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アナザードラゴンボール
〜ヤムチャがブルマと結婚してたら〜


アナザードラゴンボール 〜ヤムチャがブルマと結婚してたら〜 プロローグ


真っ白な壁に青い屋根の教会。その中から二人の男女が出てきた。
男は女を抱きかかえ、ゆっくりと白い階段を下りてゆく。
そう、今日は結婚式。この大地に新しい夫婦が生まれた日だ。
「二人ともお幸せにー!」
「たまにはカメハウスに遊びに来てくださいよー!」
仲間たちが、彼らを祝福する。新郎は、少し照れたような表情を見せた。
新郎は高級そうなタキシードを着ており、それに見合った容姿を持つ
黒髪をした色男だ。
新婦は白鳥の羽のように白いウエディングドレスを着て、輝くような水色の髪を
光らせる、ショートヘアーの美しい女性だ。
二人は、お互い似合わない格好を見て顔を見合わせ、クスリと笑った。
新婦の家の居候のベジータは、どうやら来てないみたいだ。
階段の先には新婦の父親が、ホイポイカプセルを新郎に手渡した。
「わがままな娘だけど、よろしく頼むよ。」
それを聞くと新郎は深々と頭を下げ、受け取ったカプセルを力強く握り締めた。
道路にカプセルを放り投げ、中から出てきたスカイカーに乗り込む二人。
周りも、二人を温かく見守っている。
「それじゃ行こうか、ブルマ。」
「ええ、行きましょう、ヤムチャ。」
ヤムチャと呼ばれた新郎がアクセルを踏むと二人の乗ったスカイカーは空中を走り出し
すぐに地平線のかなたへ飛び去ってしまった……。

あれから、十数年の月日がたった……。地球はかつての極悪組織・レッドリボン軍の
生み出した人造人間の手によりメチャクチャに破壊され、街には荒れ果てた町並みや
建物の破片が散乱しガレキの山が立ち並んでいた。
勇敢な戦士たちも人造人間の手にかけられ死んでしまい、人造人間に立ち向かう者は
誰ひとりとしていなくなった。
人造人間は恐怖と、全てを焼き尽くす燃え盛る炎で、人々の心を苦しめていた………。


アナザードラゴンボール 〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の一

ヤムチャとブルマの愛の結晶、トランクスが生まれて早14年…。
世界はまさに地獄と化していた。

今から約十数年前…。
今思えば、あの孫悟空が病で倒れたのが悲劇の始まりだった。
悟空がかかった病気はウイルス性の心臓病で、おそらく修行中に
感染してしまったのだろう。その病気は不治の病として恐れられており、その時は
特効薬など存在せず、世界一の超戦士も病気には勝てずに、そのまま帰らぬ人と
なってしまったのだ。悟飯たちはドラゴンボールを探し回り、やっとの事で
7つ全てを見つけ、シェンロンに孫悟空を生き返らせてほしいと頼んだのだが
自然死や病気で死んだ者は生き返らせることができないと言われ、孫悟空は
仲間たちに惜しまれながら手厚く葬られた…。

悟空が死んでから数年もしないうちに事件は起こった。
なんと、ピッコロ大魔王やフリーザを超える新たなる強敵が現れたのだ。

その名は人造人間19号と20号(正式には17号と18号)。
機械の身体を持った奴らは、気を持っておらず、永遠に尽きることのない
スタミナを持っていた。その悪魔を作り出したのは、かつて、あの孫悟空に
壊滅させられた悪の組織・レッドリボン軍の残党で、狂人的科学者の
ドクター・ゲロが作り出した、史上最悪の殺戮兵器だ。二人の人造人間は驚異的な
力を持っており天津飯はおろか、べジータやピッコロも相手にならず、一人を除き
Z戦士は皆、人造人間の手にかかり殺されてしまったのだ。しかも、
人造人間たちは邪魔になったからと言って、自分たちの生みの親の
ドクター・ゲロをも殺し、もはや誰にも手がつけられなくなった。
不運にもピッコロが死んだ事により共同体の神様も死んでしまい、
頼みの綱のドラゴンボールもただの石コロに変わってしまったのだった…。

今、この世に生き残っている戦士は、ヤムチャの息子でヤムチャに似て
美しい黒髪をした少年、トランクス。伝説の超戦士・孫悟空の一人息子の孫悟飯。
そして、息子が生まれたので戦線を退いて助かった、この世で最後の
Z戦士・ヤムチャ。
この3人だけが、人造人間から世界を救う最後の希望であった……。


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜其の2〜


「駄目だ駄々だ!まだまだ技のキレが甘いぞ!」
青年が放ったすさまじい掌底が少年の腹に命中し、勢い良く弾き飛ばされる。
「くそっ、もう一回だ、悟飯さん!」
少年は素早く起き上がると、思いきり大地を蹴り悟飯と呼ばれた青年に飛び掛った。
町外れの小高い丘…そこが、彼らの修行の場だった。この時代
トレーニングマシン等は人造人間に破壊されてしまい、存在しなかったのだ。
彼らはいつもこの丘で二人そろって、厳しい修行を続けていた。
「ふう、そろそろ一休みしよう、トランクス。」
そう言うと、悟飯は近くにあった切り株に腰掛けると、持ってきていた弁当に
手を伸ばした。その近くに、少年が草の上にごろんと寝っ転がる。
少年の名はトランクス。美しく長い黒髪を光らせる13,4歳の美少年だ。
まだまだ技や体力は未熟だが、内に秘める潜在能力は計り知れない。
その横で昼食をとっている青年は孫悟飯。超戦士・孫悟空の一人息子で
この世に残った最後のサイヤ人だ。心優しい性格でいつか、人造人間を倒し
学者になりたいというのが彼の夢だ。悟飯の片腕は数年前に人造人間にやられ
失ってしまっていた。昼食をとり終えた悟飯はフォークと弁当箱を切り株の上に置き
大きく伸びをした。
「さあ、もう一回だ、トランクス!」
悟飯とトランクスが、立ち上がりもう一度組み手を始めようとした時だった。
突然、空から一人の男が降りてきたのだ。あわてて、そちらを向く二人。
そこに立っていたのは…
「パ…パパッ!」
そう、降りてきたのは、あのヤムチャだったのだ。
「よう、ちゃんと修行してるか?心配になって文字通り、飛んできちゃったぜ。」
そういうとヤムチャは二カッと白い歯を見せて笑った。
彼の名はヤムチャ。トランクスの父親で地球最後のZ戦士だ。戦線を退いたものの
その戦闘力と甘いマスクはいまだ健在で、若いやつらにも引けはとらないほどだ。
「こんにちは、ヤムチャさん。相変わらずお元気そうで。」
悟飯がヤムチャに近づき、軽くおじぎをした。
「おう、悟飯。その亀仙流の道着、よく似合ってるぞ。死んだ悟空を思い出すぜ。」

悟飯は、恥ずかしそうに頭をかいた。
「ははは、まだまだ、お父さんには近づけそうも無いみたいですけどね…。」
横で話を聞いていたトランクスがヤムチャの目の前に立った。
「パパ、俺、もう人造人間を倒せると思うんだ!確かに一人では無理かも知れないけど
悟飯さんと一緒にやればきっと倒せる気がするんだ!」
トランクスは力強いまなざしをヤムチャに浴びせた。悟飯も同じようにヤムチャを
見る。しばらく、押し黙っていたヤムチャだが、ゆっくりと口を開いた。

「甘ったれるな!おまえらが思っているほど奴等は甘くはないぞ!数年前
瀕死の状態で逃げ帰ってきたことをもう、忘れたのか!?」
ヤムチャの檄が飛び、二人をすくみあがらせた。
「何でだよ!?僕らはもう何年も修行したんだ。絶対に勝てるよ!」
「そうですよ。僕らに行かせてください!」
二人の言葉にヤムチャは聞く耳を持とうとしない。
ぎゃあぎゃあとわめいていたトランクスだが、あるとき悟飯が、ボソッとある言葉を
発した。
「じゃあ、僕らがあなたを倒すことができれば、行くことを許してもらえますね…?」
ヤムチャの眉がぴくりと動いた。トランクスも驚きを隠せない。
「そ…そうだよ!そんなに僕らを止めたいなら力ずくで止めてみなよ!」
意を決してトランクスも叫んだ。しばらくすると、ヤムチャは組んでいた腕を解いた。
「いいだろう。どうせ俺を倒せなければ人造人間など倒せないしな。」
着ていたジャンパーを脱ぎ捨てるヤムチャ。悟飯もスーパーサイヤ人になり
トランクスも気を開放した。危険を察知した鳥たちが一斉に飛び去る。
ヤムチャはポキポキと指を鳴らせ、構えを取った。それはあの亀仙流の構えだった。
「二人がかりでもかまわないぞ。俺を倒すことができれば人造人間との戦いを許して
やろう…。さあ、かかってきな!!」


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の3


じりじりと間合いを詰める悟飯とトランクス。二人はお互いの直線上に立ち、
ヤムチャの様子をうかがっていた。かつてZ戦士の一人だった男も
年をとった事と、二人に一斉にかかられては、勝ち目が無いだろうと踏んだ
結果だった。ヤムチャはいつのまにか先ほどのように眼をつぶり腕を組んでいた。
「僕たちのことをなめてるな…!」
トランクスが、さらに気を開放すると小さな竜巻の様な風が巻き起こった。
風圧で木の葉が空高く舞い上がり、悟飯の弁当箱が切り株から転げ落ちた。
それでもヤムチャは動こうとしない。もはや気を感じることもできなくなったのか、
それとも、絶対的な自信のせいか…。しばらくの間、ヤムチャをにらみつけていた
二人だったが、ついに悟飯が勝負に出た。

悟飯は大きく飛び上がり、ヤムチャに向かって跳び蹴りを放ったのだ。
ものすごい速さの蹴りは空気を切り裂き、音を上げた。
―よし、もうよけられない…!僕らの勝ちだ―
悟飯の頭には蹴りが炸裂し、大きく吹き飛び、地面に叩きつけられるヤムチャの
姿が浮かんだ。

……ところがだ。

「ガ シ ィ ッ !」

鈍い音が響く。しかし、なぜか、トランクスも悟飯も驚きを隠せない。
それもそのはず。
なんと、炸裂するはずの蹴りはヤムチャに受け止められてしまったのだ。
この距離からこの攻撃を受け止めた…!?
あっけにとられた悟飯は受け身を取りそこね、背中から地面に
叩きつけられた。すぐさま起き上がり、間合いを取りヤムチャを見る悟飯。
そこでヤムチャを見た悟飯とトランクスは目を丸くして驚いた。
なんと、ヤムチャの身体から赤い闘気の様なものが絶え間なく
湧き上がっていたのだ。それはスーパーサイヤ人のように金色に光っては
おらず、また、普通の気を溜める様子とも違った。トランクスはそれが
なんだか分からず、ただ驚くばかりだった。しかし悟飯には
それに見覚えがあった。
「界 王 拳 … !」
そう、あの孫悟空も昔使っていた技。身体中の全ての気をコントロールし
一時的に戦闘力や防御力、スピードを高めることができる、界王様直伝の
必殺技だ。「界王拳はスーパーサイヤ人とは違い、何倍も引き上げることが
できる。まあ、俺はせいぜい、5,6倍くらいまでしか上げられないけどな。
ただ、俺の身体が持たないから短時間で勝負をつけなきゃいけない。
この勝負…悪いが勝たせてもらうぜ!」


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜其の4〜


「悪いが、手加減はできねえ。あとで泣いたって知らねえぞ!」
赤い光に包まれたヤムチャが地を蹴り、ものすごい速さで向かってくる!
悟飯はあわてて構えを取り、攻撃に備えた。
……早い!ボクと同等か、それ以上…!
ヤムチャのスピードに一瞬ひるむ悟飯。気がつくとヤムチャの足が
目の前に飛び込んできていた。
「くッ…!」
あわてて腕で防御するが、ヤムチャの重い蹴りで悟飯の身体が浮かび上がる。
踏ん張りきれず、そのまま蹴り飛ばされてしまい、悟飯はものすごい勢いで
岩壁に叩きつけられてしまった。その上に岩がいくつもいくつも落ちてくる。
「ご…悟飯さーん!う…うわああああーーッ!!」
トランクスは意を決して、ヤムチャに向かって飛びかかった。
スピードをいかした蹴りとパンチの連続。しかし、その攻撃はヤムチャに軽々と
弾かれてしまう。チッと舌打ちをしてヤムチャの一瞬のスキを突き
空高く蹴り上げる。すかさず、両手をひたいの上に置き、気を
練り上げる。今の攻撃のダメージはほとんど無いだろうが、これを当てれば
無事ではすむまい。ありったけの気を両手に込める。
「く…喰らえ!魔閃光ーッ!」
トランクスの両手から放たれた強力なエネルギー波がヤムチャに襲い掛かる。
ヤムチャは空中で身をひるがえし、かめはめ波の構えを取った。
「か … め … は … め …」
ヤムチャが気を溜めている間にも魔閃光はどんどん近づいてくる。
それでもヤムチャは動揺した表情を見せない。そして、にやりと笑うヤムチャ。

「波ーーーーーーッ!

ヤムチャの凝縮された気が、巨大な光の柱となって噴き出した。
でかい!魔閃光の2倍はある!空中で激しくぶつかり合う二つの光。
すさまじい風圧が辺りを襲う。押されているのはトランクスだ。
修行はしても、まだ子供。やはり決定的なパワーに欠けるのだ。
次第に体力を奪われ魔閃光がトランクスに近づいてゆく…。
「く…くそおっ!」
魔閃光の軌道を変え、ヤムチャのかめはめ波を別方向にそらす。
それた、かめはめ波は西の空のはるか彼方へ消えていった…。
安心したのも束の間、さらにヤムチャが疲れて動けないトランクスに
向かってエネルギー波を放とうとしたのだ。
ヤムチャの手に強力な気が集まってゆく…。

ズドォォン!!

大きな爆発が起こる。しかし、その爆発音がしたのは空からだった。
どこからともなく飛んできたエネルギー波がヤムチャに命中したのだ。
油断していたヤムチャはそのまま地面に叩きつけられ、砂ぼこりが舞った。
一体誰が…?
「大丈夫か、トランクス!?」
悟飯が、トランクスに駆け寄る。そう、先ほどのエネルギー波を撃ったのは
悟飯だったのだ。安堵のため息を吐くトランクス。
「驚いた…。ヤムチャさんがあんなに強かったなんて…。」
悟飯の額から汗が一筋流れる。さきほどの攻撃を受けて服はぼろぼろだ。
腕は、ヤムチャの強烈な蹴りで折れてしまったようで使い物にならない。
「気をつけろ、トランクス。あんな攻撃で倒せるとは思わない…。」
普段、冷静な悟飯が動揺している。案の定、砂ぼこりの中から人影が現れた。
ヤムチャだ。口から血が流れている。血を指でぬぐうと口を開いた。
「今のは…痛かった…。」
「痛かったぞーーーーッ!!!」
恐ろしいほどの叫び声で大地が震え上がる。空気もビリビリと悲鳴を上げる。
そう、ヤムチャの眼が再び狼の姿を映し出した瞬間だった……!

アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の五


「おッ!気がついたか。」
トランクスが目を覚ますと、目の前にヤムチャの顔が飛び込んできた。
周りを見渡すと空はすでに暗く、美しく輝く星々がきらめいていた。
「本当に悪かった!大人気なく切れちまって…。あまりにも痛かったんで、
封印したはずの狼牙風風拳まで使っちまってさ。」
先ほどまであったはずの青々とした木や固そうな岩壁など、美しい風景は
どこにも無かった。木は根こそぎ倒れ、岩壁はもろくも崩れ去り、あちこちに
大小さまざまな岩の破片が転がっていた。地面の草はちりちりに焦げており
トランクスの周りには荒野だけが広がっていた…。
「……こ れ が  狼 牙 風 風 拳 の 力 … 。 」
トランクスは背筋が凍りつく感覚を覚えた。あの優しくて、温かくて、どこか
ドジな父がこんなすごい力を持っていたなんて…。
「悟飯はおまえより数時間前に目が覚めて先に帰ったぞ。おまえよりずっと
ひどい怪我だったのにな…。修行、ありがとうございましたって言ってたな。」
トランクスはヤムチャの雄叫びを聞いてからの記憶が途切れていた。
突然、狼の叫び声が聞こえたかと思うと、目の前が真っ白になったのだ。
「さあ、ブルマが心配している。早く帰るぞ。」
ヤムチャが立ち上がり、歩き始めた。あわてて起き上がろうとするが
足の感覚が無い。折れてはいないみたいだが、なぜか足がまったく動かない。
そればかりか、身体中どこも動かせない。腕も、指も、膝もいうことを
聞かないのだ。困っているトランクスにヤムチャが気がついた。
「しょうがねえなあ。」

ヤムチャがひょいと、トランクスを背負う。恥ずかしいので暴れて
おりようとするがやはり、身体は動かない。トランクスを背負った
ヤムチャは、山道をゆっくりゆっくり下り始めた。
「お!結構重くなったなあ、トランクス!背も伸びてきたし
いつか悟飯を追い抜いちまうんじゃないか?」
そんなたわいの無い会話が数分続く。ふと、二人の間に沈黙ができた。
そのまま、しばらく歩いていたヤムチャだったが、口を開いた。
「なあ、トランクス。俺、おまえ等を縛りつけすぎてたかなあ…?
さっきおまえが人造人間と戦いたいと言い出したときは本当に驚いたよ。
けど、悟飯とおまえは最後の希望だ。おまえ等を死なせるわけには
いかなかったんだ。今までみたいに「また生き返らせればいいや」なんて
甘い考えができなくなったんだよな。ドラゴンボールが無くなって
命の大切さがやっと、分かってきた気がするよ。」
トランクスは背中の上で、黙ってヤムチャの話を聞いていた。
「けど、おまえ等にも考えがあって言ったことなんだよな。
死ぬかもしれないという俺でも怖くなるような覚悟を決めて
散っていった戦士たちや人々の仇を討とうって考えてくれてたんだよな。
それを力ずくで止めるようなことをして…。本当に悪かったな………。」
寂しげな父の背中と言葉を聞いたトランクスは涙がこぼれそうになった。
必死に歯を食いしばり、手に力を入れて、絶対に泣くまいと踏ん張っていた。
長い長い沈黙が続いた。トランクスはその間、背中の上でずっと
歯を食いしばっていた。

歩いてるうちにやっと我が家が見えてきた。トランクスは、ほっとした。
もしも、あと一言なにか言われていたら涙が溢れ出しそうだったからだ。

「ただいまー!」
ヤムチャが勢いよくドアを開けた。

「  こ ん な 時 間 ま で 一 体 何 を 
や っ て た の よ ー ッ ! ! ! 」

鼓膜が破れんばかりの声が、二人の耳を貫いていった。
思わず、トランクスを落としそうになるヤムチャ。
そこには、鬼のような形相をしたブルマが立っていた。テーブルの上には
ひんやりと冷めたスープとローストビーフが乗っていた。
「あ…その…なんていうか…えっと……」
ヤムチャは急にまごつき、大量の冷や汗をかき始めた。トランクスは
さっと、ヤムチャの影に隠れた。

ブルマのすさまじい速度のビンタがヤムチャの頬に炸裂した。
乾いた音が家中に響く。そのまま、玄関から外まで吹き飛んでいく
ヤムチャとトランクス。受け身を取りそこね、思いっきり地面に
叩きつけられ大きくバウンドする。勢いよくドアが閉められた。
ガチャリと鍵を閉められる音もした。
「お〜い!俺が悪かったよ!寒いから入れてくれよ〜!」
必死にドアを叩き、ブルマに懇願するヤムチャ。その横で
トランクスがあっけにとられた顔をしている。あの悟飯をも倒した勇敢な
戦士が、今は必死に謝りながら半泣きでドアを叩いている。
トランクスの笑い声が辺り一面に響く。

「いつまでもこんな時間が過ぎればいいな…。」

そんなことをふと思うトランクスであった………。


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜其の6〜


事件は起こった。西の都…つまりトランクスたちの住んでいるところに人造人間が
向かっているのだ。ヤムチャ、悟飯、そしてトランクスはいつもの小高い丘に
集まった。「こうしてる間にも人造人間がどんどん近づいてくる…!
迷うことは無い!早く行きましょう、ヤムチャさん!」
悟飯がヤムチャも一緒に来てくれるよう促した。
「分かってる…。だが、トランクス。オマエは駄目だ。」
突然の爆弾発言に3人の間に戦慄が走る。トランクス本人はおろか
悟飯も驚きを隠せない。
「悪いがオマエじゃ、足手まといになるだけだ。ここに残れ!」
戦力外を通告されたトランクスだったが、簡単には引き下がらなかった。
「イヤだ!この日のために修行したんだ!パパたちに絶対迷惑はかけない!
だから一緒に行かせて!…ねえ、悟飯さんも何か言ってよ!」
トランクスの必死の懇願にもヤムチャは動じない。いつもなら必死にトランクスを
かばうはずの悟飯も今回だけは何も言えなかった。
「トランクス…もしも、この中の誰かが死んでしまったらどうする?
確かに、もしかしたら誰一人死なずに済むかもしれない。しかし、それよりも
誰かが死ぬ確率のほうが高いはずだ。その時、真っ先に死ぬのは
戦闘経験の少ないトランクス……おまえだ!」
返す言葉も出ないトランクス。しかし、肝心な時に自分が動けないほど辛いことは
無い。トランクスは手に力を込め、必死に涙が流れるのをこらえている。
「なあ、トランクス。駄目なパパの最後のわがまま…聞いてくれないか?」
ヤムチャが、トランクスの肩に手を当てて、静かに言い聞かせる。
トランクスの目には溢れんばかりの涙が溜まってきていた。
悟飯は二人に背を向けて複雑な思いで、少し離れたところに立っている。

「うん…分かったよ。」

静かにトランクスがかすれた声で呟いた。
「……そうか…分かってくれてありがとうな、トランクス…。」
ヤムチャがいつもの優しそうな笑顔でトランクスに笑いかけた。
「もしかしたら、おまえに会うのがこれで最後になるかもしれない。
トランクス…最後に一回だけ抱かせてくれ。」
そう言うと、ヤムチャは静かに、そして力強くトランクスを抱きしめた。
トランクスは溜まっていた涙を抑えることができなかった。
そのまま、トランクスは声を上げて泣いた。しばらく、抱きしめていた
ヤムチャが、トランクスの耳元で何かを呟いた。

「ママを大切にしろよ。」
「え…?」

突然、ヤムチャの手刀がトランクスの首を打ちつけた。激痛の後に
次第に意識が遠くなる…。トランクスはその場に倒れこんだ。
死んではいない。気絶しただけだ。
「そこまでやらなくてもよかったんじゃないですか…?」
悟飯が振り向き、近づいてくる。ヤムチャは着ていた
カプセルコーポレーションの社員用ジャンバーを、倒れているトランクスに
かけてやった。
「ああ…しかし、こいつは俺の子だ。そうは言っても隠れて付いてきて
しまうだろう。もう、決めたことだ…。行こう、悟飯。」
二人ははるか彼方に飛び去っていった。一人の少年を残して………。


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の7


ヤムチャと悟飯は全速力で人造人間の下に向かっていた。驚くことに、
ヤムチャのスピードはあの悟飯でもやっと付いていけるほどのスピードだった。
そんなスピードで飛んでいたので、あっという間に人造人間を発見した。
人造人間たちは、街を襲っている最中のようで、こちらに気がつかない。
男性型人造人間の20号は、四方八方にエネルギー波を放ち、街を破壊しており
その横で女性型人造人間の20号は19号をあきれた目で見ていた。
「やめろよ、17号(19号)。ここはもう、ろくな人間が残っちゃないよ。」
その言葉を聞いた19号は、額の汗を拭いながら言葉を返した。
「もっとジックリやろうぜ。あっさり全滅させちまったんじゃ、オレたちの
楽しみはなくなってしまうんだぞ。」
20号はふてくされた顔で、19号を見ていた。

ド カ ッ ! !

突然、ヤムチャの放った跳び蹴りが19号の後頭部を直撃し、蹴り飛ばした。
19号は受け身を取りそこね、そのまま、瓦礫の中に頭から突っ込んでいった。
空から、悟飯もゆっくりと降りてくる。その瞳は怒りに燃えていた。
瓦礫の中から、19号が立ち上がり、ヤムチャをにらみつけた。今の攻撃で、服は
ところどころ破けオレンジ色のバンダナはボロボロになっていた。
「この服装は気に入ってるんだ。ボロボロにされちゃムッとくるな。
それにしても本当に久しぶりだな、ヤムチャ。一年ぶりくらいか?
あれだけやられて、しかも孫悟飯まで抱えてよく生きて逃げられたもんだ…。」
ヤムチャの頭に数年前の出来事がよみがえる。あれは、忘れもしない1年前…。
人造人間にやられ、ボロボロになった悟飯を救ったのは、他でもないヤムチャだったのだ。
悟飯がヤムチャの前に歩いてきて、気を開放した。
「今度はやられないよう修行した…やられるのはきさまたちの番だ!」
「オレたちの番?」
その言葉を聞いて人造人間たちが、不気味な沈黙を作る。その後、19号の
忍び笑いが沈黙を切り裂いた。

「…ふっふっふ…ガッカリさせて悪いが……この前の闘いでは半分のパワーも使っては
いなかったんだぞ。」
「な……なに…!?」
さすがに驚きを隠せない悟飯。20号も、クスリと小さな笑いをこぼす。
「こんどは逃がしはしない…殺す!」
19号が構え、悟飯に向かって飛び込もうとした刹那、ヤムチャが口を開いた。
「ほう…奇遇だな。」
「なんだと?」
19号が、ヤムチャの方を向き、鋭い目でにらみつけた。
「俺も、この前の闘いでは4分の1もパワーを出していなかったんだよ。狼牙風風拳は
おろか、界王拳さえ使わなかっただろう?あれは、ブランクではなく、悟飯を
巻き添えにするわけにはいかなかったから使わなかっただけなんだよ。」
ヤムチャの爆弾発言で場の空気が一瞬で張り詰める。悟飯も驚きを隠せず、
ヤムチャを不安そうにみつめていた。そこを20号が割って入った。
「ハ…ハッタリだよ、19号!それならその力、見せてもらおうじゃないか!」
20号の言葉に落ち着きを取り戻す19号。ヤムチャは、面倒臭そうな顔をして
狼牙風風拳の構えに入った。
「う…!」
思わず、19号が声を漏らす。それもそのはず、ヤムチャの身体から恐ろしいほどの
闘気がわきあがっているのが見えたからだ。身体は機械でも、
身体のどこかに残っている動物的な本能がヤムチャは危険だと、知らせているのだろう。
「さあ、覚悟はいいか…?いくぞ!人造人間!!」


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の8


「 喰 ら え ! ! 新 ・ 狼 牙 風 風 拳  ! ! 」

叫ぶと同時にヤムチャがさらに大きな気を放出した。気の風圧で建物の瓦礫は吹き飛び
ひっくり返った自動車が宙を舞った。バリアーを張り損ねた人造人間二人はもろに
吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。あわてて起き上がるものの、先ほどの場所に
ヤムチャの姿は無かった。
「ちくしょう!どこだ!どこにいる!?」
19号が恐怖に引きつった顔で叫んだ。辺りをいくら見回してもヤムチャらしき
人影はどこにも無い。しばらく辺りの様子をうかがっていた人造人間だったが
ふと、ヤムチャの立っていた所を見ると、地面に焦げたような跡があるのに気がついた。

そのときだった。

突然、火柱がたち上がり、地面を這うように超スピードで人造人間の方へ
近づいていったのだ。あわてて飛び上がり、地面から離れる19号だったが
20号はあっけに取られて動けないでいた。
「18号!危ない!!」
「え?」

「 グ シ ャ ッ! 」

何かが潰れるような嫌な音が辺りに響く。
同時に20号の身体が宙を舞い、きりもみをしながら勢いよく地面に叩きつけられた。
29号はあわてて起き上がり、自分の身体の様子を見るとわき腹の辺りに
異変が起こっていることに気がついた。


「 あ あ あ あ あ ! ! ! 私 の 身 体 が ア ア ! ! 」

なんと、20号のわき腹辺りにコブシ大ほどの大きな風穴が開いていたのだ。
その風穴からは赤や青の機械のコードや電子部品が顔を覗かせている。
その傷跡は切り裂いたような跡ではなく、何かでえぐり取った、握り潰したような
跡であった。絶叫を上げ、のた打ち回る20号を見て、19号は唖然とした表情を
浮かべていた。すると、19号の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「人造人間には痛覚は無いはずだろう?そこまで痛がる必要は無いんじゃないか?」
その声はあのヤムチャの声だった。
「キサ…!」
振り返りヤムチャを見る19号だったが、ヤムチャの様子に言葉を失った。

「な…なんだ!?その炎は!!」

驚いて当然。なんと、ヤムチャの身体を燃え盛る真っ赤な炎が包んでいたのだ。
「新・狼牙風風拳は光よりも速く動く高速拳だ。界王拳と俺の脚力を持ってすれば
光よりも速く動く事だって出来る。そのため、空気摩擦で身体に火がついてしまうんだよ。」
ヤムチャは気でまとわりつく炎を吹き飛ばした。火の粉が辺りに飛び散る。
「貴様!あ…熱くはないのか!?」
「そりゃ熱いさ。常人だったら数秒で灰になってるほどの熱さだ。」
落ち着いた様子で言葉を返すヤムチャ。
「狼牙風風拳の真髄は狼の強靭な脚力、そして、その牙にありだ。
牙とは拳、握力のこと。いかなるものも喰いちぎる狼の最大の武器だ。」
そういうと、ヤムチャは近くに転がっていたコンクリートの瓦礫を拾い上げると
素手で粉々に握り潰してみせた。
「な?これが狼牙風風拳の力だ。」
ヤムチャは19号ににこっと笑ってみせた。


アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の9


「ちぃッ!バ…化け物め!!」
「おいおい、人造人間には言われたくないなあ。」
ヤムチャは苦笑いを浮かべながら答えた。
ヤムチャが握り潰した瓦礫の破片はすでに粉のように細かくなり、風が吹くと同時に空に舞い上がった。
「さあ!そろそろ、覚悟を決めてもらおうか!」
ヤムチャが吼え、19号に突進する。
「く…ほざけ!」
19号は掌にエネルギーを集め、勢いよく放った。
…が、すでにヤムチャの姿は無く、
エネルギー波はそのまま直進しヤムチャが立っていた場所の後方の瓦礫に命中し爆発を上げたのみだった。
「こっちだよ。」

不意に、背後からヤムチャの声が聞こえ、背筋が凍りついた。
振り返るよりも早くヤムチャの凄まじい勢いのパンチが19号の頬を捉え、弾き飛ばした。
殴り飛ばされた19号は頭を地面に打ちつけ、ものすごいスピードで瓦礫の山に突っ込んだ。
瓦礫の山はガラガラと音をたてて崩れ、辺りに破片が飛び散った。
「す…すごい…ヤムチャさんがこんなに強かったなんて…。」
悟飯が唖然とした表情でヤムチャを見つめる。
「どうした、人造人間?今のでも十分、加減してやったんだぜ?」
ヤムチャが微笑しながら皮肉交じりの言葉を浴びせる。しばらくして、19号が瓦礫から這い出てきた。
「ゲホゲホッ!き…貴様…!もうゆるさねえ!!」
怒りと憎しみに満ちた目でにらみつける19号。
「それはこっちのセリフだ。散っていった仲間たちの恨み…その身で味わうがいい!」
ヤムチャを中心に突風が吹き荒れる。ヤムチャの気が風を起こしているのだ。

「 新 ・ 狼 牙 風 風 拳 ! ! 」

ヤムチャの身体を真っ赤に燃える炎が包む。
それと同時に19号の目の前にヤムチャの姿が飛び込んできた。
―速い!!
すかさず、ヤムチャの掌底を両腕で防御する19号。
しかし、凄まじい衝撃に耐え切れなくなった19号の腕は、乾いた音と共にはるか上空へ弾け飛んだ。
突然、肘から上を無くし、思わず驚きの声を漏らす19号。


しかし、ヤムチャはその隙を見逃さなかった。
すかさず、ヤムチャは凄まじいスピードで回し蹴りを放った。
間一髪、身をひねらせて避ける19号だったが、回し蹴りの風圧が胸を切り裂いた。
思わず体勢を崩してしまった19号にすかさずヤムチャが襲い掛かった。
「これが…クリリンの分!」
鋭いキックと超高速のパンチが19号に襲い掛かる。
「ピッコロの分!」
ヤムチャの放った膝蹴りが炸裂すると、吹き飛ばされる19号を素早く追いかけ、先回りするヤムチャ。
「そして、天津飯の分!」
鋭いアッパーを19号の背中に叩き込み、今度は空高く舞い上がらせる。
すかさず猛スピードで飛び上がり、空中で先回りするヤムチャ。
「えーっと…ギョウザ?の分!」
ヤムチャのハンマーパンチが炸裂し、19号を勢いよく地面に叩きつける。
バウンドした19号に空中からヤムチャが襲い掛かる。
「そしてこれが世界中の人々の分だ!」
はるか上空からヤムチャが19号に次々にエネルギー弾を放つ。
エネルギー弾が地表に激突すると同時に巨大な爆発が起こり、あたり一面を吹き飛ばした。

土煙が治まると、ヤムチャはゆっくりと降りてきて辺りを見回すと、
少し離れたところに下半身が無くなり、上半身だけの19号が横たわっているのを見つけた。
まだ息がある…というのはおかしいが、生きてはいるようだ。
「バリアーを張り、ダメージを最小限に抑えたか…。」
そういうとヤムチャは19号の髪を掴んで持ち上げた。19号の顔に掌を向け、凄まじい気を集めた。
「これで終わりだ…!喰らえ!!」

「それはどうかな!」
「何!?」
19号の身体から怪しい光が放たれた…!!

アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 其の十

「う…うう…」
野原の上に誰か倒れている…トランクスだ。
頭を抑えながらゆっくりと起き上がると、
ふとトランクスは自分にカプセルコーポレーション社員用のジャケットがかけてあることに気がついた。
「これは、パパのジャケット…そうだ、パパたちは!?」
慌てて周りを見渡すトランクス。しかし、もちろんそこにヤムチャや悟飯の姿は無い。
それもそのはず。トランクスはヤムチャの手刀を喰らい、
今までずっと気絶していたのだ。今頃は、人造人間たちと戦っている最中だ。
「大変だ…パパたちが危ない!助けに行かなきゃ!!」
地面を蹴り、猛スピードで飛び立つトランクス。
気の数は2つ…人造人間は気を持っていないので二人の気だ。
どうやら、生きてはいるようだが安心はできない…。
「待ってて、パパ、悟飯さん!今行くよ!」
気を開放し、更にスピードを上げてヤムチャの下へ向かうトランクス。後に起こる悲劇を知る由も無く……。
一方トランクスの思いをよそに、街では大きな爆炎が上がっていた。
人造人間19号が、ヤムチャの放ったエネルギー波を着弾寸前にバリアーで跳ね返したのだ。
「はーっはっは!馬鹿め、油断しやがったな、ヤムチャ!
俺はエネルギー炉さえ残っていれば、身体が多少壊れても、
バリアーを張ることができるのだ!」
19号が勝利の高笑いを上げる。周りにヤムチャの姿は無い。
爆発に巻き込まれたのか、回避したのか分からないが、あれほどの爆発だ。
いくらなんでも無事では済まないだろう。
「く…くそ…!よくもヤムチャさんを!!」
「かかってくるか、悟飯?いくらボロボロになっても
貴様一人くらい殺すことぐらいワケは無いぞ!?」
ヤムチャの攻撃で下半身を失った19号が気味の悪い微笑みを見せた。
しかし、19号の言うとおりだ。いくら、19号がダメージを受けているとはいえ、
今の悟飯の力では、到底敵わないことは目に見えていた。
「勝負って物はやってみないと、わからないさ…!」
「やれやれ…どうしようもない馬鹿だな…」
「ふざけるな!!!」
勢いよく地面を蹴り、猛スピードで19号に飛び掛った。そのまま、飛び込みながら鋭い蹴りを19号の頬目掛けて放つ悟飯。

しかし、悟飯の蹴りは簡単にかわされ、空を切った。
―しまった!
気がついたときには既に遅かった。
19号の拳が悟飯のみぞおちに深くめり込んでいたからだ。
「グふッ!」
腹を押さえ倒れかける悟飯に、18号の放った肘が悟飯の頬を打ち抜いた。
そのまま弾き飛ばされた悟飯は地面に叩きつけられ、滑るようにして瓦礫の山に激突した。
「が…はァ…!」
―なんて、威力だ…!か、身体が動かない…!!
たったの数秒で致命傷を受けた悟飯は、腹を押さえ横たわっていた。
「くっくっく、軟弱なヤツだ…。ただの人間がこの俺に敵うとでも思ったのか?」
「ぐっ…!ち…ちくしょう…!!」
19号が右手に小さなエネルギー球を作り上げる。
「さっさと貴様を殺して、身体の修理をしなきゃな…。
さあ、悟飯、お別れだ…今、天国にいる父親に会わせてやるぞ!!」
そう言うと、19号は掌のエネルギー弾を悟飯めがけて投げつけた!
「お父さん!!」
突然、どこからか小さなエネルギー弾が飛んできて、19号の放ったエネルギー弾を弾き飛ばした!
「何ッ!だ…誰だ!!」
エネルギー弾の飛んできた方向に振り向く19号。
なんと、そこに立っていたのは、ヤムチャだったのだ。
「甘いな、19号!あんなもんで俺が死ぬと思ったか!!!」
「そんな馬鹿な…貴様、不死身か!?」
思わずたじろぐ19号。
「俺のスピードを甘く見るなよ、界王拳でスピードを上げて、一瞬で避けたのさ!」
「くっ…!」
「これで終わらせてやる…行くぞ!!」
19号に突進するヤムチャ。
迎撃しようとパンチを放った19号だったが、難なくかわされてしまう。
腰を深く落としたヤムチャが飛び上がりざまに放ったヒザ蹴りが19号のアゴを打ち抜く。
空中に舞い上がった19号に、すかさずかめはめ波の構えを取るヤムチャ。

「か…め…は…め…」
ヤムチャの掌に凄まじい気が凝縮されていく…。
 「!!」
何かを感じたヤムチャは構えを解き、思いっきり飛び上がった。
間一髪、ヤムチャの立っていたところを、楕円型のエネルギー弾がもの凄い勢いで通り越していった。
そのエネルギー弾は遠くに立っていた建物をいとも簡単に切り裂き、そのまま遥か上空へ飛んで行った…。
「気の刃…気円斬か!?」
その間に19号は力なく地面に倒れこみ、ヤムチャはそのエネルギー弾を放った者をにらみつけた。
―20号だ!まだ、動く力があったのか…!
「よくもやってくれたね…バラバラに切り刻んでやるよ!!」
すぐさま、両手に気円斬を作り、ヤムチャに投げつける20号。
気円斬…もともとは死んだ仲間のクリリンが得意としていた技で、
気の刃でありとあらゆるものを切り裂くことの出来る技だ。
確かに当れば致命傷になるほどの威力を持った恐ろしい技だが、
当らなければ怖くは無い。ヤムチャのスピードならば、十分に回避できるほどの速度だ。
簡単に一つ目を避け、もう一つを避けたと同時に20号の背後に回りこみ、エネルギー波を叩き込む。
凄まじい爆発と土煙が巻き起こり、20号の身体が宙を舞った。
20号の身体が空高く舞い上がったのをヤムチャの眼は見逃さなかった。
「今度こそ、終わらせてやる!喰らえ、かめはめ…!!」
「くッ!!」
かめはめ波を放とうとした瞬間、聞き覚えのある声が響いた。
「 パ パ ー ー ー ッ ! ! ! 」
この声は…トランクスだ!
「トランクス!?どうして、ここに!?」
驚きの声を上げるヤムチャ。20号はもうろうとする意識を叩き起こし、意識を取り戻した。
「くそっ!どうせ、やられるなら道連れだぁ!!」
20号が最後の力を振り絞り、右手に一つの気円斬を作り上げる。
「 死 ね え ぇ ー ッ ! ! ! 」

20号が気円斬を放つ。
―狙いはヤムチャではない、トランクスだ!
「しまった…!危ない、トランクスーーーッ!!!」
「え…?」
トランクス目掛けて気円斬は猛スピードで向かってくる!
助けるにも悟飯は動けないし、界王拳をしてトランクスを捕まえて逃げようにも気を溜めている時間がない…。
―俺に出来ることは、ただ一つ…!
ヤムチャは気を開放し、猛スピードでトランクスに向かって思いっきり飛び上がった。
―気円斬はどうだ…よし、間に合う!
「パパ、来ちゃ駄目だ!!」
気を取り直したトランクスがヤムチャに向かって叫ぶ。
ヤムチャは更にスピードを上げ、トランクスに身体ごとぶつかり、弾き飛ばした。
激痛に耐えながらもトランクスは、なんとか空中で体勢を取り直すことができた。
「はっ!パパ、危ない!!」
しかし、ヤムチャは動くことができなかった。トランクスを弾き飛ばしたせいで、体勢を取り直すことが出来ないのだ。
しかし、気円斬は容赦なくヤムチャに近づいてくる。
…しかし、ヤムチャの心は穏やかであった。
ドラゴンボールも無い今、生き返ることなど出来ないのに…何か秘策があるわけでも無いのに…。
―自分は息子を救うことができたのだ。こんなに嬉しいことは無い…それだけで、十分だ…。
「すまない、ブルマ。もう帰れそうもない…」
「パパ!逃げてーッ!!」
「…トランクス…ブルマを…世界を頼んだぞ…」
―ヤムチャ散る

アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜最終話


「トランクスーッ!そろそろ準備しなさーい?」 
「あ、はーい!」 
トランクスはブルマに返事をすると、磨いていた剣をゆっくりと鞘にしまった。 
腰掛けていたベッドから立ち上がると、机の上の写真立てを手に取った。 
写真の中では、トランクス、悟飯、ブルマ、そしてヤムチャが楽しそうに笑っていた。 
「父さん…」 
トランクスの頭の中に、ヤムチャが死んだ時のことが鮮明に思い出される。 
ヤムチャが殺された後、人造人間は身体の修理のためか、トランクスには目もくれず逃げ去っていった。 
トランクスも、人造人間を追おうかと考えたのだが、相手は深手を負っているとはいえ力の差は歴然だし、 
何より突然のヤムチャの死のせいで精も根も尽き果ててしまって、動くことができなかったのだ。 
あれから3年… 
トランクスは若い頃のヤムチャによく似た青年になっており、結わえた黒髪が太陽の光を反射し、美しくきらきらと光っていた。 
今日は待ちに待った、タイムマシンで過去に行く日だ。 
タイムマシンとはその名の通り、時を越えて未来と過去を行き来できる乗り物だ。ブルマが長い年月をかけて、 
やっと完成させた代物で、昨日、やっと往復分のエネルギーの充電が終了したのである。 
今回のトランクスの使命は二つ。一つは今から約16年前に戻って、悟空に復讐するためにやってくる復活したフリーザとその一味を 
悟空が不在の為、代わりに倒すこと。 
もう一つの使命は悟空が数年後にかかる心臓病の特効薬を渡すことだ。 
そうすれば、悟空が病気で死ぬことは無くなり、この世界ほど悪い未来にはならないだろう。 
しかし、残念なことにタイムマシンで過去に戻って歴史を変えても、トランクスたちの歴史には何の影響も無い。 
こちらの世界に戻ってきても悟空は死んでいるし、もちろん人造人間も存在している。
こちらの「世界」とあちらの「世界」では次元が違うからだ。 
悟空の生きている未来、悟空が死んでいる未来、ヤムチャが生きている未来、ヤムチャが死んでいる未来など、 
ちょっとしたことでたくさんの未来が生まれてしまうのだ。 

トランクスは、写真立てを机の上に置くと、ハンガーにかけておいたジャケットを羽織った。
濃い紫色をしており、肩のところには大きく「C」と、カプセルコーポレーション社のマークがプリントされている。 
元はヤムチャが着ていたものだ。 
剣を持ち直し、階段を駆け下りて外に向かうトランクス。 
既にタイムマシンは外に運び出されており、そこにはブルマと悟飯が立っていた。 
「準備はいい、トランクス?これが孫君の薬よ。」 
ブルマはポケットから、液体状の薬の入った瓶をトランクスに手渡した。 
「じゃあ、父さんによろしくね!」 
「はい!」 
「…トランクス。」 
悟飯がトランクスに声をかけた。 
「いいか、絶対に無茶はするなよ?」 
「分かってますよ、悟飯さん。必ず生きて帰ってきます。」 
「よし!おまえなら、フリーザなんかには負けないはずだ!ブルマさんは任せろ、命に代えても必ず守ってみせる!頑張って来い!!」 
力強くトランクスの背中を叩く悟飯。トランクスは、それに親指を立てて応えると、ゆっくりとタイムマシンの下へ向かった。 
そして、ポケットから一本のマジックペンを取り出すと、外側の壁に「hope!!」…希望と書き記した。 
悟飯とブルマもトランクスに微笑みかける。 
ペンをポケットにしまうと、トランクスはタイムマシンに乗り込んだ。 
中は意外に狭く、人一人がやっと座れるほどの広さで、立つこともままならない。 
トランクスは操縦席に座ると、今から向かう年代を設定した。全て入力すると、操縦席にプラスチック状のカバーが降りてきた。 
トランクスは、一度大きく息を吸い、深呼吸をすると、「GO」と書かれた赤いスイッチに手を伸ばした。 
トランクスがスイッチを押すと同時に様々な機械音、電子音が鳴り出し、タイムマシンが光を放ちだす。 
そして、ゆっくりと宙に浮かび上がり、タイムスリップのカウントダウンが始まった。 
外を見下ろすと、ブルマと悟飯が手を振っている。こちらも手を振って応えるトランクス。 
そして、カウントダウンが終わると同時に、タイムマシンがまばゆい光を放ち、辺りを閃光が支配した。思わず目を瞑る悟飯たち。 
しばらくして光が治まった時には、既にタイムマシンの姿は無かった。 

「…行っちゃいましたね…。」 
「ええ…。」 
「大丈夫ですよ、トランクスなら絶対にやってくれますよ。」 
「ええ、そうね。今は祈りましょう。トランクスが帰ってくることを…。」 
そう言うとブルマは空を見上げた。 
「綺麗な青空ね。」 
「はい、今日は約2年ぶりの日本晴れだそうです。」 
「へえ…。…この空の上から、ヤムチャや孫君が私たちのことを今も見守ってくれてるのかしら…?」 
「ええ…きっと…。」 
空は青々とどこまでも広がり、雲一つ無い。悟飯とブルマは、
トランクスを見送った後も、その大空をいつまでもいつまでも眺めていた…。 
アナザードラゴンボール〜ヤムチャとブルマが結婚してたら〜 
完