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アックマン

 

11 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:11 ID:???
アックマン、彼は強かった。
ある少年と戦うまでは。無敵だった。

第xx回天下一武道会、優勝者アックマン。
第yy回天下一武道会、優勝者アックマン。

もう敵はいない。無敵だ。
誰もがそう思った。そして、本人が一番そう思っていた。

なのに、負けた。

敵が強かった?
自分が油断した?

いや、どれも違う。
彼は油断しても負けなかった。
自分より強い相手にも負けなかった。

負けた理由は、
必殺技が通用しなかった。

12 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:12 ID:???
「アックマンよ。本当に辞めるつもりか?」
「あぁ、あの必殺技が通用しなくなっちまったんだ。
ここにいても邪魔なだけだろう」
「辞めてどうするつもりじゃ?」
「必殺技を身につけるつもりだ」

長年勤めていた、占いババの屋敷を出て行くことになったアックマン。
彼にはもう、そこにいる理由などなかった。


「旅に出るのも久しぶりだな」
出不精だった彼。占いババの屋敷を出るのは、数年ぶりである。
まったく当てのない旅立ったので、彼はただひたすらに歩くことを決めた。
方向はまったく考えていない。

最強の技、アックマイト光線。それを超えるため、言わば武者修行。
それこそが、この旅の目的。

13 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:12 ID:???
どれほど歩いただろう。村が見えてきた。小さな村だ。
煙が上がっている。食事中だろうか。

このあたりの村では、ほとんどの家で未だに囲炉裏が使われている。
だから、煙が立つということは食事中ということだ。

しかし……

それにしては様子がおかしい。

アックマンはゆっくりと歩き、村に近づいていく。
煙は囲炉裏の火ではなかった。家が燃えている。
いや、燃やされている。

この村は何者かに襲われているのか、あたり一面火の海と化している。
なぜ?

アックマンは村の中に入っていった。
生きている村人は一人もいない。
死体が数体転がっている。
家が燃えている。燃え始めたばかりだろうか、家はまだ原形をとどめたままだ。
死体の一つを見てみる。よく見ると、燃えていない。
火傷一つない体である。が、頭には打撲によると思われる傷がついていた。
死因はこれか。 アックマンは思った。
山賊にでも襲われたのだろう、身包みはがれて、村ごと焼かれてオシマイ。
アックマンは、そんなやり方がいかにも山賊らしいと思った。

14 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:13 ID:???
彼は考える。燃え始めたばかりの家を見るに、これは襲われ始めたところなんだろう。
まだ、近くに山賊がいる。
だとすれば、武者修行をする自分にとっては丁度良い所ではないか。

アックマンはさらに村の奥へと進んでいった。

そして、そこに一人の男を発見した。
右手に女の子の首を持っている。左手では、女の子の親だろうか、村人を切り刻んでいる。
そして、胸に『殺』と書かれた刺繍のある独特な服を着た男。
間違いない、この男こそ、村を襲った山賊だ。

アックマンはその男に近づいていった。
「ほう、まだ生き残りがいたのか」
男はアックマンの方を見つめ、そう呟くと両手に持っていた死体を振りほどいた。
「武者修行に付き合ってくれないか?」
そういって、アックマンは構える。
「いいとも」
殺という文字をアックマンに向け、男も構える。

アックマンは思う。万が一にも負けることがあるはずない。
だからこそ、安全に新しい技の探求に専念できる。

アックマンと男の対決は一方的なものだった。
男のほうが強い。
アックマンが自分より強い男と対戦するのは、これで二度目だ。

いいぞ! 修行の相手としてはこれ以上ない。
アックマンはそう思う。なぜなら、この相手にはアックマイト光線が通用する。
決して負けない。だが、自分よりも強い相手。

そう、こんな相手と戦っていれば、いずれ新しい必殺技を手に入れられる。

15 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:14 ID:???
「はぁはぁ……」
アックマンは息を切らしてきた。
相手は、まだ涼しい顔をしている。

ふぅ、付き合っていたいが、これ以上やると体が持ちそうにない。
アックマンはそう考え、敵に止めを刺すことにした。
必殺、アックマイト光線だ。

「食らえ!」

アックマンが必殺技を繰り出す。

「何だこれは?」
男は、必殺技を前にしても涼しい顔を崩さない。
避けるまでもない。そう言いたげな顔で、アックマイト光線を受ける。

勝負あった。
アックマイト光線が男の体に命中した。
後は、悪の心が膨らんでいき、男は死滅する。

死滅する。
死滅する。
……
はずだ。

16 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:14 ID:???
が、男の涼しい顔は変わらない。

なぜだ?
アックマンは驚きを隠せない。
なぜ、こんな悪の道に走っている男にアックマイト光線が通用しない?

「今の光はなんだったのかね?」
男は心底疑問に思っているような節で聞いてくる。

「俺の必殺技だった……」
「そうか、ツマラン技だったな」
男はそういった後、アックマンに止めを刺してきた。

止めを刺すとき、男はほとんど表情を変えず、アックマンに手刀を突き刺してきた。

あぁ、死ぬんだな。

そう思ったとき、アックマンの頭に師匠の言葉が思い浮かんだ。

17 名前:アックマン[sage] 投稿日:03/05/01 19:17 ID:???
「どんな人間でも、悪の心は存在する。
だが、『悪』とは何だね?
誰が決めるのかね。
人を殺せば悪か?
盗みを働けば悪か?
強姦すれば悪か?
もし、悪の心が存在しない人間がいたとしたら、
それは、自分の行っている行為の悪行に気づけない
最も愚かな人間だよ」

あぁ、そうだ。この男は、人を殺すことを悪だと思っていないんだ。
だから、アックマイト光線が効かないんだ。

だとすれば、あのガキ。
「善人じゃねーよ」


それが、彼の最期の言葉だ。