漆黒の魔狼 YAMUCHA -The Dark Side- 第六部
前編 鬼が出るか 蛇が出るか 信じられない光景が広がっていた。あの強大な力を誇ったセルが突如現れた謎の戦士により体を貫かれ、 そして、その強力なエネルギー弾の前に今度こそ跡形もなく消滅してしまったのだ。 セルを倒すと謎の戦士は悟空に向き合い、訳の分からないことを話し始める。 自分は悟空の兄であり、悟空は地球人ではない、本当の名前はカカロットだと。 ラディッツと名乗った戦士に対して合点のいかない顔をする悟空。 彼は悟空がその使命を破り、地球人と馴れ合っているのだと勘違いした。 そして、悟空を目覚めさせるべくラディッツは最も戦闘力の低い戦士・ヤムチャを屠った。 誰もその攻撃を見切ることが出来ないほどのスピードで・・・ そしてヤムチャから遅れて、チチ、悟天を連れブルマが愛機で到着した。 来るな、そう叫ぶ悟空にサイヤ人の誇りを忘れたかと詰め寄るラディッツ。 セルを簡単に倒したこの男に勝てる見込みなどあろうはずがない。 誰もが覚悟を決めたとき、ラディッツの足元から一匹のセルJr.が躍り出た。 親を殺された憎しみからか、セルJr.は悟空たちににやりと微笑むと自爆した。その顔はセルそのものだった。 とっさのことにさすがのラディッツも防御体勢をとることも出来ずにセルJr.の自爆を食らった。 彼にとっては不運なことに、そして地球側にとっては幸運なことにセルJr.は彼の左目近く、 つまり彼らがスカウターと呼ぶ機械のすぐ近くで自爆したのだ。 その衝撃に耐え切れずスカウターは破壊されその破片がラディッツの左目を抉った。 左目を失ったラディッツに対し悟空、ピッコロの地球最強コンビが襲い掛かる。 だが、この二人をもってしてもラディッツには到底、及ばず撃退される。 しかし、ラディッツが悟空を攻撃した直後、お父さんをいじめるなと叫ぶ悟天がラディッツに特攻した。 その強大な力に驚愕する一同、トランクスに続き新たな戦士が今、誕生しようとしていた。 悟天の体当たりを受け、ダメージを負ったラディッツの動きは明らかに鈍くなっていた。 さらに驚いたことにラディッツは相手の気を感じるという能力を持っていなかった。 それは戦いの基本、目に頼らない戦いである。ここで悟空が一計を案じる かつてん自分の弱点、つまりは尻尾をつかんでピッコロが攻撃する活路を開くというのだ。 この作戦は成功し、ラディッツを倒すことに成功したが、彼らは同時に孫悟空というかけがえのない戦士をも失おうとしていた。 虫の息ながら、ピッコロの攻撃により重傷を負ったラディッツを逃がしてくれるように頼む悟空。 悪態をつきながらもその頼みを聞いたピッコロであったがラディッツは宇宙船へと向かう途中で 2年後に必ず戻ってくる、そして、今度こそ必ず地球を滅ぼすという捨て台詞を吐くと、悟天を拉致し彼らの前から姿を消した。 ラディッツが去った後、悟空とヤムチャの体が消え去った。 神様の仕業だと直感的に判断したピッコロは自分自身もより強い力が必要だと考え、去ろうとする。 だが、その時彼の目にトランクスの姿が留まる。 ピッコロはトランクスの力を評価していた。今度の戦いまでにこいつは一流の戦士になる。 そう判断したピッコロはトランクスを連れ、姿を消した。 再び、絶望へのカウントダウンが始まったのだ。 一方、閻魔大王の元を訪れたヤムチャと悟空に神様は閻魔大王にある願いを伝える。 二人を界王星で修行させて欲しいという願いだ。 すでに武天老師も界王星で修行していることを聞いた悟空はヤムチャに早く界王星へ行こうと持ちかけるが、 ヤムチャはそれを固辞した。武天老師に合わす顔がない。 そして、何より彼の胸にはまだ戦いに対する迷いがあったからだ。 そして、ヤムチャの罪を見た閻魔大王は元殺し屋である彼は界王星に行かなければ確実に地獄行きだと忠告する。 しかし、その言葉にヤムチャは不思議と救いを感じていた。 地獄で裁きを受ければこの悪い夢が覚めるかもしれないと、彼は地獄行きを望んだ。 閻魔大王は飲茶の人生、そして魂について書かれた帳簿を眺めているうちに彼が実に興味深い能力を持っていることに気づいた。 閻魔大王は賭けに出た。それは地球を救うどころか全宇宙を救う手段になるかもしれない。 しかし、その可能性は皆無に等しい、ヤムチャが万が一にでも生き残ったにしても 逆に全宇宙を滅ぼす力を身につけて現世に戻すことになるかもしれないのだ。 それは閻魔大王にとって苦い思い出、そして、ヤムチャたちが避けては通ることの出来ない敵が誕生した記憶。 閻魔大王は秘書に二人の案内人を呼ぶことを命じる。それぞれ、蛇の道、鬼の道という道の案内人だ。 鬼の道という言葉に驚く秘書を不思議に思いながらもヤムチャは案内されるままに鬼の道へと向かった。 暗くみすぼらしい扉の前に立つようにヤムチャはあんな二人に指示され、それに従った。 しかし、次の瞬間、案内人は彼を蹴り飛ばし、ドアの中へと押しやった。 ドアの中に入ったヤムチャは落下した。舞空術も使えない。ただ、落下するしかなかった。 神様は悟空とヤムチャを閻魔大王の下へと送り届けた後、クリリン、餃子、天津飯を天界に招いた。 もちろん彼らの修行のためだ。すでに彼らは悟空が始めて天界を訪れたときよりも強大な力を有している。 そして、世界を救おうとするその意思は神の下での修行に値した。 来るべき戦いに向け、戦士たちの修行は始まった・・・ 中編 閻魔大王の賭け 漆黒の闇の中をヤムチャはただ落下していた。何も見えない。 どれほど落下を続けたのだろうか、100年とも1分ともつかない時間感覚の中で不意にヤムチャの視界が開けた。 薄暗い世界、眼下には荒涼とした大地が広がる。ここが地獄か。そう思いながらヤムチャは静かに降り立った。 その直後、ヤムチャの足元が割れ、一匹の甲虫のような生物が襲い掛かった。 その強襲をくぐりぬけ気功波を放つヤムチャであったが全く効き目がない。 甲虫が空を飛べない事に気づくと舞空術でその場を去った。 しかし、その直後黒い霧が周囲に満ちた。肺を灼く様な激痛に悶えながら ヤムチャは意識を失いそうになるのを必死にこらえていた。先ほどの甲虫が群れを成して眼下で口を開いていた。 トランクスもまた父・ヤムチャと同じように荒涼とした土地で過ごしていた。 ピッコロは半年の間、ここから逃げずに生き抜けとトランクスを放り出し去っていった。 空を飛んで家に帰ろうとしたこともあったがその度にピッコロに半殺しにされ、元の場所へと連れ戻された。 逃げることがかなわないことを知り、生き抜くことを少年は心に誓った。 そして、悟天を拉致し、帰路を辿るラディッツは必死に痛みをこらえながら地球での戦いで悟空たちが見せた 戦闘力を変化させる技術を身につけようとしていた。 必死に意識を保とうとしていたヤムチャだったが、不意に意識が遠のくのを感じた。 しかし、目覚めたときには甲虫は無残に引き裂かれ、その骸の中に浮かぶ自分に気づいた。 不思議と自分の力が上がっているがヤムチャを驚かせた。 だが、ほっとしたのも束の間、すでに新たな敵が迫っていた。 そして、その後も間断なくヤムチャは戦いを強いられることになる。眠ることすら許されずに・・・ そして半年が過ぎる頃、ヤムチャはまだ生きていた。しかし、その目はかつての彼のものではない。 ただ、生きることに全てをかける獰猛な獣のそれだった。 しかし、この頃、自分を追う影があったことにヤムチャはまだ気づいてはいなかった そして、蛇の道を進んでいた悟空も遂に界王星に到着する。 久しぶりに会う武天老師と会話を弾ませる中、界王が悟空になぜ一人か尋ねた。 ヤムチャが鬼の道へ進んだことを聞くと呻き声を上げ、界王は天を仰いで言った。 ヤムチャが生き返ることは万に一つもないと。 理由を問いただす悟空に界王はヤムチャが向かった先は地獄ではなく魔界であることを告げる。 生きるか死ぬか、その二択しかない過酷な世界。まさにヤムチャが過ごす世界が界王の口から語られる。 そして、更なる修行に励み界王拳を習得した武天老師ですら、三日と生き残ることは出来ないだろうと。 だが、彼らはまだ知らない。ヤムチャが再び、彼らの前に姿を現すことを・・・ 一方、ピッコロの指示通り荒野で半年を過ごしたトランクスは見違えるほどに精悍な少年となっていた。 誰がこの少年を6歳の少年だと思うのだろうかというほどに。 そして、ピッコロはトランクスに戦いを叩き込んだ。 それは16号のような戦闘プログラムを持たないトランクスには欠かせない知識だった。 そして、ピッコロの指導の下、彼は力の制御の方法、気の練り方、敵の殺し方、全てを吸収していった。 そしてサイヤ人再来の日、力に頼るだけだった少年は姿を消し、そこには魔族の最終兵器の姿があった。 1ヶ月ほどの間にラディッツは気の扱いをマスターしていた。戦闘民族サイヤ人の才能が開花し始めたのだ。 そして、ようやく生命維持装置を起動させると眠りについた。食糧はすべて与えていたにもかかわらず その頃には悟天も衰弱しきっていたためだ。弟即売りな少年を殺すわけにはいかなかった。 半年ほどの手近な中継衛星に到着すると、医師により救命装置に担ぎこまれ回復を待った、 救命装置に入る前に、悟天にちょっかいを出せば殺すと脅しをかけた上で・・・ 回復したラディッツは自分の戦闘力が上がっていることを聞かされ満面の笑みを浮かべる。 だが、彼はそれを戦闘力のコントロールをマスターしたことが原因だと勘違いしていた。 彼はサイヤ人の特性を知らない。そして、1年後に来るであろう仲間を待つ間も彼はトレーニングを欠かすことはなかった。 そして、ラディッツにバーダックという名を与えられ、悟天もまた戦士としての道を歩み始めていた。 魔界に落ち1年ほどたとうとする頃、ヤムチャには仲間が出来ていた。 小柄な魔導士だ。始めて言葉の通じる相手に出会えたことに安心し、ヤムチャはすっかり心を許していた。 だが、彼とともに行動するようになってようやくヤムチャは眠りを手に入れることが出来るようになった。 相手も同じだったようだ。まじめ手あった頃は、目はくぼみ、その下には大きな隈が出来ていた。 この初めての仲間によりヤムチャはようやく自分のいる場所が地獄ではなく魔界であることを知らされる。 魔導師はヤムチャに魔界の中心へ行かないかと持ちかけた。 実際のところ彼の目的はそこにあった。ヤムチャの中に眠る力を偶然、見た彼はその力を観察し引き入れることにしたのだ。 彼らがいる辺境ではいつ何時、命を失うかもしれない。 だが、魔界の中心に近づけばそれなりの秩序も出来るのだという。 その申し出を受け入れヤムチャはともに魔界の中心を目指すことにした。 だが、本来、魔界に落ちたものは現世でとてつもない悪事をしている。この魔導師も例外ではなかった。 ようやく魔界の中心へと近づいたヤムチャたちであったが、死後2年が経過しようとしていた。 頭上の天使の輪が消え、ヤムチャは生き返るときが来たことを知る。 そのヤムチャの目に一筋の光が差し込んだ。それが現世へ戻る出口だと悟った彼は魔導師に別れを告げ、 これまでに歩んできた道を引き返した。 同じく悟空もまた、界王星での修行を終え蛇の道を引き返していた。 界王様から聞いた話では地球に来襲するサイヤ人は4人、ラディッツと新たなそしてさらに強大な力を持つ二人。 そして、皮肉にも息子である悟天も彼らと共に地球へ向かってきているのだという。 戦いの火蓋は今まさに切られようとしていた。 後編 漆黒の魔狼 ヤムチャのとびきりZENKAIパワー 占いババによりサイヤ人の襲来の日を知ることが出来た地球側ではあったが 一つの誤算があった。ドラゴンボールを使っても彼らが生き返るためには少し時間がかかるのだ。 そして、3人のサイヤ人とバーダックの4人が遂に地球に到着した。 一瞬で都市一つ壊滅させた彼らの元へ、5人の戦士たちが駆けつける。 ラディッツは去り際に聞いたドラゴンボールの力で悟空が蘇っていないことを怪訝そうに聞くが、 遅れてやってくるという言葉を聞いた、満足そうな顔をして見せた。 悟空が来るまでのゲームだと言い放ちリーダー格のサイヤ人・ベジータが悟天、もといバーダックに戦うように命令する。 かつての幼馴染を迎撃するのはトランクス。 片や、人造人間に生まれ変わり、さらには魔族の力を持ったトランクス。 片や、サイヤ人後と地球人の血を引いたハイブリッドであるバーダックも突然変異としか言いようのない潜在能力を有していた。 幼いながらも二人の戦いは熾烈を極めた。 だが、その戦いの中バーダックがトランクスに耳打ちする。お父さんが来るまで時間を稼ぎたいと。 幼いながらもスカウターで3000近い戦闘力をこの二人が持っていることに感心するベジータであったが、 二人の戦いがその戦闘力に値しないものであることに違和感を抱き始める。 ふと傍らにいるラディッツのを見たベジータは彼が目の目のゲーム以外の何かに気を配っていることに気づく。 何を企んでいる、そうラディッツに詰め寄ると、突然、ラディッツがベジータに攻撃を加えた。 下級戦士として虐げられてきた彼はベジータ、ナッパという支配者階級を倒すことをもう一つの目的にここへやってきたのだ。 ラディッツをザコ扱いし、ナッパに殺せと命令したベジータであったが、形勢が悪い。 戦闘力4000を誇るナッパが力を上げたとはいえ3200ほどのラディッツに押されるはずはない。 しかし、スカウターでラディッツの力を計測したベジータは自分の考えが甘かったことに気づく。 ラディッツの戦闘力は6000を超えていた。 一方的にナッパを攻め立てるラディッツであったが、止めを刺そうとした瞬間、 背後からベジータに体を貫かれ遂に戦い果ててしまう。 悟天もラディッツ同様、裏切り者であると判断した彼は行き絶え絶えだったナッパに戦いを強いる。 恐ろしいほどのタフネス。ナッパは先ほどのラディッツとの戦いを傷を感じさせない戦いを演じる。 だが、もはや悟天は一人ではなかったピッコロやトランクスを始めとする地球の戦士たちがそこにはいた。 しかし、ナッパの強力なエネルギー弾がクリリンを襲う。だが、その瞬間、 クリリンが戦闘には加わるなと言い残してきた妻・人造人間18号が間に入り、18号は絶命する。 戦いがさらに激化しようとした時、ベジータのスカウターが戦闘力8000の値を感知した。 そして、その強力で禍々しいまでの気をピッコロたちもまた感知していた。 サイヤ人側は地球側の仲間だと、地球側はサイヤ人の仲間だと思い込み、 ピッコロが地球を守るためにナッパに特攻し、命を失った。 ピッコロの死に怒るトランクスはナッパを攻撃するが、ナッパにダメージを与えることが出来ず、 逆にナッパの口から放たれたエネルギー波がトランクスを捉えたかと思われたが、 一瞬早く、一陣の風がトランクスの体を拾い上げた。ふと、自分を助けた人物の顔を見上げたトランクスの目に涙があふれた。 ヤムチャが遂に帰ってきたのだ。 ベジータに無駄な戦いはしたくない、帰れと言い放つヤムチャ。 その言葉にヤムチャを腰向けだと判断した彼はヤムチャの戦闘力をスカウターの故障だと勘違いする。 仁王のようにヤムチャの前に立ちふさがったナッパであったが、ヤムチャの体から黒いオーラが噴出した。 ヤムチャの目にも留まらぬ攻撃の前に次第に傷つき倒れた。本気を出したヤムチャの戦闘力は15000を超えていた。 ナッパをベジータのほうへ放り投げ、再度、帰れと忠告するヤムチャにベジータはナッパを殺してみせる。 そして、ヤムチャ対ベジータの戦いが始まった。 力では負けても戦闘では負けない。そう自信を持っていたヤムチャであったが、 戦いの天才であるベジータ相手に劣勢に陥り、動けなくなった。 ヤムチャの敗北が濃厚となった瞬間、悟空が到着し、界王拳を駆使し、ベジータを追い詰めた。 しかし、ベジータはパワーボールを作り出すと大猿化した。 その時、天津飯たちとともに戦いを見守っていたヤムチャの体にも異変が起こる。 そこにヤムチャの姿はなく、黒く美しい毛並みを持った狼が代わりにあった。 ヤムチャは知らなかったが、魔界でのサバイバルレースに生き残れたのは、自分よりも強い相手に出会ったときには 魔界の霧を吸いヤムチャの中に目覚めたこの力が発現し、彼を救い続けていたからである。 ヤムチャとともにいた魔導師もヤムチャの真の能力、そしてこの力に興味を引かれたのだ そして今、ベジータの圧倒的な力を前に再び、ヤムチャは意識を失い、黒き狼へと変貌を遂げた。 変身を遂げたヤムチャは圧倒的なスピードでベジータの周囲を舞った。 そのたびに大猿と化したベジータの皮膚が裂け文字通り血の雨が降り注いだ。 黒餃子が出現したときと同じように自分の第三の目に力が宿ったことに驚く天津飯。そして、餃子にはなくしたはずの超能力が戻っていた。 もういい、そう叫ぶ悟空の声も届かない。ヤムチャの力に誰もが希望ではなく絶望を感じていた。 誰もが希望ではなく絶望を感じ始めていた。 だが、ヤムチャの変身の原因がパワーボールにあると判断した天津飯がパワーボールを攻撃する。 だが、消滅しないパワーボールをまえに悟空はそばにいるクリリンに元気玉を託す。 ヤムチャの牙がベジータののど笛を噛み切ろうとした瞬間、パワーボールは元気玉により消滅。 ベジータもヤムチャも元の姿に戻った。 またもベジータを逃がした悟空の耳に界王様の声が響く。 「ヤムチャを殺せ」と・・・ (第6部 完)