飯の身体を強烈な衝撃が襲った。身体が上に流される。つまりヤムチャは―― 「下か!」 406 :急襲のヤムチャ(3/4) :03/04/11 17:00 ID:/HBue1Te 舞空術で体勢を整え、悟飯は下を見た。 神殿に穴があいていて――悟天がヤムチャに吹っ飛ばされた時の穴だと、 前にクリリンから聞いた――その穴の向こうに、ヤムチャの顔が見えた。 「下からの気功砲とは意外だったが、だがそれだけだ! 見ての通り、ボクにはまったくダメージはないぞ!」 「だからダメージを与えるとは、言ってないだろ」 ヤムチャはそういうと、もう一発新気功砲を放った。 悟飯の身体が上に流される。ダメージはない。 「何が、狙いなんだ……?」 悟飯のつぶやきに、ヤムチャが答えた。 「お前は新気功砲を喰らった直後、ダメージはないにせよ少しの間だけ動けずにいるな。 ……オレはそいつを予想していた。 この技はかつて、天津飯がセルの動きを止めるのに使った技だ。 さすがに天津飯とセルの差よりは、今のオレとお前の差の方が小さいだろうから、 新気功砲でお前の動きを止められることには自信があった」 「動きを止められても、勝つことにはならないだろう? 気功砲は気をかなり消耗する。いつかあなたの気は底をつく。それで、終わりだ」 「まあまあ、話は最後まで聞けよ」 ヤムチャはさらに新気功砲を放った。 再び悟飯の身体が上に流される。やはりダメージはない。 「セルは新気功砲を喰らった直後、地面にあいたでかい穴の底まで転落させられていた。 登ろうとしては落ち、登ろうとしては落ちを繰り返して、上手く時間を稼がれていた。 ……あ、オレはその時こっそり様子を見てたんだ。怖くて戦闘には参加できなかったけどな」 再び新気功砲が放たれた。 407 :急襲のヤムチャ(4/4) :03/04/11 17:02 ID:/HBue1Te 「さっきも言ったように、当時の天津飯とセルの差よりは、今のオレとお前の差の方が小さい。 つまりセルに起こったことは、悟飯、お前にも起こると予想できる。それもセルよりも大きな効果でな。 えーと、結論を言おうか。 悟飯、お前は新気功砲を喰らうたびに、少しずつ……、だが確実に、上方に飛ばされている。 そしてサイヤ人は、――宇宙空間では生存できない」 悟飯は気付いた。気を最大限にまで解放し、その場を離れようと試みる。 「遅い! 新気功砲の特性の一つは、この速射性にある!」 ヤムチャの新気功砲が、悟飯を捉えた。 身体が上に流される。抵抗できない。思っていたより強い力だ。 「宇宙まで押し飛ばしてやるぞ! 悟飯!」 新気功砲のペースが上がった。 クリリンが慌てて神殿の裏に回り、ヤムチャに向かってとび蹴りを放つが、 ヤムチャに片手ではたかれ、神殿の上にまで吹っ飛ばされてしまう。 そしてクリリンが何とか起き上がったとき、悟飯の気が消えた。 究極の戦士孫悟飯は、新気功砲によって大気圏外に追放されたのだ。 「天界で戦えたことは幸いだった……。ここは地上よりずっと宇宙に近いからな。 下界から宇宙にまで悟飯を飛ばすには、オレの気は足りなかったかも知れん」 ヤムチャは神殿の上まで昇ってくると、ゆっくり息をついた。 「さて、クリリン……。お前はどうする?」 現在のヤムチャ 戦闘力:355,150,100(界王拳5倍で1,775,750,500) 438 :急襲のヤムチャ :03/04/12 19:48 ID:XD46kQKv 22 クリリン(2) 「ヤムチャさん……」 クリリンが静かに言った。 「おう。どうするクリリン。 オレは見ての通り疲れきっているし、お前とオレとは兄弟弟子だ。 できれば戦いたくはないんだが……」 「なんでこんなよわっちいオレなんかが、今度のこの騒ぎの中で今まで生きてこられたと思う?」 クリリンの言葉に、ヤムチャはきょとんとした表情になった。 「どういうことだ?」 「オレが今まで生きてこられたのは、仲間が――悟天とか、今の悟飯とブウとか――が、 オレのことを死なないように気をつけてきてくれてたからなんだ。 気円斬がヤムチャさんに奪われてしまったら、戦況が左右されかねないから、って」 ヤムチャは、黙ってクリリンの話を聞いていた。 「ピッコロが言っていた。気円斬は上手く使えば、悟空だろうと一撃で倒せてしまう技だって。 だからあんたに渡ると危険すぎるって。 でも、オレは気付いたんだ。それってつまり――」 クリリンは、右手に気を集中した。 「気円斬を上手く使えば、オレでもあんたを――」 右手を上にかざし、気を薄い円盤状にして回転させる。 「倒せるって、ことだッ!」 439 :急襲のヤムチャ :03/04/12 19:48 ID:XD46kQKv クリリンの放った気円斬は、まっすぐヤムチャの首筋に向かって飛んでいた。 ヤムチャは疲れていたせいか、ほとんど棒立ちの状態だ。避けられそうにはない。 そして気円斬は、絶対に防御する事は出来ない。 勝ったとクリリンが確信した瞬間、ヤムチャは残念そうに首を振った。 「クリリン、残念だ。戦いのレベルは、もうお前よりはるか上に来てしまっている」 ヤムチャはクリリンの正面へ向き直り、 気円斬の円盤を、シンバルでも叩くように両手で上下から挟み込んだ。 回転の摩擦で手から煙が立ち昇るが、ヤムチャは力を緩めなかった。 そして気円斬は、ヤムチャの両手の突起に吸収され、小さくしぼんで消えてしまった。 「クリリン、残念だ。お前を殺さなければならないなんて」 ヤムチャの姿が、クリリンの視界から消えた。 そして一瞬の後、後ろからのヤムチャの手刀でクリリンは気を失った。 現在のヤムチャ 戦闘力:355,300,100(界王拳5倍で1,776,500,500) 493 名前: 急襲のヤムチャ(1/4) [sage] 投稿日: 03/04/14 17:19 ID:mwN8FTRQ 23 トランクス エイジ784年5月29日、午前10時12分。 トランクスはパンとともに、南の都近辺の岩場を探し回っていた。 パンが自分もヤムチャを捜しに行くといって聞かなかったので、仕方なくつれてきたのだ。 「こっちにはいなかったよー!」 パンが一際高い岩の上から手を振った。トランクスは力なく手を振り返す。 どう伝えるべきだろう。悟飯が死んだことを。 50分ほど前に、突然天界の方角から戦いの気を感じた。 そしてブウ、悟飯、クリリンの気が順番に消えていった。 パンは気を感じる力を持っていないから、幸い(といっていいのかわからないが)まだ気付いていない。 しかしそれは、トランクスが教えてやらなければいけないということでもある。 気が重かった。 パンに肩を叩かれて、トランクスは我に帰った。 「何ボーっとしてるの?」 「い、いや、ヤムチャさんの気を探ってたんだよ」 トランクスは咄嗟にごまかした。しかしこのごまかし方は、あまり得策とはいえない。 「で、どう? 何か見つかった?」 ――こう聞かれるからだ。 50分前に一度見つけている。そしてその時に、悟飯が死んだ。 できればこの話題を続けるのは避けたかった。 「いや。……この辺りにはいないのかもしれないな。都へ行って聞き込みでもしてみようか」 「その前に、一つ聞いていい?」 「ああ、なに?」 「あそこの木」 といってパンは葉の生い茂った細身の木を指差した。 「なんであんなに傾いてるの?」 木は、ちょうどトランクスたちの逆側へ向けて、奇妙なほど反り返っていた。 明らかに普通ではない。何かが潜んでいるのだ。 トランクスはパンを突き飛ばした。その一瞬後、木からバネのように跳ね飛ばされ、 ヤムチャが猛スピードで突っ込んできた。 494 名前: 急襲のヤムチャ(2/4) [sage] 投稿日: 03/04/14 17:19 ID:mwN8FTRQ トランクスは計算する。 受け止めるのは無理だ。もう超サイヤ人になる暇がない(なっても無理かもしれない)。 避けるか? あたりは岩場だ。障害物が多すぎて飛びのくことは出来ない。 ならば。トランクスは小さく飛び上がると、ヤムチャの横っ面を右足で思い切り蹴り飛ばした。 ヤムチャの軌道が45度ほど修正され、岩場に激突する。 「いたた……。ひどいことしやがるな、トランクス」 トランクスは気を開放した。超サイヤ人となり、追い討ちをかけようとする。 しかし踏み切る右の足がグラついて、攻撃が遅れた。足を痛めてしまったらしい。 その間にヤムチャは体勢を立て直す。 「充分な気の力なしで、突っ込んでくるオレを蹴り飛ばしたんだ……。そうなって当然。 裸足で自動車を思い切り蹴とばすようなものだからな」 ヤムチャは立ち上がり、トランクスを見下ろした。 本気ではない。界王拳すら、おそらく使ってはいない。 それなのに凄まじい威圧感を感じる。 せいぜい悟天より少し強い程度の自分とは、相当な力の差があるようだ。 おまけに足の感覚が戻らない。 トランクスは冷や汗を右手で拭うと、静かに口を開いた。 「……負けるわけには行かない。悟飯さんのカタキは取らせてもらう」 「あ、バカ! 言うな!」 ヤムチャが言った。トランクスも気付いて、慌ててパンの方を振り返る。 パンは眼を丸くして、トランクスに向かって何か聞きたそうに口を開いた。 しかし、トランクスにパンの言葉は届かなかった。 振り返ってヤムチャから目を離した瞬間、後頭部に膝蹴りを喰らったのだ。 「……二重にバカだ、お前は」 トランクスは何とか立ち上がったが、足のダメージもあって歩く事すらままならなかった。 495 名前: 急襲のヤムチャ(3/4) [sage] 投稿日: 03/04/14 17:20 ID:mwN8FTRQ トランクスは計算する。 もはや、まともに戦うのは無理だ。もともと力に格差があるところに持ってきて、条件が悪すぎる。 勝算がある戦い方は、―― 一つしかない。 だが、それも、この足のダメージでは難しかった。一旦ヤムチャを捕らえなければならないのだ。 トランクスがあきらめようとした時、甲高い雄たけびがあたりに響いた。 パンだった。父親の仇であるヤムチャに向けて、気をいっぱいに使ったエネルギー波を放つ。 サイヤ人と地球人の混血の力か、そのエネルギー波の威力はトランクスのものに勝るとも劣らなかった。 もっともトランクスがこれを放ったなら、ヤムチャも軽くあしらえただろう。 しかしヤムチャはトランクスに意識を集中していた。そのせいで、最初の反応が遅れた。 ヤムチャは焦りの表情を浮かべたが、何とか両手を使ってエネルギー波を吸収することに成功した。 が、今度はその作業に意識を集中しすぎ、トランクスから注意がそれた。 その隙にトランクスは左足を使って跳躍し、ヤムチャを後ろから羽交い絞めにした。 「なんとか捕まえたぞ、ヤムチャ……。もうお前は手も足も出ない」 「確かに、見事につかまっちまったようだな。……で、ここからどうする? パンにもう一発撃ってもらうってのは、無理みたいだぜ」 ヤムチャが顎で指し示した。パンは完全に力を使いきり、気絶している。 トランクスは小さく深呼吸すると、はっきりとした口調で質問に答えた。 「……自爆する!」 496 名前: 急襲のヤムチャ(4/4) [sage] 投稿日: 03/04/14 17:20 ID:mwN8FTRQ 「じ、自爆、だと?」 ヤムチャが驚いた口調になった。 「ああ、あんたとともに死んでやる」 「ま、待てよトランクス。オレもそうだが、お前だって自爆の経験なんかないだろ? 万が一失敗して、単なる爆発波にでもなったら――」 「かつて父さんがやってみせたことだ。……オレを庇うために。 絶対に、失敗はしない!」 話し合いながらも、二人は舞空術でゆっくりと上昇していた。 南の都が見える高度まできたのに気付き、ヤムチャが言った。 「本気、みたいだな……。上空まできたのは、パンを爆発に巻き込まないためだろ? ハッタリじゃあ、ないんだな」 「……いくぞ、ヤムチャ」 トランクスは溜めていた気をすべて、限界を超えて放出した。 まず閃光が、続いて轟音があたりを包み、最後に爆煙が空高く巻き起こる。 風が煙をゆっくりと吹流し、トランクスが地面へと落下した。 かつてのベジータのように、その身体は灰となっていた。 ヤムチャは、それを上空から見守っていた。 「危なかった。見事な覚悟だったぜ、トランクス。 オレは確かに手も足も出なかった……。四妖拳を使わなければな」 ヤムチャはゆっくりと飛び去ろうとした。が、すぐに空中で停止した。 目の前にベジータが立ち塞がっていたからだ。 現在のヤムチャ 戦闘力:375,300,100(界王拳5倍で1,876,500,500) 続く 531 名前: 急襲のヤムチャ(1/5) [sage] 投稿日: 03/04/16 18:15 ID:FrSwh8VA 24 ベジータ(2) 「久しぶりだな、ヤムチャ。 と言っても、前に会ったときからそんなに日にちは経っていないが……、 ずいぶん戦闘力を上げたじゃないか」 ベジータは落ち着いた口調でいった。 「あ、ああ……、お陰さまでな」 「この俺が叩きのめすのにふさわしいパワーだ……。勝負しようぜ」 「それは望むところだが……。 ずいぶん冷静だな。オレのこと怒ってないのか?」 「トランクスのことなら、あいつはまっとうに勝負してお前に負けた。 前のブラの件も、オレが冷静さを欠いていただけの話だ……。 だが!」 ベジータの髪が金色に変化した。 「怒っていないなどと勘違いしてくれるなよ? 貴様は殺す! チリ一つ残らず消滅させてやるぞ!」 「そうそう、その反応の方がお前らしい……。だが、」 ヤムチャは素早く亀仙流の構えを取ると、一瞬で距離をつめベジータに肘から体当たりした。 「殺すってのは無理があるな。お前はオレより弱い」 532 名前: 急襲のヤムチャ(2/5) [sage] 投稿日: 03/04/16 18:15 ID:FrSwh8VA ベジータは即座に反撃した。 右足での回し蹴り。ヤムチャには軽く避けられてしまう。 しかしこれは見せ技。防御される事はわかっている。 ベジータはそのまま身体を空中でひねり、全体重をかけて左で後ろ回し蹴りを放った。 ヤムチャは左腕でガードする。防御は硬く、押し切れない。 ベジータは一旦左足を引き下げヤムチャに背を向けると、素早く宙返りしてヤムチャの脳天に右足を振り下ろした。 ヤムチャは地上へと真っ逆さまに落下していったが、苦もなく着地する。 ベジータはチッと舌打ちをすると、ヤムチャの近くに降り立った。 ヤムチャは軽く指の骨を鳴らすと、余裕たっぷりな口調で言った。 「今度はこっちの番だ。地上戦ならこいつが使える……、新狼牙風風拳!」 ヤムチャの猛攻が始まった。 一撃で大ダメージを受けるほどの力の差はない。 しかし、速い。防御が追いつかない。 ベジータはじりじりと少しずつ、確実に体力を削られていった。 何十発目かのパンチを喰らい、ベジータは吹っ飛ばされ大岩に激突した。 ヤムチャはこれをチャンスと見て、素早く右手に気を溜めると特大のエネルギー弾を放った。 エネルギー弾はまっすぐに、かなりのスピードでベジータに向かう。 しかしベジータは不敵に笑った。 「こいつを待っていた……! 貴様がオレにとどめを刺そうとする瞬間をな! まったくイライラさせられたぜ……。 うおおおおお!!」 ベジータは両手の拳を組み合わせると、気でその拳を包み込み、思い切りエネルギー弾に向かって振り下ろした。 エネルギー弾はベジータに跳ね返された格好となり、一直線にヤムチャへと向かって行く。 「オレは知っているぞ! 貴様は自分自身の気は吸収できんのだ! 自分の技で消し飛ぶが良い、ヤムチャ!」 533 名前: 急襲のヤムチャ(3/5) [sage] 投稿日: 03/04/16 18:16 ID:FrSwh8VA しかしヤムチャはエネルギー弾を避けようとも防御しようともせず、 右手中指と人差し指をぐるぐると回すような動作をした。 そしてエネルギー弾は、そのヤムチャの指の動きにあわせるように、ぐるぐると空中を旋回し、 やがてヤムチャの傍らで静止した。 「な、なんだと……! エネルギー弾を操った……?」 「お前は敵となったオレの特徴はよく把握していたようだが、 そうなる以前の無害な人間だったオレについては予習を怠っていたようだな。 割と近所に住んでいたのに、眼中になかったってことか……。少し寂しいぜ。 このエネルギー弾は操気弾といって、オレの意思で自由に操る事が出来る」 ヤムチャはそういうと、勢いよく指でベジータを指し示した。 操気弾はその命令に従い、再びベジータへと向かって行く。 ベジータはそれから何度も操気弾を弾き返したが、操気弾はヤムチャに届く前に再び操られ、 それを繰り返すうちに段々体力が落ちていき、ついに跳ね返しきれずにダメージを負った。 「そろそろ最後の時が近づいてきたようだな」 ヤムチャがベジータに歩み寄る。 ベジータは残った全力を込めて右ストレートを放ったが、ヤムチャには軽く受け止められてしまう。 続いて左ストレートを放とうとするが、今度はヤムチャに足払いをかけられてすっ転んでしまった。 「足元がお留守だぜ、ベジータ」 ヤムチャは余裕を見せて言った。 「ク……ククク……。なんて無様なんだ……。 このオレが、サイヤ人の王子ベジータが、地球人ごときに子ども扱いとは……。 おまけに、たかがナメック星人の忠告を参考にして――」 ベジータは気を練り上げた。 もう超サイヤ人2を維持するのも限界が近く、ほとんど気は集まらなかったが、目的には充分足りる。 「逃げることになるとはな!」 ベジータは全身から気を噴出した。 爆発波。威力はない。ヤムチャにダメージを与える事は期待出来ない。 だが、目くらましは充分出来ているはずだった。 「首を洗って待っているがいい、ヤムチャ! アタマに来ることだが、オレはカカロットに協力を求めに行く! 超サイヤ人ゴジータが、貴様を倒すのだ!」 534 名前: 急襲のヤムチャ(4/5) [sage] 投稿日: 03/04/16 18:16 ID:FrSwh8VA ベジータはそういうと、素早く入り組んだ岩場の中へと潜り込んで気を消した。 ここでヤムチャをやり過ごし、そのあとで悟空の元へ向かい、……フュージョンするつもりだった。 「ベジータ……。まさかお前が、悟空に助けを求めに行くとはな。 しかも、フュージョンする、だと。 人は変われば変わるもんだ……。このオレのように。 だが、逃がすわけには行かない」 ヤムチャは特大の操気弾を作り出すと、自分から500mほどはなれた位置に静止させた。 そして、指をぐるぐると回し始めた。操気弾も当然回る。岩を削り、木々をなぎ倒して。 操気弾はそのまま、すこしずつ回転する半径を小さくしていった。 ベジータは操気弾が一周するたびに追い詰められ、ヤムチャのいる円の中心へと近寄らされて行く。 「どうだ! このまま操気弾に巻き込まれるか、避けてオレに見つかるか、二つに一つだ!」 ベジータはチッと舌打ちをすると、最後の気を振り絞って超サイヤ人2へと変化した。 「答えはもう一つある! 貴様を、殺してやる!」 そしてヤムチャへと飛び掛っていったが、寸前でヤムチャの拳を胸に受け、そのまま地面に突っ伏した。 「ヤ、ヤムチャ……。 アタマに来るが認めてやる。貴様は、オレより強い……。 だが、カカロットには勝てんぞ……。あいつには、超サイヤ人3には……」 「やってみなくっちゃわかるまい」 「わかるんだよ……。なぜならここでこのオレが、貴様にとっておきの嫌がらせという奴をするからだ」 ベジータはそういうと、身体中から力を抜いた。 金色のオーラが止んでいき、彼は超サイヤ人2ではない通常の状態へと戻った。 535 名前: 急襲のヤムチャ(5/5) [sage] 投稿日: 03/04/16 18:17 ID:FrSwh8VA 「な、なに!」 「オレにはわかる……。今の貴様はオレより強いが、カカロットよりはるかに弱い。 超サイヤ人のオレの戦闘力を吸収してカカロットを倒すつもりだったのだろうが、当てが外れたな……。 さあ、オレを殺し、数百万程度の戦闘力を自分のものにするがいい! そしてカカロットに殺されろ。サイヤ人の強さって奴を、思い知るんだな……。ククク……」 ベジータはそういうと気を失った。 ヤムチャは超サイヤ人ではないベジータの気を吸収し、 ほんの僅かの強さと全快近くまでの体力を手に入れた。 そして、一息ついたとき、「ビッ」という風を切るような音がした。 ヤムチャにはその音が何か、すぐにわかった。 「よう、悟空。やっと目が覚めたか。 もう戦士はお前しかいない。 お前が最後だ……。勝負しようか」 瞬間移動で飛んできた孫悟空は、すぐ近くに倒れているベジータの遺体を一瞥すると、 ヤムチャに向かってゆっくりとうなずいた。 現在のヤムチャ 戦闘力:380,300,100(界王拳5倍で1,901,500,500) 続く 553 名前: 急襲のヤムチャ(1/3) [sage] 投稿日: 03/04/17 17:25 ID:pRGr0HYQ 25 悟空 エイジ784年5月29日、午前10時42分。 南の都近辺の岩場。 孫悟空は静かに亀仙流の構えを取った。目の前にはヤムチャが、不敵な表情を浮かべ立ち塞がっている。 「こんなこと言っちゃ、悟飯やベジータに悪いのかもしんねぇけど」 悟空が口を開いた。 「オラ、今すっげえワクワクしてる。 戦士たちはみんなやられちまった……、おめぇが全員倒したんだ。 悟飯も、ベジータも、ブウも、ピッコロも……、全員だ。 こんなの今までどんな奴にだって出来なかったことだ」 「ワクワク、だって? お前が、オレ相手にか? ……そうか。オレもそこまでになれたのか。 この戦いはやはり無駄ではなかった」 ヤムチャは少し遠くを見るような表情になった。 「なに全部終わっちまったみたいな言い方してんだよ? 言っとくけどオラは、そう簡単にはやられねぇつもりだぞ」 その言葉に、ヤムチャは遠くを見る目つきを止め、悟空にまっすぐ視線を向けた。 「終わったのさ」 「なに?」 「"悟空以外の全員を倒すこと"……。これがこの戦いの目標だった。 もうオレの戦いは終わっている」 「何言ってんだよ? まだオラが――」 「悟空、お前はオレのヒーローだった」 ヤムチャが突然口調を変えた。悟空が不審げな表情でヤムチャを見る。 「オレだけじゃない。クリリンも、ブルマも、あのベジータでさえそう思ってたはずだぜ。 お前は強かった。もっとも、ただ強いだけなら悟飯の方が上だ。 お前には強さ以外のなにかがあった」 554 名前: 急襲のヤムチャ(2/3) [sage] 投稿日: 03/04/17 17:26 ID:pRGr0HYQ ヤムチャの話は続く。 「お前はどんなに強い奴に、どんなに追い詰められても最後には必ず勝利してくれた。 悟飯やベジータはどんなに強くても、それ以上に強い奴相手にはやられる。 だがお前は自分より強い奴も倒すことが出来た……。 お前は運命に味方されている。お前は、カリスマなんだ」 「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけどさ。 オラには話が見えねぇ」 「まあ、待てよ。 オレはドラゴンボールを捜しながら、この戦いの計画を立てていた。 ベジータや悟飯に対する作戦なら割とすぐに立てられた。 だが、その時気付いたんだ。 オレがどんなに強くなっても、どんなにすげぇ技を身につけても、 お前には勝てる気はしない――てさ。 だからオレは決めた。 お前は最後に残して、絶対確実に、 卑怯といわれようとも100%勝てる手段で倒すことにしようってな」 ヤムチャはそういうと、突然悟空に向けて自分の両手をかざした。 悟空はヤムチャの手のひらの突起を見た。 と、同時に強烈な腹痛に襲われ、悟空は亀仙流の構えを解いてうずくまった。 「こ、これは覚えがある……。チャオズの、超能力」 「そう。隙だらけになってしまう技だが、他に一人も戦士がいない状況では利用できる」 「へ、へへ……。でも、オラ知ってっぞ……。 超能力を使ってる最中は両手が完全にふさがっちまう。 攻撃が蹴りだけなら、オラ、耐えて見せる」 「ところがそうはいかないんだな……。 お前は今、オレの両手に注目している。 超能力を使った理由その2、だ」 ヤムチャは両手を怪しく上下に動かした。 悟空は思わずその動きを目で追う。いや、視線が吸い寄せられる。 悟空とヤムチャの、目と目が合った。 そして次の瞬間には悟空は眠りに落ちていた。 555 名前: 急襲のヤムチャ(3/3) [sage] 投稿日: 03/04/17 17:26 ID:pRGr0HYQ 「よいこ眠眠拳……。武天老師様の技だ。 悟空、お前の唯一の弱点を教えてやろうか? お前は素直で真面目すぎる。 フェイントや術の類にかかりやすすぎるんだ……。 さて、悟空。催眠術でお前に命令する。 超サイヤ人3になれ!」 意識を失った悟空の身体から、金色の気が噴き出して来た。 ヤムチャは悟空の身体に手を触れる。 これまでにないほど大量の気が、ヤムチャの身体に流れ込んで行く。 吸収は終わった。 ヤムチャはゆっくりと気を解放する。 それでも大地は揺れ、圧力で雲が吹っ飛び、あたりは嵐のような突風に包まれる。 「これが、超サイヤ人3の力……。 そして、これが!」 ヤムチャの身体を赤いオーラが包んだ。 「界王拳20倍!」 その瞬間、あたりの空気がすべて吹き飛んだ。 音もなく、風もない。ヤムチャは完全な静けさを感じた。 一瞬の後、空気が再び周りに集まって来る。 ヤムチャは一つ深呼吸をすると、高らかに叫んだ。 「このパワー! この圧倒的なエネルギー! オレはついにこれを手にした。 プーアル! 武天老師様! 見てくれ! 俺は天下を取ったんだ!」 その時、ヤムチャの身体を何かが貫いた。 血が噴き出し、身体から力が抜け、ヤムチャは地面に突っ伏した。 現在のヤムチャ 戦闘力:3,380,300,100(界王拳20倍で67,606,002,000) 続く 564 名前: 急襲のヤムチャ(1/5) [sage] 投稿日: 03/04/17 23:49 ID:pRGr0HYQ 26 17号 「気円斬。たしかオレの義理の兄が得意としてた技だったか。 ガラじゃないが、仇討ちってことになるのかな……」 ヤムチャの足元、操気弾によって崩れた岩場の影から、17号がゆっくり歩み出て来た。 「じゅ、17号……。 そうか、調子に乗ってお前の存在を忘れていた……。失敗だったな……」 「狙ったわけじゃないが、首の血管と神経が切れているはず……。 もう身体が麻痺して動かないだろう? そして数分で命も尽きる」 「あ、ああ……。オレの負けだ。 だけど何でこの場所が分かったんだ? お前には気を感じる能力はないはず。だからオレの計画からは無視されていたわけだからな」 「こいつだ」 17号は、ジャンパーのポケットから色つきの片メガネのような物を取り出した。 565 名前: 急襲のヤムチャ(2/5) [sage] 投稿日: 03/04/17 23:50 ID:pRGr0HYQ 「ス、スカウター……!」 ヤムチャが驚いた口調でいい、喉を詰まらせて何度か咳をした。 「ああ。カプセルコーポレーションの女社長から呼び出しを受けてな。 こいつを渡されたってわけだ」 「そ、そうか……。気付いておくべきだった……。 何故、ヤジロベーにオレの居場所がわかったのか……。 何故、ブルマがわざわざブラに天界への届け物を担当させていたのか……。 考えれば、わかることだったのに」 「……まあ、てめえはよくやったさ。 たった一人で、ソン・ゴクウもベジータもピッコロみたいな奴も倒したわけだからな。 これ以上を望むのは贅沢って奴だ……。 じゃあ、あばよ」 17号がヤムチャを狙ってエネルギー波を放とうとした瞬間、 スカウターが甲高い「ピーピー」という音を立て始めた。 「警戒信号? どういうことだ。 ヤムチャ以外に、このオレが警戒しなければならないほどの強さを持つ者がいるわけないのに……」 17号はスカウターを手にとった。 現在のヤムチャ 戦闘力:3,380,300,100(界王拳20倍で67,606,002,000) (ただし、現在瀕死のため戦闘力は10前後) 566 名前: 急襲のヤムチャ(3/5) [sage] 投稿日: 03/04/17 23:50 ID:pRGr0HYQ 27 ヤムチャ 「ば、馬鹿な! 何だこの数値は! こ、故障したのか……?」 17号がスカウターを覗き込んで声をあげた。 「どうか、したのか……?」 ヤムチャが質問する。 「ソン・ゴクウの気だ……! ベジータもいる。 ピッコロも、クリリンも、天津飯も復活している……! ど、どういうことだ?」 「ナメック星のドラゴンボールだ」 ヤムチャが説明した。 「悟空が……、死んで、天国へ行った。 そしてそこから、界王様か界王神様のところへ瞬間移動したんだ。 あのふたりのどっちかが協力すれば、悟空はナメック星人たちと連絡が取れる。 そしてポルンガを呼び出して、地球でオレに殺された連中を生き返らせた……」 「な、何だと! そんな方法があったのか! しかしそれでは……」 17号はヤムチャのほうに向き直った。 「それでは地球を滅ぼすことなど不可能じゃないか! 何度戦士達を全滅させても、そのナメック星のドラゴンボールとやらを使われたら また最初から、だ。 オレたち姉弟を使ったゲロの奴の復讐も、セルやバビディの野望も、フリーザって野郎の地球侵略も、 すべては最初から不可能なことだったのか!」 17号はやりきれないような顔をした。 自分たち姉弟の運命を大きく変えてしまったゲロの行動は、最初から全く無駄なことだったのだ。 567 名前: 急襲のヤムチャ(4/5) [sage] 投稿日: 03/04/17 23:51 ID:pRGr0HYQ 「そうだ。オレの場合は相手を倒す度に強くなれるが、 それでもいつか――それこそ魔封波なり、宇宙に放り出されるなりで、 やられちまうだろうな。 オレが悟空を最後に倒すことにこだわったのは、 そうしなきゃ天下を取るのが不可能だからでもあるんだ……」 「てめえはそれを知っていたのか?」 17号は強い口調でヤムチャに迫る。 「てめえは本当にそれでいいのか? かつてゲロの資料で読んだ……。 格闘家・ヤムチャはピッコロ大魔王とその息子による世界支配の阻止、 ベジータ・ナッパによるドラゴンボールをかけた戦いでそれぞれ微力ながらも力を尽くし、 平和な時代にはその体力を生かしてスポーツや人助けをするなど、 他の戦士達に比べても地球への貢献度は高かった、とな。 そのまま行けば、かつての盗賊稼業のことを差し引いても充分天国へ行けたはずだ。 てめえはどうせ一瞬しか持たない天下を取るために、天国での暮らしを捨てちまったんだ!」 「17号……。 オ、オレは、お前の言うとおり、他の奴らに比べても、 ……なんていうか、そうだな、平和的な暮らしをしていたし、望んでもいた。 格闘家に、なりきれていなかった……。 他のみんなとオレとの違いは何かっていうと、オレは考えたんだが、野心、だったんだと思う」 17号は黙って聞いていた。 「他のみんなは……。 悟空も、ベジータも、ピッコロも、天津飯も、たぶんクリリンだって、考えは一緒だった。 "誰よりも強くありたい"って、そう思っているだけだった。 だから、強くなった。 オレは違った。オレは最初から天下になんか興味はなかった。 だから弱いままだったんだ……。 この戦いを始めて、ただ天下を取るためだけにガムシャラに力を振るってみたら、 オレはこんなにも強くなれた。 みんなの敵になったことで、みんなの、……格闘家の、仲間入りが出来たんだ」 568 名前: 急襲のヤムチャ(5/5) [sage] 投稿日: 03/04/17 23:51 ID:pRGr0HYQ 「ヤムチャ……」 17号は静かに口を開いた。 「やはりオレには理解できない。 てめえはそれで……、虚しく、ならないのか?」 「む、虚しい……、だって? そうか、……これが、虚しさってやつなのか。 オ、オレにも、これを感じることができたわけか……」 「なんだ? 何を言っている? おい、ヤムチャ!」 17号はヤムチャを二三度揺さぶったが、すぐに手を離した。 「こいつ……。死んでいる」 エイジ784年5月29日、午前11時00分。 ヤムチャは、ついに息絶えた。 17号はヤムチャの亡骸を、いつまでも見つめていた。 しばらくして、東の方からスカイカーに乗ってヤジロベーが現れた。手にはスカウターを持っている。 「やいやいやい! ヤムチャ! なんだか知らないがお前、今ずいぶん弱っているな! とどめはこのヤジロベー様が刺してやる! 覚悟するんだな!」 そして西の方から飛空挺に乗ってサタンが現れた。手にはスカウターを持っている。 「オラオラオラ! ヤムチャ! 戦闘力10のお前なんかこの私がギッタンギッタンのメタメタにぶちのめしてやるぞ! ブウのカタキだ! だーはっはっは!」 二人は顔を見合わせた。 終わり