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人であるために


92 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:04/01/12 03:42 ID:NGKV.Lpc
 その少年がヤムチャの元を訪れたのは先月の事だった。少年の村は数ヶ月前から
化け物共に襲われるようになっていた。その化け物とはフリーザ軍の残党である。彼
らの一部はフリーザが死んでからも地球に生き残ったのだ。それが今もなお、この地
上に残り悪事をはたらいている。Z戦士の一人としてヤムチャはその者達の掃討を行
っていた。
 ヤムチャには最初、少年が自分の元を訪れたのは「化け物共を倒してくれ」という願
いのためだと思っていた。実際、今まで何度もその手の依頼を受けてきた。今回もそ
れだと思ったのだ。しかし、少年の言った言葉は違った。
「俺にあの化け物を倒せる力を。父さんと母さんを守れる力をくれ!」
少年はヤムチャに師事し、力を得る事を望んだのだった。
 フリーザ軍の残党は平均して2000程度の戦闘力を持つ。Z戦士達から見れば低す
ぎるほどの戦闘力だが、それでも一般人の戦闘力、一桁のそれに比べれば天と地ほ
どの差がある。常識的に考えれば、少年が残党を駆逐出来る力を得る事は考えられ
なかった。

93 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 03:42 ID:NGKV.Lpc
「ヤムチャ先生はいらっしゃいますか?」
 ダンの名前はダン。彼の言うヤムチャ先生とはかつて歴史上最もレベルが高い時
期と言われた天下一武道会で三回連続の予選突破を成し遂げ、その後も地球の危
機を救ってきた英雄の事である。
 今、英雄はプーアルという猫と共にヤッホイ近くの山奥で暮らしている。ここはフリー
ザ軍の残党が最も多く目撃される所と言われ、今では民家も少ない。ヤムチャの目的
はここをもう一度人の住めるところにすることである。

 ダンはヤムチャに武術を教わるために来た。力を手にする、それも武道大会で勝て
るだけの力ではない。化け物を駆逐出来る圧倒的な戦力。自分の村だけで良い、い
つまでも守り続けられる力が欲しい。そのために、ここへやってきた。
 ダンの呼び声に、家の奥から一人の男が出てきた。
 長身、長髪、体は痩せ型だが筋肉量は多い。武術の達人である事は一目して明ら
かだった。だが、それ以上に目を引いたのは彼の左頬にあるバツの字をした大きな
傷だった。
(間違いない、この方が噂に聞いたヤムチャ先生)
 ダンはその姿を見て、一瞬見とれる。だが、その後すぐに跪き
「俺をヤムチャ先生の弟子にしてください。あの化け物共を駆逐出来る力を俺にくださ
い」
 「帰れ」
 即答だった。ヤムチャは考えるそぶりも見せず、ダンにそう言うとそのまま家の奥に
消えていった。

94 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 03:43 ID:NGKV.Lpc
 ダンはヤムチャの冷たい態度にその日は何もする事ができず去るしかなかった。だ
が、彼は翌日も再びやってきたのである。
「もう一度言います。俺を先生の弟子にしてください。俺に力をください」
「お前さん、何か勘違いしてやいないか。俺はただの戦士だ、誰かにものを教えた事
なんか無いよ。それにね、俺に教わったからってフリーザ軍の残党共を蹴散らす力を
普通の地球人が身につけられるはずもない。悪い事は言わないから、奴らは俺に任
せてお前は普通の暮らしをするんだ」
「普通の暮らし? 奴らがいるのに。俺たちの村はあの化け物共に毎日のように襲わ
れ、作物はとられ、村の女達は慰み者にされ、俺の姉も……。あいつらがいるのにど
うやって普通の生活をすれば良いんです? 俺はそれを取り戻したいんだ。なぁ、先
生お願いですから、俺に力をくれ」
「普通の生活を取り戻したいか……。だがね、何をもって普通の生活と言うんだ。俺
は幼い頃、両親に殺されかけ、自分が助かるために奴らを殺した。その後、親殺しの
汚名をかぶせられた俺はお前さんぐらいの年になったら、水もなく食料もないような荒
野に化け猫と二人で暮らしてたんだ。それでも、俺は俺にとっての普通の生活ができ
たんだよ。力が無くたってどうしたっていうんだ。与えられた環境で真っ当に生きるの
が人間ってものじゃないのか?」
「ふざけないでくれ! 先生がどんな過去を持っているのかは知らないが俺が欲しい
のは人並みの普通だ。それを手に入れるには力が必要なんだ。そう、奴らを駆逐出
来るだけの力が!」
「そうかい、だがハッキリ言ってやる。お前には無理だ。だいたいお前さんは今いくつ
だね? まだ15にも満たないだろ。そんな年で奴らと渡り合えたのは過去にも混血サ
イヤ人しかいないんだ。お前には無理だよ」
「無理なのは分かってる。でも、俺はやるしかないんだ」
「頭が悪いね、無理なのは無理だよ。やろうとしたってできないから無理って言うのさ」

95 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 03:43 ID:NGKV.Lpc
 その日もヤムチャの返事はノーだった。ダンは分かっていた。ヤムチャが自分の申
し出を受けるはずがないと。ヤムチャ達Z戦士達の目的はあくまで地球人の安全確保
である。そのために残党狩りを行っている。故に、残党とは言え悪意のない者達は駆
除の対象とはならず、また、駆除活動に他の人間を動員する事もないのだ。その事
はダンも重々承知していた。
 彼は今、姉の前にいる。
「姉さん。聞いてくれ、今日もまたヤムチャ先生に断られた。弟子は取れないって。で
もね、俺は諦めない。だって力が必要だから、村や姉さん、母さんや父さんを守るた
めに俺が力をつけなきゃいけないんだ」

 Z戦士とは言え、所詮は人である。彼らも一日24時間残党狩りを行えるわけではな
い。あるものは生活のために働きながら、また、あるものは息子や親の世話をしなが
ら闘っている。そのため、残党の数は余り減っていかない。フリーザが地球にやって
きてから数ヶ月が経つがその数は依然として半分にも減っていなかった。
 故に一部の地球人は思う、そうダンのように思う。自分が力を身につけなければや
られると。だが、それは武の道を知らぬ愚か者の考え。決して成功する事のない考え
なのだ。

96 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 03:44 ID:NGKV.Lpc
 次の日もダンはヤムチャの元へ向かった。ヤムチャの態度は相変わらずだ。
「また来たのかい。無駄だよ、何度来ても俺は弟子なんてとらない」
それからは昨日と同じような問答が始まった。互いに考えている事は理解出来る。だ
が、譲れないのだそのために結局は平行線のまま終わる。どちらからが引かねば交
わる事のない線。だが、戦士の誇りと家族への愛はどちらも引く事を知らない。

 互いに譲らぬまま、数時間が経ち日が暮れた頃。
「先生、どうしても俺に教えてくれないというのなら。俺は……俺は……」
「どうするって言うんだ? まぁ、待っていればそのうち、俺か仲間がお前の村を助け
てくれるさ」
「俺はね、先生、もう一日だって待てないんですよ。ここで弟子にしてくれないのなら俺
のとる行動は決まっている」
 ダンはポケットからナイフを取り出した。殺意のみなぎるその目に一瞬ヤムチャが怯
む。そして、次の瞬間、ナイフはダンの首筋を切り裂いた。
「馬鹿な……」
 ヤムチャが怯んだのは一瞬だけだった。すぐさま、ダンのナイフを取り上げ、傷の具
合を確認する。Z戦士が持つ猛スピードのため、ダンの傷は幸いにも浅くすんだ。
「なんて事をするんだ。死んでどうなるものでもあるまい」
「先生は知らないんだ。俺たちは今日死ななければ明日死ぬ。そんな生活をしている
んだ。昨日も今日も村の者が死んだ。殺された者もいれば現実に耐えきれなくなって
自殺する者もいる。分かるか、俺はそんな生活から逃げ出したいんだよ」
「わかったよ、少年。明日からお前に武術を教える。ここに荷物を持ってこい」
ダンの顔に生気が漲る。そして表情が喜びのものへと変わった。
「ありがとうございます。俺、励みますからご指導よろしくお願いします」
「お前さんには負けたよ。少年、名は何という?」
「ダン。俺の名はダンです」

97 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 03:44 ID:NGKV.Lpc
 あれから一ヶ月が経った。ヤムチャが直接ダンの指導に当たる事は少なかった。彼
は西の都に恋人を残しているが、それを捨ててこのヤッホイに猫と共にやってきてい
たのだ。実はZ戦士達の中でも残党狩りに最も熱心なのはヤムチャであった。元々善
悪の違いこそあれ、彼は人狩りを本業としていた人間だ。戦闘力ではサイヤ人やナメ
ック星人に後れをとっても戦術面では決して引けをとらなかった。まして、団体が相手
ともなれば彼の方が上手であったと言って良い。そのためか、彼には毎日のように駆
除依頼が舞い込んできた。ヤムチャは依頼を差別することなく順番にこなしていった。
どんなに辛い境遇にある者達も、どんなに財産を持つ者達であっても、半壊した村に
住む者達であっても、そして弟子の住む村であっても、差別せず順番に依頼をこなし
ていくのが彼の流儀だ。
(後二週間か……)
 カレンダーを見ながら、呟くヤムチャ。二週間後とはダンの村を救出に行く日の事で
ある。ほとんど、一緒になる事はなくても彼はダンの村の事を忘れた事はなかったの
だ。
(既に気の動きで敵の位置は掴めている。本当なら、今日中にでもダンの村を救って
やりたい。だが、俺がその村に行けば、他の村がやられる。ダンよすまない)
 ヤムチャは弟子を持った事で今まで感じた事がない焦りを覚えていた。
(俺のしている事は本当に正しいのか。ダンの村を救わなくても良いのか……)
 これは恐らく、ヤムチャがダンの弟子入りを拒んでいた理由の一つでもあったのだ
ろう。

99 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:12 ID:YEA/mjWs
 師匠が焦りを覚えている頃、弟子のダンも別の悩み事を抱えていた。基礎の武空術
を覚えて以来、戦闘力が伸び悩んでいたのだ。
 武空術を覚えた事で、僅かではあるがダンは気を感じる事ができるようになってい
た。そのため自分が闘うべき相手がどれほどの力をもっているのか判断出来るように
なっていた。
「今のままでは勝てない……」
 思えば、Z戦士とは言え地球人で戦闘力2000越えを果たしたものは皆特殊な訓練を
受けている。重力が10倍のところでトレーニングを積んでいたり、別の惑星で潜在能
力を限界まで引き出されたものもいる。ダンにはそれがない。また、彼は今14歳。こ
の年齢と言えば現在地球人最強のクリリンでさえ、戦闘力は100程度であったろう。最
強でさえだ。
 ダンはこの現実に気づき始め、徐々に悩み始めてきた。
「勝てるのか。こんな修行を続けていて本当に奴らに勝てるのか」
 武空術を繰り返し、ひたすら気を練る訓練を続けるダン。だが、敵との能力差は一
向に縮まらない。
 僅かに持った能力、気の探知能力がダンに冷酷な現実を突きつける。弟子入りして
から一ヶ月。村人の数は半分に減ってしまった。
「俺はどうしたら良いんだ……」
 自らの手を見つめ、拳を握る。だがその拳はとても弱々しく感じられた。

100 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:13 ID:YEA/mjWs
 ダンがヤムチャの家に住み込みを始めてから、焦りは日増しに強くなり、毎晩うなさ
れる日々が続いた。
「……うぅっ。やめてくれ頼む。姉さんを殺さないでくれ!」
「また、うなされているんですね。ダンさん、辛いでしょうが我慢してください。いつかヤ
ムチャ様のような力が身に付く日が来ます。その日まではじっと耐えてください」
 隣で寝言を言うダンにプーアルが優しく話しかける。
 ダンの精神は限界に近づいていた。力を得たために知ってしまった戦闘力差という
現実。並の人間が宇宙人に立ち向かう事など不可能な事なのだ。それが今身をもっ
て実感出来る。敵の強さを感じる、自分とは比較にならない強大な力を感じる。この
壁は越えられない。これが宇宙の壁。

 翌日の事だったヤムチャが朝早く帰ってきた。だが、その体はひどく傷ついていた。
「へへ。ドジっちまった」
 体中の骨折は数カ所。切り傷はその十倍。だが、それ以上に右腕が酷すぎる。い
や、右腕は酷いとは言えない。なぜなら、もう存在しないからだ。
「これじゃ、しばらくは戦えないな」
「先生……この体でまた戦うおつもりですか」
「当たり前だ。俺がいなければ一体誰が奴らと戦うって言うんだ。あの狂った野蛮人
共と……」
「先生は安静にしていてください。今まで十分すぎるほど戦って頂きました。今度は僕
が戦います」
「馬鹿を言うな! お前ごときが相手になる訳がない。怪我をしていても俺の方がマシ
だ。お前はまだ役立たずなんだよ。自分の実力ぐらいもう分かるだろ!」

101 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:14 ID:/5kXyMtU
 その日の昼。傷つき眠っているヤムチャの隣でダンは思う。
(確かに足手まといかも知れない。けれど、化け物共を駆逐出来る能力を持っている
のはこの界隈ではもう俺一人になってしまった。俺が闘わないで誰が闘うんだよ先生)
 眠っているヤムチャのそばにダンは一枚の置き手紙を残した。
『     ヤムチャ先生へ 
   
  短い間でしたが、ご指導ありがとうございました。
  俺はもう十分力を身につけたので、化け物共と戦
  いに行きます。先生に教えて頂いた技の数々はき
  っと奴らとの戦いで役に立つでしょう
                           ダン     』

 ダンはそのままヤムチャの元を去っていった。そして、彼が向かった所は自分の村
ではなく、ヤムチャが怪我を負った町。そこにはまだ敵がいる。ダンは気を探知して感
じていたのだ、罪もない人々が無惨に殺されている様を……
 だが、彼はこの時、大きな勘違いをしていた。ヤムチャの闘っていた敵が誰であっ
たのか。彼は思い違いをしていたのだ。

102 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:15 ID:/5kXyMtU
 ダンが村に着いたのはそれから丸一日が過ぎた後だった。
「先生のやり残しでもなければ、こんな俺と関係のない町なんて放っておくのに……」
 武空術で上空100メートルほどの高さから町を見下ろすダン。が、何かがおかしい。
「この村? なんだ、なんでここは化け物の襲撃を受けていたんじゃないのか」
 見下ろした所、町には人が溢れており、活気に満ちている。とても化け物の襲撃を
受けているとは思えない。
「ヤムチャ先生はこんな町のために俺の村を放っていたのか?」
 疑惑の念が一瞬頭に浮かぶ。しかし、ヤムチャは英雄だ。彼が……まさか?
 しかし、確かに自分も感じたのだ。ここの町で人が死んでいくのを。小さな力しか持
たぬ者達が死んでいくのを感じたのだ。
 ダンは人目に付かぬよう隠れながら地上に降りた。そして、あたりを見渡す。
 敵の姿はない。周りに見えるのは普通の人間だけ。皆当たり前の生活をしている。
あるものは買い物を楽しみ、あるものは仕事に励んでいる。
「普通の町だ。平和な、危険のない町だ……先生は別の町に行っていたのだろうか。
それとも怪我をしながらも、敵の駆除に成功したのだろうか……いや、この町はまる
で敵がいなかったかのような雰囲気だ。一体なんだって言うんだ?」
 訳が分からない、ダンの頭が混乱する。だが、しばらくして正気を取り戻した。
「そうだ。気を探知すれば良いんだ。そうすれば、敵がいるかどうかハッキリする」
 そう思い精神を集中し始めるダン。だが、その結果驚くべき事に気づいたのだ。

103 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:16 ID:/5kXyMtU
「感じない。何も感じないぞ、気を感じない。そんな馬鹿な、敵だけじゃない町の人々
の気も感じない」
 活気溢れる町、だが、その内実は気を持たぬ人形達の住む世界。
「一体この町は何だって言うんだ。敵もいなければ町の人々もいない……。いや、い
るのか? あれらは一体なんだ俺の目の前にいる人間らしき物体は、あれは一体な
んだって言うんだ。どんなに弱い人間でも気を感じないなんて事はない、なのにここの
人間と来たら誰一人気を持っていない。全く感じない。俺がおかしくなったのか?」
 ますます、混乱するダン。だが、何とか気を落ち着け再度気を探知してみる。
「今度は見つけた。これは敵の気だ。だがなぜだ、気が乱れている。明らかに苦しん
でいる。敵の気が乱れて減っているのに……周りに戦士の気配はしない。この町は
一体なんなんだ」
 困惑しながらも、ダンは敵のいる場所へと向かう。
「たとえ死にそうでも、敵は敵。俺は奴らを倒すのみ」
 疑念を頭から無理矢理押しのけ、敵の場所へ向かう。だが、そこで見たものは……
「あ、あ、……嘘だろ。これ……」
狭い部屋の中、幼い少年達が化け物共をいたぶっている光景。おとぎ話にある亀を
虐める子供達、そんな喩えがピタリ当てはまるような情景。ただ一点違う所は、おとぎ
話の子供達は恐らく普通の少年達だっただろう、だが、ここにいる子供達は気を感じ
ないロボットのような子供達だと言う事だ
「お前ら一体何なんだ」
「お兄ちゃんこそ誰? この町の人間じゃないでしょ」

104 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:17 ID:/5kXyMtU
「この町の人間か…お前らは本当に……」
 人間なのか、ダンはそう言いかけて思いとどまった。相手は子供だ。不用意に傷つ
ける事はできない。
「僕たちこの化け物で遊んでるんだ、お兄ちゃんもどう? もうほとんど動かなくなっち
ゃったけどね」
「その程度にしておいてやれ、もう虫の息だ。抵抗する気力のない者を殺す必要はな
いだろ」
 ダンは自分でも信じられない事を言った。仇と恨んでいた者を助けろと言ったのだ。
「えぇ……でも、こいつら悪者だよ、ちょっとぐらいやっても良いじゃない」
「もうちょっとじゃないだろ、死にかけているんだ放っておいてやれ、それ以上痛めつ
ける必要はない」
「ちぇ、楽しかったのに……」
 少年達は愚痴を言いながら、その場を去っていった。無垢であるが故に残酷な心。
それがもたらしたのは敵としていた者達への同情というあり得ない感情。
 ダンは化け物達を見つめる。もう、声すらも出せないほど衰弱していた。ある者は腕
をもがれ、またある者は腹を引き裂かれ、死んでいる者もいるかも知れない。沢山の
者達が苦しんでいた。
「同じだ、こいつらも俺たちと同じなんだ、苦しみを知っているんだ。アハッ、そうなん
だ、こいつらだって同じ生き物だったんだ。そうなんだ、なぁーんだそうかよ!」
 一瞬感じた同情という感情をダンは無理矢理別の感情にすり替えようとする、化け
物共に追い打ちをかけるような彼のこのような言動は、同情を感じた彼自身への戒め
だった。

105 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/12 15:50 ID:/5kXyMtU
「なぁ、お前ら苦しいだろ。助けてもらいたいだろ」
「助けてくれ……」
「誰が助けてやるか、そのまま苦しみな! 俺があの餓鬼共を追い払ったのはな、あ
のままじゃ、お前らがすぐ死にそうだったからだ。そのまま、地獄の苦しみを味わえ」
 嘘だった。敵に同情を感じたという負い目がダンに嘘をつかせた。本当は助けるつ
もりで子供達を追い払ったのだ。だが、そんな事は口が裂けても言えない。
「嘘だろ、アンタは俺たちを助けてくれるつもりだったんだろ。なぁ、だからあの子達
を……」
「ふざけんな! テメー等化け物共が俺たちにしてきた事を忘れたのか。俺たち人間
がテメー等に一体どれほどの苦汁を飲まされたと思ってるんだ」
「その事は謝る、いや、謝っても謝りきれるものじゃないが、それでも悪いと思ってるん
だ。だから、助けてくれよ。お願いだ」
 ダンに話しかけている宇宙人は連中の中では唯一口がきけるらしい。他を見渡せ
ば、指一本動かすのさえ困難なほど傷ついている者もいた。
「頼む。死にそうなんだ。何でもするよ」
「くどい!」
 一瞬だった、ダンの手刀がその宇宙人を切り裂いた。
「……酷いよ……」
 シンプルな言葉だったが、宇宙人の言った言葉はダンの心に強く響いた。それを打
ち消すようにダンは叫ぶ。それは宇宙人達に対してではなく、自分に対して言い聞か
せるために。
「酷いだと、それはお前等の事だろ、お前等は一体何人殺したんだ。俺はまだ一匹な
んだよ。おれは優しいんだよ、わかるか? なぁ、お前等を苦しませたくないから殺し
てやったんだ」
 矛盾だらけの自己弁護。だが、ダンが理性を保つためにはこれしか手段がなかった
といえる。

135 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/13 16:25 ID:U3rhDrdA
 次の瞬間、ダンは宇宙人達を皆殺しにした。
「ハハッ。大丈夫だ、俺の心は痛まない。化け物を殺しても心は痛まない。俺は奴らを
倒す事ができる」
 悲しい選択だった。ダンは自ら残酷になる事で、人間が化け物を苦しめるという現
実から逃避する方法を選んだのだ。
 だが、彼がこうして自分の残酷性を口に出して説明している事は逆に言えば、彼が
まだ人間らしい心を失っていない証かも知れない。けれど、ダンはそこから目を背け
いるのだ。
「さてと、化け物共は片づいたが、もう一つの問題が残っているな。この町の人間達、
いや、本当に人間かどうか分からないが、とにかく連中が何者なのか、それを明らか
にしなくてはならない。うまくいけば、俺にも化け物共をいたぶるだけの力が身に付く
かも知れないからな」
 ダンが宇宙人のいた部屋を去ろうとしたとき、奥から初老の男が現れた。
「なんだ、お前は? せっかくの実験材料を壊しおってからに。一体何のいたずら
だ?」
「おい、俺に文句を言おうって言うのか、世界を滅ぼす悪の化け物を駆逐してやった
んだ、感謝されても良いぐらいだぜ」
「世界を滅ぼす化け物だと? 何を言っている、こいつらはもうこの町では無力だよ」
「なんだと?」
「この町はワシが作った人造人間で溢れておる、あのレベルの輩に殺されるような失
敗作は一つもないわ」
「人造人間? それは一体なんだ?」
「肉体に特殊な改造を行い、戦闘力を劇的に増加させ人間達の事だ」
「それは強いのか?」
「フフッ。ここの化け物共を捕獲したという事から大体の事は分かるだろ」

136 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/13 16:25 ID:U3rhDrdA
 ダンの心に小さな欲望が生まれてきた。それは砂粒のような小さな塊だったが、あ
っという間に大きくなってきた。
「なぁ、誰でも改造を受けられるのか? 俺でも強くなれるのか?」
「あぁ、なれるとも」
「奴らに、あの化け物共に勝てるのか?」
「もちろんさ」
「ハハハッ。修行なんて面倒な事しなくて良かったんだ。改造を受ければ良かったん
だ。頼む、俺を強くしてくれ。俺はあいつ等を駆逐するだけの力が必要なんだ。俺を誰
よりも強くしてくれ!!」
「クククッ。自分が実験材料を壊した事も忘れ、強くしてくれか……都合が良すぎるん
じゃないか。若いのよ」
「確かに、あれはすまなかった。貴重な材料だとは思わなくてな……」
「まぁ良い。どうせ、餓鬼共がいたずらしておったから、いずれは死んでしまうものだっ
ただろうし、新しい実験材料も手に入った事だしな」
「新しい材料?」
「お前さんの事だよ。改造をしてやるよ」
「ほ、本当か?」
「あぁ、本当だとも」
 こうして、ダンは人造人間になるための改造を受ける事になった。その心に邪悪な
念を潜めたまま……

137 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/13 16:25 ID:U3rhDrdA
 ダンは夢を見ている。夢の中では姉が元気な姿でダンを見つめていた。
「姉さん、スッカリ元気になって。もう良いんだよ、二度とあんな事にはならないから
ね。俺は強くなったんだ、ほら見てごらん」
 そう言うとダンのしたに無数の死体が現れる。化け物共の死体。屍は積み重なって
山となり、ダンはその頂上に立って姉を見下ろす。
「もう、俺たちを苦しめるものは何もないんだよ。こいつら弱っちいから、何もできない
のさ」
 ダンの上空から敵が降ってくる。ダンはそれを目視することなく撃墜した。
「ね。 俺は強いでしょ」
 敵の体を真ん中から貫き、返り血を前身に浴びてダンは嬉しそうに言う。
 それを見ている姉の目に、涙が浮かんだ。
「姉さん、なんで泣いてるの? 悲しいの? もう、俺たち助かったんだよ」
 その涙がうれし涙でない事はダンにも直感的に分かった。
「姉さん、何か喋ってよ」
 姉は黙ったまま、瞳にいっそうの涙をたたえダンを見つめている。
 そして、しばらくして消えてしまった。

138 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/13 16:26 ID:U3rhDrdA
 それから二日。ヤムチャは仲間の持ってきた仙豆で怪我を完治させていた。そし
て、ダンの残した手紙を見て愕然とした。
「行ってしまったのか……」
 自分がふがいないために、初めて持った弟子を殺してしまう事になった。そう、ダン
の気はもう感じなかったのだ。
「ヤムチャさん、俺がここに来たときにはもう、弟子の少年はいませんでした」
 仲間のクリリンが言った。そして、彼が説明する事によれば、ダンが向かった先は
ヤムチャが傷を負った町。残酷な者共が支配する町。人間が化け物を襲うあべこべ
の世界。
「ダンはあそこに行ったのか……そして、殺された」
「すいません、俺は仙豆を取りに行くので精一杯で……」
「クリリンが謝る事じゃない。俺が、俺が全て悪いんだ」
「ヤムチャさん」
 誰が悪いというわけでもない。だが、ヤムチャは弟子を持ったという事から自ら責任
を負うべきだと考えていたのだ。
「クリリン。言い遅れたが、仙豆ありがとう。これでまた戦える」
「また……あれだけの怪我をしたんですよ、もう俺や悟空達に任せてください」
「いや、一つだけ、俺以外にはできない仕事がある。少し早くなってしまったけどな」
 そう言いつつ、ヤムチャはカレンダーを見つめる。カレンダーには赤く丸を付けた所
があった。それはダンの住む村に行くはずの日である。だが、ヤムチャはもう、その
日には行かない。今日、今からそこへ向かうのだ。

139 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/13 16:26 ID:U3rhDrdA
 ヤムチャが辿り着いたのは今までに見た事もないほど荒れ果てた村だった。村民が
一人もいなくなった村でも、ここまで酷くはない。もし、地獄があるならここの住人は地
獄にだって行くだろう。なぜなら、地獄の方がマシだからだ。
 水が汚れていた、自然の色ではない紫色をした鮮やかな色だが、明らかに何か人
工的な細工を施された水だ。
 土も腐っていた。乾燥しきっており、草木一本育たない死んだ土だ。
 村人は生きていた。が、家はない。薄着をしたまま、荒野の地べたに座り込んでい
る、生きていると言うよりは生かされているといった方が適切だろう。恐らくはここを襲
っているフリーザ軍の残党が無理矢理生かしているんだろう。村人達の顔に生気はな
く、体はやせ細り、腹だけが不自然に出ている。餓鬼という化け物がいるが、正にそ
れと同じ風体をしている。
「こんな状態になっても、まだ生きているのか……」
 ヤムチャは目を覆いたくなった。だが、自分がここから目を背けていては誰もこの村
を救えない。耐えなくては、この現実を直視するんだ。ヤムチャは自分にそう言い聞
かせた。
 ヤムチャが村に降り立つと、一人の女が近づいてきた。
「あぁ、ダンや。大きくなったねぇ」
 その女は目が見えないらしい。栄養の不足が原因か。長くはないだろう。
「なぁ、ダン。お前の姉さんも喜んでるよ」
 女はそう言いながら、ミイラ化した死体の頭をさする。
「お前、ダンが帰ってきたよ。それも強くなってね。あの化け物共を倒すためにね」
 ヤムチャは女の言葉で全てを察した。
「母さん、姉さん、俺は強くなって戻ってきたよ。あの化け物共を俺が倒してやる」


153 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 01:36 ID:2iyZX4yE
 ヤムチャは村を後にし、残党共がいる山奥へと向かった。だが、一つの疑念が残っ
た。なぜ、あの村だけ他に比べてあれほどまでの地獄に変貌したのだろうか。
 以前ヤムチャは元フリーザ軍の男から話を聞いた事がある。フリーザ軍はあくまで
商売のために、侵略を行う。だから、必要以上にその土地を傷つける事はない、なぜ
なら高値で売れなくなるからだと。
 残酷だが理にかなった説明だ。そして、実際ヤムチャが見てきた光景はそれを裏付
けるものばかりだった。人々は殺されていても、水は澄み、土地は潤い、フリーザ軍
が侵攻した事により、逆に人間の住みよい地形に変わっていたのである。
 だが、あの村は違った。とても人が住める所ではなかったのだ。この違いはどこから
来るのか? ヤムチャの頭に大きな疑問となっていた。
 しかし次の瞬間、ヤムチャは疑問解決の糸口を見つけた、敵を発見したのだ。
「敵は一人、戦闘力は1500程度か。余裕だな」
 地上を歩いている敵に一閃。自由落下の速度を優に超えたヤムチャの一撃がその
宇宙人に直撃した。無論、手加減しての一撃だ。村の事を吐かせなければならない。
「おい、貴様に聞きたい事があるんだが」
 突然、脳天に一撃を食らい。事態の把握ができない元フリーザ軍軍人。だが、自分
に迫ってくる男を見て思う。オレンジの胴衣に左胸の『亀』の字。間違いなく、仲間達を
やっている男だ。そして、一瞬のうちに悟った。逆らうのは無駄だと。
「何でも聞いてくれ、その代わり命だけは……」

154 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 01:36 ID:2iyZX4yE
 ヤムチャの聞きたい事とは、なぜダンの村だけが生き地獄のように変貌してしまっ
たのか。という一点である。あのやり口はフリーザ軍のそれとは大きく異なっている。
その疑問を解決したかった。
「おい、貴様等はなぜ、あの村を破壊したんだ。あれじゃお前等にとっても都合が悪い
だろ? 売り物にならないはずだ」
「売り物? 何を勘違いしているんだか知らないが、俺たちはあの村を、いや、他のど
の村も町も、売り物にするつもりなんか無いぞ」
「なんだと?」
「大体、宇宙船が壊れているのに誰に売りに行けばいいって言うんだ。総大将は殺さ
れ、宇宙船は破壊され、地球人と生体の大きく異なる俺たちは繁殖能力も持たず、こ
のまま死ぬしかないか弱い生き物なんだぜ。その俺たちが商売を考えて行動するっ
て言うのか? そんな筈はないだろ」
「どういう事だ?」
「どういう事も、こういう事もない、あの村が本来の姿なんだよ。お前達が見てきた村
はお前達の目を欺くために作ってきた擬態だ。他の村が余り侵略を受けていない事
を見れば、お前達も被害が大きくないと勘違いするだろ。ある地球人の進言でな、フリ
ーザ軍を二つに分割し、片方にこれまで通りの任務を与え、商売道具としての植民地
確保を命じた。そして、俺たちはただ、自分のストレス解消のために町を破壊していた
のさ」
「馬鹿な……フリーザ軍壊滅から、既に数ヶ月が経っている。俺たちはその間、ずっと
踊らされていたというのか?」
「これもその地球人の情報でな、お前達の行動は全てモニターされているんだ。俺た
ちはお前等の行動が手に取るように分かった。お前達に、もう一つのフリーザ軍、つ
まりは植民地開拓にどん欲な奴らを攻撃させるように仕向けるのは難しい事じゃなか
ったぜ」
 ヤムチャはこの事実に震えた。俺たちはこの間ずっと騙されていたのか。考えてみ
れば、当たり前の事だ。フリーザが死に宇宙船が破壊されたこいつ等にはもう商売人
として生きていく道など選べなかったはずなのだ。

155 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 01:37 ID:2iyZX4yE
「なぜ? 俺にその事を話した?」
「嘘をついても生き残れないだろ。俺は死にたくないんでね、だから助かるために言っ
たのさ」
「自分のためか?」
「当たり前だ。なぁ、全部喋ったんだから助けてくれ。俺を見逃してくれよ、な? もう二
度と悪さはしない。地球人の倫理を勉強して、それに合わせるからさぁ」
 保身のために喋ったこの宇宙人に対して、ヤムチャは言いようのない怒りを覚え
た。いや、正確に言えば、宇宙人の話した内容に対してだったかも知れない。どちら
にしても、ヤムチャはこれまでに感じた事のない大きな怒りを覚えたのだ。
「外道が!! お前は生かすに値しない」
「え? お、おい……まて……まっ」
 命乞いする宇宙人を容赦なく貫くヤムチャの拳。それは緑色の血にぬれていくと同
時に強く震え始めた。
「許さんぞ! 貴様等!!」
 骸と化した体に容赦なく拳をつき入れるヤムチャ。ものの数分で人型をしていたそ
れは、ただの挽肉になってしまった。
 人々を好きなように殺された事に対する正義の怒り。自分達が騙された事に対する
自尊心の怒り。様々な怒りが混じり合い、ヤムチャは激高した。
 気がつけば、ヤムチャは敵兵の血で化粧をしていた。緑色だったそれは乾くとどす
黒くなり、地球人のそれと区別がつかない色になっていた。
「もう許さん! こいつら全員ぶち殺してやる!!」
 ヤムチャは近くに敵の密集地帯を発見するとそこへ向かった。殺すためではなく惨
殺するために。

156 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 01:37 ID:2iyZX4yE
 ヤムチャが向かった所には中規模の基地が存在した。上空から敵基地を見下ろ
し、全身に浴びた返り血がオレンジ色の服を真黒に染め上げている。その姿は死に
神そのものと言ってよい。
「スカウターに反応あり、戦闘力……測定不能!!」
『緊急指令! 緊急指令! 未確認戦闘生物捕捉、未確認戦闘生物捕捉。隊員は直
ちに第一戦闘配備につけ。繰り返す、隊員は直ちに第一戦闘配備につけ』
 基地内に緊張が走る。未確認とは言え、戦闘生物でありその力は隊員達を遙かに
凌ぐ。また、星間移動を当たり前のようにこなす彼らにとっては常識であるが、他の惑
星において、戦闘生物が基地に近づいてきたときはまず間違いなく敵と見なして良
い。そう、ヤムチャがただ上空に現れただけで彼らはそれを認識し、一致団結して敵
の排除に乗り出してきたのだ。
「いつ見ても、こいつらのチームワークには頭が下がる。チームワークが良いという事
は訓練の成果でもあるのだろうが、こいつ等は基本的に仲間思いなんだ」
 数ヶ月に及ぶ残党狩りの中、ヤムチャは敵の本質を理解しつつあった。フリーザ軍
が宇宙に席巻出来た理由はその戦闘力だけではなく、仲間同士のチームワークや、
同族に対する友愛があったればこその事だったのだ。
「もう少し、違う風に出会っていれば分かり合えたかも知れないな。だが、ここが地球
で俺が地球人である以上。お前等を許すわけにはいかない、さぁ……裁きの時間
だ!!」

157 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 02:28 ID:YEA/mjWs
 同時刻、ダンの改造手術が終わった直後の科学者邸。ダンは改造された自分の体
を調べていた。
「気は感じない。だが、圧倒的に戦闘力が上がっている。具体的に言えばスピードと
パワー。筋力と言った方が分かり易いか……。今まで使いこなせなかったエネルギー
波も使えるようになっているようだ」
 確認のため、近くにあったボールペンを軽く上に投げてみる。下に落ちるまでにかか
る時間は10秒程度。その間にパンチを放ってみる、一回、二回、三回……途中まで
数えてみて、それが無駄だと気づいた。何回パンチを放っても、中空にあるボールペ
ンは動かないまま。そう、ダンは圧倒的なスピードを身につけたのだ。
「時間に換算するとパンチ一回あたり、0.01秒なんてものじゃないな、文字通り桁が違
う。フフフッ、ハハハハハッ。凄い、凄いぞこの体は!!」
「気に入って頂けたかね?」
「あぁ、最高だよ。気に入った、これで俺はあの化け物共を倒せるんだな」
「造作もない事だね」
「ありがとう、早速試してくるよ……あそこが良いな」
 そう言って、ダンはある場所を指さした。
「ほう、パワーレーダーは内蔵させなかったはずだが?」
「ふふ、これは自前の能力さ」
 言うが早いか、ダンは飛び立った。目標までの距離は百キロほど離れているだろう
か、かつてのダンなら半日かかってやっと届くかどうかという距離。だが、今の彼から
見ればその距離は一瞬で到達出来るものだった。

158 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 02:29 ID:YEA/mjWs
 一瞬のうちにダンは敵の上空にやってきた。そこは近代的な設備が整ったフリーザ
軍の基地とはかけ離れた外観を持つ村だ。
「一見すると普通の村と変わらない、地球人達が住んでいるような村だ。だが、俺には
分かる。奴らが隠れているのが手に取るように分かる。フフ、お前等はもう逃げられな
い、究極の戦士がお前等を殺しに来たんだ!」
 ダンは中空で一人つぶやき、そして一瞬のうちに地面まで落ちる。地面につく刹那
彼は方向を変え、家の中にいる敵を発見した。
「死ね!!」
 一瞬だ、フリーザ軍残党は何が起こったのか分からず死んでしまった。
「ハハハッ、凄い。凄いぞ、この体は。無敵だ、俺は誰よりも強くなった!!」
 ダンの襲撃に対し、スカウターが反応する。
「馬鹿な、生体反応が一瞬にして消えた」
 敵襲? だが、相手の反応はない。ならばスカウターの故障か? いや、違う。とも
かくも反応が消えた地点に向かう残党達。そこで彼らが目にしたものは、胴体を引き
ちぎられた同僚と、その返り血を浴び嬉々として微笑んでいる一人の少年だった。
「あ、たくさん来たね。」
「待て、話を……」
 フリーザ兵の一人が何かを言いかけたとき、既に殺害は完了していた。
「さて、雑魚共でも全滅させておかないとな、後が厄介だ」
 敵の骸には興味もくれず、ゆっくりとその場を立ち去るダン。彼は気を感じる方向に
ゆっくりと進んでいく。そして、彼は一人の赤ん坊を見つけた。

159 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/14 02:29 ID:YEA/mjWs
「赤ん坊? 化け物共には子供を作る能力なんか無いって先生に聞いたけど……」
 ダンはヤムチャから教わったことを思い出した。フリーザ軍は軍人であるため、地球
に飛来したとき、そのほとんどが、いやあるいは全員が雄であったという。そのため彼
らは子供を残す事ができないと言う話だった。
「だが、これはどう見ても赤ん坊だ。感じる気は小さいし、体も小さい」
 ダンは生まれたばかりの赤ん坊というものをほとんど見た事がなかったが、それで
も本能的に悟った。この子は生まれて数ヶ月にも満たない赤ん坊であると。
「時期的に考えて……化け物共が現れたのは数ヶ月前、この子は化け物が来てから
生まれたという計算になるな。とすると……」
 しばし考え込むダン。だが、赤ん坊を見てみると、服装がおかしい。全身を黒い服で
覆われている。
「これは確か、あの化け物共が戦闘服の下に着ている下着じゃないか! ハハッ。そ
うか、化け物共は何らかの方法で繁殖をしていたんだ。そして、これがその証拠だ」
 次の瞬間、ダンは赤ん坊の首をはねた。
「駄目だなぁ、先生。間違ってたじゃないか、こいつらが成長したら地球を埋め尽くされ
るかも知れなかったんだぜ。俺に感謝しろよ」
 そう言ってダンは赤ん坊の首を抱えつつ、残りの化け物達を片づけていった。

168 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 03:41 ID:IvYgc3PQ
 その頃、ヤムチャはフリーザ軍基地を壊滅させ、これまでの事を思い出していた。
 そもそもフリーザ軍はなぜ地球で猛威をふるう事になったのか。それは、フリーザ軍
が地球にやってきた後、未来から来た少年によって変える手段を失ったためである。
 数ヶ月前、地球にフリーザが飛来した際、かれはもう一人の腕の立つ者と多数の部
下を連れてきていた。フリーザやその者を含む大多数は未来から来た少年によって
殺され、同時に彼らの宇宙船も破壊された。
 この時、未来の少年とZ戦士達は大きな過ちを犯してしまった。それは少年の殺した
フリーザ軍がその全てであると勘違いした事だ。実際には少年の攻撃を逃れ、生き延
びたフリーザ軍残党がいたのだ。その数は数千とも数万とも言われており、彼らが残
ったために、地球に住む力を持たぬ人々は言われ無き苦しみを味わうハメになった
のである。
 ヤムチャは思う。なぜ、フリーザ軍残党は殺戮を繰り返すのか。前に殺した兵士の
言葉が頭をよぎる。
「地球の倫理を勉強して……」
 確かにあの兵士はこう言った。そう、彼らの行為は決して地球外の倫理で見た場合
間違っていないのだ。自分達がどことも知れぬ星に迷い込み、あと数年あるいは数十
年で滅んでしまうと知ったとき、一体彼らにどれだけの選択肢があっただろうか。
「いや、考えるのは止めるか。あいつ等は自分の快楽のために地球人を殺していた
んだ。もし善悪という考えがあるなら、奴らは間違いなく悪だ。そしてそれを裁く俺は
善。これは勧善懲悪の正義の行為なんだ」
 ヤムチャはそれ以上考えるのを止めた。今のヤムチャにはこの事が何を意味する
のか判断する能力はない。


169 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 03:41 ID:IvYgc3PQ
 しばらくして、ダンは赤ん坊の首を持ったまま自分の村に帰ってきた。そして地べた
に横たわるミイラ化した姉に話しかける。
「姉さん、俺強くなったよ。化け物共を倒せるようになったんだ。ほら、ごらん。敵の首
だよ」
 そう言って首を死体の胸に置くと、姉の手を取り再度呟く。
「もう、脅えなくても良いんだよ。俺がみんなを守るからね」
 ダンが姉と会話をしていると、村人が何人か集まってきた。
「ダン。お前、戻ってきたのか?」
「あぁ、戻ってきたよ。それも強くなってね!」
 そう言って、少しだけ宙に浮くダン。一瞬、ざわめく村人達。この力、すなわち武空術
は戦士達にとっては当たり前の力だが、村人達や一般の人間から見れば理解の範
疇を超えた超常現象である。
「ダン……お前一体?」
「力を身につけたんだよ、みんなを守る、奴らを駆逐出来る力が手に入ったんだ。ほ
ら、見てよ俺が殺したんだ」
 喜びの表情でダンが差し出した赤ん坊の首は紛れもなく人間のそれだった。
「ダン、お前それは……それは人間の首だぞ!」
 村人の間に緊張が走る。人殺し、ダンが人を殺した。ダンが敵になってしまった。村
人みんな、と言っても十数人程度の思考が一致する。ダンは化け物の力を得て帰っ
てきた。

170 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 03:41 ID:IvYgc3PQ
「お、おい。何言ってるんだみんな。これは化け物共の赤ちゃんだぞ」
 ダンは当たり前のように首を差し出し皆に詰め寄る。だが村人の反応は冷たい。紛
れもなく両者の間には認識の相違があるのだ。
「お前がどこで何をしてきたのかは知らないが、化け物まがいの力を身につけ罪無き
赤子を惨殺してきたとあれば、俺たちはお前を許すわけにはいかない!」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。これは化け物共の赤子だ、奴らはどうやったのか知
らないが地球上で繁殖する術を身につけていたんだ。このままだと、地球は奴らに汚
染されるかも知れないだぞ」
「馬鹿な事を言っているのはお前だ! ダン、それのどこが化け物の首なんだ」
 村人とダンの言い争いが続く中、ダンの母がやってきた。
 母親はダンにも村人にも何も言わず、死体と化した娘の元へと進む。
「もうすぐ、ダンが帰ってくるよ。お前も、あの子が強くなって嬉しいかい? あの子は
ね私たちを守るために正しい力を身につけて来たのさ。そうとも、もし神様がいるのな
ら、こんな残虐を許すはずがないからね。あの子は神の力を授かったんだよ」
 母親が姉に話しかける様子を見て、ダンは不思議に思う。目が見えなくても母は自
分が側にいるときはすぐに気がついていたからだ。
「母さん、何言ってるの? 俺はここにいるじゃない」
「はて? ダンの声が聞こえたような……」
 母親は化け物共の攻撃で目から光を失っている。だからこそ、余計に気配には敏
感だったはずだ。なのになぜ……
「そうか、この体には気がないんだ……」

171 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 03:42 ID:IvYgc3PQ
「マーサさん、ダンはここにいますよ。だが、こいつが手に入れたのは神の力なんかじ
ゃない、悪魔の力なんだ。こいつは……」
「黙れ!!」
 母親に自分の行為を悟られる事をダンは恐れた。いや、正確に言うと誤解される事
を恐れた。これ以上面倒な事はしたくない、敵を倒せば村のみんなも認めてくれる。
俺が得た人造人間の能力をみんな認めてくれる筈なんだ。
「母さん、気がなくなって分からなくなったんだね。でも、俺はここにいるよ、これからは
村のみんなを守ってあげられるんだ」
 ダンはそう言って、優しく母親を抱きかかえた。「母さん、俺強くなったよ」
 満足気なダン、恐怖と怒りと疑念の入り交じった表情で見つめる村人達。そして、母
親はダンの腕の中で震えていた。
「誰だ。私を抱きかかえるこれは何だい。怖い、この生き物から生気を感じないよ。私
は化け物に抱かれているのかい」
 母親マーサはダンに抱きかかえられながらも、その存在を認められない。そして、そ
の様子を見て村人達は思った。間違いなく、ダンは敵になったと……。そして、村人の
一人が言った。
「ダンを殺せ!」

172 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 03:42 ID:IvYgc3PQ
 一人のかけ声をきっかけに一斉に村人達が武器を持って立ち上がる。ある者は竹
槍を手にダンを刺し、またある者は猟銃をもってダンを撃った。そして口々に言う。
「マーサさん、逃げるんだ。あたるぞ! 早く逃げろ」
「何言ってるんだ、アイツは化け物の母親だ一緒に殺せ!」

 ダンは母親を抱えたまま、母親はその腕の中で震えている。一体なぜ、こんな事に
なってしまったんだ。先生が来ればきっと誤解を解いてくれる。そうすれば、俺は村の
英雄になれるんだ、俺のおかげで村は救われる筈なんだ。
 ダンは母親を抱えながら、そんな事を考えていた。だから、今はじっと耐えるんだ。
今は理解されなくてもいつかきっと皆俺の事を分かってくれる。
 ダンはそう思い、母親をしっかりと強く抱きしめる。


    グチャッ
 一瞬、卵が割れるような音がした。銃の流れ弾が当たったのか、それともダンの力
が強すぎたのか。どちらかは分からない。けれど、ダンが抱えていた母親は、その骨
を砕かれ、中から臓物や体液を四散させていた。

「うわぁああああああ!!! 嘘だ、嘘だーーーー!」



174 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 14:40 ID:D/b1cZeI
 それからは何が起こったのかダン自身にも分からなかった。ただ一つ言える事は、
ダンの住んでいた村はもう誰もいなくなってしまったという事だけだ。
「みんながいけないんだよ、母さんを殺すから。俺は何も悪くないよ、そうだろ。これは
敵討ちさ」

 ダンの村にヤムチャが現れる。
「先生、来るのが遅いよ。みんな死んじゃった……」
 ヤムチャは弟子の変わり果てた姿に驚く、ダンの体からは気が感じられなくなってお
り、さらにその服は全身真新しい返り血で汚れていた。その色は紛れもなく地球人の
それだったのである。
「殺したのか……」
「あぁ、敵討ちさ。こいつらが母さんを殺したからね、自業自得なんだよ。俺の言う事も
信じないでさ、俺が化け物の仲間だって思いこみやがって」
「……」
 ヤムチャには何が起こったのか理解出来ない。けれど、これだけは分かった。ダン
は狂ってしまったと。もはや、正常な人間とは言いがたいと。
「ねぇ、先生も見てよ。この赤ん坊、どう見ても敵の子供だろ。俺が見つけたんだ、奴
らは繁殖する術を身につけてたんだよ。俺は地球を守ったんだよ」
 ダンはそう言ってヤムチャに首を差し出す。だが、それはかつて荒野の盗賊だった
ヤムチャには一目で人間と分かる首だった。

175 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 14:44 ID:D/b1cZeI
「ダンどうやらお前は間違った道に進んでしまったらしいな」
「え? 先生まで何言ってるの」
「人間の赤ん坊を殺し、村の仲間を殺し、人の心を失ったお前を戦士として許す事は
できない!」
 そう言って、ヤムチャは構える。ヤムチャは既に気づいていた、ダンの体から気が
感じられなくなったという事は二日前ヤムチャが大怪我を負ったあの町の人間と同じ
体になってしまったという事だ。そして、それは自分に近い戦闘力を身につけたという
事でもある。
「せ、先生? 何やってるの、俺は先生と闘う理由なんて無いよ」
「問答無用!!」
 ヤムチャの狼牙風々拳がダンに襲いかかる。華麗なフットワークと狼の牙に見立て
た拳の連撃。何が起こったのか分からないダンは防戦一方。瞬く間にダンはヤムチャ
の攻撃を浴びて倒れてしまった。
 気を失う直前、ダンが見たものは涙を流すヤムチャの姿だった。


 ここはダンの夢の中、ヤムチャの攻撃を受け瀕死のダメージをおったダンが見る夢
の中。そこには久しぶりに見る姉の姿があった。死体ではなく生きていた頃の姉だ。
「ダン、久しぶりね。こうしてまた会える日が来るとは思わなかったわ」
「姉さん、怪我が治ったのかい」
「ううん、違う。あれは怪我なんかじゃない、私は死んでしまったの。あれは死体よ」

176 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 14:45 ID:D/b1cZeI
「死体……うん、薄々気づいていた。いつまで経っても目を覚まさないんだもん、姉さ
ん死んじゃったんだって、俺気づいてたよ」
「そう、ダンは賢いのね……。ねぇ、ダン。アナタの身につけた力で今度は私を守って
くれない? 私一人で寂しくて……」
「姉さんを守る……」
「そうよ、こっちにきて私と一緒に暮らしてくれる」
「姉さん、駄目なんだ。俺の力じゃ誰一人守れなかったんだよ。母さんも、村のみんな
も、全員死んでしまったんだ」
「そうね、でもアナタに力がないからじゃない。アナタは使い方を間違ってしまっただ
け。アナタはいつかきっと私を守れるようになるわ」
「姉さん……」
 ダンはゆっくり姉の方に歩み寄る。姉もそれに答えるようにダンに近づく。二人はふ
れあった瞬間、強く抱き合った。
「姉さん、もう離さない、俺がきっと守る。姉さんを悲しませたりしないよ」
「ありがとうダン、優しいのね。優しすぎるぐらい優しいのね。ありがとう」


 夢を見るダンにヤムチャは別れの言葉を継げる。
「さようならダン。生き続けるには悲しみを知りすぎた男よ……」

177 名前:人であるために[sage] 投稿日:04/01/15 14:47 ID:D/b1cZeI
 あれから数ヶ月。ヤムチャ達Z戦士の活躍により、フリーザ軍残党は壊滅した。彼ら
は地球人のあるマッドサイエンティストからZ戦士達の行動を事細かく知っていたが、
Z戦士の前では滅ぶしかなかったのである。ちなみに、その地球人科学者の名前はド
クター・ゲロと言い、ダンを改造したのも彼である。彼の開発した人造人間はその後改
良を重ね、数年後にはフリーザを凌ぐ戦闘力を得る事になるが、それはまた別の話。



 フリーザ軍が去った後も、ダンのいた村は荒廃したまま。そして、そこに二人の姉弟
はもういなかった。あの日の後、二人の姿を見た者はいない。


       終わり