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背中合わせの心

 

 

428 名前:タイトルはどういうのが良い?[sage] 投稿日:03/08/03 20:47 ID:???
「これで認めてくださいますか? 私を神にすると」
「捨てて来たのか。己の悪なる心を……そうか……」

神と呼ばれた者は緑色の生物を見つめ残念そうに呟いた。
このモノに神の座を譲る。悪なる心が無ければ、確かにその資格がある。
しかし、本当に相応しいのか。このモノが。地球の神として相応しいのか。
他に答えがあるように思う。

寸刻考えた後。
「確かに認めよう。お前がこれから地球の神となる。よろしく頼む」


緑色の生き物。名は無い。その容姿ゆえに幼き頃から迫害を受け続けた生物。
「寄るな! ナメクジのフン」
「死ね! 緑」
「悪鬼退散」
人としての扱いを受けたことなど、生まれて一度も無い。そんな生き物だった。

429 名前:タイトルはどういうのが良い?[sage] 投稿日:03/08/03 20:47 ID:???
一ヶ月ほど前。神は緑に問う。
「何故、神になりたいと思うのか」
緑は答える。
「私を認める神をたった一人作りたいのだ」
緑のエゴ。ただ、彼にとって受け続けた迫害はそれをエゴと認めさせぬほど強い力を持っていた。
「お前を神と認めるわけにはいかん」
神は当然の答えを返した。

だが、生まれてより数十年、いや数百年と迫害を受けつづけ
他者から認められたことの無い緑。彼には神の当たり前の返事が理解できない。
「なぜ、私を神と認めてくださらぬのか」

「お前の心には悪がある。心の淀みがある。それがあるうちは認められん」
「私の心に悪がある……」

その言葉を繰り返し、心の中で呟いた。私の心に悪がある。
「私の悪とは一体何なのだ」

430 名前:タイトルはどういうのが良い?[sage] 投稿日:03/08/03 20:48 ID:???
緑は自分の人生を振り返る。
「私の人生。悪と呼べるものは確かにいた。
 しかし、それは自分ではない。周りの人間だ。
 容姿が違うから、人と違う能力を持つから。
 そんな理由で迫害を受けてきた。悪と呼ばれる物があるのなら彼らこそ悪だろう」
しかし、神は言う。
「お前とその者達の違いは何だ。迫害されてきたというお前。
 けれど、その者達をお前はどうした?
 同じ人間として、その者達をお前は認められたのか。
 迫害された人間。その立場に甘え、迫害してきた人間を差別してきたことは無いのか」

緑は気づく。
「確かに私は、自分を認めぬすべての者たちを恨み
 その者達を心の中で迫害しつづけてきました」

「その心あるうちは髪には認められぬのだ」


数ヶ月して、緑は自らの悪を心の外に追い出すことに成功した。

431 名前:タイトルはどういうのが良い?[sage] 投稿日:03/08/03 20:49 ID:???
「仕方ない。お前を新たな神として認めよう」
「ありがとうございます!!」
「しかしな、覚えておけ。私の言いたかった事は決して悪の心を追い出せという意味ではなかったのだぞ」
「それは……どういう意味で?」
「もう良い。今日からはお前が神だ」

古い神は神殿を去り、新たな神が誕生した。


その頃、地上に追い出された悪の心は『ピッコロ大魔王』と名乗り世界を征服しようと企んでいた。
人々から受けた辛く厳しい仕打ち。『ピッコロ大魔王』にはその仕打ちのみが記憶として残っている。
人からの愛は無い。人に信じられたことも無い。
彼にあるのはただ、人から裏切られたこと。迫害されたこと。負の記憶のみが彼の心にある。
「人間は許さん。すべての人間は奴隷になるか、死ぬか。どちらかしかない」
屈折した感情の塊。憎悪の化身。それがピッコロだった。

432 名前:タイトルはどういうのが良い?[sage] 投稿日:03/08/03 20:50 ID:???
ピッコロ誕生から数百年が経った。初代ピッコロが死に、今はマジュニアと言う者が名を継いでいる。
しかし、その者にかつてのピッコロの面影は無い。
「へっ。この俺にも貴様らのような甘さが移ったようだぜ」
幼き子を助け、命を失うマジュニア。彼は知ったのだ。人から愛される喜びを。その子によって。

それ以来、ピッコロと呼ばれた者は変わった。
確かに悪の心は残っているかもしれない。
しかし、克服している。明らかに以前とは違う。人を信じる心が芽生えているのだ。

それを見て、神殿の神は思う。
「あの者は心の闇を克服した。自らの悪を受け入れ、それを乗り越えた
 私のように捨てて生きるのではなく、悪を拾い、自らのうちに住まわせそれを克服したのだ」

そして、彼は気づいた。
「先代の神が言われたのはこういう事だったのか
 己の悪を認め、捨てる事無くそれを克服せよと。
 私は愚かだった。」

さらに数年が経過した。今再び、悪の心が神に近づいてくる。
今度は決めた。悪を受け入れると。もう、マジュニアはそれを克服しているのだから。

(かんりょー)