エスパー・ヤムチャU

悟空がマジュニアを倒して再び世に平和が戻った。
誰もがこの平和がいつまでも続くかと思っていた。…ただ一人を除いて…。



「このままでは地球は滅ぶ!!」

「は…!?ヤムチャさま、いきなり、どうしたんですか?」

便器を磨きながらヤムチャはつぶやいた。金がないのでプーアルと一緒に清掃員をやっているのだ。

「うむ。実はな、こないだブルマとケンカになって階段から突きおとされたろ。あのとき頭を打ってな…」
「そのあと、背中にエルボー食らってましたね」
「ケツにモップも突っ込まれたな…ってそれはどうでもいいが、あのときのショックでどうやら超能力が身についたようなのだ。」
「えっ…?それはどういう…」

「……予知だ……」

ヤムチャの言うことによると、約5年後、宇宙の彼方からとんでもなく強いエイリアンが侵略にやってくるというのだ。ピッコロなど可愛く見えるほど凶悪な連中のようだ。
バイトをほったらかしてそそくさとアパートに帰る二人。

「…まず5年後に一人…さらにもう一年後に二人……ん?や…やばいぞ、やばいぞ。さらにその2年後に…宇宙最強と呼ばれるエイリアンが……」
「は…はぁ…」
意味不明なことばかり言う主人に対して呆れ顔のプーアル。

「あっ!その目!信じてねぇな!くそっ!まぁいいや。忘れないうちに書き残しておこ」
メモ用紙にせかせか書き綴っているヤムチャにプーアルは問う。

「一体何者なんですか?そいつら…。そして地球はどうなっちゃうんですか?」
「いやぁ………そ…そういった細かい設定まではわからんのだ」
プーアルからちょっと目線をずらしてうつむくヤムチャ。ちょっと顔がひきつっている。
「(使えない予知能力だなぁ…)あ…そうですか。
じゃあ、早く悟空さんたちに連絡したほうがいいですね。えーと…武天老師さまの家の電話番号は…」
「い…いやっ!ま…待て!ど…どうせ信じないだろ…連中!そ…それに5年も先なら俺たちで対処できるはずさ!…余計な心配かけたくないだろ…」
「は…はぁ…でもボクたちだけで大丈夫でしょうか…。万年一回戦ボーイに、可愛らしい変身妖怪ですよ…」
「大丈夫さっ!……って今、何か変なこと言わなかったか?」



カリン塔を登るヤムチャ。
「くそっ!最悪の未来だぜ!何とかマンというザコに殺されるわ…ブルマはハゲのエイリアンに寝取られるわ…。こうなったらオレが歴史を変えてやるぜ!」
実は細部にわたって予知できていたヤムチャ。手柄を独り占めするために…そして、最悪の未来を回避するために、彼は動き出した。
「何じゃ。ヤムチャ。…これ!挨拶くらいせんか」
カリンを無視して、如意棒を登っていく。
「神様!修行を教えて下さい!!」
…こうしてヤムチャは神に修行をつけてもらうことになった。…が。
「もう終わりなんですか!?まだ半年ですよっ!…こんなレベルでは……」
既にヤムチャの最大戦闘力は1400にもなっている。しかしその程度の戦闘力ではいずれゴミ同然になるのはヤムチャにはわかっていた。
「そ…そんなこと言ったっておぬしの力は既にわしを超えておる。教えることはもうない…。もうおぬしの力は悟空以上。この地上に誰一人かなうものはいないぞ」
(バカヤロ…。それでも神か……!もうすぐおっそろしい連中が来るんだぞ!!)
と言いたいところを我慢してヤムチャは……
「じゃあ、界王様のところへ行かせてください!」
「なにっ…!?なぜおぬし界王様のことを!?」
「今や地球は未曾有の危機に直面しているのです!迷っているヒマはない!はぁッ!」
そういうとヤムチャは操気弾を出して、それを自分にぶち当てた。腹を突きやぶり、ぶっ倒れるヤムチャ。
「ぐほっ……!か…神様……お…お願いです……ぐはっ…………」
「な…何やってるんだ…こいつ…全然意味わからん……」



「ヤムチャか……。確かに実力はありそうだけどな。二十歳まで盗賊………はおいておくとしても、まぁ特に誉められた経歴ではないな。界王様に会う資格はあるとは言えん」
「そこを何とか……」
閻魔が帳簿を眺めてうめいている。まぁ神の説得により、何とかヤムチャは界王のもとへ行く許しを得た。
「では頑張るんじゃぞ。何がしたいかはよくわからんが」
厄介者を追い払うかのようにヤムチャを見送る神。
「はい!では行ってきます!」
そんな神の思うことなど知る由もなくヤムチャは蛇の道へと向かった。
1ヶ月後……ヤムチャは無事に界王星へと到着する。
ギャグの試験もすんなりパスして、界王による特訓が始まったのである。
ヤムチャは順調に力を伸ばし、150日程度で10倍以上の戦闘力を得たのである…。しかしそれでも満足しないヤムチャはさらに高みを目指した………。



そして……時は過ぎて………
『プーアル!!』
「この声はヤムチャさま!?」
『そうだ!今、界王様を通してお前の声に呼びかけている!』
「一体、どこへ行ってたのですか!?心配してたんですよ!!」
『すまんな!修行はバッチリだ!今はまぁいろいろあってあの世にいる!……で、だ。あと一ヶ月どで、宇宙から一人のサイヤ人がやってくる。ヤツは恐ろしく強い。
平和に怠けて修行を怠っていた悟空もピッコロも太刀打ちできない。
…が、この5年間、界王様のもとでずっと修行をし続けてきた今のオレなら楽勝だ!…というわけですまんが、今すぐドラゴンボールを集めてオレを生き返らせてくれ。』
「えーっ。メンドくさいなぁ……」
仕方なくブルマとかクリリンとかに頼んでボール探しを手伝ってもらうことに。数週間後、「ドラゴンボールで生き返れる者は一年以内に死んだ者だけだとヤムチャは聞くことになるのであるが……。
文字通り、ヤムチャは帰らぬ人となりました……。



その後……
天国でバイトしながらうろうろ暮らすヤムチャ…。
「くっそぉ〜。あれだけ強かったらベジータとか言うサイヤ人も楽勝だったのになぁ。界王拳もマスターしたし…」
「ん?何をなげいておる?…ん、おぬし…」
「あーっ!あなたは……悟空のおじいさんでは……!?」
天国で偶然に孫悟飯じいさんに会ったヤムチャ。それで思い出したのが、占いババに頼んで一日だけ生き返らせてもらえること。
せっかく鍛え上げた力を一度も表舞台で披露することができないのは寂しすぎる…と、一日だけ生き返らせてもらえることになったのだった…。
「ふぃ〜〜久々のシャバだぜ。何年ぶりだ?」
さて…地球でヤムチャを待つものとは一体……?



ある小さな島にヤムチャと占いババは現れた。
「よいな。ヤムチャよ。現世におれるのは24時間だけじゃ。
「はいはい。わかってますよ。」
「で、金はちゃんと振り込んでおくのじゃぞ!忘れるでないぞ!」
生き返らせてもらえる義理もないヤムチャは、高額な金を払わなければならなかったようだ。
「さ〜て。何すっかなぁ…って…この有り余る力を発揮できるところはないだろうか…」
あたりを見回すヤムチャ。島と言ってもわりと大きな町がある。
町へ降りていって、道路をウロウロしていると…
「キャ〜〜」
女性の悲鳴。(痴漢か強盗でも現れたか!?)と声の方向へ急ぐヤムチャ。
倒れている男が目に入る。あたりを見回しても怪しげな人物はいない。…といきなり背後に妙な服を着たじじとデブが現れた。ヤムチャを珍しそうに凝視している。
「…何だ!キサマら!…まさか…お前らが!? …いかにもって感じだな!」
とグチグチしゃべっている間にヤムチャはジジイに顔をつかまれた。力がなくなっていく気がした瞬間、腹に激痛が走る…。

「はっ……」
気が付くと町を見下ろせる小高い丘にヤムチャはいた。
「オ……オレは一体……」
「あんたヤムチャでしょ〜!? びっくりしたわよ〜〜!!」
聞き覚えのある声が背後からかけられた。びっくりしてふりむくと……
「ブ……ブルマ!そ、それにクリリン!……えーと……」
子供を抱いているブルマ、相変わらずハゲ頭のクリリン。あと、ヤジロベーに、予知でみた悟空の息子がヤムチャの顔を覗き込んでいる。
「ヤムチャさん……ですよね……。ヤムチャさん、人造人間に襲われたんですよ。」
ブツブツ言っているクリリンをよそにヤムチャは予知を思い出して、心の中で叫んだ。
『……ポ ジ シ ョ ン ま っ た く 一 緒 じ ゃ ん !!』
そのあと、ブルマに強引に手伝いにいくよう促され、やっぱり悟空運びと飛行船の運転をりっぱにやり遂げましたとさ。


<完>



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