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ライフジャック

 


第一話《発端》

 

『オレって損な人生歩んでるよな〜絶対』

砂漠のアジトで寝そべりながらヤムチャは言った。魔人ブウの驚異が去って既に5年の月日が流れていた。

彼にはもはや修行して強くなろうなどという向上心もなくなっていた。それもそうだ。

才能とか,血筋とか,種族とか,強いという理由がその一言だけで片づけられる時代である。

武天老師様の元で必死に修行してきた自分が本当に馬鹿馬鹿しくなる。

『オレって損な役ばっかだったよな〜マジで』

同じことを繰り返す。常人を遥かに凌駕した腕力と何人もの女を魅了してきた甘いマスクを持ちつつも,いまの彼は彼の望むもの何一つも持っていなかった。金,女,地位,名声……。

つい数年前にうだつのあがらない生活に嫌気がさし,ドラゴンボールを集めて神龍に願ったこともある。

『金と女と地位と名声をオレにくれ〜!!』

しかし神龍の返してきた言葉は『残念ながら願いごとがオーバーしている。絞れ。』だった。

うまくまとめた頼み方でも『残念ながらその願いは数百年前に叶えている。二度おなじ願いは叶えられん』とか『そんな都合のよい願いが叶えられると思うか』などと断られてしまった。

そうこうする内に神龍は消えて,ドラゴンボールは彼方に散っていってしまった。

『役にたたねぇぜ。自分の幸福は自分で切り開くとするか!』

ヤムチャはドラゴンボールを使うのを潔く諦めて,次なる方法へと移った。それは,まさに人のことをまるで考えない最低最悪の方法であった。

 

 


第二話《驚異の能力》

 

ヤムチャはつねづね,『自分がここまで落ちぶれてしまったのは自分のせいではない』と思っていた。

『閻魔とか,そういう連中がオレの運命をおかしくしているんだ,オレだって悪党と戦ってきたのに差別されてんだ,きっとオレがスタイルも顔もいいからなんだろうが…』

そして,自分以外の仲間たちが自分より遙かに幸福に見えていたのである。

『あいつらが贔屓されてるのなら…オレはそれの幸福を奪うまでさ…。もともと盗賊なんだからな…ふふふ』

ヤムチャの目がキラリと光った。

ヤムチャはとある能力を身につけていた。といってもそれを得たのはつい最近のことだ。

アジトは岩場が多い。そこで思いっきりコケて頭を強打してしまった。

気がつくと白目をむいて倒れている自分を見た。

……幽体離脱……。

まぁこのときヤムチャは慌てふためき,理解するまでにかなりの時間がかかったがそこは飛ばそう。

これを利用して,女湯を覗きに行ったり,女子更衣室を覗きに行ったり,いろんなところを覗きに行ったりしたが,それだけでは目の保養にはなっても他には何もできない。

しかし,この能力にはまだ有益な使い道が残されていた。

 

他人への憑依である!

 

他人の体へ幽体を重ねることで他人にすり替われるのだ。そのとき他人の魂は強制的に眠らせることができるようだ。

ヤムチャはこの憑依能力を使って他人の幸せを奪おうと言うのである!もちろん奪われた人のことなど何も考えてはいなかった。

万が一のことも考え,自分の肉体はブルマから作ってもらった冷凍睡眠装置で保存しておくことにした。

悪霊に乗っ取られるようなオチになると困るので,それっぽいお札を何枚も装置に張り付けて…。

『プーアル!オレは新しい人生を歩み出す!今までご苦労だったな!どこへなりとも行くがいいぜッ!』

『あの…ヤムチャさま…?』

怪しげな機械の棺桶に入りながら,ヤムチャはプーアルに言った。

プシュー…ッ。棺桶の扉が閉じる。プーアルは首を傾げながらそれを見送った。

ゴゴォン…ゴン………。棺桶からしていた音が静かになった。

 

 


第三話《悟飯の場合》

 

幽体となったヤムチャは空中を漂っていた。舞空術に慣れているヤムチャには飛ぶことなどお手の物だ。

ヤムチャには既にターゲットは絞られていた。まずは……悟飯だ!!

『まったくヤツほどついているヤツはいないぜッ!さして苦労もせず強くなって,おまけに頭もよくて,あんな可愛くて金持ちのお嬢さんとつきあってんだからよ!』

悟飯は世界でもトップクラスの薬科大学に進んでいた。

『ボクはお父さんが心臓病になったとき無力だった…。だから,お父さんがいつどんな病気になってもいいように万能の特効薬を作るんだ…!』

少年の頃の夢は今,現実にゆっくりと,しかし着実に近づきつつあった。

 

『おっ!いたいた悟飯だ』

幽体ヤムチャは悟飯に近づき,ズズズ…とおぞましき効果音と供に幽体を悟飯の体に沈めていった…。

悟飯が変化に最初に気づいたのは恋人のビーデルだった。キザなことを言い出したり,見栄を張るようなことをあからさまにしだした。何よりテクニックが半端でないほど上達していた。

『ふふふ。憑依というのは便利なものだぜ!悟飯の脳から記憶も習慣も引き出すことができる!』

悟飯(ヤムチャ)※は,最初の内はウハウハだった。大学では人気者だったし,彼女は若くて可愛いし…。

しかし,大学の講義や実験はどんどん大変になり,宿題もハンパな量でなかった。

ビーデルも思ったより嫉妬深いところがあった。また生活は質素で,自由になる金はほとんどなかった。母親であるチチも何かと口うるさかった。

だが,悟飯(ヤムチャ)は,本能の赴くままに行動した。何人もの女の子と浮気をし,大学は休みまくり,サタンを脅して手に入れた金は湯水のように使った。

その結果,1ヶ月もしないうちに,悟飯(ヤムチャ)はビーデルにふられ,借金だらけになってしまった。大学もやめなければいけなくなった。

誰もが羨むような人生を奪ったのに,早くも落ちぶれてしまった。

『…実家が貧乏ってのは誤算だったぜ。オレが望む条件にはまだまだだったってことだな。人生,そううまくはいかないか…』

悟飯の肉体を離れながら,ヤムチャはつぶやいた。

『ならば…次はヤツしかいないだろう…。』

 

※表記は体(精神)とします。

 

 

第四話《トランクスの場合》

 

幽体ヤムチャは西の都を目指して飛んでいた。次なる標的………それはトランクスであった。

世界一の金持ち,カプセルコーポレーションの御曹司。さらに容姿もよいうえに強く,おそらく天才ブルマから,素晴らしい頭脳も受け継いでいるであろう。

唯一気に入らない点は,これから奪う肉体にはあのにっくき間男ベジータの血が流れていることだった。トランクスは13歳となり,私立中学に通っていた。女の子はもちろん,男の子たちや先生からも人気があった。

『オレの人生はバラ色だな。特定の彼女がいるワケでもないし,自由奔放に遊べるぜ』

 

しかし,そううまい具合にいかなかった。

いずれ,世界一の企業カプセルコーポレーションの次期社長を担わなくてはいけないのだ。毎日,経済学やら経営学,工学の幅広い分野まで勉強させられた。

もっともトランクスのスキルを使えるので,理解できないワケではない。が,遊ぶ時間がない。

さらにベジータにトレーニングの相手をさせられることも頻繁だった。

……トランクス(ヤムチャ)は耐えきれず,またも快楽に浸りだした。

『こんな素晴らしい条件にいながら遊ばないでどうする!!』

気に入ったクラスメートの女の子数人を家へと招き入れ,『毎日,好きなもの何でも買ってあげるから,今日から君らはオレの奴隷だぞ!』といい放った。

(こういう生活したかったんだ…。今度は金はいくらでもある!金があれば何でもできる!すべて思い通りだ!)

しかし,悪事はすぐに発覚した。放課後毎日,金をエサに自分の部屋で女の子を侍らせて,エッチなことをしていたのでは当たり前だ。

【淫乱御曹司!ブランド汚す!】【呆れた教育。金持ちの実態】などと激しくマスコミに叩かれ,カプセルコーポレーションの評判は瞬く間にがた落ちになった…。

ベジータとブルマも怒りを通り越して呆れ顔だった。

『お前のような腐った奴はいらん!この家から消え失せろ!!』

ベジータは思いっきりトランクス(ヤムチャ)を殴ったあとに言い捨てた。勘当されてしまってはもはやこの肉体に留まる理由もない。

『この恵まれた人生もオレを満足させるには至らなかったな。口うるさい親がいないくらいの年齢も考慮しないとな……』

ヤムチャはトランクスの体を抜け,夜空へと飛んでいった。

 

 


第五話《サタンの場合》

 

そのあと,何人かの人間に乗り移って試してみた。マフィアのボス,人気俳優バリー・カーン,資産家……。しかしいずれもほどなくして没落してしまうのだった。

『権力・富・女・地位・名声……』

幽体のまま飛びながら念仏のように唱えている。砂漠の地平線の彼方から日が昇ってきた。

『ルックスには問題あるが,もうヤツしかいない……。』

彼が口にした名前は何度か地球を救った永遠のヒーロー,ミスター・サタンであった。

彼になれば何でもしほうだい……と思っていたがそうでもなかった。

スケジュールは毎日ギッチリで,睡眠もままならなかった。彼は今や世界一のヒーローなのである。

さらに,サタンのカリスマ性とか,お調子の良さとかを引き出すのが難しかった。

頭脳や記憶とはまた違った天性のようなものだったからだろうか?

イベントショーやインタビューは,サタンのいい部分が表現されずなんとも面白みのないものとなっていった。

また,富や名声といったものとは全く別に心の拠り所となるものがあろう。サタンの場合,ビーデルがそれだった。それが安らぎだったのだろう。

しかしサタン(ヤムチャ)にとってビーデルは女としか写らない。傍らにいる元魔人ブウも彼にとってはただのデブだ。愛着すらなかった。彼は孤独だった。

今度は金にものをいわせて女を侍らしても誰も文句は言わない。金もある。地位も人気もある。

しかし,満たされなかった。何かが足りない。心に穴が開いたようだ。

『何が足りない……?何かが足りないんだよぉッッ…!!』

そういうことからサタン(ヤムチャ)はストレスがたまってきたのであった。

イライラがつのって,ファンに握手を求められても無視をした。怒ったファンが罵ったことに切れ,公衆の面前で暴行。

今まで築き上げてきたものがいっぺんに崩れ墜ちた瞬間だった。言ってしまえばただの喧嘩だが,スーパーヒーローのイメージを汚すには十分だった。

 

『なんなんだよ……。なんでいつもこうなっちまうんだよ……。』

暗いリビングでサタン(ヤムチャ)はつぶやいた。

『サタン……。げんき出せ。オレはサタンのみかただぞ』

いつの間にいたのか,ブウが言った。

そうだ。オレにはまだコイツがいた!!かつて界王神をも恐れさせたリーサルウェポン!魔人ブウが!

『もとはと言えばベジータ,貴様がオレの女を寝取るからいけないんだ!貴様がすべての元凶だ!!オレの痛みを思い知らせてやる』

 

 


第六話《復讐》

 

『いいのか?サタン。ケンカよくないってたのに』

早朝,サタン(ヤムチャ)とブウは西の都を見下ろせる小高い丘の上にいた。

『いいんだ。いいんだ。景気良くやってくれ!』

ブウはサタンが言うなら,と遠くに見える半球体の建物,ブルマの家へと飛んでいった。

そして,大きく息を吸うと凄まじい勢いでブルマの家に向かって息を吐き出した。

ゴゥッと音と同時に壁が吹き飛んだ。よし!ちゃんと手加減したな!あとはヤツがでてくれば……サタン(ヤムチャ)が望んだ通り,事は進行していた。


『貴様……何しやがる!』

パジャマ姿のベジータが颯爽と現れた。

『おまえ,サタンのてき。サタンのてき,オレのてき!』

ベジータは意味が全く理解できなかったが,ブウが既に臨戦態勢に入っているのを見て覚悟を決めた。

『悟空や悟飯には勝てないが,ベジータなら倒せるはずだ!ベジータめ!オレの痛みを思い知れ!』

サタン(ヤムチャ)はほくそえんでいた。こうしてベジータが痛めつけられるのを,自分自身が傷つかず安全に見物できるのは何でも言うことを聞くブウのおかげである。

一方,パジャマのまま超サイヤ人2となったベジータは都の上空でブウと互角の戦いを繰り広げていた。ベジータは5年間のトレーニングでさらに強くなっていたのだ。

だが,体力無限のブウにはじょじょにおされつつある。

ヤムチャは『勝てる!』と思った瞬間であった。上空に三つの影が急に出現した。

『げっ!悟空たちだ!!』

戦いの気を感じて瞬間移動してきたのだろう。悟天はともかく,ブウでもさすがに悟空・悟飯を相手にできない。

『やばいな…くそっ!…サタンはもうやめだ!』

ヤムチャはサタンの体から離れた。上空ではブウが,『サタンのため,サタンのため』と勝てない相手に向かっていった。

 

 


第七話《ヤムチャの悟り》

 

星空をダラダラ飛びながらヤムチャは考えていた。

悩みもなく幸福だと思ってた奴らの人生などしょせん大したことがなかったな,と。

むしろ,これまでのオレの人生の方が楽しかったじゃないか。

好きなときに食べて,好きなときに寝て,気ままにジェットモモンガをぶっ飛ばして,惚れたいときに惚れて,飽きれば別れる……。

確かにこれからその生活に戻ろうと思えば戻れる。

しかし……そうだ。プーアルいない。

他人の体を放浪していたときに何かが足りないって思ってたのは,長年付き添ってくれたプーアルだったんだ……。

オレの人生にはあいつが必要だったんだ……。

オレは金とか女とかが自分の望むもんだって思ってたけど,心のどこかであいつが傍らにいる人生ってのを望んでたんだなぁ…。

ヤムチャはプーアルにどこへでも行けと言ったことを激しく後悔していた。

空が白んで来た頃,アジトが見えてきた。睡眠装置を開けるには誰かに乗り移らなくてはいけない。

それでもまず自分の肉体が無事かどうかを確かめに行ってみた。

 

するとそこには…………プーアルがいた。

じっと装置を見つめていた。

『まさか……ずっと見守っていてくれたのか……プーアル』

ヤムチャはふるえがとまらなかった。

『……オレはなんて大バカヤロウだ! オレの幸せは最初からあったんだ』

プーアルに乗り移って,装置をあけ,自分の体へと入り込む。

視界が戻るとびっくりして立っているプーアルと目が合う。プーアルがにっこりほほえむ。我慢できずにがばっとプーアルを抱きしめる。

『もう離さないぜっ!プーアル!プーアル……』

日の光がアジトにはいりこんできた。

オレはもう偽りの人生など歩まない。

 

今のオレが最高に光り輝いているから。

 

<<END>>

 

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第八話《大団円》

 

『ヤムチャさま……。よかった…。最後に会えて。』

ずっと抱きしめられていたプーアルが言った。

『………え?最後って…?』

『ボク,結婚するんです。ヤムチャさまが寝ていた間につきあい始めた彼女と。』

ヤムチャは混乱した。

『……?お前,オレの体をずっとそこで見守ってくれてたんじゃないのか……?オレが必ず戻ってくると信じて………』

『え?戻ってくる…って? いえ,ボクはしばらく悩んでいたんですが,旅に出まして。今日たまたまお別れを言いに来たんです。

まさかヤムチャさまがちょうどお起きになるとは思いませんでしたけど』

おいおい…ちょっと待てよ。オレはお前をこんなにも必要と悟ったんだぜ……

それなのにお前はオンナをつくって1人だけいい思いをしようってのかよ………

そんなエゴ野郎だとは思わなかったぜ……

ヤムチャは怒りにふるえた。プーアルは尋常じゃないヤムチャの様子を見て身の危険を感じていた。

『…ゆるせねぇぜ……墜ちたな…プーアル。これ以上変わってしまったお前を見るのは耐えられないぜ!ならせめて…このオレの手で…狼牙風風拳で葬ってやる』

ジリッ……!

ヤムチャが見慣れた狼牙風風拳の構えをとった。まさか…ヤムチャさまが自分にこの構えをとるなんて…!プーアルは目の前の光景を信じられなかった。


『ゥオオッ!!』

ヤムチャが飛びかかろうとしたまさにその瞬間。ヒュンっという音と供に大勢の人間がアジトに現れた。よく知っている顔だ。ただ,彼らの顔は怒りの形相だった。


悟空,悟天,悟飯にチチ,ビーデル,サタン,ブウ,ベジータ,トランクス,ブルマ,そしてデンデだった。デンデが最初に口を開いた。

『ヤムチャさん,見損ないましたよ。神は極力,下界には干渉しないのですが,さすがに貴方の行為は目にあまりました。』

『何だよ…おめぇら』殺気立つ彼らにさすがのヤムチャもたじろぐ。

『こいつをどのようにしてもいいんだな?』

ベジータが近づいた。アジトに絶叫がこだました。

 

『気にするな・・・プーアル。あいつはヤムチャじゃなかったんだ。ヤムチャはあんなヤツじゃねぇ。』

すべて終わったあと,アジトから夕日を眺めていたプーアルに悟空は声をかけた。

『はい・・・わかってます。』

悟飯やビーデルの関係は修復し,サタンの人気も皆の力をかりて戻りつつあった。トランクスとカプセルコーポレーションの評判も何者かの陰謀だったということで片づいた。

ドラゴンボールを頼るまでもなく,すべては平穏にもどった。

『幽体のままで現世に長くいると,隠していた欲望や感情が顕わになる。ヤツが幽体離脱したときにもっと注意すべきだったな。デンデ』

天界の端っこでピッコロとデンデが並んで立って語っていた。

『はい・・・もっと頑張ります・・・』

『だが自業自得とはいえ,ヤムチャも可愛そうなヤツだ。あのベジータが生かしたのも同情したのか,それとも殺す価値もないと思ったのか
ともあれヤツのこれからの生活を思うと・・・』

 

ヤムチャがどうなったかって!?それはあなたの心の目で見届けてやって下さい。

 

<<ホントにEND>>

 

 


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