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激闘・サイヤ人


「天さん……どうか死なないで……」

「自爆とは思い切ったことをしやがるぜ、あのチビ」

「気孔砲ーーーーー!!」

「けっ……驚かせやがって……」

「ピ、ピッコロさーーーーん!」

「へっ……お前と過ごした時間……悪くは無かったぜ……」

「魔閃光ーーーーーーー!」

「ちっ……腕がしびれたぜ!」

「悟空ーーーーー! 早く来てくれーーーー!」

「まずは、裏切り者カカロットのガキからだ!
 死ねぇぇぇぇ!」

「う、うわーーーー!」

   バキッ!

「よう、遅くなってすまなかったな」



死んだと思った。
師を殺され、怒りに任せて全力で打ち出した魔閃光を片手一本で弾く。
……そんな化け物が、突っ込んできたのだ。
もはや避ける力も残っていない、仲間も向こうでブルブル震えている小さいハゲだけだ。

……本当にあんなのがおとうさんの一番の親友なんだろうか? とかちょっと考えたりもした。

まぁそれはともかくとして、とにかく突っ込んできたのだ。
その動きは、ただ単純に純粋に直線的だった。
動きに何の無駄も無い、ただ「殺す」と言う感情のみで作られた動作……
すでに防御すら間に合わない、そんな速度の「攻撃」
まともに当たれば、恐らくは生きてはいないだろう。

ああ……ごめんなさい、ピッコロさん……
仇……取れなかったよ……

僕は、静かに「死」を確信して目を閉じた。
……その時、視界の端っこに逃げ出そうとしているクリリンがチラッと見えた気がした。

仇は、取れなかったけど……
けど、死んだら会いにいけますね、ピッコロさん……

既に死の覚悟を決めていた。
後は、「敵」がこちらに衝突するのを待つだけのはずだった。

……だが、どれだけ待っても、その衝撃は来ない……

待ちわびて、閉じた目を恐る恐る開くとそこには――――――

緋色の道着を着た、一人の格闘家の後姿があった――――――


……一瞬、確かに、その後姿が父親に見えた。

が、違う。父親とは異質の「気」を放っている。
その男の背中越しに、先ほど自分に突っ込んできていたサイヤ人――ナッパ――と呼ばれていただろうか。
ナッパが、頭から岩山に激しく突っ込んでいる絵が見えたりした。

……なんと、あの勢いで突っ込んできていた巨漢のサイヤ人を、この男は弾き飛ばしたというのか……

恐らく、その行為は僕を助けるためにしてくれたコトであろう。
だが……
味方ではあるだろうが、どうにも信頼できない気がする。

……なんとなく



だから、警戒を解くことなく、緊張した面持ちでその後姿を見上げてたというのに――――――

「遅くなってすまなかったな」

なんて、振り向きながら軽い口調で言い放つものだから―――――

張り詰めていた緊張が解けて、僕の体は後ろに倒れた……

「お前は……そうか、悟空の息子か」
男の言葉に、素直に頷く。
振り返った顔を見てみると、なかなかに端正な男であると言う事がわかる。だがそれだけではない。
背格好は父親と同じくらい、年もそう離れてはいないだろう。
伸ばした髪と、頬の十字傷が特徴的と言えば特徴的だ。
その傷とその身に纏った雰囲気とが、男を「ただ端正な男」では無いと感じさせる。

恐らくソレは、幾多もの修羅場を潜り抜けてきた者だけがもつモノ……
信じられないくらいに多くの修行を重ねてきた者だけが放てるモノ……

そんな、自分では諮りきれない程の力を持った男が、今目の前にいる……

……だがなぜか、心の方はおかしいくらいに安心しきっていた。

「いいか、お前はここにいろよ」
言われて――――――
顔を上げたときには、男はもう飛び立った後だった……



「いいか、お前はここにいろよ」
言って、飛び立つ。
どうやら、俺が助けたのは悟空の息子だったらしい。
ピッコロ大魔王に育てられたと聞いていたものだから、どれだけの悪人になったかと思っていたが……
「……澄んだ目をしてやがったな、あいつ……」
やはり悟空の息子と言うことか、なかなか素直そうな子供だった。

そんなことを考えながら、悟飯がいた場所とは少し離れた場所に降り立つ。
視界の先には、岩山に頭を突っ込んだ状態のでかいハゲ。
そして、頭を抜こうと躍起になっている様子を笑いながら見ている小柄な男。
……最強と言われた、二人のサイヤ人……
恐らくその評価は正しい。
でかい方から放たれている圧倒的な「気」も、俺には図りきれないほど物凄い。
だが、そんな「気」なんて物ともしない「恐怖」を、あの小柄なサイヤ人から感じる。

――――――ああ、何故だか、とんでもなく絶望的な予感がする――――――

「ヤ、ヤムチャさん!」
隣から……と言うか、斜め下辺りから聞こえてきた声の方を向くと、そこにはクリリンがいた。
満身創痍……といった様子だが、気の方はそれ程減っていないようにも感じる。
「クリリンか……遅れてすまなかったな。他の連中は……天津飯や餃子はどうした?」


「二人は……死んだよ」。


「二人は死んだよ……
 天津飯さんがやられそうになって……それを助けようとして、餃子は自爆したんだ……
 けど、けど! あのサイヤ人はこらえやがったんだ……あっさりと!
 それで……天津飯さんは自分の命を捨てて気孔砲を放ったんだけど……やっぱり、効かなかったんだ!
 命をかけたのに、全力をぶつけたのに! ……あのサイヤ人は、ケロリとしてやがるんだぜ……
 ……強すぎる! 強すぎるんだよ、あいつらは!」

……死んだ? 天津飯と、餃子が?
だから、二人の気をまったく感じなかったのか。

「すまん、俺が遅れたせいだ……
 そう言えば、ピッコロはどうしたんだ?」

そう、ピッコロだ。
あいつが生きているなら、ドラゴンボールを使って天津飯を生き返らせることができる。

「ピッコロも死んだよ……悟飯をかばって……」

「……そうか」

――――――ああ、酷く絶望的だ。
これ以上は無いってくらいに、絶望が満ち溢れている。
じゃあナニか?
俺のライバル天津飯も、餃子も、ピッコロも、もう生き返ることは出来ないって言うのか?

「クリリン……向こうに悟空の息子がいる……
 そこまで下がっていてくれ……」

気を高める。
体中に力が漲り、体という器から溢れ出たエネルギーはスパークとなって体外に弾ける。

「な、何言ってんだよヤムチャさん!
 俺も一緒に戦うよ!」

集中し、さらに気を高める。
爆発的な力を、体内に取り込み、押さえつける。

「ごちゃごちゃ言うな、クリリン!
 いいから下がってろッ!」

押さえつけていた気を、叫びと共に爆発させる。
その衝撃で、地面がえぐれ、風が嵐となって辺りを吹き荒れた。

「う……ああ……」

クリリンのうめき声が聞こえる。
――――――ああ、耳障りだ……

「邪魔だッ! 下がってろッ!」

叫び、さらに気を高める。
クリリンは、無言のまま、後ろに下がっていった。

「うおおおおっ! てめぇ、よくもやりやがったな!」
叫び声が聞こえた。恐らく、あのでかいサイヤだろう。
見ると、思ったとおりだった。岩山から頭を引っこ抜いたサイヤ人が、こちらを睨み付けている
遠目にも怒り狂っているのがわかる。
「べジータ! あの野郎の戦闘力はいくつだ!?」
小柄なサイヤ人―――べジータと呼ばれていた―――は、面倒臭そうに目元にある赤い機械を触る。
どうやら、あの機械で「戦闘力」とやらを計ることが出来るらしい。
「……ほう、これは凄いな。奴の戦闘力4000だ、ナッパ」
俺の戦闘力は4000らしい。
高いかどうかはわからないが、あのべジータとやらの落ち着きようから察するに……
……俺は、奴よりも戦闘力が低いのだろう。
「4000!? そりゃ何かの間違いだぜ、べジータ!
 ただの地球人がそんなに高いはずが無ェ!」
うん、ナッパとか言う奴は取り乱している。
もしかしたら、俺はあのナッパよりは強いのかもしれない。
「うろたえるな、ナッパ! たったの4000だ!
 貴様の戦闘力は5000、負ける筈が無いだろう!」
どうやら、淡い期待はあっさりと砕け散ったようだ。
「そ、そうだったな、べジータ……
 へへへ、俺としたことが、少し取り乱したみたいだな」
言って、ナッパがいきなりこちらに飛び掛ってきた。

――――――ああ、ちょうどいい。こっちもちょうど暴れたいと思っていたところだ。

気が、俺の中で暴れ狂っている。早く爆発させろとでも言っているかのように、激しく燃え上がっている。

――――――ああ、わかっているさ。そう慌てなくても、すぐに爆発させてやる……

そして……
体の中に溜め込んでいた気を、一気に爆発させた……


「戦闘力が上がってやがる……6000……8000……10000……12000……
 い、12000だとッ!?」
べジータとか言う奴が、大仰に驚いてやがる。
何を言ってるのかは聞こえなかった。聞こえなかったが、まぁ関係ない。
今の俺は、ただ目の前の敵を倒すことだけに神経を向けている。
俺の中の気が、目の前の敵を倒せと叫んでいる。

「い、12000……そ、そんな馬鹿な……」
ナッパとか言う奴も、大げさなまでに驚いている。
まったく……敵の眼前でそんなスキを見せるなんて……

なんて、無様で、間抜けで、愚かな……

「何を驚いてやがるんだ、サイヤ人……?」
どちらにしろ、こちらには手加減してやる理由なんてこれっぽっちも無い。

「お前は、俺の仲間を殺したんだ……」
ナッパが、一歩、後ずさる。

「だったら、俺も、お前を殺してやらないと……」
対して、こちらが一歩踏み出す。

「あいつらが……浮かばれないだろ……?」
また、一歩踏み出す。

「さあ……闘おう……!」

言って……
俺は、ナッパに突っ込んでいった……

「ハァッ! 狼牙風風拳!」

「な、何だコイツ!
  足 元 が お 留 守 じ ゃ ね ェ か ッ ! 」

「ぐはっ!」

「や、ヤムチャさーーーーーーーん!!」


        おしまい