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漆黒の魔狼 YAMUCHA -The Dark Side- 第五部


ヤムチャたちの前に立ちふさがる八つの影、それはほんの数分前のことだった


漆黒の魔狼 YAMUCHA -The Dark Side- 第五部

第1話 舞い降りた災い

孫悟空とピッコロ大魔王、その因縁の対決に終止符が打たれようとしたとき、
空から二つの影が舞い降りた。
一人は長身、もう一人はクリリンよりも少しだけ背が高いくらいの小柄な
そして、ともに黒装束をまとい正体が判別できない者たちだった。

前触れもなく長身の方が悟空に詰め寄る。ピッコロとの戦いですべての力を出し切った今の悟空には
それをよける手立てはなかった。呆気にとられる一同。
しかし、ここにはまがりなりにも天下一を目指したものが集まっているのだ。
おいそれと世界を救った男を見殺しにはできようはずもなかった。

そして、悟空とピッコロを除く六名の決勝進出者が二人に立ち向かった。
だが、ヤムチャやクリリンは当然のこと、武天老師やそれを破った天津飯までもが
軽々とあしらわれてしまった。この二人が悟空やピッコロ大魔王と同等か
それ以上の実力を秘めているのは明らかだった。

そして、小柄な方の黒装束が長身の方に目配せをしたかと思うと長身の方はうずくまり
地面に何かを埋めだした、かと思うとそこから六匹の緑色をした奇妙な生物が姿を現した。


「行け、サイバイマン」
初めて謎の敵が言葉を発した、するとサイバイマンと呼ばれた地面から現れた生物が
ヤムチャたちに襲い掛かった。謎の敵には遠く及ばないがこのサイバイマンとか言う連中も
かなりの実力を秘めていることは明らかだった。
そして、まずチチが倒された。優勢なのはやはり天津飯と武天老師、そして神様くらいのものだ
ヤムチャやクリリンは押されることはないまでも互角以上の戦いはできないでいる。

倒れたチチの代わりに餃子が間に入ったがそれでも戦況は変わらない。
最初のころは油断していたのか一対一の戦いを挑んでいたサイバイマン側も
相手の実力を見定めたためか集団戦闘をとるようになっていた。
まず狙われたのは天津飯だ。一体の頭が割れてなにやら液体のようなものが飛び出した。
それを避けるようにして飛び上がった一同の中から天津飯だけに狙いを定め、気孔波を集中させる。

軽々とそれを交わした天津飯ではあったがサイバイマンも攻撃の手を緩めない。
三体が天津飯以外の足止めをしつつ残りの三対で攻撃。ヤムチャたちも天津飯の
援護に回ることができない状態であった。

だが、問題はそれだけではない。謎の敵が悟空を狙っていたからだ。


サイバイマンに気を取られている間に長身の方が悟空に詰め寄っていた。
そして、その手刀が振り下ろされようとしたその瞬間、謎の敵の背後を一筋の光が襲った。
ピッコロ大魔王の口から放たれた気孔波である。

しかし、敵もまるで後ろにも目があるかのようにその攻撃を難なく避けた。
と、同時にピッコロは意識を失う。最後の力を振り絞ったのだろう。
敵であるはずの孫悟空を助けるために・・・

そして、再び長身のほうが悟空に迫る。
埒が明かないと見た天津飯は舞空術により空高く舞い上がった。
「みんなーっ、散れーーーっ!!」
その言葉に誰もがこの後に起こるだろう出来事を予感した。気功砲だ。
天津飯は気孔砲を使い一気にサイバイマンを殲滅するつもりだったのだ。
何がおきたのかわからないサイバイマン。そしてそれをあざ笑うかのように
天津飯の気孔砲が襲った。気功砲の範囲外に近かった四体は何とか難を逃れたものの、
二体が光の中に消え去った。

これで形勢は逆転、神様が悟空の援護へと向かった。
さすがは神様というべきか長身の敵と互角に近い戦いを演じる。
そして、神様の杖が男の黒装束を引き裂いた。


第2話 復讐者

神様により引き裂かれた黒装束の中から現れたのはなんと

「お前は!?」
ヤムチャは事態が飲み込めずにいた、なぜこの男がここにいるのか・・・
そしてそれは悟空や天津飯も同様だった。
「お、オメェは・・・」
「白白さん、なぜ、あなたがここに?」
そう、なぞの敵の正体はその頭部の上半分ほどが機械に変わっているが、
紛れもなく世界一の殺し屋として名を馳せたあの桃白白だったのだ。

「ふん、裏切り者の貴様などと話す舌は持たん。久しぶりだな、孫悟空。俺は貴様を殺すために
人であることを捨てた。こんな姿になったのもすべては貴様のせいだ。」
桃白白の体からは殺気が満ち溢れていた。
「白白さん、あなたがここにいるということは・・・もう一人はまさか!?」

天津飯がそう言うともう一人の敵もまたその黒装束を脱ぎ捨てた。
黒装束の下から現れたのは天津飯の予想通りの人物であった。
「やはり・・・生きていたとは・・・」
そう、初代ピッコロ大魔王の爆力魔波に巻き込まれて死んだと思われていた鶴仙人だったのだ。


鶴仙人もまたその体を機械に置き換えていた。しかも、桃白白よりもはるかに機械化されている箇所が多い。
おそらくは生き延びるためにはそれだけの代償が必要だったのだろう。
「貴様らのせいでわしら兄弟はこんな姿になってしまった、孫悟空、そしてピッコロ大魔王よ。」
「遊びは終わりだ、一気に片をつけさせてもらおうか、兄貴。」
「そうだな、しかし、他愛もないあのピッコロ大魔王ともあろうものがのんびり居眠りとはな。
これでは楽しめそうにもないな。ほかの連中が相手ではデータも取れそうにない。
お前はせいぜいその男をいたぶってやれ。」
「言われなくともそのつもりだ。」

そう言うと二人はそれぞれの目標に向かって移動した。
二人を止めようにもヤムチャたちはサイバイマンの相手で手一杯だった。
しかも天津飯は先ほどの気功砲で体力を消耗しているため、動きが鈍っていた。
ここは神様に頼るしかない、だが、守ることができるのはどちらか一方だけだった。
悟空とピッコロ、どちらを助けるか・・・神様の決断はピッコロだった。
「すまんな、孫悟空よ、私が生き残れたらドラゴンボールで生き返らせてやるからな。」
苦渋の表情を見せながら神様はピッコロを救うため鶴仙人と対峙した。

「ほう、貴様が神か、なるほどピッコロそっくりだ。」
「貴様、なぜ、それを!?」
「お前たちのことはすべてお見通しだ、貴様とピッコロがかつては一人だったこともな。」
「なぜ、そこまで・・・」
「さぁな、ちょうどいい。意識のないピッコロよりは楽しめそうだ。」
そして神様と鶴仙人の戦いが始まった。

一方、桃白白はゆっくりと悟空に近づいていた、カリン塔での戦い以来の再会だ。
あれから一体、どれほどの時間が流れたことか、しかし、今、ようやく屈辱にまみれた日々に
別れを告げることができる。そう思うと感慨もひとしおだった。
しかし、あとほんの数歩で悟空を殺せる距離まで近づいたとき何者かが桃白白の足をつかんだ。


「悟空さを殺させるわけにはいかねぇ、オラ、結婚したばっかりで未亡人なんていやだ。」
先ほどサイバイマンにより戦線離脱を余儀なくされたチチが必死に桃白白の足をつかんでいた。
「ふん、それでは夫婦仲良くあの世で暮らせるようにまずはお前から殺してやろう。」
そう言うと桃白白はチチを指差した。どどん波の構えだ。
「まずい!!」
そう言うとヤムチャは空高く舞い上がった、そして手のひらに気を集中させる。」
「真・狼牙風風拳!!」
そう言うとヤムチャはかめはめ波の勢いを得て一気に加速し桃白白に襲い掛かった。
しかし、桃白白は難なくそれをよけてしまう。
「ヤムチャか・・・貴様、私の後継者などといわれていい気になっているようだな。」
「ほざけっ!狼牙風風拳!!」
そう言うとヤムチャは恐るべき速さで拳を繰り出した。だが、桃白白はこれも難なくよけてしまう。
「相変わらず、威勢だけはいいな、だが、弱すぎる。」
そう言うと桃白白の蹴りがヤムチャを襲った。それをまともに食らったヤムチャは意識を失う。

「いかんな、天津飯、クリリン、餃子、お前たちは悟空を助けるほうに回れ。」
「しかし、武天老師様、こいつらを何とかしないと。」
「安心せい、わしとて修行したんじゃ。ピッコロ大魔王と比べればこいつらなど恐れるほどではない。」
そう言うと武天老師は着ていた胴着を脱いだ。と同時に気が膨れ上がり、筋肉が膨張した。
武天老師の姿が消えたかと思うとサイバイマンの奇声が聞こえた。
奇声が聞こえた方向を見ると武天老師の手刀が一体のサイバイマンの体を貫いていた。
「早くいけ、ここはわしが何とかする。」

なぜこれほどの実力を自分との戦いでは見せなかったのか、天津飯はそういぶかみながらもクリリンと餃子に声をかけた。
「いくぞっ!餃子、クリリン。」
「お、おう!」
「・・・」
餃子の返事がない。不思議に思いながら餃子のほうを振り向くと餃子は心ここにあらずといった面持ちで遠い目をしていた。
あまりの展開に我を忘れてしまったのだろうか。
いや、そうではなかった。餃子は見たのだ。鶴仙人と桃白白の衣服に刻まれたレッドリボン軍のエンブレムを。
そして、その瞬間、餃子の耳にいや心にだろうか、何者かの声が聞こえた。

第三話 邂逅

「お前じゃ役不足だ、早くここに来い、そして僕に体を返せ。」
声が聞こえたかと思うと、餃子は闇の中に落とされた。
どこまでも続くかと思われる闇の中に一つの光球が浮かんでいた。
その光球を思い切ってつかんでみるとあたりは眩いばかりの光に包まれた。

次の瞬間あたりを見渡すと餃子は豪奢な部屋の中にいることに気づいた。
その部屋にはどこか懐かしさがあった。だが、思い出せない。
いったい自分はどうしてしまったのだろうか、天さんたちは無事だろうか。
そう考える餃子に一人の人物が声をかけた。
「餃子よ、そろそろお前も7歳になる。王位継承の試練を受けて見事、魔力を身につけることができれば
晴れて王位継承者となる。だが、下手をすれば命を失う。その覚悟はあるか?」

記憶が少しずつ蘇る、ここはかつて自分が暮らした王宮、そして目の前にいるこの人物は
抜けるように白い肌、そして恰幅のよいその姿は紛れもなく餃子の父・焼売(シュウマイ)王のものだった。
ここは一体?自分はこれまで夢を見ていたのだろうか?この時、確か自分はこう答えたはずだ。
「はい,父上、餃子の覚悟は決まっております。見事、試練を乗り越え魔力を身につけて見せましょうぞ。」
「よく言った、餃子よ。それでこそ我がむ・す・・こ・・・だ。」

声が少しずつ遠ざかっていった。いや、声だけではない。
目の前にあるものすべてが急速に遠くへと離れていく。
そして、再び餃子は闇の中に連れ戻された。

一体、今の光景は?そしてなぜ自分は王宮を離れたのだろうか?思い出せなかった。
自分が何かとても大切なことを忘れてしまっていることに餃子はようやく気づいた。
それは過去の記憶、レッドリボン軍により滅ぼされた亡国の王子としての記憶であった。
再び光球が現れた。それをつかむと再び餃子は過去へと導かれた。
今度は王位継承の試練のときだ。

「開け。」
焼売王が言うと中庭にある井戸のふたが開かれた。
だが、これは井戸ではない。魔界の瘴気に満たされた洞窟の入り口だ。
「餃子よ、お前はこれから一人でこの中に入り見事、出口を探してくるのだ。
しかし、この中の瘴気を三日も吸えば身も心も魔界の者となってしまう
よいか、三日だ。それまでに見事出口を探し当て・る・・の・・・だ。」

再び、景色が遠ざかり餃子は闇の中に引き戻された。
そして三度、光球が現れた。

「第三関門を突破されました。レッドリボン軍は現在、城門前まで迫っております。」
「くぅ、餃子が魔力に目覚め、祝宴を挙げようかというときにレッドリボン軍め。」
レッドリボン軍・・・そうだ、思い出した。自分たちの祖国はレッドリボン軍により滅ぼされたのだ。
では、これから見ることになるのは・・・父はどうなったのだろうか?
この時に死んでしまったのか、それとも・・・

「近衛兵は餃子を連れて城を脱出する準備をしろ、ラメーンよ、餃子を頼む。」
「しかし、私も戦います。」
ラメーンと呼ばれた男が答えた。この男は確か近衛隊長のラメーン、祖国の武術指南でもある男だった。
「いや、お前は餃子とまだ幼い兵たちを連れ城を脱出しろ、なーに、負ける気はない
だが、もしもの時に備えてお前たちには城を出て安全な場所に避難しておいてほしいのだ。」
うそだ、本当に戦う気なら父上がラメーンを戦線に投入しないはずはない。父上は死ぬつもりだ。

「城門、破られました、敵はすでに王宮内に侵入。焼売王、どうかご指示を。」
「ラメーンよ、早く行け。兵はすべてこの謁見室まで後退、残った全兵力を結集しここで迎え撃つ。」
「しかし、焼売王、それでは・・・」
「ばらばらに立ち向かって勝てる相手ではない、総力を結集して戦えば勝機はある。
命が惜しいものはかまわん、レッドリボン軍に投降し生き延びよ。」
「焼売王・・・」
伝令の兵は唇をかむと焼き売り王の指示を伝えるために階下へと降りた。

「さぁ、餃子を頼んだぞ、ラメーン。」
「はっ、焼売王。」
ラメーンの頬に一筋の涙が伝った。
「天津飯、お前は先に行って、安全を確認してこい。」
泣き顔を見せまいとラメーンは振り返ることもなく幼いながらも近衛兵に抜擢されたこの少年に命じた。
命じられたとおり天津飯は一足先に抜け道の中へと姿を消した。
「焼売王よ、どうかご無事で。」
ラメーンがそう言った瞬間、謁見室の入り口から悲鳴が上がった。

「何!?早すぎる、急げラメーンよっ!」
「はっ!」
そういうとラメーンは餃子を抜け道へと押し込んだ。だが、このままでは父は敵の手にかかってしまう。
そう思った餃子は必死に抜け道から這い出ようとした。もちろんラメーンはそれを押し込もうとするが
頑として餃子は入り口の縁から手を離さなかった。

そして、ついに10人ほどの敵が現れた。その衣服は返り血で真っ赤に染まっていた。
その中に一人だけほかの兵とは違う雰囲気をかもし出す男がいた。
銃も持たず、衣服もきれいなものだ。その男の顔を見た瞬間、餃子は我が目を疑った、桃白白だ・・・

桃白白はラメーンと餃子を一瞥すると焼売王に対面した。
「お前が焼売王か、恨みはないが死んでもらおう。」
だが、焼売王も抵抗しないはずはなかった。桃白白を押しつぶそうと焼売王の魔力が襲う。
焼売王は重力を操ることができるのだった。後ろにいた兵はすべて押しつぶされた。
膝をつく桃白白、だが、次の瞬間、桃白白の指から一筋の光が放たれた、どどん波だ・・・
そして、焼売王は絶命した。

「餃子王子、どうか、お逃げください。ここは私が引き止めます。」
そういうとラメーンの体は鉄の固まりとなり抜け道の入り口をふさいだ。ラメーンの魔力だ。
「さぁ、早く。私の命があるあ・い・・だ・・・に。」
またも景色が遠ざかる。誰が?一体何のために自分にこんなものを見せたのだろうか?

「思い出したかい?」
振り返るとそこにはもう一人の餃子が立っていた。


第4話 覚醒

なぜ?こいつは一体?
餃子の目の前にはもう一人の自分がいた。
「思い出したかい?」
またももう一人の餃子は餃子に問いかけた。

「お前、誰?」
ようやく餃子は相手にその当たり前とも言える問いかけを投げかけることができた。
「僕はお前自身。かつて、お前により心の片隅へと追いやられた本当の自分。」
「本当の僕?」
「そうだ、父上が殺されたあの時、僕の心に生まれた隙間、それがお前だ。」
「じゃぁ、僕は?お前が本当の僕なら僕は一体?」
「お前は僕の弱い心が生み出したもう一人の僕。」
「・・・」

言葉も出なかった。これまでの人生すべてを否定されたようなものだ。
しかし、もう一人の餃子は追い討ちをかけるように続けた。

「父上が殺された後、僕の足は僕の意思とは関係なく動き出していた。お前に体を乗っ取られたためだ。
そしてお前は城を脱出し何食わぬ顔で近づいてきたあの鶴仙人の弟子となった。」
「・・・」
「父上の仇であるあの桃白白を見てもお前は記憶を取り戻すことはなかった。
一体、僕は何度お前に語りかけたことだろうか。しかし、僕の声はお前の耳には届かなかった。」
沈痛な面持ちで話し続けるもう一人の餃子。その姿にいつしか餃子は
自分が生きていることに対して罪悪感すら感じる様になっていた。

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「お前なら天さんたち助けられるか?」
餃子はもしも自分が消えるとしても天津飯たちを助けることができるのならば
それでいいと考えるようになっていた。
「助けられる。だから、早く僕に体を返せ。このままではお前もろとも僕まで死んでしまう。
そうなればたとえドラゴンボールを使っても二度と生き返ることはできなくなる。」
「わかった。その代わり絶対に天さんたち助けると約束しろ。」
「そのつもりだ、安心しろ。」

そういうともう一人の餃子は餃子に歩み寄ってきた。
そして餃子の後方からうっすらと光が漏れ出した。外の世界の光だろう。
もう一人の餃子はその光に向かいまっすぐ歩き始めた。
そして、その姿が光の中へ消え去ろうとした時、もう一人の餃子が振り返った。
しかし、その姿は先ほどまでのものではない。肌は浅黒く変色しその顔には
不気味な隈取が描かれている。何よりも餃子と異なるのはその瞳だ。
餃子の丸々とした愛らしい瞳ではなくどこまでも冷たい光を放つ赤い瞳がそこにはあった。

ここでようやく餃子は気づいた。自分が取り返しのつかない過ちを犯してしまったことに。
あわててもう一人の餃子の後を追おうとしたが体が動かない。
よく見れば、両手両足に鎖がまとわりついている。必死にその鎖を断ち切ろうとするが
まるで力が出なかった。
「ばーか。」
もう一人の餃子はそう言い残すと光の中へと消え去った。

暗い闇の中に餃子を残して・・・

もう一人の餃子は外の世界に歓喜した。長年待ち望んだ世界だ。
目の前には自分の大好きな戦闘が繰り広げられている。
すでにクリリンは桃白白により戦闘不能に陥り、
神様も鶴仙人にその頭を踏みつけられ死を迎える瞬間を待っていた。
おそらく天津飯がたおれるまでにもそれほどの時間はかからないだろう。

やはり歯ごたえがありそうなのは桃白白と鶴仙人か。
自分の力を試すには少し相手不足だなと思いながらも
まるで体の感触を確かめるように餃子はゆっくりと歩みだした。

「餃子・・・一体その姿は?」
天津飯の目の前には先ほど餃子が見たもう一人の餃子の姿があった。
しかし、天津飯の問いかけに答えることもなく餃子は桃白白と向き合った。
「うん?餃子か、殺されに出てきたか。」
桃白白があざけるように言った。
「準備運動でもするか。」
そう言うと餃子の体から目に見えて気があふれ出した。
だが、その気は黒く禍々しかった。
そしてその黒い気が餃子の体から五本の筋となって鶴仙人、桃白白
そして、三体のサイバイマンを襲った。

鶴仙人と桃白白はなんとか攻撃をかわしたが、その直撃を受けたサイバイマン達は
跡形もなくその姿を消した。


第5話 陰謀

「何だ、あれがあの餃子なのか?」
先ほど桃白白に倒されたクリリンが上体を起こしてその光景に目を疑った。
「バカな、サイバイマンがいともたやすくやられるとは・・・」
鶴仙人もまたかつての弟子の異常なまでのパワーアップに狼狽していた。
「さて、準備運動には物足りないが次はとりあえずお前たちでも殺すかな。」
餃子は鶴仙人と桃白白に向き直るとこともなげに言い放った。

天津飯はその餃子の姿を見ながら自分の体に変化が起きているのを感じていた。
気功砲を放ち、枯れ果てていた気が信じられないスピードで回復している。
それだけではない。
なぜかは分からないが同じ光景がリピートされる。
それが自分の本当の能力であることにこの時の天津飯は気づいてはいなかった。

「冗談じゃない、あんなやつと戦うくらいならあの男を殺すほうが楽というものだ。」
桃白白がホイポイカプセルを投げるとそこには一本の杭が現れた
その杭を投げると同時に飛び乗りその場を逃げ出す桃白白
だが、それを餃子は見逃さなかった
「逃がさないよ。」
そう言った餃子が黒いどどん波を放つと桃白白はその中に消え去った。

武天老師はサングラスを直しながらその光景を見守っていた。
その胸にある決意を固めて・・・

「さて、残るはお前だけだよ」
笑いを浮かべて黒い餃子は鶴仙人に近づいていく。
「ふん、いい気になるな。」
そういうと鶴仙人は上半身を覆っていた黒装束を脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは完全に機械化された体だった。
「あのピッコロや孫悟空を倒すために手に入れたこの体、貴様などに負けるわけがない。」

速い、その場にいた誰もがそう思った。
鶴仙人は一気に餃子との間合いを詰めるとそのままの勢いで連打を浴びせた。
その攻撃をなすすべもなく受け続ける餃子。
そして鶴仙人が不意に攻撃の手を止めたかと思うとその体の中心から砲口のようなものがせり出した。
「死ね、スーパー気功砲じゃ」
そういうとその砲口からあまりにも強大な、だが気ではない、エネルギーが放たれた。

そのエネルギーの中に餃子は消え去った。
「ふ、ふあーはっは、これで邪魔者はおらんようじゃな、さぁ、覚悟しろ、貴様らーーーっ」
弟・桃白白を殺された怒りもあった。
最初のターゲットは自分をも巻き添えにしたピッコロ大魔王だった。
気を失っているピッコロにその攻撃をよける手立てはないかと思われた
しかし、鶴仙人の腕はピッコロに届く前に止まっていた。
まるで、何者かに腕をつかまれているかのようだった。

「そいつを殺されるとドラゴンボールもなくなるらしいからね。」
鶴仙人の頭上から声が聞こえた、餃子だ。

「貴様、どうやって?」
「瞬間移動を使えばあれくらい簡単によけられるよ。」
「くっ、貴様、まさか?」
「これから死ぬお前に教える必要はない。」
そう言うと鶴仙人の体が宙を舞った。かと思うと餃子の指から三度黒い閃光が放たれた。
その黒い光の中に復讐者・鶴仙人も消えていった。

「悟空さん!」
鶴仙人が倒されると遠くのほうから声が聞こえた。
声の主はカリン塔の守護者・ボラの息子のウパであった。
ウパは悟空に近づくと仙豆を取り出してその口へと運んだ。
「ありがとうな、ウパ。」
「いえ、僕はあの男たちが怖くて出てくることもできませんでした。」
「しょうがねぇさ、たぶんオラでもかなわなかったじゃねぇかな。」
「悟空さんが・・・」
ウパにとっては悟空は英雄である。
その悟空が勝てない相手がこの世にいることに不安を覚えた。

「そうだ、ウパ、まだ仙豆あっか?」
そう言うと悟空はウパから残りの仙豆を受け取り傷ついた者たちを回復させた。
しかし、それを待つものがいた、餃子だ。

「みんな回復したみたいだね。ピッコロと神以外には
僕を楽しませてもらってから死んでもらうとするか。
そう言うと餃子は再び戦闘体勢をとった。


第6話 時代

「何を言ってるんだ?やめろ、餃子。」
「天津飯か・・・そういえばお前もこっち側なんだよな生かしておいてもいいか。」
「こちら側、何を言ってるんだ?」
「無駄じゃよ、天津飯。」
武天老師は天津飯の肩に手を置いて二人の会話をさえぎった。
天津飯にはどこかその武天老師の姿が以前に比べ、しぼんだように思えた。

「どういうことですか、武天老師様?」
「餃子は魔界の者に体を奪われたのじゃ、もはやそこにいるのは餃子ではない。
じゃから、あれほどお前たちには魔界の力は使うなといったんじゃ。」
「そ・・・んな。」
がっくりと肩を落とす天津飯、しかし、武天老師には策があった。
餃子をもう一度呼び覚ますための策が・・・
(皮肉なものじゃな、鶴よ。)
武天老師の脳裏には先ほど餃子により死んだかつての修行仲間の姿が浮かんでいた。

「天津飯、おぬし気が増えとるの、ほんの少しでいいあやつを足止めしてくれ。」
「しかし、おれには餃子と戦うことは・・・」
「足止めだけでよい、それにあの力に耐えることができるのはこの場ではおぬししかおらん。
あやつと同じ魔界の力を持つお前しかな・・・数秒でいい時間を稼いでくれ。」
「一体、武天老師様・・・?」
「黙ってみておれ、餃子を元に戻すにはこれしか方法がないのでな。」
そういうと武天老師は天津飯に背を向けピッコロ大魔王の元へと向かった。

「・・・というわけじゃ、お前にしても悪い話ではあるまい。」
「ふん、どうやらそれしかないようだな。」
ピッコロもまた黒い餃子の力をひしひしと感じていた。

ねぇ、もういいかな、そろそろ退屈してきたんだけどさ。」
目の前にいる連中をただ殺すだけでは面白くはない。
少しでも時間をかけて楽しみたかった。
実際、このときの餃子が全力を出せば将来、地球に来襲することになる
ベジータとも互角の戦いを演じることができたのだ。
だが、その力がサイヤ人戦で使われることはなかった・・・

「いいぞ、こちらも用意はできた。」
武天老師が言うと横から悟空が不平を漏らした。
「じっちゃん、オラは何もなしか?」
「お前は今回は役には立たんのじゃよ、悟空。お前には器用さというものが欠けておるからのう。
よく見ておけ、悟空よこういう戦い方もあるということをな」
「じっちゃん・・・」
「クリリン、お前にはこれから見せる戦い方のほうが性に合っておるかもな。
悟空と切磋琢磨し心技体を備えた武道家になるんじゃぞ。」
「武天老師様?は、はは、何、言ってるんですか?え、縁起でもないですよ。」

「さぁ、用意はいいか?天津飯よ。」
「はい。」
餃子の強大な力を感じながら天津飯は今にも逃げ出しそうな自分を戒めた。
「おもちゃは壊れやすいからね、でも、おもちゃには楽しませてもらわないと。」
余裕の笑みを浮かべ餃子が二人の前に立ちはだかった。

序盤は圧倒的な餃子の力の前に二人が逃げ回るだけだった。
天津飯自身は第三の目に映る繰り返される現実に戸惑いを感じていたためいつもよりも動きは鈍かった。
その様に餃子は楽しさを感じていた。
だが、それもすぐに飽きてしまった。
しかし、そのころには天津飯には繰り返し現れる光景の意味が分かり始めていた。
第三の目に映るのはこれから起こる出来事だったのだ。
それを使えば攻撃をよけることはたやすかった。

次第に動きの良くなる天津飯に餃子は満足感すら覚えていた。
「いいぞ、天津飯、やっぱりおもちゃはこうでないと。」
天津飯と武天老師の相手をすることに集中し、餃子は背後にいるピッコロの存在に気づかなかった。
そして、ついに天津飯の腕が餃子をつかんだ。
その時を待っていたとばかりに武天老師が技を放った。

「魔封波じゃーーーっ!」
ピッコロ大魔王との戦いで使った技が再び使われた。
天津飯に捕らえられた餃子にはそれをよけることは不可能かと思われたが
煙のようにその姿がかき消えた。瞬間移動を使ったのだ。
「危なかった。これが狙いだったとはな。貴様らなかなか面白いことをやってくれるな。」
「本性を現しおったな、じゃが狙いは別にある。」
そう言うと武天老師は不敵な笑いを浮かべた。
その時、餃子の後ろから何かの力が襲った。魔封波だ。
信じられないといった面持ちで餃子が振り向いた先にはピッコロがいた。
神様との戦いで使った魔封波返しを連携技として用いたのだった。

そして餃子の体から何かが抜け出した。魔界の者だろう。
ピッコロはそれを武天老師が用意した電子ジャーに封印した。

餃子は深い闇の中にいた、誰もいない孤独な闇の中に・・・
そこに一筋の光が漏れた。
またやつが来たのかと思い、顔を上げるとそこには武天老師が立っていた。
「さぁ、外に出るんじゃ、あやつはもういない。」
うながされるままにその光のほうに向かったが、ふと、武天老師といっしょに出ないと
そう思い餃子は振り向いた、しかし、そこにはただ闇が広がるばかりで武天老師の姿はなかった。
外に出ると武天老師を鶴亀流の四人が囲んでいた。

かつて武天老師は弟子たちに不老不死の薬を飲んだとウソをついた。
しかし、実のところは自分の力を抑制することで生命力を保たせていたに過ぎない。
ピッコロ戦でその力を使っていれば戦いには勝てたかも知れないが
やはり人間である。欲が働いたのだ。
魔封波であればドラゴンボールの力で生き返ることができるかもしれない。
だが、全力を出してしまえば老いて死ぬ。
聞いたところでは天寿を全うしたものは神龍でも生き返らせることができない。
だから、魔封波を使った。
今回ばかりは魔封波を使おうが使うまいが二度と生き返ることもできない。
それが武天老師に覚悟を決めさせた。

弟子たちに看取られ次第に薄れる意識の中で幸せを感じながら武天老師の命の灯火は消えた。
この日、二人の武道家がこの世を去った。
共に武術の神と呼ばれ、讃えられた者達だったがその最後は正反対のものだった。
一人は惜しまれながら、そしてもう一人は誰に看取られることなく・・・

一つの時代が終焉を迎えたのだった。

だが、武天老師には一つの誤算があった。
倒したと思っていたサイバイマンの一体がまだ生きていたのだ。
これが今後のヤムチャの人生を大きく狂わせることとなろうとは
このときは誰も想像もしていなかった。

第6話 凶報

「いやーっ」
武天老師の死を悼んでいたヤムチャの耳に突然ブルマの悲鳴が飛び込んできた。
見ると、一体のサイバイマンがブルマの前に立っているではないか。
その腹部には風穴が開いている。
おそらくは武天老師により倒されたと思っていたものだろう。
そしてその腕に何かを抱えていた・・・トランクスだ!
「ヤムチャーっ、トランクスが、トランクスが。」
あの勝気なブルマが取り乱していた。

ヤムチャはブルマの声がかかるまでもなくサイバイマンに向かっていった。
しかし、すでに自分の傷が相当に深いことを悟っていたのだろうか
にやりと笑うと光を放ちサイバイマンは自爆した。
トランクスを道連れに・・・
とっさにヤムチャは真・狼牙風風拳を使いブルマを救出した。
トランクスは助からないと悟ったからだ。

サイバイマンがいた辺りには巨大な穴が穿たれ煙が立ち込めていた。
その穴に入りあたりを見渡したヤムチャであったが
トランクスと判別できるものは何一つ残されてはいなかった。
ドラゴンボールの存在も忘れヤムチャは見つかることのないトランクスを探し続けた。
そして、ブルマは真・狼牙風風拳の強烈なGを受け、気を失っていた。

「ヤムチャ、もうやめるんだ。」
天津飯の手が肩に置かれた。
ヤムチャはその手を振り払いトランクスを探し続けた。
誰もヤムチャを止めることはできなかった。
小一時間が過ぎた頃、ヤムチャの足が急にとまった。
同時にすすり泣くような声が聞こえてきた。
ヤムチャの目からはとめどなく涙があふれた。

その時、ヤムチャの耳に懐かしい声が聞こえてきた。
「ヤムチャ様ー!」
見るとプーアルがこちらに向かって飛んできているではないか。
かつて桃白白と共に行方をくらました親友。
トランクスの代わりにプーアルが現れたのは運命のいたずらだろうか。
しかし、プーアルの姿を認めてもヤムチャの心が晴れることはなかった
プーアルが知らせた恐るべき『人造人間計画』の話もまるで現実のものとは思えなかった。

プーアルの話はこうだ。
かつてレッドリボン軍に従事していたDr.ゲロという科学者が桃白白たちを改造した。
二人はDr.ゲロの技術により以前と比べてはるかに強大な力を手に入れることができたのだ。
しかし、それは本来、二人が持っていた類まれな格闘センスがあったればこそのものである。
そこで、Dr.ゲロは考えた。彼らのように格闘センスを持たない者でも
強い力を得る方法を・・・

Dr.ゲロはまず、動力機関の開発に取り掛かった。
それを使えば気を操れないものでも
容易にかめはめ波やどどん波のような技が使えるようになる。
鶴仙人のスーパー気功砲などはその動力機関を応用したものだったのだ。
そして、Dr.ゲロは今、あの二人をはるかに越える人造人間を開発しているという。
本来であればあの二人に導入するはずだった新技術を惜しみなく使った人造人間を。

実験機であるアンドロイド、人造人間16号はすでに稼動しているらしい。
さすがに制御が難しくまだまだ実戦レベルではないということだが
もしも完成したときには鶴仙人や桃白白をはるかに超える人造人間が誕生する。
そうDr,ゲロは話していたという。

あの二人ですらとてつもない力を有していたのだ、
あの黒い餃子が現れなければ自分たちは確実に死んでいた。
それをはるかに上回る人造人間に場にいた者たちは恐怖を感じた。
だが、Dr.ゲロの研究もそれほどうまくは図っていないらしい。
早くとも1年はかかる見通しだとのことだ。
まだ、猶予はあった、それまでに修行をして強くならなければ・・・

そして戦士たちはそれぞれの修行へと向かった。
ただ一人、悲嘆にくれるヤムチャを除いて・・・
その後、ヤムチャはドラゴンボールを集めトランクスを蘇生させた。
しかし、トランクスの死はヤムチャの心から闘争心を奪い去ってしまっていた。


そして、三年の月日が流れた・・・



〜前半(第6話まで)のあらすじ 
第23回天下一武道会決勝戦で勝利を収めた悟空たちの前に黒装束の二人組が現れた。 
悟空を殺そうとする二人組に戦士たちは立ち向かった。 
しかし、二人組の圧倒的な力とサイバイマンを前に戦士たちは苦戦する一方、 
そんな中、天津飯の気功砲により突破口が開かれ、神様の杖が黒装束を引き裂いた 
その中から現れたのは、世界一の殺し屋・桃白白 
自ら正体を現したもう一方はヤムチャたちの師であった、鶴仙人だった。 

真の力を解放した武天老師の助けを借り、二人に詰め寄るクリリンと天津飯 
しかし、二人の力をもってしても鶴仙人兄弟には歯が立たなかった。 
そんな中、記憶を取り戻した餃子の体が魔界の者に乗っ取られてしまう。 
圧倒的な力でサイバイマンを消し去る黒き餃子 
その前に桃白白が、そして鶴仙人が消え去った。 

さらに、かつての仲間たちに牙を向く黒餃子 
それを制したのは武天老師の魔封波であった 
だが、真の力を解放し、さらに魔封波を放った武天老師はこの世を去ることとなった 

偉大なる武道家の死を悼む間もなく、再会したプーアルの口から 
Dr.ゲロが人造人間を開発しているという情報がもたらされる 
こうして、戦士たちは新たなる敵との戦いに向け修行を開始した・・・ 



第7話 それぞれの3年 

武天老師の死から3年の年月が流れた。 
偉大なる武道家の死後、戦士たちは来るべき人造人間との戦いに向け 
それぞれに修行に励んでいた。 
神様は戦士たちに天界での修行を薦めたが、みなそれを固辞した。 

悟空は故郷のパオズ山へと戻っていた。 
無論、結婚したばかりのチチが「夫婦は一緒にいるもんだべ」と、説教した影響もあった。 
結婚して一年がたったころ、悟空は一子をもうけ、悟天と名づけていた。 
ピッコロとの戦いで瀕死の重傷を負った悟空は更なるパワーアップを遂げていた。 

クリリンは主を失ったカメハウスのあとを継いでいた。 
心なしか武天老師がひょっこり戻ってくるような気がしてならなかったからだ。 
師である武天老師の永遠の不在がクリリンの心を穿った。 
その穴を埋めようとするかのようにクリリンは修行に励んだ。 
師の最後の教えであった、力に頼らない戦い方を実践するために。 

そして、天津飯とチャオズは辺境の山へと旅立った。 
魔封波により魔界の力を封印された餃子は副作用で超能力が使えなくなった。 
しかし、そのことが武天老師を死なせたという自責の念とあいまって、 
餃子の修行への取り組み方に変化を与えていた。 
3年間の修行を経て、その力は天津飯にも匹敵する戦士へと成長していた。 

そして、ピッコロ大魔王は仙豆により体力を回復した悟空の 
異常なまでのパワーアップに対抗意識を燃やし、 
「貴様も人造人間もこのピッコロ大魔王が倒す」という捨て台詞を残し、 
去っていった。 

そして、ヤムチャは・・・ 

「修行しなくていいの、ヤムチャ?」 
この三年の間、ヤムチャが以前のように修行をすることはなかった。 
それを案じたブルマがヤムチャをけしかける。 
そんなやり取りが何度も繰り返されてきた。 
逆に、カプセルコーポレーションの副社長としての手腕は 
その名に恥じないものとなっていったのだが・・・ 

サイバイマンによってトランクスが死んだ。 
その後、ドラゴンボールによって生き返らせはしたが、 
その事実はヤムチャの心に深い影を落としていた。 
だが、ブルマはヤムチャが戦いをやめようとする真の理由は気づいてはいなかった。 

すでに天津飯と餃子はそんなヤムチャに見切りをつけていた。 
かつてはブルマと結婚し、西の都に住むようになったヤムチャの元を 
近くで修行という口実で訪れることもしばしばであったが 
今ではヤムチャの腑抜けた姿に辟易し、近づくことはなかった。 

そして、武天老師の三回忌の日を迎える・・・ 

第8話 不戦宣言 

武天老師の三回忌、それは天下一武道会の開催を意味する 
戦士たちは武道会出場を前にカメハウスで亡き武天老師を偲んでいた 
「それにしても今回の天下一武道会がマンゴー島でよかったな」 
口を開いたのはクリリンだ。 
「あぁ、ここからでも舞空術を使って飛んでいけば1時間とかからない。だが・・・」 
天津飯がクリリンに答えながらヤムチャのほうを向く 

ヤムチャはカプセルコーポの会議のため、天下一武道会には出場せず 
そのまま西の都へ戻る予定だったからだ。 
「ヤムチャさんは本当に出場しないのけ?」 
「あぁ、どちらにしろ悟空たちに勝てるとは思えない、恥をかくだけですよ」 
チチの問いかけに自嘲気味にヤムチャは笑った。その本心を知る者はいない。 
「そっか、残念だな」 

「さて、そろそろ武道会場の様子でも見ておこうぜ、ピッコロの奴も来てるかな」 
そう言いながらテレビをつけたクリリンの前に映し出されたのは信じられない光景だった 

テレビに映し出されたのは廃墟と化した町の光景だった 
「何だ?映画じゃない・・・よな。ハ、ハハ・・・」 
クリリンの言葉とは裏腹に画面が切り替わる 
「えー、この時間は天下一武道会の様子をお送りする予定でしたが、 
内容を変更してお送りしています。 
天下一武道会が開催される予定だったマンゴー島が壊滅しました。 
なお、マンゴー島に集まっていた人々の安否も不明現在、軍隊が原因を究明中です。」 

「いったい、何がどうなってんだ・・・」 
その場にいた誰もが沈痛な面持ちになった。 
もしも彼らがその場にいればこの惨事も防げたかもしれない。 
「まさか、人造人間・・・」 
ブルマの言葉に一同はうなずいた。 
皆、その可能性を考えていたのだろう。 

「じっとしててもなんも解決しねぇぞ、とりあえず、 
人造人間ってのがいるならマンゴー島に行ってみようぜ」 
あっけらかんと悟空が言い放つ。 
「そ、そんな悟空、もうちょっと様子を見ようぜ、なっ、悪いことは言わないからさ」 
「何でだよ、クリリン」 
その亀仙流の言い争いに天津飯が割って入った。 

「孫の言うとおりだ、ここでじっとしていても何も始まらない」 
「でもさ、天津飯・・・」 
「いやならここでじっとしていろ」 
天津飯がクリリンにぴしゃりと言い放つと、しぶしぶクリリンも納得する 
「分かったよ、行きゃいいんでしょうが」 

「よし、皆、準備はいいな。どうしたヤムチャ?」 
「俺は行けない、悪いな会議があるんだ・・・」 
「ふざけるな!!こんな時に会議だと」 
「行きなさいよ、ヤムチャ、会議なら私が代わりに出るわ。」 
「正直言って俺は行きたくないぜ、はっきり言ってゴメンだ。」 

「分かった。もういいみんな、行こう。見損なったぞ、ヤムチャ」 
振り返ることもなく天津飯が続いて、名残惜しそうに餃子が飛び去った 
「行きなさいよ、ヤムチャ。」 
「ブルマ・・・くそっ、俺はやらねぇぞ!!見物だけだからな!!」 
そう言うとヤムチャは天津飯たちのあとを追った。 
そして、しり込みしていたクリリンもそのあとを追う 
「サンキューな、ブルマ。」 
そういうと悟空もマンゴー島へ向けて飛び立った。 


第9話 対面 最初の犠牲者はやっぱり・・・ 

マンゴー島へ到着した一行、だがその道中、天津飯はヤムチャと顔も合わせようとしなかった 
孤独感に苛まされながらもヤムチャは再び自分が戦いに身を投じようとしていることを恐れていた 

島に着いた戦士たちを待っていたのはテレビで見るよりも悲惨な町の状態だった 
かつて戦ったピッコロ大魔王でさえここまでの破壊行為は行わなかった 
島のありとあらゆるものは破壊され、かつて人間だったと思われるものは全て肉塊と化していた 
「ひでぇことしやがる・・・」 
いつも飄々としている悟空でさえその惨状に怒りをあらわにしていた 

「まず、生存者を探そう。人造人間がやったかどうかを確かめるんだ」 
すっかりリーダーとなった天津飯の提案により一同は生存者を探すため散り散りとなった 
だが、島には死の気配だけが漂っていた 
すでに生きるものは自分たちしかいないような錯覚にクリリンは襲われていた 
「はぁーっやっぱり来るんじゃなかったよな、俺」 
愚痴りながら、生存者がいないか確かめるクリリン。 
その時、彼の背後で瓦礫の崩れる音がした、あわてて構えを取るクリリン 
「ふーっ、脅かすなよ、全く」 
だが、予期せず自分を呼ぶ声をクリリンは確かに聞いた 
「お前はクリリンだったな」 
「!?」 

誰かが瓦礫の下敷きになっていた。だが、必死に腕を伸ばしてクリリンを呼んでいる 
「あんたは、チャパ王!!」 
顔は判別できないがその独特の髪型は明らかにチャパ王のそれだった。 
おそらくは天下一武道会に出場するためにマンゴー島へ来ていたのだろう 
「何があったんだ、チャパ王?そうだ、これを食え」 
そういうとクリリンはチャパ王に仙豆を差し出した 

「なんだ?傷が消えていく・・・不思議な豆だ。これはいったい?」 
「そんなことはどうでもいい。いったい何があったんだ」 
「奇妙な服装の二人組みが現れて、町を破壊していった。ナムが立ち向かったがあっさり殺されたよ」 
(あんた、もしかして隠れてたんじゃ・・・) 
「あいつらは人間じゃない・・・化け物だ」 
「わかった、もういい俺はこのことを皆に知らせにいく。悪いがついてきてくれるか?」 
「いや、あいつらに見つかるのはゴメンだ。俺はここでじっとしている。」 
「そ、そうか。分かった。じゃぁな。」 
そう言うとクリリンは仲間たちを探し、走り出した。奇妙な二人組みに見つからないように。 

そのころヤムチャも行き倒れた二人組みを発見していた。惨事に巻き込まれたのだろうかうつぶせに倒れている 
髪の色からして片方は老人、もう一人は太った男だ。 
(まだ、息があるかもしれない) 
「おい、大丈夫か?」 
そう思い、二人に駆け寄り声をかけた瞬間、老人と思しき人物が急にヤムチャのほうを向きその口を手でふさいだ 

その頭部に忌まわしきレッドリボン軍の刺繍の入った帽子をヤムチャはみとめた 
(こ、こいつら、まさか) 
しかし、まるで力が入らない、もちろん人造人間の能力だが、ヤムチャがそんなことを知るはずはない 
「ヤムチャか、貴様がここにいるということは孫悟空も近くに来ているな」 
老人はヤムチャに語りかける。その表情はあくまで穏やかでヤムチャなど敵ではないといった様子だ 

(くそ、このことを皆に知らせないと) 
そう思い、ヤムチャは全身の気を解放した 
「この気は!?」 
「ヤムチャか?」 
ヤムチャの目論見どおり、ヤムチャの放った気はしまにいた悟空や天津飯に異常を知らせる働きをした 

島はそれほど広くはない。ヤムチャの一番近くにいたクリリンが到着するまでに1分とかからなかった 
「こいつらか、奇妙な服装の二人組みってのは」 
「クリリンか」 
「なぜ、俺のことを?」 
「お前たちのことは良く知っている。気づかなかっただろうがお前たちのすぐそばに 
虫に似せたスパイロボットを仕掛けておいたのだよ」 
老人がクリリンに語った。 

「20号、強い力を持ったものが三人ほど、まもなくこちらに到着します」 
「孫悟空と天津飯、それにピッコロ大魔王か」 
「いえ、データによるとピッコロ大魔王ではなく餃子です。」 
「好都合だ、その前にこいつのエネルギーをもらっておくか、19号」 
「ダメです、孫悟空がすでに」 
そう言うと19号と呼ばれた男は空を見上げた。 
そこには悟空が悠然と佇んでいた 

「その手を離せ、オメェらの仕業か、これは?」 
怒気をはらみつつ悟空が二人に問いかける 
「そのとおりだ孫悟空、全ては貴様を殺すためだ」 
「オラを殺すためだと・・・オラ一人を殺すために、こんなひでぇことを」 
「20号、天津飯と餃子が間もなく到着します、来ました」 
冷静に状況を判断する19号、天津飯と餃子が到着すれば数の上でも分が悪くなる。だが、20号には勝算があった 
天津飯と餃子は決して19号に攻撃することができない。 
うまくいけば仲間に引き入れることも不可能ではないだろう 

第10話 19号の秘密 裏切りの餃子 

天津飯と餃子もまたヤムチャの気に異常が起こったことを気づいた。 
だが、二人が向かったのはヤムチャとは逆の方向だったために到着が遅れたのだ。 
二人が到着したときには悟空が人造人間と向かい合っているところだった 
人造人間の動向に注意しながら悟空の元へ駆け寄る二人 
「遅かったな、天津飯、餃子」 
「スマン、あれが人造人間か」 
そういうと初めて天津飯は人造人間を目の当たりにした、一人はとても島ひとつを壊滅させられるとは思えない老人。 
そして、もう一人を見た瞬間、天津飯は言葉を失った。その表情には明らかに動揺の色が見えた。 

「あれは・・・いや、あなたは」 
ようやく搾り出した天津飯の言葉に悟空は怪訝そうな顔をする 
「何だ?知り合いか?」 
「知っているも何も・・・ちゃ、餃子」 
そう言うと天津飯は餃子のほうを向き直った。そこには天津飯と同様に顔色を失った餃子がいた。 
「そ、そんな・・・」 
餃子も目の前の状況を理解できなかった 
「どうしたんだ、二人とも、一体ぇ、あいつら何者なんだ?」 

「ふっふふ、はーはっは」 
突然笑い出す20号。その顔には余裕の色が見て取れる 
「何がおかしいんだオメェ!!」 
「残念だったな、孫悟空、その二人はわしらに攻撃することはできない。」 
「何を言って・・・どうしたんだ二人とも!!」 
悟空の声にようやく餃子が口を開いた。 
「父上・・・」 

そう、人造人間19号はかつて桃白白により死んだはずの餃子の父・焼売王その人だった。 
「ち、父上って!?あいつがか?」 
間違いなかった。恰幅のいい体型、一族特有の白い肌、それは紛れもなく父の姿だった 
ただ、違うところがあるとすれば、かつての厳しくも暖かかった瞳が無機質で冷たい瞳になっていることだけだ。 
「間違いない。あれは・・・いや、そんなはずはない。なぁ、餃子。」 
天津飯はかぶりを振って現実を否定しようとした。 

「驚くのも無理はない。かつてこの男は確かに桃白白の手にかかり死んだ。 
だが、その戦闘能力は桃白白たちに劣るとはいえ評価するに値するものだったのだ。 
そこでわれわれレッドリボン軍はその亡骸をひそかに保存し、蘇生させたのだ。」 
悠然と話す20号がその手を挙げた瞬間、19号が悟空めがけ襲いかかった。 

地面すれすれを這うようにして19号の巨体が悟空にぶつかる。 
その突進をこらえると悟空はすかさず反撃に出る。 
激しい攻防が繰り広げられるかと思いきや、19号はなす術もなく悟空の攻撃を受け続けた。 
「気をつけろ!!そいつら力を吸収しやがる。」 
クリリンの仙豆により回復したヤムチャの声もむなしく、悟空の息は次第にあがっていた。 
埒が明かないと思い、一気に間合いを広げる悟空。そして振り返りざまにかめはめ波が放たれた。 
しかし、待っていたとばかりに19号は手の平を広げかめはめ波を吸収してしまった。 

「そんな・・・」 
「猪突猛進とはこのことだな」 
肩を落とす悟空を見て嘲笑う20号。 
「くっそー、こうなったら超かめはめ波で一気に勝負をつけてやる。」 
「止せ、悟空!!」 
クリリンの声が遠くに聞こえたがかまわずに悟空は気を練り続ける 
「20号、予想以上のパワーです。」 
「ならば、先ほどの作戦通りにしろ。」 
「分かりました、20号。」 

「かーーーめーーーはーーーめーーー」 
悟空が超かめはめ波の気を練り上げる直前、19号が餃子に語りかけた。 
「餃子、また、私を見殺しにする気か?」 
その言葉を聞くと餃子は悟空と19号の間に割って入った。 
「どけっ、餃子!!」 
「いやだ、父上は二度と死なせない。」 
そして、餃子の指からどどん波が放たれた。悟空に向けて・・・

第11話 孫悟空 対 餃子 

父である人造人間19号を守るため、餃子のどどん波が悟空めがけ放たれた。 
「ぐあー!!」 
超かめはめ波を放つ直前だったため、それまで練り上げた気が逆流し悟空の体を駆け巡る。 
苦しがる悟空をさらに餃子が追撃する。 

魔封波により魔界のものが封印されて以来、餃子から超能力が失われた。 
だが、この3年の間、天津飯との修行により餃子は失った超能力を補うだけの戦闘力を身につけた。 
痛みに耐えながら餃子の拳をかわす悟空、だが餃子はそのままの勢いで悟空の腹に裏拳を叩き込む。 
たまらず、かめはめ波の体勢をとる悟空。そして、餃子もまたどどん波の構えをとった。 
「やめろ、餃子!!敵はそいつらの方だろ!!」 
悟空も餃子も仲間である。何もできないクリリンには餃子を言葉で制する以外にはできなかった 
しかし、クリリンの叫びも虚しく悟空と餃子の気が交錯した。 
相手が餃子であるために悟空も気を抑えてはいるが、餃子の気は予想以上に高まっていく。 
二人の気は完全に膠着状態に陥っていた。 

そんな2人の戦いを横目で捕らえながら19号はさらに天津飯に声をかけた 
「天津飯よ、お前はクリリンとヤムチャを殺せ。」 
「な、バカな!?」 
天津飯の三つの目が人造人間たちと仲間たちの間を泳ぐ・・・ 
「そ、そんな!?」 
餃子の変わりように続いて天津飯までもが自分たちに牙を向きかねない。 
天津飯との力量の差を考えればクリリンとヤムチャにとり、それは死刑宣告以外の何物でもなかった。 

だが、天津飯はさすがにこの言葉に疑念を抱き始めていた。 
焼売王はかつて世界の覇権を握ろうとした。レッドリボンと争ったこともある。 
だが、あくまでも人民には寛大で優しい王だった。 
その王がこのような指示を出すはずはない。 
疑念は確信へと変わりつつあった。 

「餃子、待て!!その男は偽者かもしれない。」 
「天さん!?でもあれは・・・」 
「考えてもみろ!!王がこのような戦いを望むはずはない。」 
天津飯の言葉に一瞬、餃子の集中力がそれた。 

その隙を突いて悟空はかめはめ波の勢いを変え、どどん波をいなす。 
そして一気に19号に詰め寄ると激しい拳打を浴びせる。 
だが、先ほどの餃子との攻防でさすがの悟空も体力を使い切ったのか動きが鈍い。 
見る見るうちに19号相手に劣勢に陥る。 
そしてヤムチャが20号に力を吸い取られた時と同じように19号に口をふさがれ気を吸い取られ始める。 
「20号、すばらしいエネルギーです。これで大幅なパワーアップがのぞめま・・・」 
その言葉を言い終わる間もなく19号の肘から先は失われていた。 
その様子に驚愕する戦士たちの目にさらに驚くべき人物の姿が飛び込んできた。 

第12話 武術の神、再び 

悟空をつかんでいた19号の腕が突如上空から放たれた気功波によって吹き飛ばされた。 
それまで余裕の笑みを浮かべていた20号も含め、誰もがありえない攻撃に目を丸くした。 
だが、気功波を放った人物の正体はさらに驚くべき人物であった。 
「武天老師様!!」 
最初に声をあげたのはクリリンだ。 
そして、餃子、悟空、ヤムチャもまた口々に偉大なる武道家の名を呼んだ。 
「全くおぬしらは、何を仲間内で争っておるか。それにしても相変わらず猪突猛進じゃな悟空。」 

相変わらずなかつての弟子に苦笑いを浮かべる武天老師に天津飯がたずねた。 
「生きてらっしゃったんですね、武天老師様。」 
「いいや、ワシャ、確かに3年前に死んだよ。」 
武天老師は自分の死などまるで他愛のなかったことのように飄々と答えた。 
「し、しかし、現にこうやって・・・」 
「いや、今日一日だけのう、姉ちゃんに頼んでこっちに来させてもらったんじゃよ。」 
「そうか!!占いババ様かぁ、思いつかなかったな、はは。」 
クリリンの横槍に事情を知らない天津飯は不思議そうな表情を浮かべた。 
だが、腕を吹き飛ばされた19号が武天老師めがけ突進した。 
不完全ながらも悟空のエネルギーを吸い取りパワーアップを果たした攻撃に介入できる者はいなかった。 
武天老師の体は一瞬にして貫かれた。 

再び師を襲った突然の惨劇に沈黙が流れた。 

「ところで、餃子。あの男おぬしの父にそっくりじゃな。」 
突然、隣から声をかけられた餃子は体をこわばらせた。 
見ると何事もなかったように武天老師が先刻まで自分の似た方向を見ている。 
ありえないことだった。だが、一瞬にして武天老師は人造人間19号の攻撃を避け、餃子の隣へと移動していたのだ。 
しかも自分に全く気配を感じさせることもなく・・・ 

そして、あわてて19号のほうを見やると19号はきょろきょろと武天老師を探していた。 
彼もまた確実に貫いたと思っていた武天老師が掻き消えたことに驚きを隠しきれなかった。 
それほどまでに武天老師は速かった。 
「それにしても、体が軽いわい、やはりいいのうこの世は、これでピチピチギャルがおれば最高なんじゃが。」 
「武天老師様・・・」 

まるで戦いの緊張感を漂わせない武天老師に困惑の表情を浮かべる餃子、そんな餃子に武天老師はさらに話しかけた 
「しかし、似ておるのは外見だけじゃな、あの世で会った焼売王はもっと立派な男じゃったからのう」 
「えっ、父上にあの世で・・・老師様?」 
「うむ、わしはかつておぬしらの国で武術の指南をしたこともあるのでな 
もっとも焼売王がまだ、おぬしよりも幼かったころの話じゃ。かっかっか。」 
「じゃぁ、あれは・・・」 
「偽者じゃ、図られたな餃子。」 
そういうと武天老師の姿が再び消えたかと思うと、19号のいるあたりから 
恐ろしい速度で何かが空から降ってきた。 

そして、その物体は地面に轟音とともにクレータを作った。 
見ると上空には再び武天老師が浮かんでいるではないか。 
そしてクレーターの中には19号が倒れていた。 
武天老師の強烈な蹴りが炸裂したのだ。 
だが、当の19号はおろかその攻撃を見切れたものはそこにはいなかった。 
天津飯の脅威の動体視力を持ってしてもである。 

さらに驚くべきは武天老師の攻撃により帽子の脱げた19号の頭部から覗くむき出しの頭脳であった。 
「これで分かったじゃろう、餃子、そ奴は偽者じゃ。」 
「じ、じっちゃん、すげぇな。」 
苦痛に耐えながらも感心する悟空とは裏腹に餃子の心は残悔の念でいっぱいだった。 
仲間を傷つけてまで守ろうとしたものが偽者だった。3年前と同じく餃子は自分の無力さに打ちひしがされていた。 
だが、今度こそ自分自身の手でこの失敗を挽回する。 
そう決意した餃子は全ての迷いを振り切るために飛んだ。 

そして、19号を眼下に捕らえると餃子の手が印を結ぶ。 
それはこの三年の間、天津飯とともに編み出した新たなわざ、『新・気功砲』であった。 
餃子から放たれた新・気功砲は大地を穿ち19号の体をいっぺんも残さず消し去った。 
だが、同時に餃子も全ての力を使い果たし落下した。 
天津飯にとっては連続使用すら可能なこの技も餃子にはいまだ気功砲と同じように危険なわざだったからだ。 
その餃子を受け止めた武天老師の表情は限りなくやさしかった。 

第13話 痛恨、20号逃亡 

餃子が19号を撃破した頃、マンゴー島に近づく一機のヘリコプターがあった。 
「間もなく、マンゴー島上空に到着します。いったいこの島で何があったのでしょうか?」 
リポーターの声が世界に向けて届けられた。 
どの放送局よりも速くこの島に到着したリポーターの胸はその交付運でいっぱいだった。 

20号は焦っていた。19号も孫悟空をはじめとする者たちにかなわないまでも 
互角に戦うだけの力はあったつもりだ。 
しかし、予想外の強敵・武天老師の登場が全ての計画を台無しにしていた。 
しかもその力は未知数だ。研究所に眠っている『あの力』を持ってしてもかなうかどうか・・・ 
せめて、19号がいる間に退路を確保しておくべきだった。 
しかも19号によりエネルギーを吸い取られたはずの孫悟空の力が戻っている。 
いや、前にも増して充実していることを彼のセンサーが告げていた。 
唯一つの望みは餃子だけがヤムチャに守られ眠りについたままの状態であることだけだ。 
だが、彼の明晰な頭脳をもってしても、いや、その頭脳の明晰さゆえに 
彼は逃げることがかなわないことを悟っていた。 

「それにしてもひどい有様じゃな。せっかくこの世に戻ってきたというのに、いったい貴様らは何者じゃ?」 
20号に問いかける武天老師に答えたのはクリリンだった。 
「レッドリボンの人造人間ですよ。私にもっとあればと思いますよ・・・」 
「ふむ、相変わらずじゃな、それでお前らの目的はなんじゃ、まさかこのしまの破壊が目当てではあるまい?」 
20号を見据えた武天老師の目には静かに怒りがこもっていた。 
「そこにいる孫悟空の抹殺だ。そして、我々レッドリボンは再び世界をこの手につかむ。」 
狂気、20号の言葉に秘められていたのはそれ以外の何物でもなかった。 
「悪いのう、お前さんらの自由にはさせんよ。無益な殺生はワシのポリシーに反するが死んでもらう。」 
厳しい表情を浮かべた武天老師の耳にヘリコプターのローターが奏でる爆音が鳴り響いた。 

「人がいます。数人はこちらに背を向けているため顔は判別できませんが、一人は老人のようです。 
どうやら数人の男たちに老人が囲まれているようです。彼らがこの惨事の原因でしょうか?」 
「バカ言うんじゃねぇよ!!何で悟空たちが悪者扱いされんだよ!!」 
カメハウスではウーロンがテレビに向かって悪態をついていた。 
そのウーロンの横でプーアルが20号の正体に気づいていた 
「あれは!?ドクターゲロ、なぜ・・・」 
「確かなの、プーアル?」 
ヤムチャたちの安否が気になり、カメハウスに残っていたブルマが問いただす。 
「以前、桃白白様の付き添いで何度かあったことがあります。間違いありません。あれはドクターゲロです。」 

(しめた!!奴らの気は向こうに集中している。ならば・・・) 
20号の脳がフルスピードでこの状況を打開する案を割り出した。 
そして、次の瞬間、彼の手からまっすぐヘリコプターめがけエネルギー弾が放たれていた。 
(間に合え!!) 
20号の気配に気づいた武天老師はその神速をもってエネルギー弾をはじいた。 
だが、時間がなさ過ぎた。さすがの武天老師といえどもこの一瞬では 
20号がエネルギー弾の後ろにもう一つのエネルギー段を隠していたことに気づかなかったのだ。 
「しもうた・・・影矢か!!」 
武天老師のうめき声を搾り出すとともに、ヘリコプターが爆発する轟音がとどろいた。 

爆散するヘリコプターに唖然とするヤムチャたちをよそに武天老師は自分の無力を嘆きながら20号を見据えた、だが、そこに20号の姿はなかった。 
「あやつ、逃げ追ったか・・・何を呆けておる!!天津飯上空へ飛んで奴を探すんじゃ、おぬしの目なら何とかなるかも知れん 
悟空、クリリン、ヤムチャはワシについて来い、共に海岸線で奴の脱出を防ぐんじゃ」 
武天老師の指示に従い戦士たちは散り散りとなり20号の捜索を開始した。 

その頃、20号は倒壊した建物の陰に隠れ移動していた。天津飯の眼力を上空へと向けた武天老師の策は見事というほかはなかった。 
すでに東西南北の海岸線は4人の戦士によりしっかりと守られている。 
20号に逃げ場はないように思えた。 
だが、彼は目的のものを見つけると満足げな笑みを浮かべた。マンホールだ。 
下水道に入ればいかに天津飯といえどもこちらを発見することはできなくなる 
それに、彼には気などという原始的な力はない。つまり、見つかることはないのだ。 
あとは海中深く潜りこの島を離れればいい。幸い、彼には人工呼吸装置が備わっている。 
2,3時間の潜水も苦ではないだろう。 
こうして20号はマンゴー島脱出に成功した。 

第14話 真の人造人間、そしてトランクスの運命が動き出した 

「やっぱり、私もいくわ。」 
カメハウスでは人造人間20号の正体をヤムチャに伝えるべくプーアルがマンゴー島へと飛び立とうとしていた。 
そのプーアルに付き添ってブルマがマンゴー島に行くと言い出しているのだ。 
すでにブルマはキングキャッスルに連絡を取り、ドクターゲロの研究所を確認していた。 
実は以前にもブルマはドクターゲロの消息をつかむべく手を打ったのだがその時はまだ、 
ドクターゲロの危険性も分からず踏み込んだ調査ができなかったのである。 
だが今回は違う。先刻の破壊されたヘリコプターにより中継された映像からドクターゲロであることが断定され、 
国王自ら命令を下しゲロの研究所の所在をつかむことができたのである。 

「おいおい、やめとけって。亀仙人の爺さんだってついてんだ。心配いらねえよ」 
ウーロンが相変わらず飄々とした調子でブルマを止める。 
「そうですよ。ブルマさんにもしものことがあったら私はヤムチャ様に顔向けできません」 
「何いってのよ。相手はドクターゲロよ。あの筋肉バカたちだけじゃ手玉に取られかねないわ。 
ここは若く美しい、この天才ブルマ様の出番も必要になるってもんでしょ。」 
「お前、もしかして久しぶりに冒険したいだけじゃねーの?」 
呆れ顔でウーロンがたずねるとブルマはバツが悪そうな顔を浮かべた。 
どうやら図星だったようだ・・・ 

「とにかくブルマさんはここにいてくださいトランクス君の子守もしてくれないとウーロンじゃ心配です。」 
「た、たしかにそうね。」 
横目でウーロンを見やるとブルマはプーアルの意見に同意した。 
「おい、それどういう意味だよ!!」 
「よーし、ロケットに変身!!」 
BOM!! 
憤慨するウーロンの声を背に受けながらプーアルはロケットに変身するとマンゴー島へむけて飛び立った。 

「むう、おかしいのう。これだけ時間がたっているというのに奴め一体どこへ行きおった。」 
20号がすでに脱出しているとも知らず武天老師たちはいまだに海岸線を守っていた。 
「仕方あるまい、いったん悟空たちと合流するか。」 
そう言うと武天老師は同じように海岸線を守っていた悟空やクリリン、そしてヤムチャを連れ 
上空から20号を探している天津飯の元へ向かった。 

「もしかするとすでに脱出したのかもしれんな。」 
「そんな!?あれだけ守りを固めていたのですよ。逃げられるはずは・・・」 
武天老師の言葉に天津飯が反応する。逃がしたとは思いたくなかった。 
「だけど、あれだけ追い詰めたんだし、さすがにもう懲りたんじゃないかな?ハハ・・・」 
クリリンの楽観的な言葉とは裏腹に戦士たちの表情は優れなかった。 
そんなかれらの耳にプーアルの声が響いた 
「ヤムチャ様ー」 
ロケットに変身したプーアルがようやくマンゴー島へ到着したのだ。 
そしてプーアルから20号がドクターゲロ本人であったことが告げられ、戦士たちはゲロの研究所を直接叩くことにした。 

「問題は餃子だな、このままにしておくわけにもいかない。」 
新・気功砲の副作用というべきか餃子はいまだ昏睡状態に陥っていた。 
当然、仙豆は食わせた。だが目覚めることはなかった。 
「俺が連れて行こう、正直言ってオレが一番役に立ちそうもない。」 
皆との力の差はヤムチャ自身自覚していた。だからこそ餃子をカメハウスへ連れて戻る役を買って出た。 
さらに武天老師により悟空にもかめハウスで待機しているようにとの指示が出た。 
人造人間にエネルギーを吸収できる能力があることは分かっている。 
ヤムチャと餃子だけでは心許なかったからだ。 

ドクターゲロの研究所は南の都の近くの山岳地帯にあった。 
いち早く脱出に成功した20号はすでに研究所の近くまで達しようとしていた。 
だがその時、彼のセンサーは3人の追っ手が迫ってきていることを告げた。 
「ちっ、奴らどうしてここに?」 
研究所の所在が知れていることをまだゲロ自身は知らない。 
どうやら飛行することは困難なようだ。そう悟るとゲロは高速で地上を疾走した。 

一方、武天老師たちも山岳地帯の捜索に手を焼いていた。 
この近くにゲロの研究所があることは分かっていた。だが、その正確な位置までは特定できてはいないのだ。 
そのため20号に再び先手を取られてしまった。 
研究所に戻った20号は真の人造人間の封印を解くべく、彼らの眠るカプセルの前に立った。 
その手にはしっかりと緊急停止用コントローラーが握られている。 
武天老師には彼らの力を持ってしても勝てまい。だが、うまく刺し違えてもらえばいい。 
いまだ制御が不完全な失敗作である。その廃棄にはもってこいの利用法だといえた。 
だが、ゲロの策は失敗に終わる。目覚めた人造人間17号と18号により、ゲロ自身が殺害されてしまったために・・・ 

そして、二人の人造人間は彼らが眠っていたのと同じ型のカプセルの前に立っていた。 
カプセルにはNo.16と書かれている。 
そして、彼らの手によりゲロにより封印された優しく、だが冷たい人造人間の戒めが解かれた。 
そして、同時にトランクスの運命の扉も開かれたのだった・・・ 

第15話 17号と18号 

ゲロに先手を取られ、すでに人造人間が稼動していることを知らない武天老師たちは山岳地帯の捜索を続けていた。 
その時、彼らのすぐ近くで爆発が起こった。ゲロを屠った17号と18号による研究所の破壊が始まったのだ。 
だが、そんなことを露も知らない一行はその原因を探るべく爆発のあった地点へと降り立った。 

「こんなもんでいいんじゃないの?どうせドクターゲロはもう死んじゃったんだし。」 
「そうだな、はーぁッ、なんか面白いことないかな。」 
目覚めた二人の人造人間は肉体を改造された恨みを研究所へと向けていたのだ。 
そこへ武天老師をはじめ天津飯、クリリンが近づきつつあった。 
「武天老師様、どうやらドクターゲロはいないようです。」 
いち早く研究所内にドクターゲロがいないことを確認した天津飯が武天老師に告げた。 
そして、そんな3人の接近を知る者がいた。人造人間16号だ。 
17号と18号には気を感知するためのセンサー類が取り付けられてはいない 
そのため、彼らは空を見上げる16号を不思議そうに見つめ、その視線を見やった。 
退屈していた彼らは武天老師たちの姿を見つけると一直線に飛び立った。 

年端もいかない少年と少女が飛んできたことに武天老師は内心、驚きよりも興味が先立っていた。 
だが、その興味も彼らの衣服に刻まれたレッドリボンのエンブレムを見た瞬間に消えうせた。 
「お主ら、ドクターゲロの仲間じゃな?」 
「へぇ、そう見えるかい?」 
武天老師の質問におどけて答える17号、そこへ16号も彼らに続き到着した。 
「3人か、ドクターゲロはあの中におるのか・・・」 
「ドクターゲロ・・・ははは、あいつはもういないぜ、俺たちが殺しちまったからな。」 
17号は高笑いを上げながら哀れな科学者の末路を語った。 
「なんと、どうやらおぬしらを野放しにしてはドクターゲロ以上に厄介なようじゃな。」 
「だったらどうする?」 
「悪いが死んでもらおう。」 
言いながら武天老師の目は温和な老人の目から武道家のそれに変わりつつあった。 

目にも止まらぬ神速の突きが無防備の17号の腹に突き刺さる。 
現世での功績を認められこの3年間、彼は肉体を持ちながらあの世で修行を続けていたのだ。 
17号も反撃を試みるが、そんな武天老師にかなうはずもなくその攻撃は空を切るのみだった。 
「17号、何やってんさ?そんなジジイ、さっさと倒しちゃいなよ。」 
武天老師の実力を知らない18号には17号が遊んでいるように見えたのだ。 
「簡単に言うなよ!!こいつ強いぜ。」 
思わず泣き言を上げる17号に罵倒を浴びせようとした18号を16号が遮った。 
「確かにあの男は強い。お前たち二人がかりでも到底、勝ち目はないだろう。何とか退路を見つけるしかない。」 
「何だ、あんたしゃべれたの?でも気に入らないね。」 
苛立たしげに髪をかき上げると18号も武天老師に向かっていった。 

「ほう、今度はかわいいギャルじゃな。」 
ここで武天老師の悪い癖が出た。死してなお、彼の制各だけは変わってはいなかったのだ。 
18号相手に手加減しつつ17号には決定打を下さないままに目を放してしまったのだ。 
そして、18号と正対していた武天老師を背後から17号が羽交い絞めにした。 
17号の締め付ける力は思った以上に強かった。 
確かに実力差はあるが彼我の実力差が無いに等しい状態であれば逆に絞め殺されてもおかしくない状態だ。 
振り切ることは容易ではなかった。そこへ18号の攻撃が武天老師に襲い掛かった。 

(くっ、あれをやるしかあるまい・・・) 
武天老師の脳裏にはあの世で修行中のある技が浮かんでいた。 
だが、いまだに修行中の技だ成功する確率は無いに等しい。 
だが、せっかくの肉体を失うわけにはいかない。それは自分の存在そのものの消滅を意味するのだから。 
すでに17号の手刀は目前に迫っていた。覚悟を決めると武天老師は持てる力の全てを集中した。 
その瞬間、武天老師の体から赤い闘気が迸った。 

武天老師の体から放たれた凄まじいまでの力の奔流に攻撃を仕掛けていた18号はおろか 
武天老師を羽交い絞めにしていた17号も弾き飛ばされた。 
「す、すごい・・・まだ、あれだけの余力を残して戦っていたとはさすがは武天老師様だ。」 
あまりに次元の違いすぎる武天老師の力に天津飯は感動すらおぼえつつあった。 
だが、当の武天老師に異変が起こっていた。 
人造人間達を跳ね飛ばしたはいいが、やはり未完成の技だったために体に多大な負担がかかったのだ。 
すでに舞空術を維持する力も残ってはいなかった。そして体は物理の法則に従い落下を始めた。 

「武天老師様!?」 
異変に気づいたクリリンにより掬い上げられた武天老師の体は向こう側が見えるほどに透けてしまっていた。 
どうやら無茶な行動にこの世にいられる滞在時間が一気に消費されてしまったのだろう。 
(ばかもんが、まだおぬしに界王拳は使いこなせんぞー) 
武天老師の耳にあの世にいる師の言葉が聞こえた。 
「界王様、あともう少しだけ・・・あやつらを野放しにするわけには・・・」 
(ムリじゃ、あとは弟子たちに任せるしかあるまい。) 
「くっ、ここまでかすまんなクリリン、天津飯。後は任せるぞ。」 
そう言い残し武天老師は姿を消した。 

その後には姿の見えない武天老師と姿の見えない相手とのやり取りに目を丸くしたクリリンが残されていた。 

第16話 破滅への序曲 神が見た悪魔 

「くっそー、あのジジイどこへ消えやがった?」 
それを聞きたいのはこっちのほうだと内心思いながらも先ほどの戦いでさすがに勝ち目がないことは分かっていた。 
その時、怒りを爆発させる17号に突然、天津飯が襲い掛かった。 
だが、武天老師のような戦いを演じることもなく、一撃で気絶させられてしまった。 
さらにそこへ18号までも現れた。絶体絶命・・・クリリンは死を覚悟した。 
「あーあ、服ボロボロ。ねぇ、17号、そんな奴らほっとこうよ。着替えたいんだ。」 
あまりの人造人間の場違いな言葉に内心ほっとしながらもクリリンは思わず自分でも驚く言葉を吐いている自分に気づいた。 
「ま、待て!!」 

その言葉に立ち去ろうとしていた人造人間も足を止めた。 
「へぇ、威勢がいいね。私たちとやろうっての。」 
悠然と、そして艶然とクリリンに近づきながら18号は言った。 
間近で見る18号の顔はとても凶悪な兵器のものではなかった。むしろ美しいという表現の似合う顔立ちだ。 
その18号に見つめられながらクリリンは返す言葉を見つけられなかった。 
(お、俺、死んじまうのか・・・けっきょく一度も彼女できなかったな。) 
これまでの人生を振り返りながらクリリンは覚悟を決めた。だが、思っていた衝撃は来ない。 
そしてクリリンの頬を襲ったのは意外にも18号のキスであった。 

「え!?」 
「ふっ、17号、こいつ赤くなってるよ。」 
わけも分からずパニックに陥りそうになるクリリンをからかう様に18号は17号に話しかけていた。 
もしかするとそんなに悪いやつらじゃないのかもしれないそう思いながらも彼には確かめなければならないことがあった。 
「お、お前らの目的は何だ?」 
「目的、そんなものはない。ゲロの言いなりになる気もないがとりあえず孫悟空って奴を殺すことかな。」 

やはり・・・クリリンは思った「親友の命」、彼らの狙いはそこにあるのだと聞かされ打ちのめされそうになった。 
だが、希望もある。それは彼らが必ずしもそれを実行するためだけに存在していないというわずかな希望であった。 
しかし、自分にはどうすることも出来ない。無力な自分に腹が立っていた。 
そして、じゃぁねと言い残すと彼らはクリリ

ンを残し、去っていった。 
とりあえず、悟空にこのことを知らせないと・・・ 
天津飯を起こすとクリリンはただひたすらにカメハウスへと向かった。 

それからの人造人間はまるでゲームを楽しむかのように車でひき殺したり、銃で撃ち殺したりと暴虐武人ぶりをあらわしていた。 
さすがに勝ち目はないと悟っているため戦士たちも修行に明け暮れ、いつか彼らを倒すことだけを目的にしていた。 
死んだ人間はドラゴンボールで言いかえらせることが出来る。神がそう諭した影響もあったのだが・・・
それから、一ヶ月ほどが立ち下界を見下ろしていた神の目にある町の風景が留まった。 

衣服が散乱しまるで人間だけがその姿を消したような町・・・ 
何が起こったのだろうか。胸騒ぎがした。何か良くないことが起こっている 
そう思った神は原因を探った。そして、彼の目は一匹の奇妙な生物を見つけた。 
人造人間が研究所を破壊した際にその生物が浮かんでいた試験管もまた破壊されたのだった 
不完全ながらも生きながらえたその生物はすでに人型へと変貌し、この町の人々を自らの糧とするため吸収していたのだった。 
今ならまだ間に合う。だが、野放しにしておいては取り返しのつかないことになりかねない。 
そして神はピッコロ天界に呼んだ。再び一つになるために・・・ 


第17話 そして完全体へ

「何の用だ、神よ」
天界に呼ばれたピッコロは憮然とした表情で神に問うた。ここはかつて彼を忌み嫌った場所だ。
正直来ることすらはばかられた。神はそんなピッコロについ先ほど見つけた生物のことを一通り話すと、本題を切り出した。
再び一つになることで、この不気味な生物による災厄を確実に防ぐためだ。
だが、ピッコロはその申し出を断った。神と一つになることを嫌ったわけではない。
ドラゴンボールを失うことを恐れたのだ。
「今のままでもそいつを倒せないわけではないのだろう。」
そういい残すとピッコロは一路、その生物の元へと向かった

セルと名乗った生物とピッコロの戦いは終止、ピッコロ優勢の状態で進んだのだが
一周の隙を突かれ太陽拳を浴びたピッコロの前からセルは消え去った後だった。
唯一の収穫はセルの狙いが人造人間たちを吸収することにあると分かったことだけだ。
だが、このことが状況を悪化させたことは言うまでもない。
今や人造人間たちをただ、倒せばよいという楽観的な発想は出来なくなった。
当然、ドラゴンボールで生き返らせることの出来る期間内という制限はあったものの
セルの登場により大幅にその制約が厳しくなってしまった。
セルが吸収するより先に人造人間を破壊することが前提となったのだ。

そんな折、ブルマから吉報がもたらされた。
ドクターゲロの研究所にあった資料を基に人造人間の緊急停止用コントローラーの完成に成功したのだという。
コントローラーはヤムチャによって届けられ悟空、天津飯、餃子、クリリンそしてピッコロの5人が人造人間破壊のため
破壊活動を行っている現場へと直行した。
今度こそ本当にヤムチャは来なかった・・・

人造人間を発見し、ひそかにその有効範囲へと近づくことに成功した一行であったが
クリリンが18号に情けをかけたために作戦は失敗してしまう。
そして、ゲロの目論見どおり悟空を殺すための乱戦が繰り広げられた。
修行の成果により何とか人造人間たちと対等の戦い意を演じることが出来るようになってはいたものの
スタミナに限界のない人造人間3人の前に決定的な攻撃を与えることが出来ずにいた
そして最悪のタイミングでセルが到着した。
悟空たちに集中していた17号を背後から吸収したセルは強大な力を得た。
そして、天津飯の新・気功砲の連射、16号の捨て身の突撃もセルを止めることはかなわず
ついにセルが完全体となってしまう・・・

完全体となったセルは戦士たちを弄ぶかのようにセルゲームを提案
一ヵ月後のセルゲームに向けて戦士たちは再び修行を始めた。
一方セルとの戦いで大破した16号はカプセルコーポレーションに運び込まれ
ブリーフ博士とブルマによる修繕を受けることとなった
そして、カプセルコーポレーションに運び込まれた彼はトランクスとの出会いを果たすこととなる・・・

第18話 虚栄の戦士

「ねぇ、パパもセルゲームに出場するの?」
これで何度目だろうか、セルがTV局に乱入しセルゲームを宣言してからというもの
少年たちの間ではセルを倒せるものはいるのかという話で持ちきりだった。
今や一種の都市伝説となったピッコロ大魔王を倒した少年、つまりは悟空のことだが、
彼らはその少年が再び、世界に平和を取り戻してくれることを望んでいた。
当然、トランクスも例外ではない。
だが決定的に違うのは彼だけはその少年の正体を知っていることだ。
そして、父はかつて天下一武道会でその悟空を打ち破ったことがあるという。
少年の心になぜ英雄が父ではなかったのかという疑問が頭をもたげていた。
いや、それは父は本当に強いのだろうかという疑問だったのかもしれない。

ブルマが昔話の代わりに聞かせる思い出話。そこには自分の友達が全く知らないような大冒険があった。
だが・・・と思う。
ドラゴンボールの力はサイバイマンにより殺されたトランクスを生き返らせたのを境に使われていない。
それも少年が物心つく前の話だ。当然、自分が死んだことなど覚えていようはずもない。
ヤムチャたちもそのことを忌避するかのように話すことはなかった。
ようやく、行われる予定だった天下一武道会も人造人間の一件で中止になってしまった。
トランクスは母の語る物語など全てでたらめではないのだろうかと思い出していた。
この一ヶ月ほどの間、悟空たちは人造人間と戦ってきた。
だが、父がその戦いに加わることはなかった。

そのたびにトランクスの父への不信感は募っていった。『臆病者』少年はヤムチャをそう思い始めていた。

臆病者、臆病者、臆病者・・・
何度頼んでもセルゲームに出場しないという父に心の中で愚痴をこぼしながらトランクスは歩いていた。
ふと、気づくと自分が研究棟に入り込んでしまっていることに気づいた。
カプセルコーポレーションは広い。その中には家族の住居や会議室、研究設備、研究者のための宿泊施設などが数多く存在する。
しかも、社長である祖父の意向により住居と研究施設は雑多といってもいいほどに入り混じっていた。
どうやら、頭がお留守になっていたようだ。
振り返って、自分の部屋に戻ろうとしたときトランクスの目にある部屋が飛び込んできた。
母に決して入ってはいけないと釘を刺された部屋、人造人間16号のいる部屋だ。

感情を持たない殺人鬼。トランクスは人造人間に対してそういったイメージを抱いていた。
このドアの向こう側にはその人造人間がいる・・・
考えただけで足が竦んだ。
だが、怯んではいけない。そう自分に言い聞かせるとトランクスはゆっくりと鍵穴から中の様子を伺った。
部屋の中はさまざまな機械で雑然としている。
その中央にはベッドが置かれていて誰かが横たわっている。あれが人造人間だろうか?
もっと注意して見てみる。顔までは判別できないが少なくともカプセルコーポレーションの社員に
あんな奇抜な髪形をしているものはいない。どうやら人造人間に間違いなさそうだ。

少年は辺りをうかがった。誰もいない。今なら自分が英雄になれる。
悟空たちですらかなわなかった人造人間を倒し、英雄になるのだと自分を鼓舞し、ゆっくりとドアを開けた。
あとは起こさないようにそっと近寄り、首を絞めるなりすればいい。
それで自分は英雄になれるのだ。

第19話 ドクターゲロの遺産

そっと、そっと人造人間に気づかれてはいけない。まず、この人造人間を殺す。そして、次はセルだ。
臆病者のパパには頼ってられない。俺が英雄になるんだ。
緊張と興奮で頭の中が真っ白になりそうだった。体中から滝のように汗が噴き出してくる。のどもカラカラだ。
もうすぐで人造人間のそばにつく。
あと三歩、あと二歩、あと一歩。
間近で見る人造人間は思っていたよりも大きかった。
だけどそんなことは関係ない。

ゆっくりと彼の眠るベッドに登るとトランクスはそっとその首に手をかけた。
人造人間の肌は予想に反して暖かく、そしてごつごつしてはいるが柔らかかった。まるで本当の人間みたいだ。
少し、また少し力を入れる。
しかし、所詮は子供である。太く力強い16号の首を閉めることなど出来ようはずもなかった。
そして、ふと16号の顔を覗き込んだトランクスの目が16号の視線とぶつかった。
「ひっ」
声にならない叫び声が漏れた。

人造人間である彼にとって眠りという行為は必要ない。
ただ、無駄にエネルギーを消費することを嫌い全ての運動機能を一時的に停止していただけだ。
トランクスがこの部屋に入ってきた時からすでに16号は気づいていた。
ブリーフ博士ともブルマとも違う足音。
だが、彼のセンサーが自分に危害を加えるほどの実力者ではないことを教えていた。
だからこそ、あえて、侵入者の好きにさせていたのだ。しかし、侵入者が自分に危害を加えようとしている。
これは決して看過できることではなかった。

16号と目が合った瞬間、トランクスはベッドから滑り落ちた。
その際に背中をしたたかに打ちつけたせいか、呼吸が出来なかった。
父に母に祖父に救いを求めようとしたが声にならない。
目の前では人造人間が今にも立ち上がろうとしていた。
(殺される・・・)
そして、再び16号の目がトランクスを捉えた。
その目はトランクスの知っているどんな人間とも違っていた。
いや、それは父・ヤムチャがふとした瞬間に見せる翳りのある目に少しだけ似ていた。

運動機能に異常がないことを確認すると16号はゆっくりと体を起こした。
どうやら破損した部位はほぼ以前の状態に戻っているようだ。
自分に危害を加えようとした侵入者の確認をする。
意外なことに年端のいかない子供だった。
ここに運び込まれてからこんな子供を見たことはなかった。研究者の家族だろうか。
どうやら怯えているようだ。
すでに目標に狙いを定めてある。あとは手を伸ばせば届く距離だ。

人造人間の手がこちらに向けられた。
依然、呼吸が出来ないまま、トランクスは間もなく訪れるであろう死の瞬間に恐怖していた。
涙がこぼれた。母の顔が、祖父の顔が、そして父の顔が走馬灯のように浮かんだ。
悟空さんたちはこんな怖い思いをしながら戦っていたんだ。
トランクスは今更ながら英雄になるということがどれほど困難であるかに気づいた。

16号は手を伸ばすと侵入者を担ぎ上げた。
どうやら呼吸器官に支障をきたしているようだ。
プログラムされている応急救護を実行すると侵入者は呼吸を再開した。
だが、まだ、泣きじゃくっている。
この侵入者に自分に危害を与えることは出来ないと断定した。
16号までの人造人間にはロボット3原則がプログラムされている。

第一条  ロボットは人間に危害を加えてはならない。また危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条  ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、第一条に反する場合はこのかぎりではない。
第三条  ロボットは第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。

この侵入者が自分に危害を加える恐れがないことを確認できた以上、排除する必要もない。
ただ、この侵入者の目的を聞きだし自分に危害が与えられることだけは避けなければならない。
だが、幾多の機能を実装した彼にも子供をあやす機能だけは備わっていなかったのだ。

第20話 新たなる戦士

16号の太い腕が自分を捉えた瞬間、トランクスは死を実感した。
だが、意外にも16号は自分を殺さなかった、むしろ呼吸が出来なくなった自分を助けてくれたのだ。
幼い少年は戸惑いを感じていた。
これが破壊活動を行っていた人造人間なのだろうかと。もしかすると自分は大きな勘違いをしていたのではないのかと。
その疑いを晴らすため、少年は16号に尋ねた。
「おじさんは人造人間じゃないの?」
「おれは人造人間16号、そう呼ばれていた。」
16号の答えの返答はそっけなかった。

「嘘だ!!だって人造人間は平気で人を殺すんだろ。」
子供の無邪気さか、大人ならば殺してくれといっているようなものだと気づくことを平気で言い放った。
一方の16号は返答に窮していた。この少年は17号と18号の行ってきた行為に自分も加担していたと思っているに違いない。
だが、自分は彼らの殺戮には加担してはいない。だが、見逃していた以上、同罪にあたるのだろうか。
16号の思考回路はその答えを求めた。だが、答えは出なかった。
いつまでも答えない16号に新たな質問を投げかけた。
「ねぇ、おじさんは悪い奴なの。」
またも難しい問題だ。悪とは何なのか?善とは何なのか?自分のデータによれば孫悟空が悪でありドクターゲロが善だ。
そう少年に答えた。

それからも少年は人造人間に質問を浴びせ続けた。
だが、その答えのどれもがあまりに抽象的なものだったため16号には答えることが出来なかった。
「もういい。」
そう言うと少年は部屋を出て行った。

それからも少年は何度も部屋を訪れた。
そのたびに自分を殺そうとする。
少年が入ってくることはいつも分かっていた。だが、16号はいつも彼の好きなようにさせていた。
もちろん少年に自分を殺すことは出来なかった。
彼が自分を殺そうとするのは彼らが会うための儀式だ。
そして、2人は悟空のこと、セルのこと、そして色々な話をした。
いつしかトランクスも16号に好意を抱くようになっていた。
そして或る日、彼は16号と会うための儀式をやめた。

「ねぇ、おじさん本当にセルゲームに出るの?」
「あぁ、奴をほうっておいては危険だ。」
「おじさん強いんだよね、セルなんかやっつけちゃうよね?」
「それは分からない、奴の力は未知数だ。」
「おれも戦いたい、おじさんたちみたいに強くなりたい。ねぇ、おじさんもいっぱい修行したの?」
「いや、おれは・・・おれには修行など必要なかった。」
「嘘だー、じゃぁ、はじめから強かったの?」
「おれは戦うために作られた。だから、修行など必要ない。」
『戦うために作られた』
幼いトランクスの胸にその言葉は魅力的に響いた。自分も戦うために生まれてくればよかったのにと。
そして、トランクスは取り返しのつかない選択をする。
「ねぇ、おれも人造人間になれば強くなれるの?」
「なりたいのか?」
「なりたい。強くなってセルをやっつけるんだ。」

16号は考えた。セルに対して自分が勝てる可能性は孫悟空たちの助けを借りるにしてもゼロに近いだろう。
もっと戦力がほしい。目の前にいるこの少年を改造すれば多少の戦力アップになる。
16号の決意は固まった。
ドクターゲロを人造人間に改造したのも実は彼だ。技術に関して問題はない。
問題は材料と設備だったが、ここはカプセルコーポレーションの研究棟だ。設備に満足こそすれ、不満はない。
そして、材料もセルとの戦いで大破した自分のスクラップがこの部屋にあるため事欠かなかった。

改造手術はブルマたちに気づかれないようにとのトランクスの願いでセルゲームの前日の夜に行われることになった。
強くなれる、トランクスの胸は興奮でいっぱいだった
それが悪魔の所業であることを幼い彼は知らない。
そして、ブルマもヤムチャもあずかり知らぬところで愛する息子は人にあらざるものへと変わろうとしていた。

そして、セルゲーム当日、そこには新たなる戦士の姿があった。

ダイジェスト(22話以降) 

他の戦士たちよりも早くセルゲームの舞台に到着したトランクスを煽るセル 
はやるトランクスを押さえ込む16号の元に天津飯、餃子がやってきた 
遅れてやってきた天津飯になぜここにいるのかと聞かれ、意気揚々と人造人間になったことを話すトランクス 
怒る天津飯と16号が一触即発の状態になったところで悟空が到着、そして、いつの間にかピッコロもいたことに驚く天津飯。 
そして、天津飯の怒りが収まらぬ中、クリリンが到着し、ついにセルゲームが始まる。 
一対一を望むセルに対し、悟空が名乗りを挙げた。 

その頃、カプセルコーポでは遅れて到着したTV局のカメラが映し出した光景 
というよりもトランクスがその場にいることに驚愕するブルマとヤムチャがいた。 
もう戦わない、そう心に誓ったヤムチャではあったが愛息・トランクスを二度と失うわけにはいかないとばかりに 
部屋に駆け上がると、封印していた胴着を取り出した。 
それは替えのきくものではない。かつて、天下一武道会に優勝したときに着ていたものだ。 

セルと悟空のあまりにハイレベルな戦いに唖然とするしかない一同。 
だが、冷静に戦況を分析している者もいた。16号とピッコロだ。 
そして、悟空に疲れが見えはじめた時、突然、16号がセルに襲い掛かる。 
舌打ちをして16号に続いたピッコロだったが、セルは二人の攻撃を難なくかわしてしまう。 
そして、天津飯、餃子、クリリンの3人も加わり戦況は混乱した。 
初めての戦いに困惑するトランクスはただ呆然とそれを見守ることしか出来なかった。 

戦況を打開するため初代ピッコロ大魔王の技・爆力魔波を放ち、距離を置いたセルは分身であるセルJr.を生み出す。 
悟空とトランクスを除く戦士たちの数に合わせて生み出されたセルJr.の猛攻の前にクリリンが餃子、そして天津飯が倒れてしまう。 
短い戦闘の間にフォーメーションを取り始めるピッコロと16号はなんとかその猛攻に耐えていたが、 
16号がピッコロにある提案をする。 

それはピッコロに時間を稼いでもらう間に彼がセルに取り付き自爆するというものだった。 
最後の望みを賭けた16号の特攻であったが、セルに胴体を分断され失敗に終わる。 
今まさに果てようとする16号の元に駆け寄るトランクス。 
ブルマに直してもらえば助かるというトランクスの言葉を拒否し、自分の胸をこじ開ける16号。 
そこには彼の心臓とも言うべきエネルギー炉が眠っていた。 
彼はトランクスにそれを委ね、セルを挑発した。トランクスがお前を倒すと・・・ 
その侮辱的な言葉煮に逆上したセルは16号を跡形もなく破壊する。 
16号の死に怒れるトランクスの姿が消えたかと思うと、セルが吹っ飛んでいた。 
セル相手に苦戦を強いられていた悟空も、セルJr.を相手していたピッコロたちもその光景に呆然とする。 

トランクスにはドクターゲロが開発中だった気の増幅装置が仕込まれていた。 
それはかつて鶴仙人と桃白白に搭載されるはずだったものだ。 
ドクターゲロの研究所からそれらの資料もともにカプセルコーポレーションに運び込まれていた。 
16号はわずかな希望を託し、この装置をトランクスの体に埋め込んだ。 
本来、気を使えないはずのトランクスには無用の長物と思われていたこの装置だったが、 
16号を破壊された怒りにより彼の中に眠るヤムチャの、狼の力が目覚めてしまったのだ。 
もちろんそれだけではない。16号が最後に託したエネルギー炉の出力もあいまって、少年は今や、 
地上最強の戦士になろうとしていた。 

トランクスの猛攻の前に次第にセルの形勢が悪くなる。 
親をかばうかのように集まってきたセルJr.はトランクスの相手にはならなかった。 
そして、セルの腹にトランクスの拳がめり込む。急に様子がおかしくなったセルの尻尾から18号が出てきた。 
同時にセルはかつて17号を吸収した時の姿に戻る。 
そして、トランクスのヘルズフラッシュがセルを襲う。その光の中、セルは空のかなたへと消え去った。 
トランクスが放った光の柱、それは戦い果てた16号への手向けだった 

勝利を確信し、喜びに沸く一同、しかし、悟空ははるか上空にセルの気配を感じる。 
とっさに全てのエネルギーを核の防御に当てたセルが再生したのだ。 
しかも、その姿は完全体のものである。悟空の遺伝子が皮肉にもセルの役に立ってしまったのだ。 
復活したセルに比べ、トランクスは所詮、子供であった。 
この後に及んで、先ほどまでの戦いが嘘のように失速してしまう。 
体力のなさ、そして、ムリな戦いのために16号が託したエネルギー炉も一時的な出力不足に追い込まれたのだ。 

一方、ヤムチャは戦いの舞台へあとわずかなところまで近づきつつあった。 
そのヤムチャの耳に凄まじい轟音が響いた。空を飛んでいたヤムチャは気づかなかったが、 
地響きを伴うその音は悟空たちの元にも達していた。 
戦闘の余波でビルが倒壊でも起こしたのだろうか、だが、それはセルゲームの戦闘の凄まじさを物語っていた。 
胸騒ぎを覚え、力の限りを振り絞りヤムチャは戦いの舞台へ向かう。 

じりじりとトランクスをなぶるセルに怒りを爆発させた悟空はセルに再び一騎打ちの勝負を挑む。 
すでにトランクスは敵ではないだろう 
セルにとってもその場にいる者たちの中で最も力のある悟空を殺すことは有益だった。 
誰も手出しをするなという悟空であったが、死の淵から蘇り、大幅に力を上げたセルにかなうはずもなく、遂に力尽き倒れてしまう。 
止めをさせ、そう叫ぶ悟空に自分の技で果てろと言い放つとセルはかめはめ波の構えを取った。 
そのセルを上空から気功波が襲った。ヤムチャが到着したのだ。 
だが、まるでセルにはダメージを与えることが出来ない。 
それでもあきらめずに攻撃を加えるヤムチャの姿は絶望しかけた戦士たちの心を揺さぶる。 
ヤムチャの元へ飛び上がるとそれぞれ力の限りを尽くした最後の一撃を放つ。 
その攻撃は戦士たちの心を表すかのように一つになりかめはめ波を放たんとするセルに直撃した。 
裁きの鉄槌が今まさに振り下ろされたのだ。 

耳をつんざくほどの爆音がとどろき、あたりは一面、砂塵に包まれた。 
徐々に砂塵が収まり、そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。 
しかし、誰もが絶望に打ちひしがれていた。セルの気はそれでもなお消えていなかったからだ。 
クレーターの中心に禍々しい赤いバリアーをまとったセルが立っていた。 

悟空は死を覚悟した。ドラゴンボールで生き返ることもないだろうが、驚いたことに恐怖は感じなかった。 
むしろ、最後に自分よりも強い相手と戦えたことに満足感を感じていたのだ。 
そして、ゆっくりと目を閉じるとセルの一撃を待った。 
しかし、予想していた衝撃は来ない。弄ばれているのかと思い怒りに目を見開き、声を荒げようとする悟空。 
だが、その眼前にはセルが何者かに体を貫かれた光景が広がっていた。 

(第5部 完)