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3年間



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第41話 『闇』の憂い
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「ああああぁぁぁ!!」
声に為り切れぬまま発声された『叫び』が部屋に響き渡っていた。
 
  狂死曲? 鎮魂歌?

そんな上等なもんじゃない。
在るのはきっと、哀しいまでの生への執着。
『彼』の身体に渦巻く闇が叫んでいるのだ。

あんなにも、哀しくて、儚くて、、、
だからこそ狂ってしまった親子。

     ―― 俺にはコイツらが他人には思えなかったんだ…

人間の心と無機質な身体を持った
不安定な異質な存在…
その葛藤を餌に棲み付いた闇という名の悪魔。
その悪魔の断末魔の鳴き声があの叫びだったのだろうか。

その『声ならぬ声』が途切れた頃、
俺はようやく意識を取り戻した。
そこには一人の男が立っていた。
そして俺は理解した。

なぜ自分が生きているのか。
なぜ『彼』の攻撃が止まったのか。

     ――助けに……来てくれたんだな。

ホントに俺は、恵まれた仲間を持ったもんだ。
(性格は捻じ曲がっているが)
今は亡き、滅亡した星の王子にして、
サイヤ人最強の男。
  
     ――ふん!勘違いするなよ。誰が貴様なんぞ助けるか!

彼の名はベジータ……
惑星の名を授かるほどの戦いの超エリート。

俺が意識を取り戻した頃、ベジータはすでに『彼』を倒していた。

俺が攻撃を受けてる時から居たらしいが、
無防備な行動に意味があるのだろう、と
彼なりに意図を汲んでくれていたようだ。
それで、俺が意識を失ってから出てきてくれたのだ。

いっそ殺してしまおうと想ったようだが、
自分が結末を付けるのはマズイだろうと想い、
俺が起きるまで待っててくれたのだという。

(コイツ、こんなに気が利かせられるヤツだっけ?)

ふとした疑問…
きっとブルマと一緒に居るせいだろう。
彼女のお陰で、彼の精神にも何らかの変化があったに違いない。
俺は嬉しくもあり、今さらながら、少しだけ寂しい気がした。

ブルマとは、別の道を歩き始めている。
その道はいつしか、遠く見えないほど離れてしまったんだろう。

暫くして『彼』は目を覚ました。
さすがに凄い耐久力だ。
だが、圧倒的な力を目にしたせいか、
どことなく怯えた表情をしていた。
そして その目は、無邪気な少年のようで…

「安心しろ…もうお前には何もしないよ」
「え!?」

決して饒舌とは言えないベジータを横に、
俺は先に口を開いた。
もっとも自分が倒したワケではないので、
微妙にかっこ悪い立場ではあるのだが。

彼はひどく驚いた様子だった。
おそらく、狂気の力ゆえに、こんな場所に閉じ込められ、
出会う人間といえば敵対する者ばかりだったのだろう。
ましてや自分を超える存在などは皆無であったろうから、
この状況を理解できず、ひたすら困惑しているようだ。

「俺は、もう目的を果たせたんだ」
「後は自由に『生きる』んだな」

彼は意味が判らないといった表情できょとんとしていた。
負けた・・という事が判って、それでも殺されない・・・
というのが理解出来ないのだろう。
つくづく哀れな子供だと想う。

それから程なくラルフも目を覚ました。
俺は彼に対しても、もう何もする気はなかった。
彼は息子が敗れたことを知ると、
魂が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

気付けば彼からは、狂気の陰が消え、
しがないただの中年の親父の顔になっていた。
まるで、物の怪が憑いていたような、
そして、それがきれいに祓われたかのような…
きっとラルフからも、闇が去ったのだろう。

そんな彼を待っていたのは『本当の』警察の大群だった。

さしたる抵抗もせず、彼はおとなしくパトカーへと乗せられ、
どこかへと連れられていった。

最期に『すまなかった』という言葉を残して……

その謝罪は俺に対してだろうか?
それとも息子に向けられたものだろうか?

ともあれ、あの親子の不幸はきっとまだまだ続くのだろう。
もしかしたらまた狂気に堕ちてしまうかもしれない。
その時は…
俺が彼らの闇を止めれるような力を身につけておかなきゃ……だな。

 『世の中に見捨てられた者』 

俺も一歩間違えば、ラルフのようになっていたかもしれない。
何だかやりきれない想いが去来する。
長すぎた夜を終え、少し肌寒くなってきた風を浴びながら、
俺たちは、それぞれ帰るべき場所へと戻っていった。
途中、近くの山陰に隠れていたチャオズから彼女を引き取った。
本当にこいつらには感謝してもしきれない。

ふっと雲が月を隠していった。
月灯かりが消え、暗闇と静寂がこの世を支配する。
『闇』なんてものは、こんな瞬間に生まれるのだろうか?

きっと今日も何処かで誰かが、この世を嘆き、憂い、憎み……
そんな彼らの心の奥に闇が棲み付くのだろう。

俺は、まだ目覚めぬ彼女をしっかりと抱きしめながら、
静かな静かな暗闇の空を駆けていった。

  『Anxiety of "Darkness"』  




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第42話 憂鬱の日曜日
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「全く最低だな…」
吐き捨てるようにつぶやいた。

次の日、『全ての事件の犯人はラルフだった』と警察は発表した。
『これで平穏な日々が戻る!』
相次ぐ失踪事件に不安がっていた市民も
ほっと胸をなでおろした事だろう。

ようやく、全てが終わった。
だけど、俺達には、こんな結末しか許されていないのだろうか?

窓をあけて外を見る。
どんよりとした曇り空だ。
いつかの曇り空と良く似ている。

ここの風は淀んだ匂いがする。
(嫌な匂いだ…)
俺は慌てて窓を閉めた。

やっぱり風は、俺に冷たく当たってくるようだった。

 ―――結局、彼女が目覚めることは無かった。

「なぁ、早く起きてくれよ?二人で行きたい所が沢山あるんだ…」

「そろそろ髪切らなきゃだぜ?ちょっと伸びすぎだぞ…」

「おやすみ……今日はゆっくり休めよ」

・・・・・・

「おはよう、ランファン♪」

「何か食べるか?こう見えても俺は、料理得意なんだぜ!」

・・・・・・

あれからどれ位経っただろうか?
時間の感覚が判らない。
俺は彼女の部屋で彼女と共に居る。

部屋には虚しく俺の声だけが響いていた。
テーブルの上には枯れ行く花。
もう水は差さずに眺めるだけ……

この場所だけ時間が止まってしまったような……


彼女は目覚めない。それは判っている。
頭では理解できても、心がそれを認めようとしない。

あの後、どんな病院に行っても回復は無理だと言われた。
無論、仙豆もまるで効かない。
重度の麻薬中毒。全身不随。脳の衰退……
小難しい言葉を並べられたが、簡単に言うと、
彼女は一生『植物人間状態だ』という事だった。

唯一にして幸いな事は、彼女の借金の殆どが、
不正に水増しされた事が発覚した事くらいだろうか。

彼女は自由になれたのだ。
あの店で働く必要もない。
借金取りに追われる心配もない。

自由に遊んで、自由に働いて、自由に生きていける!
これから彼女は、今まで不幸だった分まで、
いや、それ以上に幸せになれるはずだった。

だけど………

彼女はもう、指1本動かす事さえ出来ない。

涙が溢れてきた。

彼女はかろうじて生きている(本当だろうか?)
身体は痩せ細り、左腕には痛々しい注射の跡。
右腕には、かろうじて『生命』を長引かせるための点滴の管。
もはや生きているとは呼べないような状態だ。

言うなれば『死んでは居ない』って事か。

窓から差し込む日差しが強くなってきた。
そろそろ朝になるのだろう。
蝉の悲鳴が聞こえ出す。
夏の終わり……死に逝くものの最後の泣き声。
対照的に、希望に満ちた人々の笑い声が段々と大きくなってきた。
そのギャップがヤケに耳につく。

今日は日曜日。
窓の外が、にわかに活気付いてきた。

『Melancholy Sunday』



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第43話 奇跡の球
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ドンドンドン!
ドアを叩く音が聞こえてきた。
まったく予期せぬ来客だ。

応対するのも億劫だ。どうせセールスか何かだろう。
暫くすれば勝手に立ち去ってくれるさ。
そう思っていた。

ドンドンドン!

しかし、その音は段々と大きくなる一方だ。
ドアが壊れるんじゃないか?とも思えるほどだ。

「いい加減に、開けやがれ!」

その声を聞いて、俺は心底驚いた。
その声の主は………。



「ふん、相変わらずの事とは言え、ヘタレやがって…」
「・・・」
「まぁ、貴様のことだ。こんな事にも気付かないんだろうな…」
そう言って彼は、『何か』を机の上に置いた。
俺はどこかで見覚えのあった。
丸型で、大きな時計のようにも見えるその機械……

「こ、これは!!!」

「俺達もちょっと忙しかったんでな。渡すのが遅れてすまなかったな」
「どう使おうが、貴様の勝手だ」
「落ち着いたら、しっかり修行に励むんだぞ!」

「・・・ガンバレよ」

一瞬の沈黙の後、そう言って部屋を出ていくベジータ。
まさかベジータから励ましの言葉が聞けるとは……。
長生きはするもんだな。

「はは・・・はははっ!」
「あはははは!!!!」

俺は気が狂ったように笑い転げる。
そうだ。そうだった。
この世界には、コレがあったんだ!

帰らぬ命、戻らぬ時、やり直しの出来ない人生・・・
その全てを一瞬にして変えてしまう『奇跡の球』が!!
俺はドラゴンレーダーを手にし、空へと駆け出していった。
今なら、この朝日も、希望の光に思えてくる。

待っててくれ、ランファン。
必ず、君を幸せにしてみせる!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


それから数日……
天津飯の協力もあり、俺は無事に
全てのボールを集めることが出来た。

 ――そして

「出でよ!神龍!!そして願いを叶えたまえ!!!」

合言葉を叫ぶ。
轟音とともに、7つのボールが光輝き、
その中心から、光の帯が龍となって天駆ける。

いつ見ても、その姿には圧倒される・・・

「ドラゴンボールを七つ揃えし者よ!!
 どんな願いでも一つだけ叶えてやろう・・・」

ゴクリ、と唾の飲み込む。

「俺の願いは……」

俺の願いは決まっている。
ランファンを幸せにしてやりたい。
だから―――

「本当にいいのか?ヤムチャ」

天津飯が心配そうに見ている。
俺は黙って頷く。

「もう決めたことだ。」
「俺は彼女を・・・幸せにしてやりたいんだ……」
天津飯は何か言いかけたが、俺の決意を悟ってか、
それ以上何も言うことは無かった。


「俺の願いは――――――――!」

    ・・・・・
    ・・・・・
    ・・・・・

「願いは叶えてやった。では、さらばだ!!」

空は元通り明るくなり、ボールは四方へと飛び散っていく。
後に残された俺達は、何も言わずにその場を離れた。



俺の願いは叶った。

きっと、これで彼女は幸せになれるだろう……。

そう。これで良かったんだ。
きっと、これで……。

明日になれば、ランファンの新しい人生が始まるはずだ。
希望に満ちた、幸せな人生が―。

空は晴れ渡っている。

秋が近づいているのを感じさせるような……
その日差しほどは暑くない、荒野の中。

俺は独り、黙って歩き始めた。


   『Dragon Ball』




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第44話 最後の夜
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西の都・・・大都会。
その郊外にある、小さなアパート。
その片隅にある、小さな部屋。

ここがランファンの家。


彼女はまだ眠り続けている。
きっと明日の朝までは起きないだろう……。

これが"俺達"の最後の夜だ。

俺は自分の荷物をまとめ始めた。
俺が居た痕跡を残さないように……

月が綺麗な夜だ。
自然と眼に涙が浮かぶ。

泣いちゃいけない。
そう想い慌てて目をこする。
彼女の"これから"を祝福しなければ。


「なぁランファン、覚えてるか?」
想いとは裏腹に涙は止まることを知らない。

「俺達が最初に出会った夜・・・」
「あの日も、こんな綺麗な月が出てたよな・・・」
まだ目覚めぬランファンの横で、独り言のように呟く。

「お前ったら、怪しい男に絡まれててさー。」
「そういえば、"あの店"まだ在るかな?」
「町外れのちっぽけなBARだったよなぁ〜」
「もっと気のきいた店を調べときゃ良かったな!」

「あん時は、急に泣き出すしよ〜。まったく困っちまったぜ?」
「そうそう、それでさ〜・・・」

喋りきれない思い出を、一つ一つ思い出しながら感傷に耽る。
いい思い出ばかりではない。
自分の不誠実さに呆れるような思いもある。


  (でも、それでも、俺は……)

「幸せに・・・なれよ」

  (俺は、きっと君を……)

「愛してるよ・・・・ランファン」

  (ずっと、君を愛していたんだ…)

――――もうすぐ夜明けが来る

俺に残された時間は、もうあまり無い。
外ではきっと、眩しい朝日が待っているだろう。
彼女にとって、それは祝福の陽射しとなるはずだ。

俺は静かに部屋を出る。
彼女が……笑顔で朝を迎えることを祈って―――


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

夢を見てた気がする。
何だか素敵な人に抱かれてた夢。
温かくって、ちょっぴり間抜けで・・・

起き上がって時計を見る。
時計の針は朝の9時を指していた。
いつもと変わりのない朝だ。

「うーーん!!」

思いっきり伸びをする。
そしてふっと"思い出す"。

(そうだ!今日から仕事を探しに行くつもりだったんだわ!)

そうだ。いつもと変わりの朝なんかじゃない。
今日は特別な日なんだわ!

急いで準備をすると、意気揚々と部屋を飛び出した。

今日からは借金の心配は無いんだわ!
もう夜の街に出なくていいの!

きっと明るい未来がアタシを待ってる……!!

今までは大嫌いだった太陽も好きになれそうな気がするわ。

浮かれ気分で、街を走りまわる。
こんなにも、この街が楽しく思えたのは、いつ以来だろうか?

 ・・・・・

今日は何て素敵な日でしょう!?
あっという間に就職も決まったの。

素敵な化粧品店よ♪

化粧慣れしたアタシには打ってつけだわ!
ついでに、素敵な人にも出会えるかしら?
なーんてね♪

ほんのちょっと前までは絶望の淵に居たのに…

人生って判らないものだわ。

まさに"奇跡"ね!

神様に感謝しなくっちゃ♪

今までの分も、精一杯楽しく生きるわ!!
弟のためにも、、、アタシが幸せにならなくちゃ、ね。

今夜はゆっくり眠れそうだわ……

だって月がこんなに綺麗なんだもの♪


   『Last Night』




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最終話 それぞれの人生
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俺があの日神龍に頼んだ願い・・・

それは、『彼女の健康と記憶の入れ替え』だった。
一つ・・とは言えない願いだったかもしれないが、
ありがたい事に、神龍は快く聞いてくれた。

薬に蝕まれた身体を、元通りの健康な状態に戻し、
そして『俺と出会ってからの記憶』を全て消してもらった……
借金が無くなった経緯や、これまでの間の記憶は
適当に埋めてもらえたようだ。

『俺との日々』は、彼女にとって辛いものだっただろう。
そんな事は容易に想像できた。

彼女には未来がある。
希望に満ちた新しい人生を送れるはずだ。

俺は、その邪魔をしたくはない。

『「本当にいいのか?ヤムチャ」』

天津飯の言葉がリフレインされる。

「これで・・・良かったんだよ。」
「ヤムチャさま・・・」
プーアルが寂しげにこっちを見る。

「そんな眼で見ないでくれよ?」
「まるで俺が不幸な人間みたいじゃないか・・・」

ふーっと息を吐いて、ふとカレンダーを見た。
本当の強敵、おそらく俺達が戦ったヤツより遥かに強い
『人造人間』が現れる日まで、もう後1年を切っていた。

西の都では、カプセルコーポレーションの社長の娘
―ブルマ―の出産祝いのニュースが溢れていた。
もうそんなに時間が経ったんだな……

時を同じくして、『あの事件』の話を聞いた。
ラルフの息子が病死した、という噂だ。
彼は病魔に冒されていたらしい。

異質なものとして生きる道
人として病気と闘いそして死に逝く道

どっちが良いかなんて判らない。
きっと、彼は…闇から抜け出し、
最期のその瞬間まで『生きた』のだろう……
俺はそう想うことにした。

「さ!また修行を再開しなくっちゃな!
 これから忙しくなるぞ!!」

俺は複雑な感情が渦巻く自分の想いを
無理やりに押し込んで、修行へと出かけた。


俺の記憶があれば、きっと彼女は苦しむだろう。


   ―― 俺の願いは『彼女の幸せ』 ……それだけだ。

何度となく考えなおした。
2人の幸せな未来を望まなかったわけでもない。

ただ、彼女の一番の幸せを考えた時――

  『俺は一緒には居られない』

何度考えても、その結論は変わらなかった。


いつか・・・いつの日か・・・

俺がもっと立派な男になれたなら、
その時、彼女に会いに行こう。

高価なネックレスでも手土産に……

今は、ただ静かに、彼女の幸せを祈ろう。
そう・・・これで・・・これで良かったんだ。


あの日以来、俺は誰にも会わなくなった。
人造人間戦も、もう間近に迫っていた。
黙々とプーアルとともに修行に励む日々が続く。

100%吹っ切れたかと言えば、そうではない。
今でもランファンのことを思うと、
思い悩む事もある。

きっと彼女は、この街で楽しく幸せに暮しているだろう。
自分はまだ、釣り合うに値しない男だ。

いつものように、昼はバイト、夕方〜夜は修行の日々が続く。
思えばプーアルには、いつも苦労を掛け続けてきた。
あの事件の時も、俺に変わって動き回ってくれて…

俺が半分諦めていた時に、アイツが居なかったら
今頃どうなっていたことか・・・
今度のバイト代が入ったら、何かウマイもんでも
食わせてやろう。

そんな事を考えながら、月日は流れていった。

「行ってくるぜ!」
「はい〜ヤムチャさま、お気をつけてー!」

その日はちょっと早めに家を出た。
バイトの時間までは、もう少しある。
俺は新しい必殺技のことなど考えながら歩いていた。

ドン!!

不意に身体がよろける。
誰かとぶつかってしまったようだ。

「すみませんー!」
「ごめんなさいー!」

俺は一瞬 我が目を疑った。

なんという偶然だろうか?
ほんの数秒の間に様々な感情がこみ上げてくる。
俺はしばらく動けずにいた。

「あの〜大丈夫ですか?」

"彼女"が声を掛けてきた。
その声に懐かしさと愛おしさを感じる……
だが、彼女にとって、もう俺は『ただの知らない人間』だ。
俺は目まぐるしく動く感情を押さえ、
何とか平静を装いながら答えた。

「え、あ、あぁ、大丈夫だよ。君こそ、大丈夫かい?」
「はい!私なら大丈夫ですよー♪」

そう言って、地面に落ちた書類を広い集める彼女。
明るく元気な声だった……


きっと幸せに生きているだろう・・・
そう信じてはいても、確かめる機会など無かった。
この偶然に少しだけ感謝する。
目前でいきいきとしている彼女を見れて、本当に良かった。

彼女は、もう新しい人生を歩き始めているのだ……
安心感と、少しばかりの寂しさを感じながら、
足元に落ちたその一枚を拾う。

化粧品のチラシのようだった。
彼女の今の働き場所だろうか?

俺は黙って、拾い上げたその一枚を彼女に渡す。

「あ、ありがとうございます!!」

まぶしいばかりの笑顔。
彼女の幸せそうな表情を見て、改めて思う。

  これで良かったのだ・・・と。

「ガンバレ、よ」

俺は聞こえないような小声で言った。

「え?えーと、ありがとうございましたー!」

そう言って歩き出す彼女。
何か急いでいるようだ。

時は、誰にでも、何にでも、平等に流れていくんだろう。
そしてこれからも、時は止まることを知らない。
俺も、背を向けて歩き始める。

2人の距離はだんだんと離れていった……

例え、ほんの一瞬だったとしても、
2人が判り合えたのは、紛れも無い事実だ。
俺の心の中には、彼女の言葉が息づいている。

こうやって"想い"の一つ一つを積み重ねて、
人は成長していくのだろう・・・
この切なさを抜けた後には、
俺はもう少し強くなれるだろうか?

結局俺は、皆の中で一番弱いままかもしれない。
でも、それでいい。

俺は、彼女を・・・
一人の人間を救うことが出来たんだ。
皆のように地球を守るなんて出来やしないかもしれない。
それでも、俺はたった一人の人なら守る事が出来た。


俺も、俺の信じる道を精一杯に生きよう。

今はもう別の道を歩き始めた彼女のためにも。


さようなら、ランファン。
俺と同じ哀しみを背負った人よ…

願わくば、これからの人生が
彼女にとって、素晴らしいものになるように。

さようなら、ランファン。
俺が心から愛した人よ……

どうか、どうか、幸せに……

   『Life is Beautiful』



   3年間 完


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