ヤムチャ・トリガー




ヤムチャって全然、重要な人物じゃないよなー。
ヤムチャがいてもいなくても、そんなに変わりはないよ。
鳥山先生ってヤムチャって嫌いだったのかな。

街を歩くとそんな声が聞こえてきそうだ。
(絶対聞こえてこないけど)


しかし、断じてそれは違う!
彼は、ドラゴンボールの物語に非常に重要に関わっていたのである……。
今回は、彼にまつわるドラゴンボールの知られざる裏舞台を覗いてみよう。




<第1話>

「ちょっとヤムチャ〜。手伝ってよぉ〜」
階下からブルマの声が響く。

「くそっ、トレーニングしたいってのに、居候は辛いな…!」
第21回天下一武道会に向け、トレーニングに精を出していたヤムチャ。
ぶつぶつ文句を言いながら腕立て伏せをやめ、自分の部屋から出てきた。
「蔵を掃除したいんで荷物を外に運んでくれない」
「そんなの召使か業者に頼めよ」などともちろん言えず、ヤムチャはいやいやながらと手伝い始めた。

2時間後……蔵の中はすっかりきれいになった。
「あー。すっかり片付いたわー。でもほこりまみれ。シャワー浴びなきゃ。
それじゃヤムチャ、外に出したもの、中にいれておいてねー。頼んだわよ」
「え……ちょっ………一人でかよ!?」
「あとは力仕事でしょー。あんた、か弱い女の子に力仕事させる気!?任せたわよ」
「あ……ああ……」
(この女、絶対B型だな!)と思いながら、せっせと物を蔵の中へと戻していく。ふと、紐で縛られた十数冊の古い本を発見した。
「ん…?えらく古い本だなぁ。ちょっと読ませてもらおう」
実は古書マニアだったヤムチャ。こっそりと古い本を借りることにした。
「やれやれ。やっと終わった。さて、戻るか……」
本の束を抱えながら、家へと走ってむかう。

ちょうどその頃、カプセルコーポレーションにレッドリボン軍のスパイが訪問していた。
レッドリボン軍唯一の女性、バイオレットであった。
バイオレットは、伸び悩んでいるレッドリボン軍の乗り物の売上を回復させるために、ライバル社であるこのカプセルコーポレーションに乗り込んできたのだ。
フリーの記者だと偽って、ブリーフ博士からカプセルコーポレーションの乗り物に関する秘密を聞き出せれば、と思い……。
…が、ブリーフはあいにくの留守、ということで、バイオレットはしぶしぶ引き返すところだった。
バイオレットがくるりと、入り口に背をむけるたとき……

「きゃ〜っ」

ドシンッ!!

「わへっ!!」

そこへ古書を抱えながら走ってきたヤムチャと、バイオレットは激突してしまった。
紐がほどけてバラバラと散らばる古書。
「ぐわぁ〜〜。すんません。前が見えにくかったもんでつい………ひぃっ!!」

ヤムチャはバイオレットを見て硬直した。

女性に慣れかけていたとはいえ、ヤムチャの周りにいた女性はブルマをはじめとする女子高生くらいだ。
まだ、大人の魅力たっぷりの女性の前では以前のように緊張してしまったのだ。
「あの……ひっ……す……すんま……すんまそんですた!!」
大慌てで、散らばった古書を拾い集めると、ヤムチャはカプセルコーポレーションの中へと逃げていった。
「うふっ……ウブな子ね。ここの召使かしら……あら……何か落としていったわ……
ずいぶん…古い本のようだけど……」

バイオレットが持ち帰った一冊の古書………それはブルマがドラゴンボールを知るきっかけとなった本であった……。
つまりドラゴンボールのことについて書かれた文献だったのだ……。
こうして……バイオレットを通してこの本はレッド総帥へと渡った。バイオレットは大佐へと昇進し、レッドリボン軍のドラゴンボール捜索が開始されたのであった………。




<第2話>

時は流れ……ヤムチャは亀仙人のもとで厳しい修行をつんでいた。
そんなあるとき……
「これ。ヤムチャ。こいつを燃やしてくれんかの?」
亀仙人がヤムチャに古い本の束を渡した。
「はぁ……(忙しいのに……ランチさんか海亀に言えばいいのに……)」
師匠の命令には逆らえない。面倒くさいけど仕方なく修行の手を休め、亀仙人から古本を受け取る。
「歴史モノですね。俺、読んでいいですか?」
「そんな暇があったら修行せい!まずはクリリンにおいつかにゃ、クリリンもかわいそうじゃ!さ、そろそろ牛乳配達の時間じゃろ。」
「は……はぁ……」
カメハウスは、第22回天下一武道会に向けて修行するクリリンやヤムチャのために、再び、ちょっと大きい島へと引っ越していた。
ヤムチャはまだまだ新米だったので、亀の甲羅を背負って牛乳配達などの仕事をさせられていたのだった。
(そういえば、牛乳屋の牛のオヤジ、歴史モノが好きだったな。奴に売ってやれ。ひひひ)
燃やせと言われた古本をヤムチャは牛乳屋のオヤジに売って、まんまと1200ゼニー儲けたのだった。
そして月日は流れ…牛乳屋のオヤジもヤムチャから買った古本を読み飽き、都会に行ったついでにフリーマーケットで売ってきた。
「いやー。ヤムチャ君。前に君から買った古本、あれ、都会のフリーマーケットで売ったらレアモノでね。
マニアに人気で、オークションみたいになっちゃってさ、ワシ、30万ゼニーも儲かったよ」
「マジですか!?うそぉぉぉん……」
「そういえば、あの中に手書きで書いた汚い本もまじってたよね」
「あ、ああそうですか?」
「さすがにあれだけは買い手がなくて、妙な三人組がタダならほしいってんであげちゃったよ」
「いや、まぁ別にいいですが……。それにしても30万かよ……ちくしょーーっ」
その手書きの本こそ、武天老師がかつてピッコロ大魔王との戦いを記録した日記だったのだ。
そこにはピッコロ大魔王を封じた電子ジャーを静めた場所も詳細に記されていた。
その場所を知った妙な三人組−もちろんピラフ一味であるが……、彼らは、ピッコロを復活させようと企むのであった……。
こうして、またヤムチャによって歴史が動いたのである……。





<第3話>

第23回天下一武道会を目標に、一人旅を続ける男がいた…。もちろん我らがヤムチャであるが…。
(次の大会こそは、一回戦負けなんて無様な結果にはしたくない!次、一回戦で負けたら三回連続だぞ。
さすがにそんな恥をかきたくない。そんな恥さらしになるためにこれまで頑張ってきたわけじゃないんだ!)

ヤムチャの強い決心が、彼を険しい秘境へと導く。人類が未だかつて足を踏み入れたことのない場所だ。
「さて…日も暮れてきた。どこかに休めるところはないかな…。お。よさげな洞穴があるぞ」
恐る恐るその洞窟に入っていくと、奥に巨大な球体があった。
「でかっ……なんだ?こりゃ。卵か?何の卵だ?こりゃぁ」
ペタペタと触るとなんだか生きているような感じがする。
「なんだか気持ちわるいが、動物の卵なら食べられるだろう。今晩のおかずはこれに決定だ。巨大な卵焼きが食えるぜ。ひゃっほー。じゃあ、早速新技の繰気弾で……
 はぁっ!!」

ドンッ!!

ヤムチャは繰気弾で卵の破壊を試みる。しかし、卵には何のダメージもなかった。
「何っ!?やたらと丈夫だな……何なんだこれ」
パンチやキックでもビクともしない。いや…ビクともしていたら大変なことになっていた。
そう、これは界王神たちが地球に隠した魔人ブウの卵だったのである。
このときのヤムチャがポコスカやってもたいした衝撃にはならなかったので助かったのだ。
「はぁはぁ……これだけやってもだめとは……」
空腹でいらついていたヤムチャは、卵をかめはめ波で洞窟の外へと吹っ飛ばした。
そして後は放置。
やがて卵から出る微弱な信号は、遥か彼方の宇宙で、魔人ブウの卵を探していたバビディにとらえられることとなる………。洞窟内部に静置されていれば信号は外に漏れなかったのだが………。




<第4話>

マジュニアとの戦いが終わり、ヤムチャはブルマの家でまた居候暮らしをしていた。
悟空に格の違いを見せ付けられてからは、あまり熱心に修行をすることもなくなっていた。
そんなある日−。
「あ〜ヒマ、ヒマ。よう!ブルマ、何やってんの?」
何もすることがないので、ブルマの研究室へとやってきたヤムチャ。
「もうだらしないんだから!あたしはあんたと違って忙しいの!」
「なんだ。研究か〜。おっ。この機械なに?」
こう見えてもメカには強い。機械にもそれなりに興味がある。
珍しがって、勝手に高そうな機械をいじくるヤムチャ。
「ちょっと!不用意に触らないでよ!」
非難をあびせるブルマを無視して、研究室内を適当に歩き回って、機械をちょこちょこといじっていく。
「へぇ〜、コレ何?ブルマ」
「それは宇宙外知的生命体との電波をやりとりするものよ!あまりいじくらないでよ!」
「ぷっ!じゃあ、これ、宇宙人と交信できるのかよ!宇宙人なんているのかよ」
「まだわからないわ。ってちょっと!」
「あー、もしもしぃ!オレ、ヤムチャ!地球に来ない?あーもしもし!?地球はいいとこ!よっといで!」
「やめなさいよ!」
「地球一のナイスガイ、ヤムチャ様がお相手するぜ!狼牙風風拳!!はいはいおおおおおおお!」
「やめてってば!!」
「おぐはっ!!」

その二年後……宇宙の彼方のある星では……
「くそ〜……ベジータもナッパももう虐殺しにいったのか!?二人ともオレをコキつかいやがって!
オレも行きたいけど、またうるせぇしな。あのバカども。ちくしょーっ!」
フリーザの下で地上げ屋をやっていたサイヤ人三人組の一人ラディッツがうめいていた。
星を侵略しに来たのはいいが、ベジータとナッパに置いてけぼりをくらったのだ。
サイヤ人にとって一番楽しみな住民の虐殺はベジータとナッパがやってしまい、ラディッツはたいてい、食料の調達や飲み水の確保など雑用を最初にさせられていた。
「ん?」
丸型宇宙船の中の通信機器がザザ……と変な音を立てている。
「何だ?また磁気嵐か?……ん?これは」

『あ゛…しも…し……!オ……チャ!地……来ない?あー……し!?地…はい…とこ!よ……いで!…球一のナ…スガイ……ムチャ様…相手…する……ろ…牙風…拳!!はいはいおおおおおおお!』
二年前に発せられたヤムチャの声だった。

「明らかに知的生命体の声だ…。はっきりとは聞こえんが………古代サイヤの言葉っぽいな……。
なになに…『仕事は片付いたけど宇宙船がないからー誰かむかえにきてちょー』………か。
……発信地はどこだ?」

ラディッツが電波の発信源を探査する。

「ここは……。はっ!!カカロットが送られた星じゃないか!そうか、あいつも難を逃れていたのだな。
それでオレに連絡を……なるほど……しかしなぁ、今さらあんなザコが来ても足手まといに……」
しかしニンマリとラディッツはイヤらしい笑みを浮かべる。

「くっくっく。いい奴を見つけたぞ。あいつはオレよりもずっと年下だし、戦闘力もまだ低いはずだ。
あいつをオレたち一味に加えれば、奴が一番下っ端。オレの雑用を全部、あいつにおしつけられるってわけだ。くひひひひ。
ベジータとナッパに言って、カカロットの野郎を迎えにいくか。ふふふ。いよいよオレにもツキがまわってきたか」
こうして……ラディッツはベジータたちを言いくるめ、はるばる地球へとやってくることになったのだった。




<第5話>

さて……マジュニア戦後、カプセルコーポレーションでのほほんと暮らしていたヤムチャだったが、ブルマとケンカして、家を追い出されてからはプーアルとともにしばらく世界を放浪していた。
とある街へ立ち寄ったときの話である。
「たこ焼き1パック!」
「へいお待ち!」
枯れ葉の舞散る公園でヤムチャとプーアルはたこ焼きを買っていた。
「うぅっ……これが最後の食料だぞ」
「……はい(ってか働けよ)」
「味わって食おう……」
たこやきのパックを持って、ベンチへ腰掛けようとしたそのとき、
ドンッ!!
ヤムチャに少年が体当たりをかましてきた。
「うぉっ!!」
ヤムチャはバランスを崩して、たこ焼きのパックを落としてしまった。無残にもバラバラと地面に散らばるたこ焼き。

(3秒以内なら………食える!!)

体勢を立て直し散らばるたこ焼きに駆け寄るヤムチャだったが、
「うぁあああ………!!おぐっ!」
今度は少年のあとから来た少女に体当たりされヤムチャは再びバランスを崩した。
「3秒……すぎちゃったよ……。3秒以内なら……食べれたのに」
(そういうものなんだ……)
地面に転がっているたこ焼きを呆然と眺めるヤムチャ。とヤムチャの自分ルールに呆れるプーアル。
「あのガキどもぉぉぉっ!!許さん!!」
怒りにうち震えていると、背後からおっさんが息をきらしてやってきた。
「はぁはぁ……この辺に二人の糞ガキどもがこなかったかい?」
「来たよ!オレのたこ焼きを……」
「あのぉ、子どもたちが何かしたんですか?」
すでに半泣き状態のヤムチャの替わりにプーアルが冷静におっさんに尋ねた。
「うちの果物を盗んでいきやがったんだ!今度こそ捕まえて施設に入れてやろうと思ったんだが……いつも逃げられてしまう!その二人のガキのせいでうちらの商店街はいつも被害をこうむっているのさ」
おじさんは説明口調で語ると、また子どもを追いかけていった。
「ちくしょ〜〜〜〜っ!!奴らを捕まえるぞ!プーアル!!!」
「えっ……ちょっ……」
プーアルの答えも待たずにヤムチャは矢のように走り出していった。

ほどなくして二人の子どもはヤムチャによってあっさり捕まった。
「放せ!!この糞オヤジが!!」
「だぁ〜れがオヤジだ!!」
「いたッ…ちょ……マジでいた……いたいいたいいたい!!」
ヤムチャは大人げもなく少年の手をギリギリと強く握り締める。
「さぁ大人しく歩け!このガキども!商店街のおっさんたちに引き渡してやる!」
「〜〜〜〜っ。あたしらだって……好きで盗んでいくわけじゃないんだ!盗まないと食っていけないんだ」
「だったら働けボケ!!」
自分のことを棚にあげて説教するヤムチャ。
子どもたちは引き渡されるまでヤムチャに対して罵声を浴びせていた。
「いやぁ助かりました。こいつらは専用の施設に引き取ってもらいますわ」
商店街のおじさんたちは満面の笑みでヤムチャたちにお礼を言う。
「いや〜〜。いいことすると気持ちがいいな!!」
「は……はい」
プーアルは(あの子どもたちには何の同情もしないのかよ……)と、お礼にもらったリンゴをむしゃむしゃ食いまくっているヤムチャを見て思った。


それから数日後………。
ヤムチャたちは森の中の山道をてくてく歩いていた。
すると……

ピクリ

ヤムチャのするどい野生がなにやら不穏な空気を感じた。
ヤムチャは素早くプーアルを抱きかかえると、そばの茂みへと隠れ気配を消す……。

「待てぇこらぁ!!」
「ちくしょー。あいつら逃げ足が速い!だめだ!逃げられる」
「へへーん、ばぁか!」
「逃げるのには慣れてんだよ!」
悔しがる大人の声と、勝ち誇ったような子どもの声。

生意気そうな子どもの声には聞き覚えがあった。
こっそり茂みから様子を見てみると、やはりついこないだの万引き常習犯の少年と少女が目の前を快速で通り過ぎていく。
どうやら大人から逃げているようだ。
「はぁはぁ……だめだ、諦めよう……」
大人たちもヤムチャたちの目の前まで走ってくるが疲弊しきっていて、すでに歩いていると言ってもいいくらいだ。
「よーし!もう少しだ!!」
逃げおおせたと、希望たっぷりの少年の声が遠くからかすかに聞こえた。
……が、その声はもうすぐ絶望へと変わる。ヤムチャによって。
「まだ懲りてねーらしいな!!」
茂みをかきわけるて、山道へ飛び出ると、常人には目にも止まらぬ速さで、一気に少年たちにおいついた。
「えっ!?」
「何!?」
「ヘイ!!」
一瞬にして子どもたちの目の前に現れ、行く手をふさぐヤムチャ。
「げっ!こいつあのときの!!」
少年の鋭い目が大きく見開かれる。
「また会ったな!おめぇら、まだ懲りてないんだな」
「ち、ちがう!あいつら……」
「はぁ!?」
「あいつら、オレたちを……」
「何だってんだよ!!」
「オレたちを 改 造 し よ う と しているんだよ!!」
「ププーーーーッ!!」
思わず爆笑してしまうヤムチャ。
「おまえなぁ。つくならもっとマシな嘘をつこうぜ!」
ヤムチャは少年と少女の首に軽く手刀を打ち込んで気絶させてしまった。
そして、既に諦めて帰ろうとしていた男たちのところへわざわざ子どもたちのところへ連れて行く。
「あのぉ〜……。このガキども、また悪さしたんでしょ。どうぞ捕まえたんで連れてってやってください」
「え………。はぁ……あの……いや、ありがとうございます……」
「………」
前のようにお礼に何かもらえると思って、じぃっと待っていたヤムチャだったが、白衣を来た男たちは子どもを抱きあげると足早にもと来た道を引き返していった…。
「ゲロ様にどやされなくてすむぞ」
とか何とかつぶやきながら………。
「あの……彼らまた何か悪いことしたんですかね」
茂みから一部始終を見ていたプーアルは、呆然と立ち尽くしているヤムチャに駆け寄ると尋ねた。
しかしヤムチャはお礼が何もないことにがっかりしていてそれどころではないようだった。

言うまでもなく……少年と少女は後にゲロに改造されることになる幼き日の17号と18号だった。
ここでもヤムチャが歴史の大きな動きに関わっていたのであった……。
彼らが記憶を失っていなければ、ヤムチャは確実に復讐されボロ雑巾になっていただろう。



…………

物語の表舞台ばかりに気をとられていてはわからないこともある。
物語の裏舞台に真実が隠されていることもある。

ヤムチャがドラゴンボールの壮大な物語にいかに重要な人物であったか…
このことを知る人はまだ少ない………。




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