×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

">remove
powerd by nog twitter



HOPE


 空は青かった。
 おだやかに流れる空気が頬を、色の薄い紫の髪をなでる。 
 昼を少し過ぎ、やや強くなってきた日差しを、眩しそうに指で遮った。
 自分の背丈の十倍以上もあろうかという岩山から、彼は飛び降りる。
 ――すと。
 小さな音とともに足が地面についた。

 青年は目を細めて前方を見渡す。
 眩しいという訳でもなく、目的地の方向を改めて確認するという意図でもない。
「やっぱり飛んでいくか」
 ぽつりと一言。
 言うが速いが、ふわり、と彼の身体が浮き上がった。

 それから、数分のあと。
 彼は目的のものを目の前にした。
 唇をへの字に曲げてみたり、拳を握ったり開いたりを繰り返したりする。
「あれ? おめえは……?」
 不意に背後から声をかけられる。
 目の前に集中していたために、不意を突かれた形になる。
 現在では地球最強であるはずの彼は苦笑する。
 あの人の母親だ、敵う訳がない。
「はじめまして、チチさん」
 トランクスは、振り向いて会釈した。

 トランクスが名乗ると、チチも僅かに笑顔を浮かべた。
 手に持った素朴な花を何束かトランクスに渡し、それの前にしゃがみこむ。
「おめえのことは、聞いてるだよ」
 言いながら、愛おしそうにそれを撫でる。
 トランクスは再び困ったような表情を浮かべた。
 何を話したらいいものだろう。
 共通の話題は一つだけであるが、それを出すのは憚られる。

「えっと、その……」
 視線を泳がせ、手元の花に戻す。
 そうこうしている内に、チチは立ち上がり、一歩下がる。
 自分の番か、とトランクスはやや慌て気味にそれの前に屈んだ。

 ずっと、見上げていたのに。

 ふとそう思い、熱いものが生じるのを感じる。
 戦いを終えた今まで、全く気がついていなかった。
 声の震えを押し殺し、彼は笑った。
「お久しぶりです。悟飯さん」

 チチに誘われ、トランクスは小さな家に招かれる。
 過去の世界で見た孫家とは多少異なっていた。
 田舎一帯、とくに悟空の家があった辺りはかつて焦土と化していた。
 そういった経緯から建て直されたものであるからだろうか。

「最後に会ったときは、もう随分前だっただよ」
 トランクスは答えない。
「強くなれる子を見つけた、自分とその子で平和を取り戻してみせる、って」
 こぽこぽこぽ……。
 言いながら、二つのカップに色の強いお茶を注ぐ。
 チチの声は穏やかだった。

「あの、」
 何かを決心したようにトランクスは切り出した。
 戦いを完全に終えるまでは、決して墓前には現れないと決心していた。
 変態を終えた人造人間セルを破壊し、ようやく彼の長い戦いは終わったはずだった。
 そして、悪用される恐れのあるタイムマシンはすぐに破棄されるはずだった。
「オレのタイムマシンで、悟飯さんに会いませんか?」
 その発言から、やや間を空け、
「いや、気持ちだけでじゅうぶんだよ」
 チチは首を振った。
「どうして――」
 がたん。
 思わず語調を荒げ、椅子を倒しかける。

「向こうの悟飯ちゃんを見守るのは、向こうのおらがいちばんだ」
 トランクスはうなだれる。
 チチの言いたいことが理解できないほど、自分はもう子供じゃない。
 今になって子供から脱却したことを意識することが悔しかった。


「それでは、また」
 日も落ちかけようとするころ、トランクスは孫家を去った。
 彼はすぐに飛び去ってしまったが、チチはずっとその方向を見ていた。
 最後に一度、過去の世界に戻って、その後にタイムマシンは破棄されるらしい。
 それでいい、下手に遺されると未練が残る。
 自分でも言った通り、自分の悟飯はもういないのだ。
 だが、幸せな未来を歩ける悟飯もまた、自分の最愛の息子。
 だから、自分は祈ろう。 

 願わくば。
 彼が、すべての世界でいちばんしあわせになれますように。