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地獄の門番

 

232 名前:地獄の門番・1話 [sage] 投稿日:03/04/05 15:11 ID:CclKPfd/
砂漠の狼・ヤムチャはサイヤ人たちとの死闘(実際戦ったのはサイバイマンだが)に敗れ、
殺されてあの世の入り口にきていた。あの世へいくと魂だけとなり、エンマ大王から
天国行きか地獄行きかの裁きを受ける。
しかし、同伴の地球の神様(死者ではない)はエンマ大王に下界で起きていることを説明し、
ヤムチャを裁きにかけずに界王様(宇宙の神)のもとで修行させるお願いをした。
もちろん、修行の為にヤムチャの肉体と魂は分離せずに一体となっている。
神様の配慮で、特別に肉体をあの世へ持ってきていたのだ。
しかし、エンマ大王の答えは「No」であった。
「し、しかしエンマ大王様。このヤムチャの武術の腕は相当なものですぞ!」
神様は1年ほど前、ヤムチャの盟友・孫悟空をここに連れてきて、同じお願いをして
「Yes」の答えをもらっていた。そして今、逆の答えが出たことに面食らってしまった。
「こやつの実力がこのワシと同じ位だということはわかっておる」
エンマ大王は落ち着いた口調で言った。
「では、なぜ?」
神様は上司の命令に納得していないヒラ社員のような、半ばふてくされた態度だった。
「実はだな、地球の神よ。地獄の門番・ナナシが魂の選択をして天国へ行ってしまい、
今地獄の門番がいないのだ。適任者不在で1ヶ月が過ぎてしまったところで、その任に
ふさわしい男が来てくれたというわけだ」
エンマ大王は一言ひとこと確かめるように丁寧な口調で言った。
「なるほど、地獄の門番か・・・おもしろそうだな!生き返るまでやってみるのもありだな!」
ヤムチャは勢い込んで言った。
そうは言っても実のところ、ヤムチャは自身とサイヤ人たちとの実力差をイヤというほど
知ってしまった。というより自分はサイヤ人と戦ってすらいない。雑魚キャラに命を奪われて
おめおめとあの世へ来てしまったことを腹立たしく思う反面、修行してもこれ以上強くなる
ことはないだろうという諦めの境地に達していたのだ。
できることなら仲間達が敵を全滅してくれるまで生き返りたくないというのが本音であった。

235 名前:地獄の門番・2話 [sage] 投稿日:03/04/05 17:38 ID:0FK8Nrnu
「ヤムチャよ、それでよいのか?」
神様は小声でヤムチャに聞いた。
「はい。それに、もうすぐ悟空は地球に戻るんでしょう?」
ヤムチャにとってはそのことが地獄の門番を引き受ける一番の契機であった。
―悟空ならきっとサイヤ人を撃退してくれる!オレがわざわざ修行しなくったって・・・―
「ではヤムチャよ、地獄の門番となってしばらくの間ガンバってくれ!!」
エンマ大王はヤムチャの気が変わるのを恐れてか早口でまくし立てると、ヤムチャ達を死者の
魂の列から退くように促した。

地獄の門とは、他人に殺されたり不慮の事故で亡くなった者の魂が必ず訪れなければ
ならないところである。そして、そこには「それらの死者の魂は3つの選択の内1つを
選ばなければならない」という掟がある。
それは、
1)死を受け入れ天国に行き、再生を待つ(生まれ変わる準備をする)。
2)死を受け入れず、霊となって現世をさ迷う。
3)現世の人間をひとり呪い殺す。その場合、自身の魂は地獄へ逝き終わりのない苦痛を
  受け続ける。
地獄の門と死者の魂の橋渡し役が「地獄の門番」である。死者の魂の選択を承り、門を開くのが
主な使命だ。エンマ大王の直属の部下である。
ちなみに、エンマ大王が裁くのは原則として自然死で亡くなった者の魂である。
そこで、現世での罪の軽重や数を換算して天国行き、地獄逝きかの裁きを下すのである。

ヤムチャはエンマ大王の側近とともに地獄の門へ行くのであった。

267 名前:地獄の門番・3話 [sage] 投稿日:03/04/06 14:33 ID:CmhGngVT
「地獄の門番は、本当は現世での名前を使わず【ナナシ】と名乗らなくてはいけないのです」
地獄の門番へ行く途中で、エンマ大王の側近はヤムチャに語り出した。
「しかし、エンマ大王様のご好意によってあなたは現世での名前を使えるようになって
良かったですね」
側近はヤムチャの幸運を称えて言った。
「地獄の門番はあなた方が勤めることはできないのですか?」
ヤムチャは胸に抱いていた疑問を晴らしたくて思わず聞いた。
「はい。我々鬼は殺された人の魂の【負のエネルギー】に数分間接しただけで消滅してしまう
もので・・・・・」
鬼の説明にヤムチャは納得した表情であった。

地獄の門についたヤムチャ。側近は別れの挨拶をして去っていった。
「さて、ひと仕事するか・・・」
ヤムチャは薄暗く、肌寒い地獄の門の前に立ってひとりつぶやいた。
地獄の門はオリエンタルな造りで、幅4〜5メートル、高さ7〜8メートルはあろうかという荘厳な
出で立ちであった。辺りには霧が立ち込めていていた。
ヤムチャが地獄の門に来て数時間が経過した。
すると、ひとりの大男が地獄の門にやってきた。スキンヘッド、口ひげを生やしていて人相が悪い。
ヤムチャはその男に見覚えがあった。
「お、お前はサイヤ人のナッパ!!」
ヤムチャは驚いて思わず叫んだ。
「・・・なんだ?誰かと思えばカカロットの仲間の地球人じゃねぇか」
ナッパ(の魂)は薄暗い周囲の中からようやく人を見つけると、安堵の表情をにじませた。

<続>

268 名前:地獄の門番・4話 [] 投稿日:03/04/06 14:57 ID:CmhGngVT
「オレは地獄の門番・ヤムチャとなった。他人に殺された者や(中略)魂の選択を承る者だ。」
「・・・そうか、俺はカカロットの奴に・・・じゃねぇやベジータに殺されたんだ!」
ナッパはカカロット(孫悟空)と戦闘し敗北、そして、仲間のベジータにとどめを刺されたことを
思い出して、苦々しい表情をして叫んだ。
「ここで、お前は3つの選択を(以下略)」
ヤムチャは激怒しているナッパに殺された者の魂の取るべき3つの選択を説明した。
「なるほど、そういうことか・・・ヘヘヘ。もちろん現世の人間をひとり呪い殺すに決まってるぜ!」
ナッパはニヤリと笑ってそう言い放った。
「しかし待てよ。カカロットにするかベジータにするか・・・」
ナッパはどちらにしようかな、のポーズを取ってひとり思案している。
「決めかねているなら一度現世に降り立ってみたらどうだ?」
ヤムチャはそう言うと、ナッパの目を凝視した。
ナッパはヤムチャを見返すと、ヤムチャの目に吸い込まれるような感覚を覚えた。
ナッパの意識が一瞬飛んだかと思うと、ナッパは先ほどまでいた地球の戦場に立っていた。

(うおお!?どうなっちまってんだ?)
ナッパのすぐ近くでは孫悟空とベジータの死闘が繰り広げられていた。凄まじい攻防であった。
(なんてやつらだ!すげー戦いをしてやがる!!)
魂だけになったナッパでも戦闘民族サイヤ人の血が騒ぐのだろう。
(ヘヘヘ、こいつらの戦闘を見てから、どっちを呪い殺すかを決めるのも手だな)
ナッパは心でそう決断した。
(共倒れになればベターなんだがな、くっくっくっ)
心でほくそ笑むナッパであった。

<続>

382 名前:地獄の門番 [sage] 投稿日:03/04/10 13:00 ID:icPpuBfH
ヤムチャに神の光を!
聞こえてくるのはヤムチャのお気に入りのメロディー。

383 名前:地獄の門番・5話 [sage] 投稿日:03/04/10 13:00 ID:icPpuBfH
孫悟空とベジータの死闘を見つめるナッパ。
しばらくするとベジータは上空に上がり、さらに上空へ光の玉を放った。
(パワーボールか。ベジータめ大猿になる気だな)
ベジータのおこないを見てナッパはそう確信した。
大猿に変身したベジータ。すると、孫悟空は一気に押され始めた。
(クックックッ、これでカカロットの奴も終わりだな)
ナッパは心で喜んだ。
(下級戦士がこの俺を超えやがるからだぜ、いい気味だ)
ベジータの攻撃で重症を負ったカカロット(孫悟空)を見てナッパは笑った。

―その時であった―

孫悟空の仲間の小太りの男が、突然、岩陰から飛び出してきて大猿ベジータに
飛びかかっていったのだ。手には刀を持っていた。
(ヤバイ!ベジータッ!!)
ナッパは思わず叫ぶと、無意識の内に魂の発する念力を出していた。
ボキッ!
ヤジロベー(小太りの男)の刀が真っ二つに折れた。
「なぬっ!?」
驚愕するヤジロベーであったが、折れた刀で何とかベジータの尻尾を
切断することに成功した。
通常の姿に戻るベジータ。孫悟空達は最大のピンチを切り抜けた。

 

384 名前:地獄の門番・6話 [sage] 投稿日:03/04/10 13:00 ID:icPpuBfH
いつのまにか地獄の門に戻っていたナッパ(の魂)。ヤムチャが待ち構えていた。
「フフフ、さっきは悟空とベジータとかいう奴を両方殺すと息巻いていたのにな」
地獄の門で状況を見つめていたヤムチャは戸惑うナッパを可笑しそうに見て言った。
(ちっ!この俺としたことが・・・)
ナッパは心で舌打ちした。
「お前は現世では散々あくどい事をしてきたが、多少の良心も持っているみたいだな」
ヤムチャはナッパの心境を探るように言った。
「へっ!俺は王家に先々代の王の時から仕えていたんだぜ。しかも、格闘技の基本をベジータに
叩き込んだのはこの俺だ。まぁ、すぐに追い越されたがな」
述懐するナッパ。その目はどこか楽しげでもあった。
「フフフ、何か楽しそうだな?では、ベジータを呪い殺すのは無しにするのか?」
ヤムチャはナッパに聞いた。
「ああ」
答えるナッパ。
「では、悟空を?」
ヤムチャは恐る恐る聞いた。
いつでも冷静沈着な振る舞いを要求されるのが地獄の門番なのに―
「フン!これでも俺はサイヤ人の行く末を心配してるんだぜ。やつらを殺すことに
メリットはないって気付いたのさ」
ナッパはそう言うと地獄の門の前に立った。

<続>

431 名前:地獄の門番・7話 [sage] 投稿日:03/04/12 12:56 ID:h9Ly46IW
「俺は生まれ変わることにするぜ」
ナッパは決意して凛々しい表情を作った。
「そうか。しかし、お前は現世で悪さばかりしてきたからな。殺されたことによって多少
罪が軽減されているとはいえ厳しい、辛い環境の中に生れ落ちることは確実だぞ?」
ヤムチャはナッパの決意が本物かどうか確かめるつもりだ。
「戦闘民族サイヤ人のエリートとして精神もタフに鍛え上げてきたんだぜ、俺は!
ひ弱に生まれ変わろうが動物に生まれ変わろうが必ずのし上がってみせるぜ!!」
「その言葉を聞いて安心したぜ。それと、悟空を見逃してくれてありがとう。
生まれ変わってせいぜい精進するんだな」
「オマエモナー」
ナッパはニヤリと笑ってヤムチャに言い返した。
「フフフ、では、その選択承りました。さぁ、お生きなさい!!!!」
ヤムチャは地獄の門を指差してナッパに向かって叫ぶと、門がゆっくりと開いた。
門の向こう側には青白い光に包まれた空間があった。
「これって地獄の門っていうんだろ?まさか、どんな選択をしても地獄逝きか?」
ナッパは門に入る手前で躊躇して立ち止まり、ヤムチャに聞いた。
「心配はいらん。お前は天国に生ける(行ける)さ」
ヤムチャはナッパの不安を振り払うように落ち着いた口調で言った。
「そうか・・・あばよ!」
「生まれ変わって罪を償えよ!」
こうして、ナッパは天国へと旅立っていった。彼がどのような姿で生まれ変わるのかは
誰も知らない。

<第1部・完>