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世界は二人のために




292 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/01/29 05:33 ID:Fmn0x8Xw
 餃子・天津飯編

 それは悲しいすれ違いが生んだ物語だった。愛し合う二人の男女は互いの事を思う
が故に冒してはならない過ちを犯してしまったのである。

「後悔しないのか。もう、後戻りはできないんだぞ」
「大丈夫。覚悟は決めてきた」
 狭い部屋の中、二人の男が何かを話し合っている。この会話を境に二人の境遇は
逆転する事になり、それがきっかけで事件は起こってしまった。



   物語は悟空がウーブを連れて旅立ってから1年、
       エイジ785年から始まった


 TVに流れている画像は廃墟と化した都会の図だ。あちこちで炎が上がり、地面はひ
び割れ原形をとどめている家は一軒もない。人々は無惨に転がり、あるものは腕が
無く、あるものは頭がない。体が炎によって溶けだし、原形をとどめていない物もあ
る。
「ここは西の中心部、カプセルコーポレーション本社の近くです。ご覧ください、既に辺
りは地獄の様相と課しております。一体この西の都で何があったのでしょうか?
我々はその謎を探るべく……」
 ガッガ……。突然、映像が傾き、画面にノイズが走る。そして、次の瞬間TVは消えて
しまった。

293 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/01/29 05:35 ID:Fmn0x8Xw
「天さん、大変だよ! 西の都が……」
 ここは北の都付近の天津飯宅、中では餃子とランチの二人が一緒に暮らしている。
TVを見ていたのは餃子、変わり果てた西の都の様子に驚いている。
「餃子、何があったんだ!」
「西の都が……西の都が壊滅しちゃった」
「何だと!!」
「さっきTVでやってたんだけど、西の都中が炎に包まれて……」
 天津飯は餃子の説明を聞き流し、西の都の方角の気を探る。そして、事態の深刻さ
に気づいた。気を感じなかったのである。たくさんいるはずの住人達の気も、そして必
ずいるはずのベジータ親子の気も、かつて共に闘った仲間ヤムチャの気も、誰の気も
感じなかったのだ。
「馬鹿な……一体何が起こったというのだ。餃子、TVはいいから、気を探ってみろ!」
 天津飯に言われて餃子も気を探る、確かに誰もいない。西の都には誰一人人間は
残っていなかった。さらに餃子は西の都以外にもそこから数千キロ離れたカメハウス
でも気の消失に気づいた。
「天さん、カメハウスにも誰もいないよ」
「確かに……」
 つい一日ほど前には賑わっていたはずの西の都、そしていつもなら亀仙人やクリリ
ンがいるはずのカメハウス。共に今は誰もいなくなっていた。

294 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/01/29 05:38 ID:Fmn0x8Xw
「餃子! 俺は様子を探るために天界に行く、あそこならまだピッコロ達がいるから
な。事情を知っているだろう、お前はここに残ってランチを見ていてくれ」
「う、うん分かった。でも天さん無理しないでね」
「あぁ、分かっているさ」
 餃子には天津飯の台詞が気休めに過ぎない事が分かっていた。天津飯は生粋の
戦士である。たとえ戦闘力は及ばなくても、何度も敵に挑んできた男だ。今回の見え
ない敵、『ベジータ以上』の戦闘力を持つ敵に対しても怯むことなく闘いを挑むだろう。
だが、その結果セルやブウの時のように生き残れるとは限らない。
 飛び立つ天津飯を見て餃子は思う。「天さん、本当に無理はしないでね」と。

 天津飯が天界に向かった後、家には餃子・ランチ夫婦だけが残された。今、ランチ
は餃子の子供を妊娠中である。子供が生まれたら焼売にしようと考えているが、ピラ
フ一味と名前がかぶって縁起が悪いとも考えている。ともあれ、この夫婦は長年のつ
きあいからか、今でも天津飯に世話になっている。
 家主は天津飯であり、二人は扶養家族という所だが、不思議な事に収入があるの
は餃子とランチの二人である。天津飯は収入など無く、ただ一人黙々と修行の日々を
続けている。
 かつて、ランチが天津飯に恋をしていた頃、二人は相思相愛の仲であったが武の道
に専念する天津飯は自分に恋人など不要と考え、ランチの愛を表面上は受け入れな
かった。そのため、心の奥底では愛し合っているはずの二人が結ばれる事はなかっ
たのである。
 そして気がつけば、ランチは天津飯を諦め餃子と結ばれてしまった。ちなみに、今あ
る家は天津飯が第二十二回天下一武道会の賞金で購入した物であるが、餃子一家
の住まいとなっており、初夜もここで過ごした。

295 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/01/29 05:41 ID:Fmn0x8Xw
 話は横道にそれたが、元に戻って天津飯に移る。
 高速移動により、僅か数分で天界についた天津飯。天界にはいつもの三人がいる。
ピッコロ、デンデ、ミスターポポの三人だ。さっそく天津飯はリーダー格のピッコロに
話しかける。
「下界での異変にお気づきですか?」
「あぁ、気づいている。ベジータがやられた」
「はい……ベジータ以上の気は悟空しか感じないのですが……一体何が起こったん
です?」
「教えられないな、天津飯。お前は足手まといになるだけだ。相手はベジータ以上の
戦闘力を持つ怪物。後は俺や孫で闘うからお前は逃げていろ」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか。おれがそんな事を聞くとでも思うんですか、闘い
ますよ、たとえ相手がどんな敵であろうともね」
「止めておけ、お前の能力では味方の邪魔になるだけで役には立たん!」
「っく……」
 ピッコロの冷たい態度に天津飯は黙るしかなかった。確かに、自分の戦闘力はピッ
コロ以上の連中とは雲泥の差がある。地球人では最強クラスかも知れないが、この
世界ではそれは弱い部類にはいるのだ。
「ならせめて、敵の正体だけでも教えてください。一体なぜ敵は俺たちに気づかれず
ベジータを殺せたんだ。ベジータ以上の気を持つのなら、すぐにその存在に気づいた
はずだ」
「敵はかつて闘った事もある化け物、ドクター・ゲロの生み出した人造人間だよ」
「ば、馬鹿な……既にゲロ博士は死んだはずでは?人造人間はもういないはずじゃな
かったのか」
「これ以上は教えられん。お前は戦士達に近づかず、気を押さえて生活しろ。敵は大
きな気を持つ者を狙っているからな」
「……分かりました」

 ピッコロの言う「これ以上は教えられん」という言葉に憤りを感じながらも天津飯はそ
の場を去った。無論、ピッコロの言葉に従うつもりはない。敵が大きな気を持つ者を狙
ってくるのなら、行く場所は決まっている。孫一家が住む所だ。
「俺は戦士だ、気を押さえて逃げるのは弱者のする事。俺は逃げん、相手がどれだけ
強力であろうともな!!!」

296 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/01/29 05:43 ID:Fmn0x8Xw
 ここは最強一家孫家。一番弱いと思われるチチ、ビーデル、牛魔王でさえ、超人レ
ベルという武道家一族。最強は孫悟飯であり、その強さは地球どころか宇宙一と言っ
ても良いレベルである。二番手がその父、孫悟空。二番手というのは、この一族で二
番手ではなく、宇宙で二番手という意味にとっても構わない。最近はウーブという少年
と一緒にいる時間が多く、家にいない事もあるが瞬間移動が使えるので時々何の前
触れもなく帰宅してくる男だ。三番手が孫悟天、彼も強い、兄悟飯に比べれば弱いが
彼より強い生物は宇宙に5体程度ではないだろうか。
 以下、宇宙の標準的戦闘力を大幅に超えた戦士達で埋め尽くされているこの家。ピ
ッコロの言う『敵は大きな気を持つものを狙っている』が正しければ、ベジータを殺した
犯人はこの家を真っ先に狙うはずだ。天津飯はそう考えたのである。
 天津飯は今、孫家の近くにいる。彼らはまだ普段通りの生活を送っていた。今や一
家の長となった孫悟飯は家の一室で勉強に明け暮れており、その娘パンは叔父の悟
天と修行している。ビーデル、チチ、牛魔王はやる事が無くテレビを見ているようだ。
悟空はいないらしい。恐らくウーブと共に旅に出ているのであろう。
 天津飯が近づいていくと悟飯がやってきた。やってきた、と言ってもそのスピードは
天津飯が目視出来るレベルではない。いきなり天津飯の目の前に現れ、
「天津飯さんお久しぶりです」
と笑顔で言う。天津飯は突然の挨拶に一瞬怯みながらも、
「あ、あぁ、元気そうだな」
と答えた。

332 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/10 03:34 ID:6NPs5LnU
 「天津飯さん。わざわざ来て頂いてありがとうございます。 今日はどういった用件で
すか?」
 天津飯は曇り無い青年の眼差しにうつむいてしまう。敵が来た事を言わなくてはなら
ない、だがこの青年は闘いが好きではないのだ。
「……重大な話がある。どこか落ち着ける所まで連れて行ってくれ」
「はい。でしたらこちらの部屋にどうぞ」
 天津飯はひとまず言葉を濁す事で青年に打ち明ける事を避けた。だが、地球の危
機を何度も救ってきたZ戦士達の言う『重大な危機』の意味を最強の戦士悟飯が分か
らないはずがない。悟飯は天津飯を応接間に招いた後、自分から口を開いた。
「敵が現れたんですね」
「……あぁ、そうだ。敵は既に西の都を壊滅させ、ベジータ達もやられた。そして亀仙
人様も……」
「敵の正体は分かりますか?」
「直接見たわけではないが、ピッコロが言うには人造人間らしい」
「人造人間ですか……」
 悟飯、チチ、ビーデル、牛魔王の四人は突然の報告に驚かされている。西の都が
壊滅した。ベジータもやられた。その事が意味する事は敵の強さは今までに現れたど
の敵よりも強いと言う事だ。だとすれば、悟飯が闘うしかない。父と共に闘うか……自
分で闘うか……どちらにしても、自分は逃げるわけにはいかない。
「天津飯さん、報告ありがとうございます。天津飯さんは危険ですので逃げていてくだ
さい。後は僕とお父さんでなんとか敵を倒します。戦士以外の方は邪魔になるだけで
す」
「なっ、なんだと!! 戦士以外? この俺がか??」
「えぇ、ハッキリ言って戦力外です。敵はベジータさんを倒したと言う事を忘れないで頂
きたい」
「悟飯、お前言うようになったじゃないか」
「圧倒的な戦闘力差があるんです、僕だってこんな事は言いたくありません。けれど、
言わなければ駄目なんです。敵とは僕とお父さんが闘います。アナタは他の人間と一
緒に逃げてください」

333 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/10 03:34 ID:6NPs5LnU
 悟飯からの通告に天津飯は激怒する。一日に二度も、戦力外通告されてしまった現
実。無論、相手の言う事が正論であると言う事は理解出来る。確かに戦闘力の面で
は彼らに及ぶべくもない。だが、戦士としての誇りなら後れをとらないつもりだ。なの
に……
「悟飯、俺はお前がなんと言おうと闘うぞ、ベジータを倒したほどの相手だ。逆に身が
うち震える、そいつを倒したいとな」
「現実を認識してください。あなたでは……」
 二人が話している様を、チチ、ビーデル、牛魔王の三人はただただ見つめているだ
けである。だが、そこにパンが現れた。彼女は一家が集まっているので興味本位でや
ってきたのだ。
「あれ? お客さんが来てたの?」
「あっ、パン。入ったら駄目だよ。大事な話をしているからね」
 悟飯は娘に敵の事を知らせたくない。そう思っているから、娘にはこの話をしないで
いるつもりだったのだ。だが、ふと考え、一つのアイデアが浮かんだ。
「そうだ。そこのおじさんと勝負をしてみないか? パン」
「え……」
 悟飯の突然の提案に天津飯とパンは目を合わせる。年齢にして30歳以上は離れて
いるであろうこの二人。まだ幼い子供、それも女の子と、最盛期を過ぎたとは言え地
球最強クラスの戦闘力を持つ天津飯。この二人を闘わせる? それも父親が?
「悟飯、お前は一体何を考えているんだ?」
「天津飯さん、僕の考えている事は分かるはずです。アナタはパンより弱い。闘えばそ
れが分かりますよ」
「……貴様、自分が何を言っているか分かっているのか?」
「えぇ、現実を認識しないアナタに今の自分の戦闘力を見つめ直して頂きたいと思い
ましてね」
 悟飯と天津飯の会話をパンは興味深く見守っている。パンにとって、会話の内容に
は大して興味がない。ただ、闘えるという事一点に興味がある。
「な、なにを言ってるだ悟飯ちゃん、パンちゃんはまだ小さいべ、天津飯さんには勝て
ないだよ」
 チチが叫ぶ。ビーデルも不安そうに見つめている。だが、悟飯は確信を持って言う。
「天津飯さんはパンに勝てない」

334 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/10 03:36 ID:6NPs5LnU
 かくして、天津飯vsパンの闘いが始まる事になった。何の因果で幼い子供と闘わな
ければならないのか。だが、この闘いに勝てば頑固な魔族の師弟二人も自分が戦士
である事を認めるだろう、悟飯には悪いが娘は倒させて頂く。天津飯は幼子と闘う覚
悟を決めた。
 全員、孫家の外に出る。そして、歩いていった先は先ほどまでパンが修行をしてい
た所。ここでパンと天津飯が闘う。広さは野球場ほどであろうか、地面は起伏が少なく
所々石が露出しているが戦士達には関係がない。平らな足場があれば闘うのには不
自由しない人種にとってここは天下一武道会会場となんら変わらない環境である。
 二人が、この広場の真ん中程まで歩いた所で悟飯が言う。
「ルールは無し、急所攻撃でも何でも可とします。ギブアップは認めません。相手が気
絶するまで闘って頂きます」
 望む所だ。と天津飯は思う。貴様の娘が気絶だけですむと思うな。そう思い、パンを
見やると、幼子はこれから起こる事の恐怖などみじんも感じていないそぶりを見せ、
ただ楽しみなイベントを待っているだけのように見えた。
「親子三代揃って俺を嘗めやがって! 後悔しやがれ!!」

「では、始めてください」
 悟飯の合図により試合が始まった。天津飯は大人げなくも先手をとる。女子供であ
ろうと容赦はしない。
 天津飯の手刀による袈裟切り……が、パンは見向きもしない。「えい!」とスネを蹴
る。
「う、ぐぉ!!」
 蹴り一発で天津飯は悶絶する。地面に転がりのたうち回る天津飯。

「あ、あはは。お嬢ちゃん少しは強いみたいだね」
 脂汗をかきながらも、何とか笑顔を浮かべる天津飯。だが、明らかに余裕が無くな
っている。敵の戦闘力を分析し、「ひょっとしたら自分より上かも?」と思い始めてい
る。

335 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/10 03:36 ID:6NPs5LnU
「今度はおじさんが本気を出すからね」
 最初から本気で先手をとった事も忘れ、『今度』という天津飯。余裕が彼から消え、
ある意味では確かに本気になっていた。その本気とは決して実力を出すという意味で
はなく、本気になって焦り始めた。という事である。

「ハァッ!! 四妖拳」
 天津飯の手が四本に増える。一部では人間ではなく、他の哺乳類と言われている男
だ。地面に四角い穴を掘る習性があるとも伝えられており、生殖ではなく分裂によって
増える生物であるとは有名な話だ。
「ワァ!! すごいすごい」
 パンは手が四本に増えた天津飯を見て、あぐらをかきながら拍手している。
「ふざけるな!!」
 天津飯は四本の手で連続突きを繰り出す。が、パンは涼しげな顔でそれを捌く。
「ねぇ、おじちゃん。もっと増えないの?」
「ふざけるな!!!」

 以下、天津飯が怒りに震え、様々な技を繰り出すがパンは涼しげな顔で捌くのみ。
これが長く続くので、今回は省略する。

 長い闘いの末、退屈したパンの前には全力を出し尽くし、むなしく倒れた一人の元
戦士がいた。元戦士の名は天津飯、今はアホ面を晒して倒れている男だ。

336 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/10 03:37 ID:6NPs5LnU
 所変わって、ここは餃子とランチ。この二人の所に17号がやってきた。
「天津飯という男はいるか?」
「天さん出かけている、用件言え」
 17号の用件は突然西の都に現れた化け物に関しての事である。
「お前達も知っているだろうが、ある化け物が現れたために、西の都が壊滅した」
「うん知ってる。お前何か、その事で知ってるのか?」
「あぁ、詳しい事はまだ言えないが、あれは俺たち人造人間の一種だ。俺たちの……
いや、言うまい。とにかく、敵の事は俺たちが知っている。天津飯はどこだ?」
「天さんいない、僕が聞くから敵の事教えろ」
「っち、分かった。教えてやるからついでに天津飯の所まで俺を連れて行け」


 ここで、餃子が一度でも17号に会った事があれば、彼の異変に気づいたはずだっ
た。だが、餃子は17号が気を持たない人造人間であるという事しか知らない。直接見
た事はないのだ。だから、この会話の奇妙な所に気づかなかった。
 17号がなぜ、直接天津飯の所に行かなかったのか? これが異変であると言う事に
餃子は気づいていなかったのだ。その事が敵の正体をつかむヒントになる事も、当然
彼は気づいていなかった。

339 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/11 02:58 ID:lByR/2f.
 餃子とランチは17号がやってきた飛行機に乗って天津飯の所に向かった。
 17号は思う、
(さてと、どうしたものか。勢いで教えてやる等と言うんじゃなかったな。敵の正体はこ
いつ等にはあまりに辛すぎる。教えてやらない方が親切というものだろう。まさか、あ
の男が今になって敵対するとは思ってもいないだろうからな……)
 そんな17号の気持ちに気づくはずもなく餃子は問いかけてくる。
「で、敵は誰だ?」
「あ、あぁ……俺たち人造人間の仲間だ」
「どんな奴だ」
「強い奴だ」
「そうか。わかった」
(え?? マジ。強い奴だけで納得するのか?)
 17号は餃子が引き算もできない事を知らなかった。ともかくも、彼は敵の正体につい
てごまかす事ができた。本当に言えない、あんな事が原因だとは言えるはずがないの
だ。



 さて、再び所変わって天津飯。30歳は離れているであろう女の子に手も足も出せず
に負けた元戦士の所。
「さて、天津飯さん。これで自分の実力を認識して頂けましたか? パンに勝てないよ
うではとても戦士とは言えません。僕や父さんから見れば、地球人最強レベルなんて
言うのは最弱と区別がつかないんです」
 悟飯の無礼な言葉遣いにも天津飯は返す言葉がない。娘に負けてしまっては戦士
としての誇りを保つ事ができないのだ。

340 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/11 02:59 ID:lByR/2f.
「分かった……俺はもう引退して、戦士をやめて、逃げて生き延びるしかないんだよ
な……ハハッそうか。俺はもう弱いんだな」
 自虐的な笑いを浮かべる天津飯。残酷だったかと思いつつも、これで良いと思う悟
飯。勝負の決着はつき、天津飯は逃げ隠れる事を決めた。まだ見ぬ敵に未練を感じ
ながらも。

 だが……、敵はすぐ側まで忍び寄ってきていたのだ。

「さて、僕は敵の特徴を知るためにピッコロさんの所に行ってきます」
 そう言って家を出ようとする悟飯。だが、異変はその直後に起こった。
 突然、周りが薄暗くなる。太陽の光が遮られる。つい先ほどまで昼間だったハズが
夜のようになってしまった。
「神龍が出てくるというのか?」
「い、いや違う! 見てください。あれだ!!」
 悟飯が指さした先には巨大な雲のような塊が存在した。雲のような……といっても、
それは大きさだけである。見た目から感じられる質感はまるで岩肌のようで、高さも地
上数百メートルと言った所。
「何だ一体??」



 17号は思う。
(俺たち人造人間にはパワーリミッターがセットされている。それが外れれば、俺たち
は巨大化する。その大きさは一つの島ほどになる)


346 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/12 04:25 ID:lByR/2f.
「あんな巨大なのが僕の所に来たのは……偶然じゃないですよね?」
「俺は知らんぞ」
 二人が巨大な物体を眺め、焦りながらもノンビリとした会話をしていたその瞬間。巨
体が動いた。雲のように大きな体から多くの触手が伸びてくる。それは正確に孫悟飯
めがけて襲いかかってきた。
「っく!!」
 飛び上がってかわす悟飯。だが、そこにエネルギー弾の追撃が来る。正確に、そし
て悟飯だけを集中して。悟飯はバリアーをはってなんとか防いだ。

「なんだ、あのでかいのは……あれで生き物なのか。そらを埋め尽くすほどの巨大さ。
岩を思わせる重厚な質感。生き物と言うより空を飛ぶ島といった方が良い、あんなも
のが攻撃してくるのか? あれで人造人間だとでも言うのか?」

 天津飯が敵を観察している間にも、敵の攻撃は続いている。悟飯は防戦一方だ。い
や、正確に言うと、防戦一方と言うより敵の攻撃を観察しているといった方が良い。敵
がどれだけの戦闘力を持っているのか、気を探る事ができない相手ではその攻撃
力、スピードなどから戦闘能力を分析する他はない。悟飯は今敵の能力を分析中な
のだ。

347 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/12 04:25 ID:lByR/2f.
 敵の攻撃は時間と共に熾烈さを増してくるが、同時にその攻撃は細く鋭利なものと
なり、的確に悟飯だけを狙ってくる。エネルギー弾は最初直径5cmほどあったであろう
が、今は1mmもない。悟飯だけを正確に狙い撃つよう集約されているのだ。
 天津飯は分析する。
「今はまだ悟飯に余裕があると言った所か……」
 悟飯は自分から攻撃を仕掛けていないものの、傍目から見れば明らかに実力で勝
っているように思われた。

 天津飯はそれらを見て思う。
(おかしい、おかしい事だらけだ。敵が巨大なのはいい、人造人間とは言っても例外
的に巨体を持つ者がいてもおかしくはない。
 だが、おかしいのはその攻撃だ。悟飯からわずか数百メートルしか離れていない俺
や牛魔王、チチなどには一切攻撃があたっていない。正確にこの場にいる最強の男
だけを狙っている。攻撃は威力を一点に集中させ、破壊力はあるだろうが集約された
力であるために、攻撃範囲はきわめて狭い。だから、これだけ近くにいる俺たちに一
切流れ弾が当たらないんだ。
 攻撃を集中する、この事が何を意味しているのかは分からない。だが、ハッキリ言
える事は西の都を壊滅させたときに働いた力は明らかに別物だ。あれは広範に弱い
力を分散させた攻撃だ。今の攻撃とは質そのものが違う。今の攻撃では数時間繰り
返しても、西の都どころかカプセルコーポレーションすら全壊させられない。とすれ
ば……この敵はまだ力を隠しているのか?
 いや、それは分からんが、そう言えば西の都の壊滅もおかしかった。ベジータを倒
すほどの攻撃力を持ちながら、西の都はまだ存在した。廃墟ではあったが建物はま
だ原型をかろうじて止めていた。ベジータがそのレベルで死ぬか? 答えは否だ。だ
とすれば、一体西の都で何が起こったと言うんだ。
 納得出来ない点はまだある。悟飯の余裕だ。悟飯は宇宙最強と言ってもその実力
はベジータと大差ない。そのベジータが俺たちに気づかれないうちに殺された。ベジー
タが本気を出して長時間闘っていたら、誰だって気づいたはずだ。とすれば、ベジータ
は短時間でやられた。それだけの攻撃力を敵は持っていたという事だ。なのに、この
敵の攻撃力……明らかにそのレベルではない。

おかしい、とにかく、おかしすぎるぞ。この化け物は)

348 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/12 04:26 ID:lByR/2f.
 天津飯が疑念を抱いている頃、悟飯はあらかた敵の能力の分析を終えていた。
「攻撃力、スピード。ともに相手にならないレベルだな……悟天ぐらいのレベルか。余
裕で倒せる、でかいのは図体だけだ」
 そう呟くと、悟飯は一気に攻勢に出る。敵が伸ばしてきた触手をかめはめ波で消し
飛ばし、敵が放ったエネルギー弾を超スピードでかわすと、数百メートルはあるであろ
う敵のさらに上まで飛び上がった。
 そして、上空でエネルギーの集中を始める。周りにはバリアーを張りながら、気をた
め始めた。
 悟飯は額に右手の人差し指と中指を当て、気をためている。敵の攻撃はその間も
続き、触手やエネルギー弾が悟飯に襲いかかる。だが、悟飯の周りに張り巡らされた
バリアーはそれを通過させない。
「お前の能力は既に分析済みだ。このバリアーはお前には壊せないよ」

 そして、数分後、悟飯の右手にエネルギーが集中された。
「ピッコロさんから教わった技だ。喰らえ! 魔閑光殺法!!」
 悟飯が指を敵に向けた瞬間、エネルギー弾が敵めがけて襲いかかる。そして、敵の
ど真ん中をぶち抜いた。
「直径1メートルほどの穴か。だが、安心するなよ。魔閑光殺法はまだ続くぞ。曲が
れ、魔閑光殺法!!」
 悟飯は師から教わった技を改良し、曲がるようにしていた。
「たとえ、お前が巨大でも、何度も曲げて巨体を覆い尽くしてやれば、いつかは壊れ
る。僕の勝ちだ」

 圧倒的な実力で敵を駆逐しようとする悟飯。だが、対照的に天津飯には不安がよぎ
る。
「なぜだ。この敵は倒してはならないような気がする。今ここで悟飯の攻撃を完全に食
らえば、敵の息の根を止められる。だが、なぜだ。殺してはいけない気がするんだ。こ
いつは一体……」

372 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:26 ID:5EYsty6Y
 ここは餃子達が乗る飛行機の中。餃子は既に闘いが始まった事を感じていた。
「この気は悟飯のだ。全開で闘ってるのかな? 僕には分からない」
 餃子は戦闘の開始は分かっても、中身までは理解する事ができない。そして、もっと
理解出来ていないのが、17号だ。
「闘いが始まったのか……敵は誰だ?」
「分からない。敵の気は感じられない。悟飯の気がとても大きくなったから分かった」
「大きいって、どのぐらいだ?」
「とっても大きい、いま地球で一番大きい気だ」
「地球で一番? 孫悟空よりもか」
「そうだ」
 (なるほど、とすれば戦闘の相手は間違いなく人造人間。あの男が相手になってい
 るに違いない。だとすれば、死んだな……悟飯とやらは)
「あれ?? 悟飯の気が小さくなっている」
「殺されそうって事か?」
「違う。戦闘を終了したみたいだ」
「な、なんだと? 馬鹿な、あの男に勝てたというのか?」

 悟飯は敵にとどめを刺すため、魔閑光殺法をを曲げ、敵の体を粉々に砕いていく。
誰の目から見ても、悟飯の勝利は揺るがない。だが、それ故に天津飯は不安になっ
てくる。この敵を倒してはならない。根拠のない不安、だが、ハッキリ感じる不安。
 その不安が、天津飯に考えられない行動をとらせた。
 できうる限りの力をもって、高速で移動する天津飯。自分の何倍もの測度で移動し
ている魔閑光殺法の軌道を読み、それを妨害する位置に移動する。
 魔閑光殺法は勢いを付け、敵に迫る。だが、その軌道上には天津飯の姿が。
「な、何やってるんですか!! 天津飯さんどいてください」
 悟飯は魔閑光殺法の軌道を修正しようとする、だが……
「間に合わない。くそっ」
 軌道の修正が間に合わないと判断した悟飯はとっさに魔閑光殺法を消した。
「あと少しでとどめが刺せたのに……」

373 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:27 ID:5EYsty6Y
 上空高く浮かび上がる悟飯の眼下には、8割方崩壊した敵の姿があった。元々小
島ほどにもあったその巨体は全身穴だらけとなり、攻撃するための触手が体中につ
いていたが、今は一本も存在しない。人間で言うなら、再起不能の大けがと言った所
だろう。
 餃子は17号とランチに言う。
「おい、そろそろ着くぞ」
「あぁ、見えてきた。巨大化した人造人間がな」
 17号は思う。
 (しかし、腑に落ちない。あの男が巨大化したのならば、悟飯など相手にならないは
ずだ。いや、そもそも巨大化するような原因があるというのか? いや、それ以前に巨
大化しなくても悟飯以上の戦闘力は持っているはずだ。なのに、なぜ巨大化してさら
に、悟飯以下の戦闘力になってしまったのか……)

「天津飯さん、なんで邪魔したんですか。こいつはベジータさんを殺し、西の都を壊滅
させた張本人なんですよ。ここで倒さないでどうするんです」
「すまん、だが俺にもなぜ止めたのか分からないんだ。ただ、ハッキリ言える事はコイ
ツは恐らく、西の都を壊滅させた奴ではない。西の都の壊滅には別の原因があるは
ずだ。」
「なぜ、そう言えるんです」
「こいつの戦い方と戦闘能力。どちらをとっても、ベジータ殺しや西の都壊滅を説明づ
けるものではない。悟飯、お前は闘っていて気づかなかったか? 敵の攻撃力があま
りに低い事に」
「ヘタレたあなた程じゃなかったですよ。一体何が言いたいんです」
「いいか、ベジータとお前の戦闘力はブウ戦の時に逆転し、確かにお前の方が強くな
った。だが、あれから数年たち、お前とベジータの戦闘力差はかなり縮まったはずだ」
「えぇ、そうですよ」
「だとすれば、なぜベジータを倒した敵をお前が、あれだけ楽に倒せる? 敵はベジー
タを俺たちに気づかないほど短時間で殺したんだぞ」
「あ……言われてみれば。でも、そいつだって僕に襲いかかってきたじゃないですか。
なんで止めるんです」
「……さっきも言ったが、その理由は分からん。だが、これだけ実力差があるんだ、こ
いつはいつでも殺せるだろう。今すぐにとどめを刺す理由はない」

374 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:27 ID:5EYsty6Y
「その考えは甘いぞ、天津飯!!」
 悟飯と天津飯が話している所に17号がやってきた。
「巨大化した人造人間は理性を失った化け物のような存在だ。今はまだ、全身に負っ
た怪我のためおとなしくしているが、ひとたびコイツが動けるようになれば、再び悟飯
に襲いかかる。そして、一人一人確実に殺されていくんだ。何があったかは知らない
が、この男が本来の力を失っているうちにとどめを刺せ、でないとコイツは悟飯以上
の実力を発揮し、俺たちを全滅させるぞ」
「17号、お前は敵の正体を知っているのか?」
「あぁ、あの巨大化した姿はお前に匹敵する力を持つあの男のなれの果てだ」
「あの男?」
「お前にそれを聞く覚悟があれば教えてやる。敵はお前等のよく知っている男なんだ」
「その、僕たちの知っている人がベジータさんを殺したんですか?」
「あぁ」
「17号、教えてくれ。一体誰なんだ」

「数日前、俺の所にあの男がやってきた。自分を人造人間に改造して欲しいと言って
な。俺には人造人間を作り出す技術はないが、人造人間を形成するパーツなら持っ
ていた。そのパーツをあの男に渡し、あの男は自分で自分の体を改造したんだ。そし
て、あいつは最強の力を手にした……どういうわけか、今は悟飯に負けてるけどな」

「で、誰なんです。誰が人造人間になったんです」
「あぁ、あの男の名は……いや、言うまい。言った所でどうとなるわけでも無し、どうせ
アイツは理性を無くしているんだ。あの巨大な体はな、俺たちが理性も知性も無くし、
全てを失ったなれの果てなんだ。だから、あいつが誰だったかなんて言う事はもう何
の意味もないんだよ。さぁ、悟飯、奴を殺せ! とどめを刺すんだ!!」

「わ、わかりました」

375 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:28 ID:5EYsty6Y
 悟飯は思う。
(敵の正体は気になるけど、17号さんは極端に隠したがっている。これ以上聞いても、
教えてくれない。残念だけどアイツは僕が倒すしかない)

 敵はゆっくりとだが、自然に自らの力で傷を回復させていっている。このまま、数日
経てば悟飯の与えたダメージも全快するだろう。
 謎はまだ多い。17号が言うには最強の筈の敵がなぜ自分より弱かったのか。ベジ
ータはなぜ殺されたのか。西の都は廃墟になりながらもなぜ原形をとどめていたの
か。そして、この敵の正体は一体何なのか。
 だが、もう構わない。こいつを倒せば全てが終わるはずだ。


376 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:28 ID:5EYsty6Y
  あ・ら・す・じ


 天津飯と餃子は突然、西の都が不可解な壊滅をした事を知る。
1.突然に
2.原形をとどめて
3.闘っている最中の気を感じさせずに
 何者かによって、西の都は壊滅し、その中にいたベジータを含む複数の戦士達も全
滅した。同時期、カメハウスからも全ての者の気が消えている。

 事態を把握するため天津飯は千里眼の能力を持つピッコロのもとへ向かう。ピッコ
ロはなぜ西の都が壊滅したのかを知っている様子。だが、天津飯には何も教えてくれ
なかった。


 同じ頃、餃子のもとに人造人間17号がやってきた。彼は天津飯を探しに、天津飯の
家にやってきたのだ。この行動も不可解であった。
1.彼は飛行機で天津飯の家にやってきた。
2.彼は天津飯がいない時間に天津飯の家にやってきた。
 本来パワーレーダーを持つ彼なら、直接天津飯のもとへ行く事ができたはずなの
に、そうはせず、家に向かい、天津飯を探すという事をやったのだ。さらに「飛行機に
乗って」である。

 17号の目的は天津飯から敵と戦える可能性を持つ悟飯や、孫悟空の場所へ連れて
行ってもらう事だった。
 とにかく、17号は餃子の案内により天津飯のもとに一旦移動する。そこには悟飯も
いる。


 天津飯はと言うと、悟飯の家に着いた頃。娘のパンと闘って敗れていた。

377 名前:世界は二人のために[sage] 投稿日:04/02/14 03:28 ID:5EYsty6Y
 そして、天津飯がパンとの勝負を終えた後、敵がやってきた。
 敵は巨大な体を持つ人造人間の変わり種。その大きさは島ほどもあり、宙に浮いて
移動する。攻撃にはいくつかの不可解な点がある。
1.攻撃力はベジータを倒せるほどではない。
2.攻撃範囲は狭く、西の都を壊滅させるほど広範ではない。
と言った点だ。

 この敵を悟飯は倒そうとするが、天津飯はいくつかの不可解な点から敵を倒しては
ならないという。

 そこへ、17号が来て、敵を倒せと言った。
 17号は敵の正体を知っているらしいが、
1.正体と思われる男に比べて敵の能力が低い。
2.なぜ巨大化しているか定かではない。
 等の疑問点もある。とにかく、17号の考え通りだと、敵の能力は悟飯を大きく上回る
ので、今のうちに殺しておくようにとの事。




 あ・ら・す・じ  終わり。  本編に続く。